第二十九話 秘密のお茶会
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学院は新入生歓迎パーティーが終わった後、暫くの間は通常授業となる。その後、夏期休暇の前に、筆記と実技による実力テストが行われ、夏期休暇となる。レイは、選択科目もあらかた受け終え、今はもう参加する科目は絞っている。元々予定していた課目が予想通り選択したものとなっており、授業によっては、セリアリスなり、ユーリなりが一緒の授業となっている。
そして今日はというと、その選択科目の1つである経営学の授業。クラスには、セリアリスの他、Aクラスのアレックスやエリクも参加している。フラガも教室の端に陣取っており、ジークの姿はない。レイはその集団とは反対側、廊下側の後ろの席についており、セリアリスは王子の傍近くにいる為、教室内で会話する事はない。ただ授業終わり、決まって、レイは、セリアリスからの呼び出しを受ける。
「セリー、今日は生徒会へ行かなくてもいいのかい?」
この秘密のお茶会時の冒頭の決まり文句は大抵、この言葉だ。アレックス達取り巻きは、その足で大抵生徒会室という名のサロンへと足を向ける。セリアリスも何回かは、そうしてお茶会なしで、生徒会室にも付き添っていたが、ここ数回は、行く素振りも見せてなかった。
「レイ、貴方も判っているでしょ?今日はそんな気分ではありません。それに、今日は、ユーリも不参加と言ってましたので、益々行く気が起きません」
「いや、アレックス殿下の許嫁として、それは不味いんじゃないの?」
レイはすかさず、ツッコミを入れる。お茶を付き合うのも別に構わないのだが、それでセリアリスとアレックスの仲が冷え込むのは、本意ではない。しかし、セリアリスはどこ吹く風である。先日チラリと話をしていた王妃の動きが気に入らないのだろう。
「別に問題ありません。アレックス様とは、クラスでもご一緒してますし、エリクの様に四六時中一緒にいる必要はありません。今は、ただでさえ、ユーリに気を遣わないといけないの。どちらかと言えば、そっちの方が重要ですわ」
「ああ、その話?結局、ユーリには伝えてないの?」
その話とは、ユーリがアレックスの側室候補になるかも知れないという話である。レイにしてみれば、ユーリが望むなら、そう悪い話ではないと思っているが、セリアリスの考えは別のようだ。セリアリスとしては、極力、ユーリを権力側におきたくないらしい。例え自分の気心が知れた相手が、同じ後宮に入るメリットを鑑みたとしてもだ。
「今日、ユーリが生徒会に行かないのは、その事もあるのです。彼女、今日、アナスタシア卿とお会いになりに、自宅へ戻っているので」
セリアリスが仕掛けた問題を先送りにする仕掛けは、思った以上に早く、解決をされてしまったようだ。下手すれば、明日にでも彼女は状況を知り、セリアリスに話しかけてくるに違いない。
「ああ、だからセリーは機嫌が悪いのか。アナスタシア卿も流石に王妃からの要望であれば、中々断りにくいしね」
「もう、レイ、どうしてあなたはそう他人事なのかしらっ。もしかしたらユーリが、アレックス様の側室になってしまうかもしれないのよっ」
「いや、そこで俺に切れられても困るんだけど」
レイをジト目で睨むセリアリスに、顔を引き攣らせながら、レイは弱弱しく弁明する。まあ、一子爵嫡男には、荷の重い案件であるのには違いないので、一旦は、静観する構えでいるのだが、どうやらセリアリスにはそれがお気に召さないようだ。
「大体、もしユーリが側室となったら、彼女がどれだけ苦労するか、貴方には判らないの?彼女は平民出、少なくとも貴族主義者には厳しい目を向けられるし、聖女という肩書も、側室という扱いでは、重荷になるわ。確かにアナスタシア卿にとっては、王家の後ろ盾は、今後、大司教を目指す上で、大きなアドバンテージにはなるのでしょうけど、彼女がその為に自らを犠牲にするのは、私嫌よっ」
「ん~、アナスタシア卿に関しては、その辺、余り気にしないんじゃないか?俺の祖父の話を聞いても、出世とかには興味がなさそうだし、この前話した時も、本当の娘として、ユーリを可愛がっているしね。彼女の嫌がる事はしないと思うよ」
「レイ、甘いわ。そもそもアナスタシア卿は穏健派で、王家への忠誠の篤い方よ。王命であれば、断りにくいし、ましてや王子への側室の話よ。ユーリももしアナスタシア卿が自分の事で苦境に立たされるというのであれば、自ら手を上げちゃいそうだし」
確かに、ユーリの性格なら、自分の事よりアナスタシア卿を慮って、嫌な事でも了承してしまうかもしれない。そこはまあ、気に掛ける必要はあるのだろう。
「まあユーリの性格を考えたらそうかもね。そう言えば、ロンスーシーが神殿にも肩入れしてるって聞いたけど、アナスタシア卿とは反対の勢力って事なのかな?」
「へえ、レイなのに良く知ってるわね?次期大司教候補のもう一人の人物に肩入れしているって話だけど。まあロンスーシーにしてみれば、どっちに転んでも影響力を発揮できるし、そう言った意味では良い手なのよね」
仮にアナスタシア卿が断ったとしても、反対勢力に利する行動だし、逆にOKしたとしても、アナスタシア卿に影響を与えやすくなるので、確かに一挙両得だ。神殿勢力はこの国でも一定の力を持つ。まず、平民を味方に付けるのに、後ろ盾という面では、これ以上の存在はいないのだ。
「そう言った意味では、ロンスーシーはアレックス様の代で一気に台頭しそうだよね。まあ王太后様が、セリーを許嫁にしたのも、ある意味先見の明だし。まあユーリの心配もそうだけど、セリーも気を付けた方がいいよ」
「え?私?」
「そうそう、セリーもある意味ロンスーシーにとっては、厄介な存在だからね。なんてったって対抗勢力の長の娘。ロンスーシーが1強を目指すなら、排除すべき相手だし、何より、セリーは強いからね」
「私は無いわよ。私なんて所詮、ただの小娘よ。まあお父様もロンスーシーと争って国を割る様な事は考えていらっしゃらないし。そもそも同じ国の臣民同士よ。ロンスーシーとノンフォークが争って、国にメリットはないわ」
セリアリスはそう言って、一笑に付す。ただレイはそこまで、貴族社会というものを信用していない。
「確かにノンフォーク公はセリアリスと同じ考えだとしても、ロンスーシーが同じ考えだとは思わない方がいいよ。ノンフォーク公が内政に干渉しない事をいい事に、結構中は固められているみたいだからね。だから、これ、セリーに持っておいて貰いたいんだけど」
そう言って、レイは、一つの指輪を差し出す。小さな透明な緑色の宝石をあしらった指輪である。セリアリスはそれを受け取ると、レイの事を不思議そうな目で見る。
「レイ、これは?」
「これは風精石と言って、風の精の庇護を受けられる精霊石をあしらった指輪。これがあれば、風の精がいざという時に君を守ってくれるから。それにもし、君が念じるなら、その声を俺に届けてくれる。そしたら直ぐに君の元に駆けつけられるから」
これは大分前から渡そうと考えていたものだ。セリアリスの身辺が慌ただしくなる前に、護身の意味も込めて用意したものだった。セリアリスは、指輪を見て嬉しそうに顔を綻ばせて、早速指にはめようとする。
「あら、これって、どの指に合うのかしら・・・・・・、あら小指?」
「うん、小指の指輪なら目立たないし、ヘンに勘ぐられる事もないだろう?見る人が見れば、魔力も感じられるだろうから、護身用と言えば、理解してもらえると思うしね」
セリアリスは折角なら、目立つ指に付けられるものが良かったが、まあ、レイが色々考えて、セリアリスの為を思ってくれたのだ。だから、素直にお礼の言葉がでる。
「フフフッ、有難う、レイ。確かに風の魔力を感じるわ。これにレイの事を念じれば、助けてくれるのでしょう?ならもう安心ね、私の騎士様」
「いや、私の騎士ではないし、あくまでもしもの為のものだから。自ら危険な事しちゃ駄目だよ?」
「さあ、それはどうかしら?危険は勝手にやってくるものだしね、でもまあ最大限、希望に沿えるよう頑張るわ」
セリアリスは茶目っ気たっぷりの笑顔を見せて、レイを困らせる。レイはまあ確かに勝手にやってくる危機に対する備えだし、と渋々納得するのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
レイとセリアリスが秘密のお茶会を楽しんでいた時、アレックスは、エリクとアレスに一つ相談事を持ちかけていた。
「生徒会メンバーでの交流会ですか?」
「ああ、一応生徒会が発足して、1ヶ月。そろそろ各々の仕事も手に付いたものになってきただろう。まだ夏期休暇前の実力テストも先な事だし、このタイミングなら、交流会をするのも良いタイミングだと思ってな」
アレックスは正直、少し焦っていた。生徒会が始まれば、もう少しユーリとの距離を縮められると思っていた。実際に、生徒会室では仕事絡みで会話をする機会も増えた。ただどこまでいっても、王子と部下の関係であり、世間話一つ満足にできていない。これは、元々の前世が決してコミュ力の高いタイプの人間でなかった事に起因するのだが、どうしても会話の時は、王子プレイに終始してしまうのだ。これは、ユーリに限らず、セリアリスにも同様で、むしろ生徒会室にいる女子の中では、攻略キャラではない、エリクの義妹、エリカとが一番コミュニケーションが取れているという、非常事態だった。
「確かにタイミング的には、問題はありませんが、生徒会のメンバーだけでしょうか?勿論、メンバーだけの交流でも悪くはないのですが、生徒会自体を私物化しているとやっかむ輩もおります。人選は多少広く募るほうが得策かと思うのですが」
とエリクがまっとうな意見を言う。確かに一部生徒の間では、生徒会の私物化云々を懸念されている。元々は上級生の生徒会が、明らかに私物化していたことが要因だが、その悪習をアレックスの生徒会も踏襲していると言われるのは、本意ではない。
「まあ、そうだな。では交流会を開くのは良いとして、どういう趣向のものが良いのだろう?」
「私物化云々を言う生徒の大半は、下級貴族の子息か平民の出のものです。そのあたりの一部も参加させるのが、無難なところでしょうが。名目をどうしましょうか?」
エリクもアレックスの意向を組み、献策しつつ名目をどうするかで頭を悩ませる。するとエリクの脇に控えていたエリカが、いい案とばかりに言葉を発する。
「なら、各クラスの上位者と生徒会メンバーを集めた、交流会ならいかがでしょう?これなら、Aクラスは兎も角、B、C、Dクラスであれば、下級貴族の子も平民の子も参加できますし、実力上位者とあれば、実力主義を謳うこの学院の主旨にも一致します。まあ多くのものは、殿下が実力のあるものを将来の幹部として目を掛けているようにも見えますから、周囲がとやかく言う事もないでしょう」
「ふむ、実力上位者か。その選定は誰がする?」
まだ実力テストも前の時期だ。正直、優劣はまだ決していないと言っていい。ただそれにはエリクが心配いらないとばかりに、返答する。
「そこは素直に各クラスの担任に推薦してもらいましょう。まあ目的は決して悪いものではありません。仮に推薦を得られなかったものでも、逆に次の実力テストの発奮材料にもなります。今回、我々生徒会はホスト役として、会を成功させれば、結束も出ますし、他クラスの実力も垣間見れます。うん、良いかもしれませんね」
「ならその線で行こうか。エリク、人選の方を各教師へ依頼してくれ。エリカは、他メンバーに事を伝えて、会の準備に入ってくれ」
「了解です」「承知しましたわ」
2人はそうして、生徒会室を後にして出て行く。生徒会室にはアレックスが一人残ると、軽く目を閉じて思いに耽る。
『これでイベント準備はOKかな。前回のパーティーでは余りいいフラグを立てられなかったし、今回のこのイベントで、いいフラグを立てないと。ま、本当に攻略キャラだったらエリカを口説くのも良いんだけど、攻略キャラじゃないからな。でも外見だけでいえば、一番エロいし、好みなんだけど、はぁ、勿体ない。まあ、それはそれとして、今度こそは、ユーリとお近づきにならないと。なんなら、バッチリ、エスコートして、ダンスでメロメロにしちゃうっ!?くぅ~、耳元で甘くささやく言葉でも考える!?それで顔を赤らめられたりでもしたら、俺も顔が赤くなっちゃうっ、でも、それがイイっ』
考えている事は、非常に下世話。彼は主役候補No.1の王子である。ただどこまでいっても、その中身は童貞の高校生。妄想が楽しいお年頃なのであった。
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