第二十四話 新入生歓迎パーティー⑥
本日2話目です。
う~ん、どうやら第一王子アレックスのメルテに対する好感度上げは、余り上手くいかなかったようだ。あれは、この世界のメルテの事をよくリサーチしていなかった結果かな、と傍観者は1人批評する。
イベントでは、メルテが魔法を放つところまでいき、それをアレックスが防ぐことでメルテのアレックスへの評価が上がる。今回は、その前に事態が収束してしまった。まさかチョップ一つで事態が収まるとは思わなかった。
まあ彼女の立場としては、事なきを得た方が良かったので、それはそれで、とは思う。そもそも第一王子とメルテのカップリングは難易度の高いミッションだ。何より接点が余り得られず、そこに注力すると、他のヒロインに影響が出てしまう。二兎追うものは一兎も得ずとはよくいったものだ。アレックスには二兎どころかそれ以上を追う事も出来るが、その結果、一兎も得られない事もある。それではつまらないし、確実に落とせる範囲で頑張ってもらいたいものだ。
傍観者である彼女の立場であれば、多大な干渉はできない。想定されるイベントシーンを楽しむだけだ。っと、この後は、どんなイベントがあったっけ?この新入生歓迎パーティーで想定されるイベントを思い浮かべて、ほくそ笑む。
『そう言えば、あのイベントもあったっけ。なら、やっぱ彼にも注目しないとね』
その瞳には一人の少年が映っていた。黒髪に黒い瞳、第二王子であるジークフリード・フォン・エゼルバルトの姿が。
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ジークもまた、レイと同様に一連の騒動の収束にほっと息を吐く。主犯なのか、実行犯なのかは判らないが、一連の嫌がらせの発端は、フラガ・ランズタウンであろう。先ほど難癖をメルテにつけていた学生も、何度かランズタウンと一緒にいるのを見たことがある。そもそもメルテに言いがかりをつけるようなアホは、貴族主義に頭の凝り固まったランズタウンの一派くらいしかいないだろう。
もう一つ違う可能性を考えてみれば、Dクラス自体を狙ってきたか。今年の1年生クラスの実力は、Aクラスが突出している。B・Cには突出した戦力がおらず、次の実力はDクラス。Dクラスには自分を始め、メルテがいる。そして高位貴族の子息として、ランズタウンもいる。
高位貴族が優秀なのは、その素養よりも、教育された期間の差だ。長く教育されれば、その分相応に評価では優秀になる。ランズタウンもクラス内では、決して平凡という訳ではない。
そしてその三人以外に全くの無名な人物が注目を集めるようになった。レイの事だ。既に戦闘では、フラガを大きく凌駕している。模擬戦では明らかな力の差を証明したからだ。だからこそ警戒されうる事もある。まあただ、それでもAクラスとの戦力差は大きいし、少なくともアレックスには警戒されている事はないだろう。だからまあ、この線はないかと、可能性を否定する。
「まあこれで片付いたかな?流石にこれ以上はないだろ」
そういってジークに近づいてくるレイに、ジークは自然と笑みを浮かべる。
「ああ、お疲れ。最後は兄上も顔がたったし、いい着地じゃなかったか。まあ動機は把握しきれずじまいだがな」
「うーん、そうなんだよね。目的がいまいちはっきりしなくてね。俺への恨みなら、メルテやジークを襲う必要はないし。Dクラスを狙うにしても、自分もDクラスだろうにね」
「まあ、取りあえず、動機はいいだろう。お前もそろそろパートナーのところに戻らないといけないんじゃないのか?」
ジークにしてみれば、動機は二の次だ。結局嫌がらせの範囲を出ない以上、追求もできない。レイも同じ事を思っているらしく、苦笑を交えて返事をする。
「うん、まあそうさせて貰うよ。ただまたアレックス様の近くまで行かないといけないかと思うと、気が重い」
「はははっ、それはしょうがないだろ。セリアリス嬢の近くであれば安全だという事で、そこに誘導したのはレイ、お前だ」
「くっ、他人事と思って。まあその通りだから、言い訳もできないけど。取りあえず行ってくるよ」
そう言ってレイは肩を落として、トボトボとその場を離れる。
この学校に通うようになって、レイと友人になれたのは、幸運だとジークは思っている。勿論、本人が優秀なのは言わずもがな、第二王子という肩書を気にせず付き合ってくれているのが一番大きい。彼は何処まで行っても王族であり、第二王子だ。少なくとも臣下の礼をとり、ただの貴族となるまではその肩書きに縛られる。ある者は媚び諂い、ある者は畏怖し敬遠する。母が侍女で家格が低い事もあり、憐憫や嘲りの目で見るものも少なくない。
ジーク自身は王位にまったく執着はない。そんなものさっさと兄であるアレックスにあげてしまえと思っている。勿論、内心だけでなく、態度でも示している。むしろそうしないと、王妃をはじめとした、アレックスの外戚連中が、自分の母を害しかねないからだ。ジーク自体にも身の危険が及ぶことすらある。
だからこそ、ジークは、孤立を好み、周りを信用しないのだ。そんな中、レイは初めて信用ができる友人だ。家格から警戒される事も無く、そして相手の地位に媚び諂わない。そんな彼だから、ユーリのような聖女といわれる高位貴族の令嬢が好意を持つのだろう。
そして本人はいたって控えめで、目立ちたがらない。
『まあ今日だけでも結構やらかしたから、自然と注目を集めるだろうがな』
ユーリとのダンスだけでも目立つこと間違いないのに、メルテへの仲裁だ。彼と同格以下の貴族や平民からは、既に注目を浴びている。貴族とは言え、彼は偉ぶらない。平民とも分け隔てなく接するから、女性にしてみれば、手が届くかもと期待してしまう。社交性もありそれに加え、優秀。まあ上位貴族の連中も少しずつ気が付き始めているだろう。それが出る杭である事を。
そんな取り留めのない事を考えているその時である。ジークの周りに風が巻き起こり、気が付くとジークは床に転がっていた。
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レイがユーリの元へと歩みを進めているところで、その背後から風が巻き起こる。
振り向くとそこには転がるジークの姿。
『あ、やば、ジークの守りを解くのを忘れてた・・・・・・』
先ほどダンスの際に、フラガからの嫌がらせを守る為にシルフィにお願いしていたのを、うっかり忘れていた事に気付く。するとそれを肯定するように、シルフィの楽しげな声が響く。
『守ッタ、守ッタ、黒髪ノ子守ッタ!』
シルフィのその声は自慢するかのような、楽しげな声。ん、守った?とレイはジークの周りを凝視する。てっきり誰かにぶつかりそうなところを守ったとか、そんな事だと思ったが、どうやら違うらしい。そして気付く。ジークの背後に転がる1本の黒塗りのナイフ。なっ暗殺か。
「ジ、ジークッ、大丈夫かっ」
レイは慌ててジークの元に近寄り、声をかける。幸いぱっと見る限り外傷はない。取りあえずホッとして、周囲に目をやる。ナイフこそ落ちているが、暗殺をしようとしたそれらしい人影はない。ジークは、ビックリこそしているが、体に問題は無いようで、体を起こす。そして同じタイミングでそこにDクラスの担任であるミリアムが駆けつけてくる。
「うう、なんだか酷い目にあったな」
「ジークフリード大丈夫か?」
「いや、突然風が巻き起こって、吹き飛ばされたからビックリしたが、体は大丈夫です。ん、レイか。何があった?」
ジークは思ったより早く立ち直ったのか、レイの姿を見て、風の原因にあたりを付けたようだ。レイはそれには答えず、一旦、転がるナイフを手に取り、二人に見せる。
「風は俺の防御魔法。ダンスの時にかけた奴を外し忘れてたのが原因。防御魔法が発動した原因は、多分これだと思う」
ジークはそのナイフを見て、厳しい目線を送り、ミリアムもまた目を見張る。
「フン、どうやら暗殺者のようだな。王妃派一派か、はたまた別派閥か」
「ふむ、これは不味いな。レイとジークは少し付き合ってくれ。ああ、そのナイフは私が預かろう。取り急ぎ学院長へ報告に行く」
まあそうなるよな。流石にジークが暗殺者に襲われたというのは大事だ。レイとジークはミリアムの言葉にうなずき、その場を離れる。レイは歩きながら、シルフィに感謝の言葉を送る。
『シルフィ、お手柄だったよ。それとジークを襲った奴って、判る?』
『偉イ、偉イ、シルフィ偉イ?ナイフノ奴見タ、判ル、判ル』
おお、それは本当にお手柄。レイはシルフィを褒めちぎる。
『はは、シルフィ本当にありがと、ナイフの奴、見張るだけでいいから、見張っといて』
『見張ル、見張ル、ナイフノ奴見張ル!』
レイがシルフィを褒めちぎっている間に気が付けば、一行は学院長の元へと来ていた。若き英才、オシアナ・シャルツベル学院長。彼女の周りには何人かの来賓者がおり、楽しげに歓談中であった。そこにレイ達のクラス担任であるミリアムがそっと近づき、耳打ちをする。オシアナはその表情を少し厳しいものとすると、来賓者には笑顔で頭を下げ、レイ達の元へとやってくる。
「ここでは詳しいお話ができませんので、場所をかえましょう。付いて来てください」
そう言って、レイ達を先導する。案内された場所は、講堂の入り口近くにある、応接室。そこに入り、全員が部屋に入ったのを確認すると、カギを締め、ソファへ座るように、レイ達を促す。ミリアム、ジーク、レイと並んで座り、オシアナはミリアムの前に座る。
「さて、事の経緯を聞きましょう。ジークフリード殿下が暗殺されそうになったとの事ですが」
「はい、まずはこれを」
ミリアムはそこで先ほどのナイフを学院長の前に置く。学院長はそのナイフを見て、目を細める。
「これは?」
「ジークフリードが風魔法で護られた時に、現場に落ちていたものです。恐らく犯人の手元から落ちた物でしょう。刃先の黒塗り部分には毒が仕込んであります。致死性の高いもので、かすり傷一つ付けられれば、殺す事は可能でしょう」
「そうですか、殿下、暗殺者に心当たりはございますか?」
オシアナはジークの方に向き直り、質問する。ジークは不満げに腕を組み、ぞんざいに答える。
「敵ならたくさんいる。学院長もご存知だろう。まあだからと言って、特定できるわけではないがな」
「ええ、そうですわね。ん、ちなみにその隣の彼は?」
オシアナも判っているようで、困った表情を浮かべ、おやとばかりにレイを見る。それには一旦、ミリアムが返答をする。
「彼は、ジークフリードの友人で、ジークフリードを守った風魔法を使った生徒です。そのナイフの第一発見者でもあるので、念のため、参加させました」
「一年D組のレイ・クロイツェルです。よろしくお願いします」
「へえ、風魔法で暗殺を防いだなんて、すごいわね。貴族のご子息かしら?」
「はい、クロイツェル子爵家の嫡男です」
レイは物怖じせずに、淡々と答える。この場ではあくまでおまけだ。何か補足があれば、口を出せばいい。オシアナはそんなレイの態度を興味深そうに見るが、それ以上は絡まず、話の整理を始める。
「ミリアム先生、差し当たってこの後のジークフリード殿下の護衛をお願いします。一度失敗している以上、こちらが警戒を強める事を相手は理解していますので、再び襲われる危険性は低いと思いますが、念の為。それとそのナイフに関しては、私の方から、王国軍へ調査の依頼を出します。流石に情報が少なすぎる為、中々背景を追及する事は難しいかも知れませんが、そこはやるだけやりましょう。殿下、もし不安であれば、この後のパーティーは不参加でも構いませんが、いかがされますか?」
「いや、学院長の言う通り、再度の行為は無いだろう。であれば、パーティーに戻るよ」
「わかりました。それと今回の事、私としては、大事にしない方がいいと考えていますが、そちらもそれでよろしいですか?」
オシアナはそう言って、再びジークに確認をとる。ジークは考える素振りも見せず、即答する。
「構わん、騒がれたところで結果は変わらん。それに、騒乱のどさくさに紛れての方が、危ないからな」
「畏まりました。では学院内でも一部のものしか伝えないようにしましょう。レイ君も無暗に広め無いようにしてください」
「わかりました」
レイも流石に事の内容が大事な為、秘匿すべき事だろうと思う。学生には荷が重すぎる案件だ。
「まあ今回は大事にならなかっただけ、良かったわ。折角生徒達もパーティーを楽しんでくれているのに、それが台無しになったらかわいそうですしね」
オシアナは、そう言って神妙な面持ちで、ほっと息を吐くのだった。
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