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第二十三話 新入生歓迎パーティー⑤

昨日上げ忘れました。

きょうは二話投稿予定です。

 アレックスはその光景に思わず息をのむ。


 実はここでメルテが揉め事を起こす事は、ゲームシナリオの記憶通りだった。だからこそ、ダンスの後、タイミングを見て、立食スペースまで足を運んだ。勿論、周囲の者は、アレックス自ら食事をとりに行かずとも、給仕に持ってこさせればいいと言っていたのだが、「まあ偶には自分で動くのも一興」と言い張って、エリク、アレスを伴ってやってきたのだ。ちなみにセリアリスは、合流したユーリと何やら話しており、この場には連れてきていない。まあ令嬢が、料理を取ってパクついている姿というのは、中々見ない光景なのであえて誘っていない。


そしてイベントの瞬間と思って見た、その光景は想像以上に圧力のあるものだった。


 大魔導の弟子、メルテ・スザリン。既に宮廷魔術師を凌駕する魔術の天才。その彼女が今、その魔力を威圧にかえて、目の前の生徒を冷淡に見下ろしている。見下ろされている生徒には、見覚えはない。何やらドレスが汚れているという事は、その汚されたドレスの事で怒っているのだろう。故意なのか、過失なのかは判らないが、彼が何かしらをして汚してしまったらしい。


 アレックスは状況をある程度、把握したところで、傍らにいるエリクに確認を取る。


「エリク、あれはもしや、大魔導の弟子か?」


「間違いありません。大魔道の弟子と言われるメルテ・スザリンです。あの魔力、まさに化け物ですね」


 エリクから発せられた言葉は、感嘆とも驚愕ともとれる色がこもる。それはそうだろう、間違いなく学年一、いや学校一ともとれる迫力である。アレスも思わず声を零す。


「なんという圧力、あの圧力は近衛騎士隊長である、父上と同等。周囲への影響度を考えると、それ以上。あの生徒、このままでいけば、死にますぞ」


「むっ、それは不味い。早く止めなければっ」


「で、殿下、お待ちください。流石に今あの場に飛び出れば、殿下も無事ではすみません、ご、ご自重下さいっ」


 アレックスが慌てて飛び出ようとすると、それをアレスが羽交い絞めにして、それを制す。


『いや、ちょっと離して、ここで前に出ないとイベント消化にならないっ』


 アレスの羽交い絞めを強引に引きはがした為、アレックスは躓く様にメルテ達の前に躍り出てしまう。


「わっ、と、アレス、急に手を放すなっ、転びそうになっただろうっ」


 アレックスがアレスに悪態をついた後、態勢を立て直して二人を見たところで、冷たい目をしたメルテと目が合う。


「あなた誰?」


 興味のなさそうに、実際興味を持っていない冷酷な声で、メルテに質問される。


「私の名はアレックス・フォン・エゼルバルト、この国の第一王子だ。何やら揉め事にようなので、止めにきた」


「止める?あなたが?関係のない人間は黙る」


 メルテはそう言って、その魔力による圧力を高める。アレックスはその光景を見て、思わず背中に冷たい汗が流れるのを感じるが、表面上は、何もないかのように取り繕う。


「まあ待て。そなたが怒る気持ちも判る。とは言え、今日はパーティーだ。私で良ければその償いをしよう」


 アレックスはそう言って、笑顔を見せる。確かにドレスの汚れは厄介だが、落そうと思えば、いくらでも手段はある。場合によっては、同じドレスを仕立てさせてもいい。まあ王子であるアレックスにしてみれば、金さえ使えば、なんとでもなる。しかし、メルテからかえってきたのは否定する反応だった。


「あなたには無理。私はそいつを締め上げる」


「いや、私も一国の王子だぞ。その程度は造作もない。安心して任せてくれ」


「王子とか関係ない。絶対に元に戻らない」


 ふむ、思った以上に頑なだな。ただどうやらメルテは国家権力を舐めている。たかが、ドレスのシミの一つや二つ、どうとでもできるのだ。アレックスはメルテが、世間知らずの為、そんな事できないと言い張っていると思い、口を開こうとしたところで、メルテから冷酷な敵意が向けられる。


「私が食べようとした最後の一口、これを戻せる人などこの世にいない。貴方がまだごちゃごちゃいうなら貴方ごと叩き潰す」


「はっ?最後の一口とはなんだ?」


 メルテから変な言葉を聞いて、アレックスは唖然とする。


『えっ、スカートを汚された事に怒っているんじゃないの?何一口って?同じ料理を取り直せば済むんじゃないの?』


 そしてアレックスへと強まる圧に対し、冷や汗と苦笑いを浮かべながら、あっ、間違ったかもと思うのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 レイとジークがメルテの傍へと戻ってきたときには、何故が第一王子と学生に対して、圧を掛けているメルテがいた。


「おい、レイ、あれはどういう状況だ?なぜ兄上がメルテに睨まれている?」


「いや、それ俺も聞きたいんだけど?まあなんとなくではあるけど、凄くくだらない理由な気がする」


 それはレイの直感だが、ジークも同感だとばかりに首肯する。


「うん、俺もそれに一票だな。まあぱっと見、あのへたり込んでいる学生がメルテにちょっかいを出して、メルテが切れて、仲裁にいった兄上が、またメルテに切れられてと言ったところか?」


「まあアレックス様もメルテの性格は知らないだろうからね。っていうか、第一王子に切れちゃ駄目でしょ」


「まあ、兄上が悪いというより相手が悪かった。で、どうする?」


 ジークはそう言って、同情的な目線を兄であるアレックスに送り、どうしたものかと悩む素振りを見せる。


「俺の方で、そこは何とかするよ。まあいきなり魔法をぶっ放される事はないと思うし」


 レイはそれに笑顔を見せて、返事をし、手をひらつかせながらスタスタとメルテの方へと歩き出す。メルテは、大分頭にきているようで、背後から近づくレイの気配にも気付かない。それならばとレイも引き続き気づかれないように注意をして、メルテの背後に辿り着いたところで、その脳天に手刀を落とす。


ゴチンッ


 鈍い音と共に、メルテがその場に頭を抱えて蹲り、さっきまで周囲に圧を放っていた魔力は霧散する。レイは、周囲に目をやると、一様に唖然としており、第一王子を筆頭にその取り巻きメンバーすら、唖然としている。驚いていないのはジーク位で、彼はやれやれといった表情だ。


「メルテ、何があったか知らないけど、やり過ぎ」


「むっ、レイ、痛い」


「まあやり過ぎた罰だ、我慢しろ。っていうか、なんでそんなに怒っているんだ?」


 するとメルテは不満げに学生を見て、レイに言う。


「あいつが、私の最後の一口を台無しにした。万死に値する」


 そこでレイは転がる皿や料理、彼女のスカートに付いた料理のソースを見て、状況を察する。やはり、くだらない理由だった。


「要は皿を落とされて、最後の一口が食べられなかったと。また新しい奴とればいいんじゃない?」


「なっ」


 メルテはレイのその一言に驚愕の表情を浮かべる。案の定、その事に思い至っていなかったらしい。そしてその驚愕の表情を見て、第一王子のアレックスが、更に驚愕の表情を浮かべ、言葉を零す。


「まっ、まさかそんな事に気付いていなかったのかっ」


 レイは既に新しい料理をニコニコ顔で取り始めたメルテをよそに、第一王子へと向き直る。


「アレックス様、この度は、Dクラスの友人であるメルテ・スザリンがご迷惑をかけ、申し訳ありませんでした。当人には、後程言ってきかせますので、どうかご容赦を」


「あ、あれは、なんだ。その天然なのか?」


「そうですね、天然でございます」


「そ、そうか、天然なのか。ならば致し方ないか」


 本来であれば、それで済まない気もしないではないが、アレックスがそう言って、場が収まりかけたその時、さっきまで威圧で震えていた男子学生が、いきり立つ。


「ちょ、ちょっと待ったっ。こっちはなんだか恥をかかされたんだぞっ、どう落とし前つけてくれるんだっ」


 どうやら近くに第一王子がいる事で、貴族である自分が有利であると勘違いしたようだ。レイは、その学生に呆れた表情で、言い放つ。


「うん?落し前がつけたいと、なら模擬戦だな。メルテ、彼が模擬戦をやりたいと言っている。好きなだけ魔術を使っていいみたいだけど、やるか?」


 すると料理を口に入れながら、メルテはニッコリとして首肯する。


「やる、魔術打ち放題、楽しい」


 するとさっきまでの威勢もどこ吹く風で、その学生は怯えきった顔をする。素直に話を収めておけば良かったのに、残念なことだ。レイはダメ押しとばかりに、アレックスへと許可を取る。


「アレックス様、当人達も決着を望むようです。学院ならば模擬戦という着地が妥当かと存じますが、宜しいでしょうか?」


「いや、俺はそんなっ」


 その学生は慌てて、回避しようと口を挟むが、アレックスはそれに被せるように、言い放つ。


「まあ当人達が望むならいいだろう。ここは実力主義の学院、貴族だ、平民だは関係ないからな。決着を望むなら妥当だろう。エリクッ」


「はっ」


 そこですかさずエリクが近寄りアレックスへと頭を下げる。


「メルテ・スザリンとそこの学生との模擬戦を取り計らえ。私もその時は立ち合おう」


「畏まりました」


 そして、一連の騒動に漸くの着地が見えたところで、レイも一息つく。ただなんと無く、まだ違和感があり、本当に終わったのかという不安は拭えなかった。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!


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