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第二十話 新入生歓迎パーティー②

 会場への入場のトリを飾るのは、第一王子であるアレックスとその許嫁セリアリスのペアである。


 これは予め決まっていたペアであり、この二人に関しては、パートナーを探すという選択肢は最初から無かった。だからこそ、アレックスは不満に思う。よく判らないヤツがユーリ・アナスタシアのパートナーとして現れたのにだ。


 勿論、彼は所詮モブだという事は判っている。聞いた事の無い名前だからだ。だからこそ必要以上に気にする必要のない相手だという事も。それでも気に食わないという事実は変わらない。


 問題の発端は、アレックスがフラガからユーリを助けるタイミングでいなかったからだ。とは言え、これは正直仕方がない。アレックスの記憶では、元々フラガがユーリに迫るのは放課後のはずだった。だからこそアレックスも放課後のタイミングは十分に注意していた。


 それが、事が起こったのは、昼休み、しかも場所も貴族が使うレストランではなく、平民が多く集まる食堂。なぜそんなところで?とアレックスは頭を抱えたくなるが、事件が発生してしまったのは、致し方ない。


 その後、セリアリスがユーリと仲良くなる事で、生徒会役員に引き込む事は出来たが、彼女の好感度はいまだ稼げていないのが実情だった。


『まあ、とは言えこれから。これからまだ挽回の余地はある』


 これは本音だ。生徒会といういわば狭いコミュニティーであれば、彼女との接点は必然増える。好感度を稼ぐチャンスなどいくらでも来るのだ。そう言った意味では、今隣にいるパートナーには只々、感謝しかない。とは言え、油断は禁物。もしかしたらシナリオは、セリアリスの物語を紡ぐかもしれないのだ。


 そうなるとアレックスは、大負けは無いが、主人公ではなくなる。折角、主人公になれる最有力キャラに転生した意味がない。だからこそ、決意を新たにする。


 そんなアレックスの内面など露知らず、セリアリスは、アレックスへと話しかける。


「アレックス様、今回はトリという事で、緊張などされてはおりませんか?」


「フッ、流石に私も場慣れはしている。エスコートもキチンとするので、安心しろ」


「あら、それはいらぬ心配でしたか。申し訳ありません。では、エスコートよろしくお願い致します」


 セリアリスが優雅な笑みを零しながら、そう言って、アレックスの手を取る。アレックスはむしろその行為に少しだけ緊張をするが、それをおくびにも出さぬように注意しつつ、颯爽と歩き出す。


 アレックスの前世はただのゲーム好きの高校生。セリアリス程の美少女と並び歩いた経験も無く、むしろ女友達すらいない。知人、挨拶だけするような相手は数人いたが、碌に会話すらした事が無い。自然と会話は不器用なものとなり、結果、中々、続かない事が多い。


 セリアリスに対しても、会話を弾ませたいと思う気持ちはあるのだが、美少女である事と彼女の凛とした佇まいについつい気後れしてしまい、中々、打ち解けた言葉遣いにならないのが、現状だ。


『う〜ん、セリアリスに対して、もっと普通に会話したいんだけどなー。向こうが砕けてこないから、ついそれに合わせてしまう』


 アレックスは、会場に向け歩いていきながら、1人懊悩とする。ちなみにこれは、間違いだ。本当であれば、身分の上の人間が、砕けた口調で話しかけるべきである。当然、下の者は、相手の許可がない限り、砕けた口調などできないからだ。


 そしてアレックスはその事にまで考えが至っていない。自分が王子であり、立場が上だという事に。だから、相手との距離が縮まらないという事実に。ただ今のところ周囲の目は、そこまで目を向けない。二人が会場に足を運んだところで、一際大きいざわめきが起こる。


「おお、アレックス様とセリアリス様、お似合いのお二人が登場だっ」


「うん、まさに美男美女のペアですな。アレックス様も堂々とされているが、何よりその隣にいるセリアリス様が、お美しい。いやはや、羨ましい限りです」


「いや、やはり殿下のお姿が素晴らしい。セリアリス様を従える姿は、流石は次代の王と呼ばれるに相応しい佇まいだ」


「ノンフォーク家も、王太后様に続き、王子の外戚となられる。正に今後の権勢を約束されていらっしゃるようなものですな」


 会話は口さがないものだ。次期国王候補の筆頭であるアレックス。その許嫁であるセリアリスは、王妃となる事が約束されている。事実既に、母である王妃や祖母である王太后からは、王妃教育を受けている。アレックスもその事実自体は否定しないし、むしろセリアリス程の美少女が妻となる事に喜びさえ湧いてくる。ただ政治の道具にされている感も正直感じている。


 アレックスは前世がある為、一般人の感覚しかない。好きになって、好かれて初めて結ばれる普通の恋愛観しか持ち合わせていない。


 セリアリスは宛てがわれて許嫁となっている為、気持ちが無いのだと勝手に諦めていた。そこから距離を縮め、恋愛感情をお互いに持つこともあるだろう事に思い至らない。むしろ彼女がそんな事を望んでいるはずがないと思っていた。なぜならそれ程までに彼女には心の強さがあるのだと感じていたからである。


 それは前世のゲームシナリオで見せた彼女の強さが原因であり、実際の彼女を見て感じたものではないと、アレックスは気付いていないのだが。


「周りが少々うるさいな。ったく、人の事など、どうでもいいだろうに」


「アレックス様、そう、邪険にされるような物言いはお止めになった方が、宜しいですよ」


「フン、そうは言うが、暗に政略結婚だの揶揄されているようでな、セリアリス、そなたは気にはならないのか?」


 アレックスはセリアリスだけに聞こえるような声量で、それと無く聞く。セリアリスもまた、アレックスだけに聞こえるように言葉を返す。


「まあ、それは気にならないと言えば、嘘になりますが、気にしても詮無き事とも思っています。アレックス様のお相手となれば、少なからず政治が影響するのは、事実でございますし。ですので、声を上げて否定する事もできません。ただ私は、アレックス様のお相手となれて良かったと思いますよ」


「ん?それは何故だ?」


「それはアレックス様は日頃から努力されておられるのは、存じておりますから。敬意こそ抱けど、悪意など抱こうなど思いも致しません」


 アレックスはそれを聞いて、一先ず安心はする。セリアリス自身は、アレックスに対し、キチンと敬意を示してくれる。少なくとも好感度マイナスという存在ではないらしい。アレックスにしてみれば、セリアリスは言い方は悪いが、キープすべき存在だ。今はまだ、選ぶ時ではない。だからこそ、この立場を最大限利用して、キープしなければならない。


「ふん、なら、その敬意には存分に応えよう。親が決めたとはいえ、大事な許嫁だからな」


「はい、有難うございます」


 2人はそう言って、どこか親しげではない笑みを交わしながら、会場中央へと歩みを進めるのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 フラガは1人鬱屈とした気分で会場を見ていた。厳密には彼の家の寄子である子爵家の娘をパートナーとし、その少女を隣に置きながら、心はその少女に一切向けず、会場の中にいる注目を集める人物達を眺めている。


 一組はアレックスとセリアリスのペア。王子と許嫁のペアは、その関係性の事実も相まって、非常に注目を浴びている。セリアリスは薄藤色の髪をアップに纏め、髪の色に合わせた薄藤色のドレスをまとい、優雅な所作でアレックスのエスコートを受けている。若干、アレックスがセリアリスを敬遠しているのでは、と噂が立つこともあったが、今の二人を見る限り、そこまで敬遠をしている風にも見えない。所詮、反対派閥のやっかみ込みの話なのだろう。


 もう一組は、ジークフリードとメルテのペア。こちらは第一王子のアレックス程ではないが、やはり注目は集めている。なんといっても王族にも関わらず、メルテという平民をそのパートナーにしているからである。とは言え、メルテ自体の評価は鰻上りだ。大魔導の弟子という肩書もさることながら、小柄ながら妖精もかくやという可憐な容姿を持つ少女である。銀色の髪が映えるような黒のドレスは、彼女に大人びた雰囲気を与えている。恐らくジークのチョイスなのだろう。


 そしてもう一組は、エリクとその義妹、エリカ・ミルフォード。このペアは、王子2人程の注目度は無い。ただ、エリカ自身の美しさが、周囲の目をくぎ付けにしている。黒髪に黒い瞳の神秘的な印象を与える少女。赤いドレスに身を包み、周囲の少女以上に、圧倒的なスタイルの良さが男性の目をひくのだ。それでいて、決して下品にならない佇まい、エリクの義妹でなければ、声を掛けたい位である。


 そして最後に、ユーリ・アナスタシアとレイ・クロイツェルのペア。入場最初こそ、聖女であるユーリの話題で盛り上がる。聖女らしい清楚で可憐という言葉が似合う可愛らしい容姿に、淡いブルーのドレスが良く映えている。ただ次第に、その聖女をエスコートするレイの方にも注目が集まる。その慣れた優雅な所作は、周囲の女性の目を引き、その優しい仕草が、ユーリのその美しい笑顔を引き出しているのだと知れたからである。気が付けば、先の3組と同等の注目を集めるに至っており、それが、フラガをイラつかせていた。


『本当であれば、聖女の隣は俺のものだったのにっ』


 模擬戦に負けたフラガには、選択権はない。とは言え、レイの横槍さえ入らなければ、どうとでもできると思っていた。彼の侯爵家という自尊心はそれほどまでに強く、そして、絶対的なものだ。伯爵などの高位貴族は勿論、同格のエリクであっても歯牙にもかけない。王族に連なる公爵家には一目は置くが、それでも王家の家臣としては、最高峰。伯爵家とは言え、平民出の養女であるユーリには抗うすべはない。


『クソ、クソ、これもクロイツェルのせいでっ、たかが子爵風情でっ』


 だからこそ苛立ちが募る。しかも目の前で注目を集めているのだ。本来であれば、注目を集めるべきは、侯爵家の人間である自分であるはずなのに。


 最早フラガの隣にいる子爵家の娘は、フラガの発する雰囲気に声もかけられない。そしてそんな彼の前に、1人の教師が話かける。


「おやおや、そこにいるのは、ランズタウン家のフラガ君ではないですか?上位貴族の君が、こんな端で何をしているのですかな?」


 話しかけてきたのは、Aクラスの担任であり学年主任、アレックスの元家庭教師でもあるアーネスト・フォン・ロンスーシーだった。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!


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