第十八話 友達の友達は友達です
そしてその後、周囲がその場を離れた後も、レイとユーリはのんびりと話をしていた。話の内容は他愛のないもの。結局入学式からほとんど顔を合せなかった2人だったので、それぞれ近況を話していたのだ。
「それでなんだって、ユーリはあの食堂で捕まってたんだ?」
「私はいつもは侍女の方がお弁当を作ってくれるの。それを教室とか中庭で食べているんだけど、今日はその侍女が風邪で休んでいたので、食堂に行ったの。ほら、あそこの食堂って平民の方が多いでしょ?だから貴族の使う食堂より、気が休まるのよ」
「ああ、そこでフラガに捕まったと」
それは不幸な事故だ。これが教室なら他の生徒もいただろうし、回避もしやすかっただろうにとレイは思う。
「そう、あそこだとクラスの貴族の女子は行かないから、私だけになっちゃって、それで行ったら囲まれちゃって」
「ふーん、まあ災難だったな。それにしてもユーリがフラガに言い寄られてたなんて知らなかったよ」
「私だって知らなかったわよっ、今日初めて話しかけられたし、名前すら知らなかったんだからっ」
「えっ、そうなの?あんだけ固執するんだから、前からユーリの事に興味があるんだとばかり、思っていた」
正直それは意外だ。わざわざ模擬戦までやったのだ。まあフラガの場合、頭に血がのぼって、引っ込みがつかなかっただけの可能性もあるけど、そこは正直良くわからない。
一方のユーリを見ると、憤懣やるかたないとばかりに、プンプンしている。まあ彼女にはいい迷惑だったのだから、しょうがない。そこでレイは、ユーリを宥めようと思ったところで、1人の少女が現れる。
薄藤色の髪をした同じ瞳の色を持つ少女セリアリスだ。セリアリスは、会場の周囲をキョロキョロと見まわし、どことなく焦った表情を見せている。
と、セリアリスと目があった。彼女は、レイを見て、その隣にいるユーリを見て、またレイを見る。何やらハテナマークが沢山浮かんでいる様子だ。そこで、意を決して、セリアリスはレイ達に近付いてくる。
「ここでユーリ様が馬鹿げた模擬戦に巻き込まれて、迷惑をしていると聞いて、急ぎ駆けつけてきたのだけど・・・・・・?どうしてレイがいるの?」
どうやら彼女はユーリが窮地に追い込まれていると聞かされて、急いでここまで来たようだ。まあそれもすべて片付いた後なんだが。
それを聞いて、さて、どう返事をしたらいいものかと考えているところで、ユーリから横槍が入る。
「えっ、セリアリス様は、レイの事をご存知なんですか?」
ああ、それもわかる。公爵令嬢のセリアリスと子爵嫡男のレイとは、どう考えても接点ないもんな。更に返事の返し方の悩みが増えた。
あれ、早く言葉を返さないと、深みにはまる?そう考えるに至った時に、セリアリスが言葉を零す。
「えっ、ユーリ様、今レイの事をレイって?」
おおうっ、また説明が増えた。すると今度は、二人が息を合わせたように、レイを見る。
「「レイ、どういう事、説明して」」
そこでレイは、両手を上げて、降参のポーズをとる。
「と、取りあえず説明するから、睨まないでくれる?えーと、まずセリアリス様と俺の関係は、まあ昔馴染みかな?昔うちの領地に、セリアリス様と母上のカエラ様が2週間程滞在してね。俺とセリアリス様はそこで知り合ったんだ。学院に通うにあたって、ノンフォーク領に寄った時に再会して、一緒に王都まで来たんだよ。で、その後も一応学友として付き合わせて貰っている。それとユーリとは、たまたま王都の散策している時に縁があって、友人になったんだ。まあ、お互いクラスも違うし、そう会う機会も無かったんだけど、今日また別の縁でね」
「むっ、レイ。ユーリ様はユーリと呼ぶのに、同じ友人の私はセリアリス様と呼ぶのね。ずるいわよ」
なんだか変なところに反応するセリアリス。
「いやセリアリス様、そうは言っても・・・・・・」
「レーイー・・・・・・」
そう言ってジト目を送るセリアリス。レイは観念したようにがっくりと肩を落とし、諦める。
「はぁ~、判ったよ。セリー。ユーリも内緒ね。僕がセリーを愛称で呼ぶのは。んっ、ていうか、ユーリをユーリ様と呼べば・・・・って、いやなんでもないです、はい」
今度はユーリに睨まれて、あっさりと前言を撤回するレイ。するとそんなレイを見て、今度はセリアリスとユーリが顔を合わせて、笑い合う。
「プッフフフッ、レイ、貴方の負けね。ユーリ様、貴方も私の事をセリーと呼んで頂戴。私もユーリと呼ぶから。良いでしょ」
「アハハッ、あっはい、嬉しいです、セリー。それとわざわざ心配で来てくれて、ありがとうございます」
「あっ、そうそう、ランズタウンのバカはどうしたの?レイがここにいるって事は、なんとなく想像はつくけど」
「はい、レイがすべて解決してくれました。ただ流石に高位貴族の子息なので、家とかが出てくると厄介だとは思うのですが」
そう言って、女子2人で会話を進める。レイは補足が有れば、口を挟もうかと思っていたが、今のところは特段ない為、二人のやり取りを眺めている。すると、ユーリの不安に対し、セリアリスがきっぱりと答える。
「ああ、そこは気にしなくていいわよ。学院の模擬戦の結果でしょ?そこにいちゃもんをつけるような貴族は、逆に王家から咎められるから何もできないはずよ。ましてクロイツェルの前にはノンフォークがあるもの。嫌がらせをするのには、ノンフォークを介さないとできないしね」
「えっ、でもノンフォーク家とクロイツェル家は寄子とかではないんですよね?」
「ええ、でもお父様とクロイツェル子爵は上司、部下の関係ですもの。しかも王国唯一の海軍をお任せになっているのよ。信頼していない訳ないじゃない」
「そうですか、良かった。今回は私がレイを巻き込んじゃったので、それだけが心配で。レイはあんまりそういう事に頓着しないから、なおさらね」
「フフフッ、そうね。レイとかって、本当にそう言うところに興味ないもんね。あたしもそれだから、気の使わない相手として接する事ができるのだし」
セリアリスはそう言って、嬉しそうにレイを見る。レイは居心地が悪そうに、顔を顰める。
「はいはい、田舎の世間知らずで、悪かったな。まあセリーとユーリが仲良くなれたみたいで良かったよ。これで俺も肩の荷がおりる。二人ならどっちも自慢できる友人だ。上手くやってくれ」
「あらレイ、貴方は私の新入生歓迎パーティーのパートナーなんだから、逃げようとしたって駄目よ」とユーリが言う。
「そうよ、私とも経営学の授業の学友なのだから、これからも付き合って貰うわよ」とセリアリスも言う。
「まあ、二人に何かあったら愚痴位は聞くけど、子爵嫡男に多くを求めないで欲しい・・・・・・」
レイはそれに対して、顔を引き攣らせるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そしてそれから日がたち、新入生歓迎パーティーの前日、一年生の生徒会室にてフラガが第一王子であるアレックスに頭を下げていた。理由は簡単、先日のチャンスをものにできなかった事の報告だった。
「ふむ、フラガ。今回のチャンスはふいにしたという事でいいな」
「クッ、は、はい。そのような結果となります」
フラガはそう言って悔しさをにじませる。第一王子も報告は聞いている。なんでも元々ユーリにはパートナーがいたのに、それを横取りしようとし、模擬戦で雌雄を決するも敗退。ユーリがそのパートナーになる事は叶わなかったという事だ。
「そうか、残念だな。という事で、フラガ、お前の生徒会入りは残念ながらなしだ。まあ模擬戦での敗退だ。実力主義の学校方針に従えば、致し方ないだろう。まあその話を受けて、既に書記は埋まっている。諦めるんだな」
「うっ、そうですか。それで書記はどなたになるのでしょうか?」
「ふん、お前にも関わりがあったユーリ・アナスタシアだ。実は彼女をセリアリスが強く推薦してな。まあ、元々書記は女子学生が担当する事が多い故、それを了承した。しかも今代の聖女といわれる彼女だ。生徒会役員としては、申し分ないだろう」
「クッ、承知しました」
フラガはそう言って、更に悔しさをにじませる。全く承知をしている様子はない。アレックスはそんなフラガを見て、フンッと鼻を鳴らすと、フラガを冷酷に見る。
「ああ、ちなみに私の率いる生徒会役員のメンバーに何かトラブルが発生してみろ、その時は王家の総力を挙げて、叩き潰すからよく理解しておけ。これは忠告だ」
その底冷えするような声で威圧されたフラガは、すっかり顔を青くする。もし逆恨みでユーリに何かをしたら許さないという、王子、いや王家の意思である。これによって、完全にフラガの生徒会入りという可能性は完全に潰えたのであった。
トボトボとその場を離れるフラガをつまらなそうに眺めながら、アレックスはただただ頭に疑問符を浮かべていた。
『本当であれば、俺がユーリを助けに行くはずだったのに、なんだってよりにもよって、平民たちが集まる食堂だったんだ?しかも昼休みって、あいつはバカなのか?おかげで救済するシナリオが崩れてしまったじゃんか。まあ、唯一の救いはなんかセリアリスがユーリと仲良くなった事か。おかげでユーリを生徒会に引き入れる事ができた。過程はどうあれ、結果は同じ。なら生徒会で好感度を上げるしかないな。よーし、頑張るぞっ!』
まだ彼は能天気だった。少しずつズレてきたシナリオ。警戒するべきだった。修正するべきだった。そしてパーティが始まる。
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