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第十七話 模擬戦

週間ランキングでも56位と健闘?しています。物語は少しずつ動いているので、是非応援と思って評価の程お願いします!

 模擬戦。


 これはこの学院では決して珍しい事ではない。実力主義を標榜する学院だけあって、むしろその開催は不定期だが、意外に頻繁に行われる。


 この学院には平民の学生が少なくない。そうすると少なからずその中の優秀な学生は、貴族から妬まれる。まあ下級貴族の子息、令嬢も当てはまるかもしれない。正直、それでは優秀な人材は育たないし、貴族とは言え、その立場に胡坐をかけば、国は腐敗する。


 結局は、貴族は貴族で努力が必要なのだ。だからこそこの学院は実力主義を標榜し、実力のある者はその力だけで跳ねのけよという訳だ。


 ただルール無用は駄目だ。国も法というルールがあって機能する。だからこその模擬戦。


 模擬戦には2つの形式が存在する。戦闘形式と試験形式。前者は単純な戦闘だが、後者は、戦闘を得意としないものの為の学力テスト。どちらの形式を選ぶかは、挑戦する側が指定でき、受ける側が了承すれば模擬戦成立となる。


 ちなみに受ける側には拒否権がある。当然、自分の不得意で相手が得意の場合不利となる。受ける側がその判断を下すのは、当然の事だった。


 そして今回の模擬戦。挑戦する側のフラガが指定したのは、戦闘形式。魔法ありの1本勝負だった。レイはそれをあっさり了承。審判をDクラス担任であるミリアムに依頼し、学校側の即時承認も得て、その日の放課後には模擬戦会場に二人は既に立っていた。


 この模擬戦会場は、戦闘形式であれば、観客席で観戦する事ができる。今回の不幸な当事者であるユーリは勿論の事、何故かジークとメルテやDクラスの生徒達が数名観戦に来ていた。


 レイは試合開始前、なんとはなしにジークを見ると、案の定ニヤニヤ顔。メルテはレイが何やら楽しそうな事をしているのに、不満顔。えっ、仲間外れにされたとかで怒っているのだろうか?ユーリは当然、不安顔であるし、Dクラスの生徒は何故かそんなユーリとレイを交互に見ながらヒソヒソと小声で話している。


 一瞬、何を話しているのか、シルフィに頼もうかと思ったくらい、何やらキャッキャウフフと噂話に花を咲かせている。


 レイがそんな様子にゲンナリしたところで、ミリアムから声がかかる。


「それでは、これから模擬戦を始める。私が開始と合図してから、始めるように。ルールは簡単、相手を気絶させるか、参ったと言わせるか、場外にはじき飛ばすかをさせたものが勝者だ。今回は、魔法の使用あり、急所への攻撃は当然ながら反則とする。まあ、この会場には治癒ができる魔術師が詰めている。腕が折れようが、血を吐こうが、大抵のものは治せるから心配するな。それでは双方準備は良いか?」


 そう言ってミリアムは双方の目を見て、それぞれが頷き返す。


「ふむ、問題ないようだな。それではこれより模擬戦を開始する・・・・・・始めっ!!」


 その開始の合図とともに、両者は一旦距離を取る。フラガの構えはオーソドックスな王国流剣術の構えだ。片手剣に盾を構え、騎士よろしく両足を地につけ、正眼に構える。


 一方のレイはというと、同じ片手剣であるが、盾は持たず体を半身にして、剣先を揺ら付かせる。レイの剣術は王国流ではない。それに対して嘲笑するかのように、フラガは顔を歪める。


「ふん、所詮は田舎者か。碌に構えすら出来ないとは。俺の剣術は近衛直伝。お前ごときが叶う訳がない」


「まあ近衛直伝とかどうでもいいよ。それよりかかってこないなら、こちらから行ってもいいかなっ」


 レイはそういうと、構えた剣を振り上げて、初撃をわざとその盾に叩きつける。


ガンッ


 フラガの構えた盾は、レイの見た目に反して想像以上の力に思わず流される。


「クッ」


 本来であれば、盾で受け止め無防備になった相手に対して反撃がセオリーだ。ただ初撃の威力に流されたお蔭で、反撃できず、フラガは慌てて後ずさる。レイはそんなフラガを逃さず、切り返しで再びその盾を弾く。


ガンッ


 流石に今度はここで流されると致命的な隙を見せる事になる為、何とか力を集中し、踏みとどまる。レイはそんなフラガの様子を見て、一旦フラガと距離を取る。


 そのまま畳み掛ける事は簡単だが、余りに簡単に決着がついてもしょうがない。あくまで実力差を見せつける事が重要だ。なので、レイは挑発する。


「フラガ、その程度か?魔法ありの戦いなんだから、魔法使っても良いんだぞ?流石に魔法使えなかったから負けたとか言われても困るんだが」


「クッ、減らず口を。だがそこまで言うなら見せてやろう、ランズタウン家代々の火炎魔法を」


フラガはそう言うと、そこで詠唱を始め、彼の剣に炎が螺旋状に纏わりつく。


「炎剣レッドスネーク、蛇の如く地を這い、奴に纏わりついて、焼き殺せっ」


 すると纏わりついた炎の蛇が八つに分かれ、地を這って八方からレイへと襲いかかる。ちなみにその魔法を見たメルテは、「ほうっ」と目を輝かせ、ユーリは思わず目を伏せる。ジークはニヤニヤ顔を止めない。アイツはアイツで何か確信を持っているみたいだ。クラスメートも「逃げてっ」だの「駄目だ、やられる」だの声を上げている。


 しかしレイはその瞬間も表情を変えず、一言友人に声をかける。


『シルフィ、吹き飛ばせっ』


 するとレイの周囲に竜巻が巻き起こる。それはあっという間に炎の蛇を飲み込み、風が止み終わると同時に、綺麗さっぱり消え去っていた。


「おおーっ」


 メルテの気の抜ける感嘆の声以外、周囲の人間はあっけに取られている。あっ、ジークは馬鹿笑いしているな。ん、ユーリもほっとした顔をしてる。って言うか、一番、俺の力の一部を真近で見たことあるのって、ユーリだよね?などとのんびり考えていると、フラガが金切り声を上げる。


「きっ、貴様ーっ、今、何をしたっ。なんで消し炭になってないんだーっ」


 どうやら彼の奥の手だったぽいなとその様子を見ながら思いつつ、変わらない余裕の表情を見せる。


「見ればわかるだろ?風で吹き飛ばしたんだ。さて、そろそろ終わらせるぞ」


 レイはそう言うと、先ほどよりも素早い踏み込みで一気に距離を詰める。もう無駄に試合を長引かせる必要はないだろう。


「ひっ」


 慌てて盾を構えるフラガを尻目に、レイはその盾を下から弾き飛ばす。


ガキンッ


 明らかに先ほどより強度の上がった一撃で盾が弾け飛ぶと、今度はその剣を振りおろし、フラガのその首筋に剣を置く。レイは先ほどまでの余裕のある表情から、スッと目を細め、威圧を放つ。


「まだやるなら、可能な限り痛めつけるが、まだやるか?」


「ま・・・・・・まいった」


 射すくめられたフラガは、その場にへたり込み降参を告げる。そこで審判のミリアムが、勝敗を宣言する。


「勝負あり、勝者、レイ・クロイツェル」


 レイはその宣誓を聞いて、漸く溜息を吐くのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そうして2人はその場を退出した後、レイはのんびりと観客席の方へ向かう。まずはDクラスのクラスメートに囲まれ、祝福される。


 レイはそれを苦笑で返しながら、思ったよりフラガへの反感って大きいんだななどと考えていた。そして一通り周囲の祝福に応じた後、今度はジークやメルテの方へと向かう。


「流石はレイ、我が心の友よ。中々に面白い余興、楽しませて貰ったよ」


「チッ、ジーク、お前本当に楽しんでたよね、すげームカつくんだけど」


「ハハハッ、いやレイがあの炎の魔法を吹き飛ばした時のフラガの顔がおかしくてな、クククッ、あの手の奴が心を折られるとあんな顔になるのかと思うと、クククッ」


 レイはそこまで楽しまれると、逆にイラついている自分があほらしく、思わず深い溜息を吐く。どうやらジークは微塵も心配をしていなかったらしい。まあ風の精霊の加護の話は伝えていたので、予想通りの反応と言えば、反応なのだが。そして今度はメルテを見ると、目が爛々と輝いている。


「レイ、次、私と戦う。魔法一杯打てる、私楽しい!」


「断るっ」


 模擬戦は指名された側に拒否権がある。メルテと戦闘なんて、嫌でしょうがない。大魔導の弟子だよ?絶対にお断りである。ただしメルテは諦めない。


「レイが断るのを断るっ!レイ、私と戦う!」


「クッ・・・・・・まあ、いずれにしろ、暫くはやらないし、やれない。模擬戦を一度終えたら、3ヶ月は模擬戦停止期間だ。これは学校のルールだから」


「むーっ、じゃあ3ヶ月たったらまた申し込む。拒否は許さない」


「はいはい、その時になったら考えるよ」


 レイはそう言って、適当にあしらうが、内心では全力で逃げようと心に誓う。メルテと戦うなど正直メリットが無いのだ。そして、最後、今回の当事者であったユーリの元へ。彼女は、安堵と共に、申し訳なさそうな顔をして、少し俯いている。レイはそんな彼女の前に行って、片膝をついて、その手を取る。


「ユーリ・アナスタシア様、この度学院で新入生歓迎パーティーがあります。子爵家の身で伯爵家令嬢に対し分不相応とは存じておりますが、私のパートナーとして、参加いただけませんか?」


「えっ・・・・・・、で、でも・・・・・・」


「おや、やはり私などでは、叶わぬお願いでしたか?」


 一瞬逡巡するユーリに対し、レイはわざとらしく悲壮な顔をして、嘆く。


「うっ・・・・・・、レイ、ずるい。こんなに迷惑ばかりかけちゃったのに、そんな・・・・・・、本当ずるい」


「いえいえ、私はフラガと模擬戦をしましたが、あれはクラスの揉め事。貴方には関係のない事です。その上で今初めてこうしてあなたにお願いをしております。勿論、これまでも多くの人をお断りしていらっしゃるので、分不相応な私では同じ事なのだとは思いますが」


 レイは正直ここまでするつもりは無かったのだが、なんとなく彼女がこのまま、レイを巻き込んでしまった自分に対して罪悪感を抱くのが嫌だった。


 結果として、彼女を競い合う形で模擬戦を実施したが、あくまでそれは建前で景品などではない。だからこうして、最初から申込をしているのだ。勝ったらパートナーとなるのではなく、彼女の意志として行く行かないを判断して欲しかった。


「レイ、私は前に貴方に言ったわ。あなたは私の友人で恩人。分不相応なんて有りえない。だからそんな話し方は止めて。普通に言って頂戴」


 そう言うユーリの顔には、先ほどまであった罪悪感は無い。どちらかというと不安。キチンと自分を対等の相手だと認めてほしいというお願い。貴族とか聖女とかではない、ただの友達として対等にと。


 だからこそレイは片膝をつく姿勢から立ち上がり、ユーリの両手を持って、いつもの笑顔を見せる。


「ユーリ、俺はまだパートナーが決まってないんだ、友達のよしみでパートナーになってくれない?」


「フフフッ、最初からそう言えばいいのよ。しょうがないから、友達のよしみでパートナーになってあげるわ」


 ユーリはそこで漸く、彼女らしい笑顔を浮かべるのだった。

面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!

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