第十五話 生徒会役員
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フラガ・ランズタウンはその部屋に足を踏み入れた時に、不満げな表情を露わにする。踏み入れた場所は生徒会室という名の上級貴族向けサロン。
ランズタウン家の立場でいえば、そこに足を踏み入れるのは、問題ない。むしろ率先して使っていい立場である。彼の兄や姉などは、やはり生徒会室の常連だったと聞いている。当然その弟である彼にもその権利はあってしかるべきなのだが、その場にいるのは、自分以外はすべてAクラスの人間。Dクラスたる彼の立場は微妙であり、何しに来たのだと言われんばかりの視線を浴びて、憤慨しているのだった。
『チッ、ミルフォードとグレイスの腰巾着めっ』
彼らとフラガの違いは、幼少の頃からのアレックスとの接点の数の違いである。幼少の頃より彼らは、共に行動する機会を得られるように、配慮されてきた。フラガも面識こそあるが、彼らに比べれば、接点は少ない。必然、軽んじられる立場となる。
「んっ、お前は、ランズタウンの家の者か?」
そう言って、アレックスがフラガに目をやり、声をかける。フラガはその両脇にいるエリクやアレスにまで頭を下げている気分になり、思わず顔を顰めたくなるが、そこは何とか自制をし、平然とした顔で臣下の礼を取る。
「ご無沙汰しております。アレックス殿下。ランズタウン侯爵家が三男、フラガ・ランズタウンでございます」
「うん、そなたとは私の誕生日パーティーの時以来かな。それで、今日はわざわざこんなところにきて、どうしたのだ?」
アレックスはそう言って、さした興味を示さず、直ぐに用向きを確認してくる。フラガは、それにそのままの姿勢で、回答する。
「はい、今日は殿下に折り入って、ご相談があり、参上仕りました。私どもランズタウン家では、代々、ここ王立学院にて生徒会の役員を仕っております。私もそれに習い、是非役員の一席に加えて頂けないかと考えております」
「ふむ、生徒会役員か?」
「御意にございます」
生徒会役員は、学年毎に会長、副会長、会計、書記、庶務の5名で構成される。基本上級貴族の子息がいる場合、そのものが、該当者となるのだが、今年の様にその上級貴族が多数いる場合は、最上位者がその選考を独断する事ができる。
今回でいえば、その役目は、最上位者であるアレックスが会長となり、任命権を持つこととなる。なので、フラガはわざわざこうして、生徒会メンバーに入れて貰えるように、足を運んだのだった。
「ふむ、今年はなにぶん対象者が多い。ここにいる我ら3名だけでなく、弟のジークフリード、婚約者のセリアリスや、聖女と謳われるユーリ・アナスタシア、そうそうエリクの義妹も候補に入るな。その上、フラガ、お前もとなると、正直、多すぎる。しかもこの学院は実力主義、聞けば、そなたのクラスに大魔導の弟子もいるそうではないか。彼らと比して、そなたを選ぶ理由は何かあるか?」
アレックスはそう言って、他と比べての自分の優位点を説明しろと言ってくる。成績であれば、アレックスの隣にいるエリクには及ばない。剣術・武術といった点においても、アレスには及ばないだろう。しかもセリアリスは、王子の許嫁だ。これに面と向かって優劣を説明すれば、不敬にあたるかも知れない。なので、フラガは、その他の者を貶めようとする。
「そうですね。確かに殿下を始め、エリク、アレス両名には、成績、武力に置いて届かないかも知れません。セリアリス嬢に関しては、流石に殿下の婚約者でもありますので、優劣を決する相手ではないでしょう。ただ恐れながら、ジークフリード様は、当人にその気がなさそうなご様子。アナスタシア嬢やエリクの義妹も所詮は養女でございましょう。大魔導の弟子に至っては、所詮は平民。候補にすら上がらないのでは、ないですかな」
「ふむ、確かにジークフリードに関しては、そうかもしれぬな。あれは、母が侍女という事もあり、常に一歩引いて、過ごしている。わざわざ生徒会などに関わりたいという事もないかもしれない。まあ、本人に確認を取ってからだがな。ただその他の者に関しては、そなたと同列と私は見ている。アナスタシア嬢はなんといっても慈母神の加護がある。これは、彼女の生まれがどうであれ、評価に値する事実。エリクの義妹も、元々ミルフォード家に令嬢がおらず、近い分家筋から養女としておる。家格を損なう事はないであろう。それにメルテといったか、かの大魔導の弟子。聞けば、既に宮廷魔術師を凌駕する実力を備えているとか。実力があれば、生徒会へ抜擢する事も視野に入れるべきであろう。我々は、近い将来学年選抜で勝ち抜くという目的もある。そなたがメルテに勝るというのであれば、考えなおす事も視野に入れるが」
「で、では、私は生徒会には・・・・・・?」
「んーそうだな。候補にはしてやる。ただ実際に入れるかどうかは、他の者の意見も聞いてみたいというのが、正直なところだな。エリク、お前はどう思う」
そう言って、アレックスは右後方に控えていたエリクを見る。
「そうですね。私は消極的ではありますが、賛成はします。家格は十分ですので。ただ・・・・・・」
エリクはそこまで言って、ニヤリとフラガを眺める。
「ただ・・・・・・なんだ?」
「いえ、アレックスの言う通り、決め手にかけるのも事実かと。我々はAクラスでメンバーが固まっていますので、セリアリス嬢含めAクラスで固めるのも定石かとも思います」
フラガはそこで憎々しげにエリクを見やる。アレックスはそんなフラガの表情には気付かず、フムフムと頷く。確かにAクラスで固めるのであれば、生徒会としての連携も取りやすくはなるのだろうと。その上で、今度は、左後方のアレスに確認する。
「ならアレスはどうだ」
「役割として、アレックスが、会長、エリクが副会長となった場合、セリアリス嬢が、会計、自分はまあ庶務でしょう。考える仕事より、体を動かす仕事の方が、性に合いますからな。残るは書記となりますが、上の学年でも書記は女性が担当している事を考えると、バランス的には女性となりますな」
今度はアレスに対し、憎々しげな目線をフラガは送ろうとするが、逆にアレスに凄まれて、慌てて目線を落とす。
『くそっ、どいつもこいつも人の邪魔ばかりしやがって、何故侯爵家の俺を蔑ろにしやがるっ』
フラガは内心で、エリクとアレスに悪態を吐くが、伏せた姿勢でなんとかそれを堪えようとする。するとそんなフラガの心境を気にも止めず、アレックスが、試すような口調で、フラガに話しかける。
「成程、二人とも余り前向きな意見ではないようだな。とは言え、彼もランズタウン家の一人。ノーチャンスという訳にもいかんだろう。フム、ではこうしようではないか。例年、この生徒会メンバーは、今度開かれる『新入生歓迎パーティー』の場で発表される。当然、そのパーティー前にはメンバーを決定しなければ、ならない。ジークが入るというならば、残念ながら、このチャンスすらなしとなるが、恐らくは、本人は辞退するであろう。ならば残り一枠のチャンスを、フラガ、お前にやろう」
新入生歓迎パーティー。貴族子息、令嬢が半数以上を占めるこの学院で、学生となった生徒達が、最初に体験する社交の場。勿論、一般の学生達も参加となるが、この学院の卒業生は、役人や軍人になる一般の生徒も多く、社交の場はどのみち経験しておくべきものとなる。
その為、早い段階からそれに慣れる事を目的として、この新入生歓迎パーティーが設けられている。所謂ダンスパーティーだ。
そしてこの新入生歓迎パーティーにはもう一つの側面があり、それが、男女の交友機会の場。勿論、この社交の場がそれ限りでは無い為、その後にわたりこういった社交の場体験は、年に数回企画されるが、そのチャンスの最初の一つが、新入生歓迎パーティーとなる。
パーティーは男女ペアでの会場入りが、必須となっている為、既に水面下では、パートナー探しが始まっている。
フラガはその言葉を聞いて、ニヤリとする。
『流石に殿下は判ってらっしゃる。ランズタウン家という家の価値を。確かにジークが出てくれば、諦めざるを得ない。腐っても王族。殿下も蔑ろにはできんだろう。ただし、奴は恐らく出ない。所詮後ろ盾のない、侍女の息子。殿下と並ぶことは避けるだろう。ならば、そのチャンスをものにできれば、俺も晴れて、生徒会入り、ひいては殿下の幕僚として権勢をふるえる』
フラガは内心の歓喜を隠しながら、アレックスへの感謝の言葉を述べる。
「アレックス殿下、お心遣い、誠に感謝いたします。ジーク殿下の意志なき場合のそのチャンス、是非、ものにして見せましょう。それで、具体的には、私は何をすれば、良いのでしょう?」
「なに、別に簡単な事だ。そなたも、新入生歓迎パーティーにはパートナーが必要なのは、知っているだろう。そのパートナーをユーリ・アナスタシア、エリカ・ミルフォード、メルテ・スザリンの3名の中の誰でもいいので、1人パーティーに連れてきて欲しい」
「はぁ?」
アレックスのチャンスの条件が予想外だったことに、フラガは呆けた声を出す。アレックスはそれを咎める事もせずに、ニヤリとする。
「なに、今言った3名はこの生徒会メンバー候補の令嬢達だ。私としては、彼女達とは将来も考えると懇意にはしておきたい。まあエリクの義妹は、エリクとの関係もあるので、難しくはないがな。ただランズタウンのお前が、彼女らの誰かと懇意にしているのであれば、あえて生徒会に入れなくても問題ないと思っている。なので、パーティー前日までに、当人の了承のうえ、パートナーとなれるのであれば、そなたを生徒会役員とする事を約束しよう、どうだ、できるか?」
対してフラガにはできないという返事はない。エリクの義妹に関しては、エリクからの横槍がありそうなので、選択肢から除外するが、残りの2人に関しては、伯爵家とは言え、所詮は養女。もう1人に至っては、平民である。侯爵家に対しては、NOと言えるはずがないと確信を持っていた。
「勿論、問題ございません。3名の内、誰か1人は私のパートナーとしてお連れしましょう」
「うむ、期待している」
そう言って、フラガは意気揚々と生徒会室を退出する。失敗など微塵も想定していない。その傲慢な笑みは、すれ違う生徒を思わずギョッとさせるほど歪んでいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方、フラガが出ていった生徒会室内では、エリクが怪訝な表情でアレックスを見つめていた。
「アレックス、今の話、良かったのですか?」
確かに家格から言えば、生徒会に引き入れても問題は無いのだが、正直彼を生徒会に入れるメリットは少ない。平民出身という事は飲み込んでも、聖女であるユーリ嬢や、自分の義妹を引き入れた方がメリットがあるように思えたのだ。その方がこの学生生活の3年間がより盤石になる。
こういった部分は同じ貴族主義でもエリクの方が、フラガよりも柔軟性がある。アレックスはその事に気付いた上で、満足げにエリクに返事をする。
「クククッ、エリク、お前はユーリ嬢が、平民出だといたく嫌っていたではないか。奴はあれでもランズタウン、ユーリもそうだが、メルテなどよりも当然家格は上だぞ。チャンス位やるのは当然だろう」
「アレックスも人が悪い。勿論、貴族が平民、民衆を指導すべき立場である事は義務ですし、それに伴う権限があってしかるべきであると思っています。ただ彼女らは、聖女であり、大魔導の弟子である評価はしております。それに比べ彼は、その家格には敬意は払いますが、我々には余り利がないように思います。彼女らを引き入れず、彼を入れる必要性を感じません」
「まあ確かにそうだな。ただチャンスはチャンス。それをものにできるかは別問題だろう。第一、お前の義妹のパートナーは、お前であろう。これで候補の1人は消えた。それとジークだが、あれはパートナーをメルテにすると言っていたぞ。この前、生徒会の参加を断りに来たとき、そう言っていた。まああいつは母親の事もあるから家格には拘らないからな。残る候補は1人という訳だ」
そうアレックスは、候補の内2名は既にパートナーが確定している事を知っていた。そしてそうなると対象者は1人となる訳だが、ここがポイントだ。
転生者であるアレックスはこのイベントを待っていたのだ。イベントは、ユーリがアレックスに対して、好感度を上げるイベント。恐らく、フラガは、この後対象者が1人しかいない事を知り、焦るだろう。そして既に水面下では、聖女であるユーリのパートナー争奪戦が始まっていることにも気付く。
今回、アレックスは、セリアリスがパートナーで既に決定しているので、動く事は出来ないが、新入生歓迎パーティーでは、パートナーでいる必要はない。その前のイベントで彼女を窮地から助ける事が、ポイントなのだ。
焦ったフラガが強引な手でユーリを誘おうとする。その窮地を助ける事で、ユーリの好感度をあげられ、且つ、生徒会へと引き入れるキッカケとなるのだ。だからこそ、アレックスは余裕を崩すことはない。
「ほう、成る程、既に対象者はユーリ・アナスタシア嬢のみと。しかも彼女は、既に多くの男性からパートナーに誘われているみたいですし、決まるのも時間の問題。ふむ、絶対ではないですが、可能性はかなり低そうですね」
「ふふふ、まあな。いざとなれば、アレス、お前にでもパートナーをして貰おうかと思っている。お前はまだ、パートナーが決まっていないだろう?」
「まあいいでしょう。既に誘いはいくつか貰っていますが、暫くは様子見をしましょう。私もいざとなれば、古い付き合いの者もいますのでパートナーには困りませんから」
アレスはそう言って、満更でもないような表情を見せる。そうなのだ。ここの窮地をアレックスが救って、その後の護衛役と称してアレスをパートナーとし、アレスはユーリに好意を抱く展開もあるのだ。
アレスは主従、いくらでも抑えは効くので、アレックスがひく姿勢を見せなければ、それ以上は発展しない。ユーリをキープする上で、確実に進める事ができるのだ。
「まあランズタウンには申し訳ないけど、チャンスはチャンスだから。後は彼次第だよね」
仕込みは十分。後はフラガの動向をチェックしつつ、いざという時に備えるだけだった。
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