書籍化記念おまけ
本当は昨日出したかったのですが、深夜となってしました。。。
とはいえ、いよいよ「たかが……」が発売されました!発売を記念してのちょっとしたほのぼの話をアップします!後程、活動履歴にもアップさせていただきますので、よろしくお願いします!
凱旋パレードを終えて、数日経った神聖オロネロス公国へ向かう道中、ユーリは馬車の中でうんうんと唸る。その右手にはペンを握り、小さな板を膝の上に乗せて、何かしら文章を書いている様だ。ユーリの隣にはメルテがその肩に頭を乗せて、すっかり寝入っている。そしてエリカはその反対側の席で、その二人の様子を伺っていた。
「(ユーリは何を書いているのだろう?)」
エリカは何やら悩ましげにしているユーリが気になったが、素直に聞いて良いのかちょっと悩む。ユーリとエリカは同じクラスメートで、生徒会でもよく行動を共にする。普通に友人関係だとは思うのだが、微妙にその距離感を計りかねていた。
エリカは転生者だ。前世の記憶というものを持っているが、前世の自分はどちらかというと女子にあまり好かれるタイプではなかった。少し腐気味の自分を出しきれず、外面はいいのだが本音を踏み込ませない。そういった対人的な距離感が、女子には嫌われるのだ。
今世では立場や身分もあり、対等に付き合える相手は少ない。四六時中、兄であるエリクやアレックスと一緒にいるのも良くないのだろう。ぼっちとは言わないが、やはり対等に付き合える女子というのは、いないのだった。
目の前の少女達はというと、実はメルテとは打ち解けた。彼女には表裏がなく、何より庇護欲がそそられる。エリカも自然と素で接してしまい、そこがメルテの警戒心を解いて、打ち解けた格好だ。
一方のユーリはというと、別に仲が悪い訳では無い。ただ何処かお互いに一線を引いており、打ち解けるとまではいっていない。エリカとしては本音で仲良くなりたいと思ってはいるのだが、中々きっかけが掴めずにいた。
「(メルテにその辺の気が利いた立ち回りは期待できないしね)」
今目の前で気持ち良さそうに寝ているメルテは、そういう器用な立ち回りが一切できないタイプだ。そこが良いところでもあるのだが、そうなるとエリカ自身でなんとかしなくてはいけない。なのでエリカは意を決してユーリに話しかけてみる。
「ユーリ様は、先程から何をそんなに悩まれているのですか?」
「ふぇっ、いやあのその、ええと……うるさかったですか?」
ユーリは自分が何か呟いていたのではと慌てて顔を赤らめている。エリカはそれに対して首を横に振り、やんわりと否定する。
「いえ……、うるさいという程の事では無いのですが、何か難しい顔をされていたので、何をされているのかと思いまして……」
「ああ……、あはは、いやお恥ずかしい。ちょっと手紙を書こうと思っていたのですけど、何を書こうか上手く纏まらなくて……」
ユーリはそう言って、少し申し訳なさそうな表情をする。ただ別にエリカとしては咎めている訳でもないので、寧ろ自分の方こそ悪い事をした気になる。
「いえ、私の方こそ考え事の腰を折ってしまったみたいで、申し訳ありません。それでお手紙はアナスタシア卿へのお手紙ですか?」
「ううん、セリーに手紙を書こうと思って。出発の日もセリーに会えなかったから、旅の道中で送ろうと思って」
「セリアリス様ですか?あれ、でもセリアリス様も交換留学の一人でセルブルグ連邦に行かれたはずじゃあ……」
この世界では前世の様に気軽に郵便物を出せる訳では無い。偶々運良く相手先のいる場所へ向かう信頼の出来る人がいればいいが、そう都合よく人が捕まる訳では無い。ましてそれが国を跨いだ遠い国相手なら尚更なのだ。なのでエリカは、それに疑問符を浮かべた表情を見せていると、ユーリが少し楽しそうに笑う。
「フフフッ、本当ならセリーに手紙なんて送れない筈なんですけど、今回はメルテが手伝ってくれるんです」
「メルテが?」
「はい、メルテが大魔導スザリンとやり取りしている使い魔に運んで貰うんです。大魔導の元に手紙が届いたら、大魔導がそのまま使い魔をレイ様の元に届けてくれるらしくて」
「はあ、レイ様ですか?」
今度は余りに大それた話なので、エリカはびっくりして聞き返してしまう。大魔導といえば、いわば魔法界のTOPの様な存在である。それを使いっ走りに使う郵便なのだ。呆れる様な、それでいて驚かされる内容だった。しかしユーリはなぜレイの名前が出たのかと思ったみたいで、慌て出す。
「あっレイ様はセリーと今同行しているので、それでレイ様経由という話になっていて、なんかスザリン様もレイだと場所を特定しやすいみたいで、あの、その……」
「フフフッ、ユーリ様、落ち着いて下さい。確かにお名前が出たのも驚きましたが、そもそもそんな遠隔地に手紙を送れる手段があった事にびっくりしただけですから。まあなぜレイ様だと場所が特定しやすいのかは気になるところですが」
エリカは慌てるユーリを宥める様に、落ち着いた声でそう返事をする。するとユーリもホッとした様に胸を撫で下ろす。
「なんでもメルテの話では、レイ様は風の加護があるので、その関係で見つけやすいのだとか?細かい理屈はわからないのですが、そうらしいのです」
「ああ、風の加護ですか?まるでリオ・ノーサイス様みたいですわね」
「あ、ああー、いやあはは、そうですね。そういえば、リオ様も風の加護をお持ちでしたよね」
「はい、私もリオ様に抱っこ……コホンッ、そのあの風の加護のお力で運んで頂きましたので。ええ、凄い方でしたわ」
エリカは思わず抱っこされた事を喋りそうになったが、未婚で婚約者もいない女子が抱っこされたなど、外聞も良くないので慌てて言い淀む。
一方のユーリはと言うと、リオがレイと同一人物だという事実は言えない為、此方もこちらで、話を広げられない。そしてお互いが愛想笑いで誤魔化したところで、エリカが話を元に戻す。
「ははは、ああそれでユーリ様は手紙の内容で悩まれていたという事ですか?」
少し強引な話の逸らし方だったかとエリカは思ったが、ユーリも何故かそれに乗ってくる。
「はい、セリーにはここ最近会えていなかったので、色々書きたい事はあったのですが、何から話したら良いか迷ってしまって。それにレイ様の事とかも聞きたかったですし」
「レイ様の事ですか?」
「ええ、彼は私の父と彼の祖父が友人という事もあるので、少し懇意にさせて貰っているんです。セリー達が留学先に行く際に彼の領地にも寄るとの事なので、どんな所なのかも聞いて見たいですし」
「ああ、そういえば新入生歓迎パーティーの時もパートナーでしたものね」
ユーリの説明にエリカは一人納得する。当時はまだ生徒会にも足を運んでなかったので、ユーリ自体との接点はなかったのだが、新入生歓迎パーティーでは、レイとのダンスで良い意味でユーリの知名度は上がったのだ。
「(本当、あの日のダンスで平民出身のレッテルが剥がれた様なものですものね)」
「はい、彼のおかげで楽しく過ごせました。セリーと仲良くなれたのも彼のお陰ですし」
「ああ、そうなんですか。あれ?でもセリアリス様とレイ様が一緒にいらっしゃる様になったのって、アレックス様の誕生パーティーの後からじゃなかったかしら?」
「そうですね。セリーと彼の接点はそうですが、私とセリーの接点は彼がフラガ様との模擬戦を受けられた場所に心配されたセリーがきたのがきっかけなので、そういう意味で彼のお陰という訳です」
「へぇ、そうなんですね」
エリカは素直に話を信じて感心するが、ユーリは少し申し訳なさそうだ。ただエリカはなぜそんな表情をするのか分からず、少し不思議そうな顔を見せる。
「はい、なので彼には感謝してもし尽くせない恩があるんです」
ユーリはそんなエリカを気にせず、真摯な表情でそう溢す。それはなんだが感謝以上のものがあるようにエリカは感じて、ついつい意地悪を言ってしまう。
「成る程、ユーリ様はレイ様の事を心から慕われているんですね」
「はい、心の底からレイ様の事をお慕いって、違いますよっ?あっ、慕ってるっていうのは本当ですが、それはその人としてというか、友人としてというか、その、あの、あれです」
「あれって……ああ、異性としてですか?」
「そう、それ異性で……って違いますよっ!エリカ様それわざと言ってませんかっ」
うまい単語が出てこないユーリに対し、エリカはさらに楽しそうに引っ掛けるような回答をして、ユーリがまんまと嵌る。それを顔を真っ赤にしながら否定するユーリにエリカは更に親近感が湧く。
「フフッ、ごめんなさい、ごめんなさい、ユーリ様があまりに可愛らしいすぎて、つい出来心で。でもお慕いしておるんですよね、異性として」
「してませんっ、友人としてです。もう、エリカ様だってリオ様の事お慕いしているくせにっ」
「なっ、そ、そんな事ありませんわよ!?別にあの方とは神殿下の迷宮以外でお会いした事もありませんもの、本当、そんなんじゃ無いんですよ!」
するとユーリから逆襲を受けたエリカが今度は真っ赤になりながら、それを否定する。なまじさっき抱っこされた事を思い出したばかりなので、過剰に反応してしまう。
それからは泥仕合。お互い相手の気になる異性の話題で盛り上がり、照れまくる。その後、二人はメルテが目を覚まし「二人は仲が良い、私も混ざる」と溢され参戦してくるまで、不毛な言い合いを続けるのであった。




