第百三十三話 闇精霊シェード
前回よりそれ程間を開けず、更新できました!
信頼できる我が友人シルフィがいつもの如く名探偵っぷりではっきりと見つけたと言った以上、後はそれをどうにかするだけである。
「(なぁシルフィ、カケラは何処で見つかった?)」
「(ンート、レイガペコペコシテタトコロ?)」
俺がペコペコ?んー、とレイはその場所を思い浮かべる。
「(ああ、謁見の間かな?だとすると槍?)」
「(ソウソウ、レイ正解!)」
レイが直ぐに答えを見つけたのが嬉しいのか、シルフィの声は何だか嬉しそうだ。とはいえ、ここ闘技場と謁見の間では少し距離がある。それに謁見の間までに何の障害が無いとも言えない。
「(どうする?)」
正直、いまこの場にいるネビュラスは所詮傀儡だ。粘って戦った所で本体を潰さなければ意味はない。かと言ってここを放置する訳にもいかない。傀儡を抑えておくべき人間も必要ではあるのだ。
「ねえ、レイ、何かわかったの?」
傍らにいるセリアリスが心配そうな声をかけてくる。レイは注意は相変わらずネビュラスに向けつつも、セリアリスにシルフィの事を伝える。
「どうやら目の前のアレの本体が見つかったみたい。ただ場所がここではなく、謁見の間らしいんだけど、どうしたものかと思ってね」
「あら、ならレイが謁見の間に行けばいいじゃない。ここは私が何とかするわ」
セリアリスはあっけらかんとそういって、レイの悩みを気軽に解決する。ただレイとしてはそうは簡単に判断が付かない。目の前のアレは正直危険だ。簡単にセリアリスに任せられるものでもない。そうレイが思い悩んでいると、セリアリスがその悩みを払拭するようにニヤリとする。
「大丈夫よ、あれは傀儡なのでしょ?なら倒す必要がないもの。あくまで倒すべきは本体である欠片の方だし、守るだけなら風の精霊様も水の精霊様も私に力を貸してくれるでしょ?」
確かにシルフィはもとよりディーネもセリアリスの守護に回れば、そうそう守り切れないという事はない。なのでレイはその事をシルフィ達に聞いてみる。
「(セリーがそんな事を言っているけど、シルフィとディーネはどう思う?)」
「(ダイジョウブ!ボクガセリーヲ守ル!)」
「(私もそれが良いと思いますわ、この子は私とシルフィが側にいれば、何とかなります。その間に主様が本体を叩けば、万事解決ですわ。それに、あの子もそろそろ痺れを切らしている頃ですし、呼んであげないと、拗ねてしまいますわよ)」
レイはディーネのその説明に思わず苦笑する。確かに彼女はそろそろ痺れを切らしそうだ。秘密兵器だからとここまで声を掛けなかったけど、事態としてはそろそろ佳境だろう。なのでレイはセリアリスの意見に同意する決意をする。
「うん、わかった。ここはセリーに任せるよ。シルフィとディーネもそれで良いっていっているしね。なら俺は、謁見の間へと移動するよ」
「ええ、そうなさい。ここは私にお任せなさい。どうやらアレは私にもご執心のようだし、私が引き付けていれば何とかなるわ。風の精霊様、水の精霊様、どうか私にお力をお貸しください」
すると風がセリアリスの周りを楽しそうに揺らぎ、彼女の周りに水柱が一本立ち上る。レイは友人達に感謝をしつつ、もう一人の友人に声を掛ける。
「お待たせしたね、シェード、君は俺と一緒に欠片を壊しにいこう。付き合ってくれるかい?」
するとレイの影から少し拗ねた声がレイの頭に響く。
「(もう、レイ遅いわっ、いくら私の事がまだ秘密だからって、いくら何でも内緒にし過ぎよ。大体、シルフィとディーネはいつも呼ばれるのに、私だけ除け者は許せないわ)」
「(ハハッ、ごめん、ごめん。そんなつもりはないんだけどね。一応君の力はセリーやリーゼは知っているけど、他の人にはまだ内緒だから、ついね。でもここでは思う存分力を使って貰うから、手伝ってくれると嬉しいな)」
「(もう、レイはいつもそうやって、甘えてくるんだから、ずるい、ずるいわっ。あーもう、わかった、手伝ってあげる、手伝ってあげるから、今度からもっと私も呼びなさいよね)」
すると影がわずかに揺らぎ、彼女の好意がレイに伝わってくる。レイはそれを嬉しく感じながら心を込めてお礼を伝える。
「(ありがとう、シェード。本当なら人に協力するなんて嫌だろうに、手伝ってくれて。甘えてばかりで申し訳ないけど、よろしくね)」
「(ふん、レイは友達なのだから別に良いわ。私が嫌がることをする訳ではないし。ほら、じゃあ行きましょう。あのペコペコしていた部屋でしょ?場所は私もわかっているから、連れて行ってあげるわ)」
するとレイの足元の影が広がり、レイは足元からその影に身を沈めていく。そしてレイは影に沈みながら、セリアリスに声を掛ける。
「セリー、じゃあ俺はちょっと行ってくるよ。ここは任せた、シルフィやディーネもよろしくね」
「ええ、任されたわ。レイも気を付けてね」
セリアリスがレイに返事をすると、ニコリと笑みを浮かべる。レイはそれを苦笑で返しつつ、影の中へと消えていった。
◇
レイが影から出てくると、そこは謁見の間だった。これは闇の精霊シェードの力で影と影を渡る影渡りの魔法だった。闇の精霊シェードとは、ここセルブルグ連邦に来る前に友人関係になった。元々はダークエルフから回収した杖に封印されていた闇精霊だ。杖は回収をした後、ディーネに預け、根気よくディーネがその怨嗟を解いていった。そしてそろそろ頃合いといったタイミングで、彼女を杖から解放し、その後、色々あったのだが、結果、レイはシェードと友人関係となった。シェードにはいくつか特殊な力があり、単純な攻撃力だけでなく、空間に作用するような力や引力・重力といった物理的な負荷を与える力を持っている。今使った影を渡る力もその力の一端だ。シェード自身は影は闇の性質の一端を担っているので、当然のように使っているが、実際にその原理は不明だ。本人に聞いても使えるのだから別に細かい事は気にする必要はないとばかりに、全く説明する気がない。まあレイ自身も結果が大事であって、過程を究明する事に関心がない為、そういう力がある位にしか思っていなかった。
「(シェード、ちなみにここに人の気配はあるかい?)」
「(ん?柱の陰に何人かいるわよ。あーでもあんまりいい状況じゃないかも。あの騎士見たいな奴っぽいし)」
レイはそこで剣を構えつつ、柱の方へと視線をむける。確かに人影があるが、隠れて不意打ちを狙っているという雰囲気でもない。確かに決勝で戦った騎士と同様の緩慢さを感じるのだ。そしてお目当てのものに視線を向き直す。それは王座の後ろに控えており、怪しげに淡い赤の光を滲ませている。
「まあ、流石にガーディアンを用意していない訳がないか……、っと、どうやら喋れそうな人もいるみたいだね」
それは王座の背後から現れ、その槍を手に持ち、鷹揚にレイへと話掛けてくる。
「ほほう、ここへ来るとは君は中々に優秀な人間だな。闘技場の傀儡を掻い潜ってここまで来るとは、実に興味深い。ああ、目的はどうせこの槍、そしてこの槍についている欠片の破壊だろ?とはいえ、これを君に破壊させるわけにはいかない。これはこの国にとって、非常に重要な宝でね。この国がこれから隆盛を極めるのに、欠かす事が出来ないのだよ」
「はぁ、それは大変面倒ですね。とは言え、貴方自身は依り代という訳でもなさそうですが。これは一体どういう事なのでしょうか?ナハド・ド・フェリックス王子」
レイはそう言って、話しかけてきた人物を睨み付ける。しかしナハドはそんなレイを嘲笑うかのように、くつくつと笑いだす。
「なに、そう難しい話ではない。私は選ばれたというだけの事さ。女王の伴侶たる存在としてね。この欠片は依り代を求めていた。女王たるに相応しい器をね。そして一度はナターシャが選ばれた。ナターシャは君をその伴侶として見込んでいたが、君はそれを拒絶した。すると欠片はナターシャに見切りをつけた。そして伴侶を先に選定し、今は新たなる依り代を見定めたという訳さ」
「新たなる依り代?ああ、成る程。貴方は随分と前から動いていたという訳か。ただそれは少しばかり予定外であったのでは?」
「クックックッ、君は予想以上に聡いね。ああ、確かに本命は別にあったが、本命以上の素材に出会えたからね。それに私の伴侶にするには、本命よりも彼女の方がより好みだから、私にとっては願ったり叶ったりだけどね」
ナハドは悪びれもせずに、語り出す。ナハドは随分と前からネビュラスの悪性の欠片に魅入られていたらしい。そして、その思惑に加担した。恐らくは彼は保険だったのだろう。そして結果は保険が採用された。本当はリーゼロッテを連れてくる予定だったのだろうが、リーゼロッテがくることの危険性を考え、セリアリスがやってきたのは予定外か。ただセリアリスがその欠片の依り代に相応しい器を示していた事で、あえて異を唱えなかったという事らしい。ただそれはどっちでもいい。すべては欠片を破壊すれば、良いだけの話だ。
「なるほど、ご事情は良く分かりました。さて、では後はその野望を挫くだけですね。ああ、命の保証は致しかねます。貴方も良く分かっているでしょう?」
「ふん、傲慢だな。だが、身の程を分からせるのも王の務めか。ああ、まだ王族だがな」
ナハドが不遜な態度で、鼻を鳴らすと柱の陰に待機していた騎士たちが謁見の間に現れる。レイもまた彼らを睨み、その剣を構えた。