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第百二十九話 感情の綻び

投稿が開き気味になり、申し訳無いです。

「はあ、やっと着いたわね」


 セリアリスは馬車の中からフェリックス王国の王都城下町の風景を眺めながらそう溢す。正直、もっと早く来れるはずだったのだが、結果、使者と面会をしてから、既に10日の日数が経っていた。まず出立にあたりリーゼロッテが自分が行くと言って聞かず、中々出立出来なかった。それ自体はリーゼロッテの気持ちを考えると仕方ない面もあると思っているが、問題は出立をしてからだ。


「ええい貴様、さっさと王城へ戻り先触れをしてこんかっ」


「はあ?先触れの隙にセリアリス嬢へよからぬ企てをするのではないか?貴様など微塵も信用出来んっ」


 言い争いをしているのは2人の王子。そうよりにもよって王子なのだ。1人はこのフェリックス王国の王子であるナハド・ド・フェリックス。彼は使者として遣わされていて、セリアリスのフェリックス入りに同行を願い出ていた。そしてもう1人はリーゼロッテの兄であり、問題の第1王子であるクラウス・ド・ハミルトン。リーゼロッテより年上であり第1王子にも関わらず、王位継承権が低い王子だ。この2人の王子達によりセリアリスのフェリックス王国への旅は本来なら3日で済むところが3倍以上の10日もかかっていた。


「お二方、申し訳無いのですが、取り敢えず私はレイ・クロイツェルに会いたいのです。流石にエゼルバイト王国を代表して留学生として招かれているのに、いつまでも学園に顔を出さないのは国として敬意に欠けますので。ナハド殿下、レイ・クロイツェルは王城にいるのですよね?」


「ええ、親愛なるセリアリス嬢。彼の者は王城にて女王陛下の客人として滞在しております」


「彼への取次はすぐ出来るのですか?」


「はい、別に捕えている訳ではありませんので、王城につけば直ぐにお引き合わせしましょう。ああ、そこのアホは王城内に入れると思うなよ。お前を招く理由がないからな」


 ナハドはセリアリスに対しては、やや過度なきらいはあるが紳士的に、クラウスに対しては小馬鹿にする様に挑発をする。するとクラウスは顔を真っ赤にしてナハドに対し喚き散らす。


「貴様っ、妹に追い落とされ小間使い扱いされる王子風情が偉そうにっ。セリアリス嬢は我が見染めた女性だぞ?貴様などには任せられんっ」


「何を言う、貴様こそそもそも妹より評価を下げたアホ兄貴ではないか?ハミルトンの恥と言われたこの出来損ないがっ、セリアリス嬢の隣に立つなどおこがましいっ」


 そう旅の道中、ずっとこの調子なのだ。そしてセリアリスも最初の頃は相手も王族と言う事で遠慮もあったのだが、今ではその遠慮をしていた時間が無駄だと悟っていた。


「お二方、置いて行きますわよ。私は急いでいるのです。それに貴方方に見染められても、それに答える気は有りません。もしそうで有るならば、正式に国を通して下さいませ。そうなれば我が父もお相手する事になりましょう」


 そしてセリアリスは王城に向けて馬車を走らせる。2人の王子も慌てて馬に乗りその馬車を追い掛ける。


『はあ、本当に無駄な時間を過ごしたわ』


 あの2人がセリアリスに対し多大な興味を抱いている事はわかった。ただそれは邪な思いや打算が多分に含まれている。セリアリスは先の婚約解消により、婚約者のいない身である。とは言え強国であるエゼルバイト王国の公爵家令嬢。その婿に収まれば、少なくてもセルブルグ連邦の小国の一つで継承権のない王子よりは地位も名誉も上である。そう言う打算に、セリアリス自身の容貌も眉目秀麗とあれば、彼らにとっては魅力的なのだろう。


『とは言え1人に言い寄られるよりかは良かったけどね』


 そう対処としては1人の方が面倒臭い。1人だと実力行使で乱暴を振るわれる危険さえあるのだ。特にリーゼロッテの兄クラウスはその手のトラブルで評価を下げたらしい。ナハドも同じ様な者だろう。勿論、セリアリスにはリーゼロッテが付けてくれたお付きの人間もいる。そうそう変な事は起こらないだろうとは言え、絶対でもないので、そこの注意は必要だった。


 そしてセリアリス達はフェリックス王城へと入る。城門でまたナハドとクラウスが一悶着を起こしたが、セリアリスの取りなしでクラウスも一緒にいる。そしていよいよレイとの対面と思ったところで、事態は予想外の状況となっていた。


「えっ?レイが今婚約者選定の儀に参加して、闘技場にいるから此処にはいないって、如何いう事ですか?」


 セリアリスはナハドが連れてきた貴族の高官らしい人物の説明に思わず声を上げる。


「レイ様は自ら望んでその婚約者選定の儀に参加されております。それが如何いう意図で決定されたのかはわかりませんが、女王陛下を見染められたという事ではないでしょうか」


 セリアリスはその線は無いなと漠然と思う。レイに関して言えば、外見で恋に落ちるなど想像もつかない。それならとっくにリーゼロッテなり、ユーリなりに心酔し切っている筈だ。そもそもレイの母であるレイネシアが稀代の美女なのだ。それを幼い頃から見慣れているレイにして見れば、多少の美女程度では驚く事すら無いだろう。


「成る程、そうですか。レイもまた面倒な事をしでかしました。国を代表して来ていると言うのに、その自覚が足りない」


 セリアリスはそう言って眉間に皺を寄せる。まあ本心は、きっと何か厄介事に巻き込まれたに違いないと嘆息する。するとその高官はそんなセリアリスの態度に苦笑いを浮かべ、セリアリスに聞いてくる。


「なに選定の儀では我が国の腕に覚えのある者達が参加しております。そう時間もかからずに王城へと戻って来るでしょう。セリアリス様もどうぞ城内でゆっくりとお待ちいただければと思います」


「いえ、これからその闘技場とやらへ向かいます。私は国を代表して来ている以上、レイの勝手な行動の結末を報告する義務があります。どうか私をそこへ案内して下さい」


 セリアリスは城内に留めようとする高官の意見を断り、レイの元へ向かう決断をする。高官も国を盾にされると断れないので、渋々了承する。セリアリスはその高官の態度に軽い違和感を感じつつも、気持ちを切り替えてレイの事を想う。


『また面倒事に巻き込まれて……』


 レイは自発的では無いのだが、最終的には自身の決断で面倒事に巻き込まれていく。勿論、それはレイなりに勝算があっての事だと思うが、周りの心配も考えて欲しい。ただそれでもセリアリスの古馴染みは困った顔1つで済まそうとする。


『やっぱ今回の件はレイにお説教だわ』


 別に怒ってはいない。ただ心配している事を知ってもらえれば良い。どうせ言っても聞かないのだから、せめて自分には心配している人がいる事を思いとどめて欲しい。セリアリスは颯爽と立ち上がると足早に城内から闘技場へと向かうのであった。



 レイは既に婚約者選定の儀での対戦者を何度か負かしていた。残念ながら、セドリック程の強者も居らず、確かに腕に覚えがありそうな相手だったが、それでも力はレイの方が上で少し拍子抜けする位だった。


「勝者レイ・クロイツェル」


 審判から高らかに勝者の宣言がなされて、レイはホッと息を吐く。これで次は決勝だ。セドリックとの約束である優勝まであと一勝。本来であれば此処で負けてもレイ的には問題無いのだが、残念ながら次も勝ちに行かなければいけない。レイが控え室に向かう途中、女王ナターシャと目が合う。彼女はこちらに目を向けて満足そうな笑みを見せる。レイはそれを苦笑いで返しつつ、そそくさと控え室へと急ぐ。


『さてこの後、女王陛下はどう出ますかね』


 彼女の目的は、レイを引き止める事によるリーゼロッテの焼き餅狙いだとレイは思っている。単純な手だが、効果的。ナターシャが敵愾心を操る術を持っているなら、ある意味手っ取り早い方法だ。これで優勝をし、婚約者候補となったあかつきには更に煽り立てにくるのだろう。それでもレイは優勝をしなければならない。それは彼女と2人きりで対峙する機会が得られるからだ。その機会こそがレイとセドリックの思惑で有り、狙っている事でもあった。


『とは言え、どうやって女王と王女を引き離すかだけど』


 セドリックはその事は知らない。今の女王がおかしいとは思っているみたいだが、その理由までは理解していない様だ。なのでそこをどうにかするのは、レイの仕事だ。とは言え具体的な方法など思い付いていない。


『せめてナターシャに感情的な揺さぶりがかけれれば、糸口が見つかるかもしれないけど……』


 残念ながら彼女に綻びはない。では彼女が見せる綻びは何かを考えるが、今までの会話を思い返しても、これと言ったものがないのだ。


「敵愾心……、ライバル関係?復讐……はちょっと違うか。どの神の悪性か……、女性に憑依していると言う事は女神だけど、デメルテ、アネマ、そして妻神ネビュラス。んー、ネビュラスか?」


 何となく気高いアネマや母性愛たるデメルテは、今の覇者を目指そうとするナターシャには合わない。そうすると消去法でネビュラスな訳だが、彼女の神格はあまり良く分からない。主神オロネオスの妻でその夫を支える良妻のイメージだが、その彼女から切り離された悪性とは一体何なのか。そこでレイはふとエゼルバイトの王妃ウィクトリアを思い出す。


「もしかして……」


 レイは閃いた可能性を頭の中で整理していく。そんな考えに没頭する中、控え室のドアがノックされ決勝戦の呼び出しの声がかかる。


「クロイツェル様、決勝戦の準備が整いました。会場の方へとお向かい下さい」


「ああ……、今行きます」


 可能性の破片を頭に留めつつも、レイは気持ちを切り替える。取り敢えずは優勝だ、考えと作戦を纏めるのはその後でも良い。レイはそう考えると気合を入れ直して再び闘技場へと向かうのだった。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[一言] 93話でリーゼの兄弟はすべて女子であるとの説明がされています。 修正が必要と指摘いたします。
[一言] がんばれ~!
[一言] 妻神ということはギリシャ神話のヘラみたく嫉妬心の強い方かな。
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