第百二十五話 統一派の台頭
年度末という事もあり、執筆ペースが落ちています。3日に1話位のペースになりそう。ただそこは最低ラインとしてキープしていきます!
レイは再び話に戻る前に、まずリーゼロッテになぜこの場に現れたのかを確認する。元々レイが呼び出されるまでは想定済みで、その場はレイに任せる算段になっていた筈だった。
「で、なんでリーゼは此処に現れたの?君がいると統一派側から評議員の皆さんが動き辛くなる事を見越して、この段取りにしちゃったんじゃ無かったっけ?」
「まあそうなんだけど、その統一派と思しき人物には上手く勘違いさせれたから、問題ないと思うわ」
リーゼロッテはそう言って予想の斜め上の事を言ってくる。するとそれを受けてセリアリスが補足を入れる。
「ダンさん、統一派の人間ってあの所に着いた時にいた傭兵でしょう?」
するとダンは目を丸くして慌て出す。
「えっあっ、いやセリアリス様、どうしてそれを?」
「偶々彼らが盗み聞きをする現場を取り押さえられたのよ。だから彼らがこの会談内容を聞く事の出来る機会は無いと言うことよ」
レイはそれを聞いて合点する。あの護衛役っぽい傭兵が統一派で、それを取り押さえたのがセリアリス達ならば、確かに情報が漏れる懸念も払拭出来る。しかしダンはセリアリスの言葉に一つ気になるフレーズを見つける。
「セリアリス様、彼らとは?」
「レイを呼びに来た給仕の子、あれあの傭兵の内通者よ」
「なっ」
セリアリスが満足そうにその問いに答えると、問い掛けたダンが驚愕の表情を浮かべる。彼らも自分の所で働く人間の素性は把握していたのだろう。それなのに内通者がいた事に驚いたのだった。
『ディーネ、リーゼを手伝ったでしょう?』
余りに事が上手く運びすぎている事にレイは疑問を持ち、自分の友人を疑ってみる。リーゼロッテは水の巫女と呼ばれるほどの水適性が高い子だ。その彼女に声は聞こえなくても、何かしら誘導する事は可能な筈だった。
『流石は主様、やはりバレちゃいましたか』
すると頭の中にディーネの悪びれない声が響く。その時レイがリーゼロッテを見ると彼女はしてやったりの表情でニコッとする。まあ結果的にはこの自由都市に迷惑をかけなければいいので、レイはリーゼロッテに苦笑を見せつつ、話を進める。
「ダンさん、そう言う事なので話を進めましょう。まず第一に此処の中立を阻害するつもりはありません。その上で、統一派の話を聞きたい」
「承知しました。まず第一に統一派の表立った中心国はフリックス王国です。此処は元々統一を謳っていた王国で連邦他国もそれは重々承知しています。ただこれまではそれに賛同する国が少なく、大事にもならなかったのですが、そこに傑物が表れました」
「傑物ですか?」
そう不思議そうに言葉を溢したのはリーゼロッテだ。彼女は当然連邦内の人物にも明るい。そんな彼女が知っている人の中で傑物と言われるような人物に全く心当たりが無かった。
「ええ、能ある鷹は爪を隠すと言った奴でしょうか。恐らく名前くらいはリーゼロッテ様もご存知だと思いますよ。何せ御学友ですから」
ダンにそう言われて益々困惑を深めるリーゼロッテ。学園にいる生徒で傑物足りうるなど、全く思いつかない。そんなリーゼロッテの様子にレイは苦笑を浮かべながら、助け舟を出す。
「ダンさん、その辺で人物名を挙げて頂けませんか?恐らくリーゼからは答えが出ないでしょうから」
「ははっ、少し意地悪が過ぎましたか。その者の名はナターシャ・ド・フェリックス。フェリックス王国の第3王女ですよ」
「へっ?あの子ならよく知ってるけど、傑物なんて器じゃ無いわよ?」
ダンから明かされた名前にリーゼロッテは心当たりがあるらしく、意外そうな顔をする。するとダンもリーゼロッテの言葉を受けて、縦に一つ頷く。
「ええ、私共も当初そう考えておりました。優秀な方ではあったんですが、箱入りと申しますか、何処か気弱な印象のいかにも王女らしい王女と申しますか」
リーゼロッテも同様の言葉を続ける。
「そうね、優しくて可愛らしい印象のお姫様。決して政治なんかに興味を示すタイプではないし、ましてや傑物なんてイメージとは全く違うわ」
「ならそのお姫様が傑物なんて言われる理由が知りたいかな。どう考えてもそのイメージとはかけ離れて居るしね」
レイはダン達を見てその話の先を促す。すると今度はベイルが話を引き継ぐ。
「フェリックス王国には現在2人の王子と3人の王女がおります。彼女はその中の末娘で最も王位継承権から遠い存在だったのですが……」
「そうね、わたしも同じ認識よ。彼女が王位を継承する可能性は限りなく低いわ」
リーゼロッテはそう言って不思議そうな顔をする。どうやらベイルもそう思われるのは当然とばかりに苦笑いをする。
「リーゼロッテ様がそう仰られるのも無理は無いでしょう。ただ今は形勢が逆転しております。最早覆せない所まで来ているのです。そしてそれを成し遂げたのは、彼女の実力でもあります。フェリックス王は常々自身の後継を覇王たる素養を示した者に託したいと考えておりました。そして御自身の子供達に難易度の高い試練を課してきました。そして兄や姉が成し遂げられなかった試練の1つ、フェリックス王家に伝わる最古の古代遺跡にある秘宝の奪取に成功されたのが、ナターシャ王女だったのです」
「へえ、それは凄いね。古い遺跡程、難易度は上がるからそれをクリアしたのなら相当の実力者だよ」
レイはそう言って、ベイルの言葉に素直に感心する。しかしリーゼロッテはそんなレイを見て、まだ信じられない面持ちを見せる。
「もしそれが本当なら凄い事だけど、本当に?ひょっとしてお付きの人間が優秀だったとかじゃないの?」
「確かにお付きの人間も優秀だったそうですが、階層主を討ったのは間違いなくナターシャ王女とのこと。試練は厳正を期すため、第三者の審判者が同行しますから間違い無いのでしょう。それに、試練を成し遂げた後の彼女の行動が、それを裏付けております」
ベイルの次に話を受けたダニエルがリーゼロッテの言葉を否定する。レイ自身に階層主を討ったこともあるので、ようはその個体次第だが、決して弱い相手ではない。それにダニエルは更に気になることを言ったのだ。
「彼女の行動ですか?彼女は何をしたのでしょう?」
「彼女は王家の秘宝を持って、フェリックス王国の女王の座につきました」
レイはその言葉に目を見張り、リーゼロッテは唖然とする。確かに王が課した試練を乗り越えたからと言ってそう簡単に王とはなれない。勿論、王もだが候補者達の反発は相当な者だろう。すると此処まで冷静に話を聞いていたセリアリスが、言葉を挟む。
「女王誕生ですか。確かにそれ自体異常なことですが、秘宝を持ってと言いましたね。その能力が異常という事でしょうか?」
「流石はセリアリス様ですね。仰る通りで御座います。秘宝の名は神槍グルニクル、単純な武器としての性能もそうなのですが、その副次作用がかなり厄介なのです。副次作用は相手の敵愾心を無くしてしまう事なんです」
そこでセリアリスが考え込む。敵愾心を無くすとは、どういう事なのだろうと。ただ結果を考えれば、敵愾心を奪えば女王となるのを反対するものは居なくなる。それ以上の答えは出ないとセリアリスは一旦、思考を止める。
「まあその原理は分かりませんが、そういう物と今は思いましょう。だからその子はその若さで女王になった傑物と謳われているという事ですか」
「仰る通りです。そして統一派はナターシャ様をこのセルブルグの女王として国家統一を図ろうとしている。何せ彼女への敵愾心を示すと、その敵愾心を無くして恭順してしまうのですから」
最後はダンがそう言って話を締め括る。するとレイは不思議な感想を抱く。
「そう言えば、最初から敵愾心を持っていない場合は、どうなるのですか?」
するとダンがニヤリとする。
「レイ様、良いところに気がつきましたな。敵愾心のない相手の場合、何も変わりません。なので私たちは中立という立場でいるのです」
敵でも味方でも無い。むしろ商取引の場面では友好的な関係ですらある。そうすると特段何も変わらない。そこでレイは1つ溜息を吐くとリーゼロッテとセリアリスに向き直る。
「うーん、2人はその女王様の事どう思う?」
「私は会った事も無いから、分からないわ。リーゼはどう?」
「私もその試練後の彼女を知っている訳では無いから、何とも言えないわ。ただそれ以前の印象から彼女本来の資質とは如何にも思えないのが本音かしら」
セリアリスはレイと同様に判断が付かず、リーゼロッテは、やはり懐疑的だ。
「なら一度会ってみるしかないか。まあ俺は別に敵愾心も無いから、懐柔されるような事も無いしね」
「大丈夫かしら?」
そう言ってセリアリスは少し不安げな表情を見せる。リーゼロッテも同じような表情だ。レイはそんな2人に心配ないと笑顔を見せて、ダン達に向き直る。
「それで女王への取りなしはして貰えるのでしょうか?」
「勿論可能です。女王陛下はリーゼロッテ様に注視されてますから、その注目相手が会いたいとあれば、さぞ興味を持たれるでしょう」
ダンは含みのある笑みを浮かべながら、そうレイに言う。するとリーゼロッテは、レイに腕をつねって文句を言う。
「レイ、なんだか良くわからない女王なんかに誑かされたら駄目なんだからねっ」
「いや会った事もない相手に誑かされないし、リーゼ、そう言う敵愾心を持ってるとその女王にリーゼが懐柔されちゃうよ!?」
そんな2人を眺めながら、セリアリスはリーゼもそんな心配をしている場合じゃないだろうに、と呆れた面持ちで溜息を吐くのだった。
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