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第十二話 ようやく終わるプロローグ

 ユーリはその日、馬車で正門前を訪れていた。寮の準備は昨日の内に済ませ、夜は入寮前の最後の機会をお義父様と過ごす為に、貴族街の伯爵邸へ戻り、朝、再び馬車で学院に訪れたのだ。お養父様の話では、入学式には来賓として、参加してくれるらしい。忙しい中、わざわざ時間を取って、娘の晴れ姿だからと参加してくれる。ユーリはその事に申し訳ない気持ちも持ちつつも、やはり嬉しさが勝り上機嫌となる。


「フフフッ、学院かー。孤児院にいた時は思いもよらなかったなー」


 ユーリは、下町にある孤児院の出身だ。両親はユーリが物心つく前に、病に倒れて、両親が住んでいた地区の孤児院にユーリは保護された。孤児院は教会に併設しており、教会では読み書きや簡単な足し算引き算、六神教教義に関わる神話や物語などを教えてくれた。子供の時分の一番の楽しみは神話や物語のお話だ。そこには英雄がいて、お姫様や騎士、魔法使いなど様々な登場人物が出てきて、子供達を興奮させた。


 ユーリが一番好きだった話が、慈母神様と人間の青年の愛情あふれるお話。ユーリは慈母神様を敬愛し、そして祈りをささげた。勿論、そんな簡単な事が理由とは思わないが、ある時、ユーリは神様からの言葉を聞いた気がした。慈母神様が「我が愛娘よ」と言ってくれた気がした。そして気付くと聖魔法が使えるようになっていた。


 その事を最初は誰にも話さなかった。まだ幼かったし、それが本当に自身の身に起きたこととは思わなかったからだ。でもある日、同じ孤児院の子が、怪我で傷ついた時に、聖魔法で傷を治したことで周りの大人が騒ぎだした。ユーリはただ傷ついた孤児の子を助けたかったから助けただけである。だが、それがあり得ないらしい。神殿で修業を受けたわけでもないのに、使えるようになった聖魔法。慈母神様の声により目覚めた力。


 気付けば、ユーリは聖女と祭り上げられ、知らぬ間に、色んな人々から、救いを求める声にさらされた。あのままでいたら、ユーリは精神的に壊れていただろう。それを助けてくれたのが、お養父様である。人の救いや悪意、好意、願望等様々な感情からユーリを遠ざけ、自分を保護してくれた。だからユーリは感謝してもしきれないし、いつか自分の手でその御恩を返したいと思っている。


 そこでふと思い出す。先日会った不思議な少年の事だ。昨日のお養父様との話の中で、彼の話をした時に、大層びっくりしていた。ちなみに、攫われそうになった事は言ってない。ちょっとトラブルがあって、位のものだ。それでもお養父様は心配そうにしてたが、彼の名前を出した時に、びっくりしていたのだ。


 レイ・クロイツェル、レイの母親の父、レイにしてみれば、祖父にあたる人物とユーリの養父は知己だったらしい。レイにはあった事がなかったらしいが、彼の父親とは面識があり、不思議な縁と微笑んでいた。


『そうね、お養父様の言うとおり、不思議な縁よね』


 ユーリがアナスタシア家養女になったのが、1年前。まだ貴族としての気構えも教養も身についていない半人前以下の貴族である。この前の事もそうである。


 それまで慣れ親しんできた下町だっただけに、ある意味油断をしたのだ。普通の貴族令嬢であれば、下町など行かない。仮に貴族街を出て行くにしても、随伴者は必ず連れて行く。確かにお供の者はいたが、彼が神殿に戻る際に、ともに戻るべきだったのだ。そんな時の襲撃。自分の身もそうだが、それ以上にお養父様を窮地に追いやる様な結果になりかねない事態。そこに現れたのが、レイだった。


 賊を打ちのめしたわけではないが、本当に風のように連れ去ってくれた。あっ、そう言えば、レイに抱っこ・・・・・・と考えが及んだところで、頭をぶんぶんと振る。あれは救助活動、そう、救助活動と赤らむ顔を抑え込もうとする。その後、会話した彼は、貴族らしい気品は損なわず、それでいて身近に感じる距離感で接してくれた。


 そんな彼もこの学院に今年から通うという。うん、彼なら話もしやすいし、同じクラスになれるといいな、とユーリは思う。仮に同じクラスではなくても、同じ授業を受ける機会があればいいなと思う。


 そんな事を考えつつ、ユーリはクラス割を発表する掲示板の前までやってくる。


「うわぁ、流石にあそこには入れないかも」


 掲示板の前には人だかり。まあ当然といえば当然。クラス割が発表されるのは入学式当日の朝だけだ。4クラス全部のクラス割を見るとなると、直ぐに見つかったものは良いが、見つからなかった場合、4クラス全部見る必要がある。


 周囲を見渡すと、離れたベンチに1人、途方に暮れて座り込む女子生徒までいる。良く見ると、眠たげで、そのまま寝ちゃいそうなくらいだ。流石にそのまま寝かしちゃうのは不味いよねとユーリは思い、その女子生徒に声を掛けようとしたところで、大きな声が響きわたる。


「おい、貴様らっ、第一王子であるアレックス様が、掲示板をご覧なさる。どけっ、いや、今すぐ立ち去れっ」


 あっ、あの子、今ビクッとした。なんだか周囲をキョロキョロし、小動物みたいだ。フフフッかわいい。あれ、立ち上がった。ユーリはその少女を眺めていると、その少女は一人、てくてくと歩き出す。


『えっ、えーっ、そこ行っちゃうの?今何か揉めてるのにーっ』


 その少女が歩いていく先にはぽっかりとスペースが空いている。とある一団を除いて。


 ユーリはその中のメンバーの一人を遠巻きに一度、見たことがある。初めて養父に連れて行かれた時の社交場だ。あれは第一王子の誕生会だっただろうか。同年代の貴族子息、令嬢を集めてのダンスパーティー。それこそユーリは、貴族になりたてで、礼儀作法も必要最小限しかできず、もっぱら壁の花だったがその時、遠巻きながらに見た顔が、そこの中央にいた。


『うわぁ、王子一行だなんて、近寄りたくない・・・・・・』


 ユーリは思わず、周囲にいる人垣の陰に隠れて、ひいた目線を送る。恐らくあの紫の髪の少女は、許嫁のセリアリス様だろう。その他の二人の男子も高位貴族の子息に違いない。周囲の人も同じ感想なのか、ただただ、状況が推移するのを見守っている。


 ちなみに先ほどの少女は、その人たちに関心を示すことなく、掲示板の確認作業を始める。つ、強い。あの子、鋼のメンタルよ。あそこで、気にせず確認しちゃうっ?


 ユーリは小さな勇者に心の中で賛辞を送っていると、自分の名前が、王子御一行で会話されているのが聞こえ、ドキッとする。どうやら、あのクールですかした感じの少年が、貴族主義っぽい。セリアリス様は、ユーリの味方をしてくれてるっぽい。なんだか王子はどっちつかず?まあどうでもいいけど、人を話題にするならもう少し、人のいないところでして欲しい。当人はいたたまれないのですよ?


 ユーリが内心で軽く憤慨しているところで、彼らは立ち去り、周囲に喧騒が戻ってくる。


「はー、なんか疲れたな。掲示板をさっさと見て、教室行こう」


 何もしていないのに気疲れだけを感じて、ユーリは一人とぼとぼと掲示板に歩き出そうとした時である。目の前にレイの姿が見える。あれ、黒い髪の子と握手している。ああ、レイが気に入られているっぽい。フフフッ、気持ちはわかるわ。彼、良い人だもん。さっきまでの沈んだ気持ちが少しだけ浮き上がるのを感じつつ、ユーリはレイに話しかけようと近付いていく。


 すると、先ほど注目していたメンタルの強い彼女が、レイと黒髪の握手の上に手を置いた。


『ええーっ、あの子何してんの??二人とも空いた口、塞がってないよ』


 なんだか少し会話した後、レイは諦め顔になっている。アハハッ、なんだろ、少しあそこに行ってみたい。ユーリはいたずら心に火がついて、思わずニヤケながら、そのおかしな三人に近付いていく。そしてその右手をポンッ。


「ねえ、レイ、これ何やってるの?流行ってるの?」


「えーっ、ユーリ!?」


サプライズ成功!!ユーリは思わず破顔した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 何やら満面の笑みを浮かべるユーリに対して、レイは心底呆れた表情を見せて、ユーリに話しかける。


「えーと、ユーリ、なんで君まで手を重ねるの?って言うか、絶対に悪ふざけだよね?」


「フフフッ、なんだかレイが面白そうな事をしているから、ついね。ついよ」


「なあレイ、彼女とは知り合いなのか?」


 そう言って何やら親しげな会話を始めるレイに対し、ジークが不思議そうに聞いてくる。おっといけない、第二王子に対して、奇怪な事が起こりすぎている。レイは慌てて、メンバーに紹介を始める。


「ああ、ごめん、ごめん。彼女はユーリ・アナスタシア。アナスタシア伯爵の令嬢です。ユーリ、彼は第二王子のジークフリード・フォン・エゼルバルト。それとこっちの彼女はメルテ・スザリン。あの大魔導スザリンのお弟子さんだよ」


「え、えーっ、し、失礼しましたっ。第二王子のジークフリード様とは知らず」


「ああ、よいよい。今は同じ学生だ。レイにも言ったが、ただの級友として接してくれればいいので、ジークと呼んでくれ」


 流石に第二王子と聞いて、慌てるユーリに対して、ジークは苦笑交じりに答える。メルテは事の次第を理解していないようで、ただ首を傾げているだけだ。レイは流石にこれ以上、この場に立ち止まるのは、周りの迷惑になると思い、取りあえずそれぞれの思惑を無視して、話を進める。


「とりあえず、この場を離れよう。流石に周りの迷惑だしね。ちなみにユーリはもう掲示板を見たの?」


「あっ、私まだ見れてないの」


「ああ、そうなんだ。さっき一応見たら、ユーリはAクラスだったよ。第一王子のアレックス様とかと同じクラスみたいだから、頑張ってね」


「ええっ、本当?あっ、本当だ。ああ、よりにもよって、Aクラス・・・・・・」


 まだ掲示板を見ていなかったユーリが慌てて掲示板を見ると、レイの言った通り、Aクラスに自分の名前があるのを確認する。そしてその事実に打ちひしがれているユーリに、レイは苦笑を浮かべて、フォローする。


「はは・・・・・・、まあ一番目立つクラスだから、前向きにとらえるといいクラスだと思うよ。僕らはDクラスだから、あまり縁がないかもだけどね」


「くっ、ずるい。私もDクラスが良かった。私なんて貴族になってまだ1年だから、まだまだ勉強しなければいけない事がいっぱいあるのに・・・・・・。落ちこぼれちゃうよー」


「ん?ユーリ嬢はアナスタシア伯爵のご令嬢ではないのか?」


「ああ、私は1年前に孤児院から養女として引き取られたものなんです。なので、貴族としては、半人前で」


 ユーリはそう言って、申し訳なさそうな顔をする。するとジークは合点が言ったように、頷きながらユーリを見る。


「そうか、貴方が、聖女といわれる方か。噂でそういう話を聞いたことがある。そう言われると、神々しさを感じるな」


「はいはい、話はその辺で。取りあえずはクラスに移動しよう。ユーリも途中までは一緒だろ?なら、一緒に行こう。メルテさんもね」


 そのままだとこの立ち話が延々と続きそうなので、レイは話を強引に終わらせ、クラスへと移動し始める。メルテはそんなレイにてくてくと付いていき、ユーリとジークも苦笑しながら、それに付いていく。そこで漸く出会いのイベントが終了を告げる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それを遠巻きで眺める1人の女性。


 彼女はその四人が立ち去ったところで、首を傾げる。物語のプロローグ。主要登場人物は、出そろった。本来であれば、主要登場人物それぞれが、会話を交わすはずのそのシーン。王子、宰相息子、近衛隊長息子は、予想通り三人一組で、そこにヒロインの一人、公爵令嬢が絡む。ここまでは予定通りだが、聖女と大魔導の弟子は第一王子には絡まず、隠れキャラの第二王子に絡む展開。


「うーん、これって第二王子がメインの展開なのかしら?」


 残念ながら自分が前世の時に、第二王子のルートが解放されてプレイした時にプロローグはスキップしてしまっていた。なので、合っているかどうかが判断できない。


 ちなみにもう一人の転生者である王子もプロローグはスキップする派だったので、ここに重きを置いていなかった。ただここはストーリーに影響のある部分ではないので、まあこの後の展開が重要よねと、一旦は棚上げする。


 彼女は傍観者だ。


 ストーリーに直接関係するキャラではない。なので、眺めるだけ。10年待ったのだ。楽しまなきゃ損。そう考えて、再び、主要登場人物のいなくなった掲示板付近を眺めるのであった。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 私はコロナEXに掲載しているマンガから、このノベルを読み始めた者です。 今回の聖女視点の話は何故かマンガでは表現してなかったので、凄く面白かったです。
[一言] > レイ・クロイツェル、レイの母親の父、レイにしてみれば、祖父にあたる人物とユーリの養父は知己だったらしい。 とても分かりづらいです。 レイの母方の祖父とユーリの養父は知己だったらしい。 で…
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