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第百二十三話 役割分担

 そしてレイ達は順調にセルブルグ連邦の海岸線の町であり国でもある自由都市カイラムに着く。カイラムは商人による評議会により統治された小国家だ。その武力の大半は金で雇われた傭兵達に依存しており、今レイ達を検問している男達も片方は評議会の評議員の男であり、その護衛は傭兵風の粗野な印象のある男だった。


「これはこれはリーゼロッテ姫、長きにわたる留学の方、ご苦労様でした。因みに其方のお二人が交換留学として来られた学生の方々でいらっしゃいますか?」


 評議員の男が、応対するリーゼロッテにそう話しかける。その男、痩せっぽちで背が高く、やたら目つきだけは鋭い印象の男で、如何にも悪巧みが好きそうな印象の男だ。ただリーゼロッテは知り合いなのか、表面上は親しげな笑みを崩さず明るい声で返答する。


「はい、女性の方はノンフォーク公爵家のご令嬢でセリアリス・フォン・ノンフォーク様。男性は、クロイツェル子爵の嫡男でレイ・クロイツェル様。共に私の友人ですわ」


「ほう、女性はあのノンフォーク家の、それに男性はクロイツェル家とは。成る程、成る程、リーゼロッテ姫は中々に良い交友関係を築かれたようだ。ふむ、興味深い」


 評議員の男は、さも情報通を装うように、フムフムと頷く。するとそこでセリアリスが一歩前に出て、あえてキツめの口調で言う。


「リーゼロッテ王女からご紹介頂いたので、こちらは敢えて名乗りませんが、貴方のお名前は?」


 これはセリアリスの軽い威嚇である。こちらが名乗っているのに、其方から名乗りでないのは失礼ではないかと暗に言っているのだ。すると男は一瞬慌てる素振りを見せるが、すぐに表面上取り繕い、挨拶をしてくる。


「こ、これは失礼致しました。カムラン評議会の評議員の1人、モーリス商会のダン・モーリスです。この度は自由都市カムランにようこそいらっしゃいました」


「フフフッ、セリアリス様、その様に苛めては駄目ですよ。我が連邦は貴国とは同盟関係。もう少し仲良くして欲しいものですわ」


 そして間を取り成すようにリーゼロッテがフォローを入れるが、セリアリスはそれにすら噛み付いてくる。


「あら、リーゼロッテ様はそう仰いますが、私は私で国を代表している立場を自負しております。ですので、礼を失するような振る舞いには、相応の対応をすべきと考えているだけですわ」


 セリアリスに睨まれたリーゼロッテは苦笑を浮かべつつ、セリアリスに話しかける。


「セリアリス様、確かに礼を失した事、私からも謝罪しますわ。勿論、ダン様に他意がないと思いますので、その辺で矛を収めて頂けますか」


「まあ、リーゼロッテ様がそうまで仰られるなら」


 そこで漸くセリアリスが引き下がる。レイはと言えばその間一言も話さず、興味のなさそうにそっぽを向いている。事実ここまで会話に加わろうとはせずに、今も少し離れた位置にいる。


『どうやら彼らは友好的な関係では無さそうですね』


 内心でそう考えたのはダンだ。一般的に彼らの関係性は公爵家と子爵家で身分差は大きい。そう仲良くなるような関係性でないのは見て取れる。そうなるとやはり気になるのが、レイとリーゼロッテの関係性だ。当然彼の耳にはリーゼロッテがクロイツェル子爵の嫡男にご執心だという情報も伝わっていた。


「リーゼロッテ様、彼の方にもご挨拶させていただいても宜しいでしょうか?」


 なのでダンは探りを入れるように、リーゼロッテに声をかける。リーゼロッテは少し困った表情を見せて、レイに声をかける。


「レイ様、この町の代表者の一人がご挨拶をとおっしゃってますが、よろしいですか?」


「はぁ、リーゼ、そういう煩わしいのは今回なしと言う事で呼ばれたと聞いているんだけど、受けた方がいいのかな?ただでさえ、気遣う相手が側にいるというのに、この俺に更に気遣いをしろと?」


 レイは明らかに不満げな表情で、リーゼロッテに目をやる。逆にそう声をかけたダンの方が、リーゼロッテに思わず気を使ってしまう。


「リーゼロッテ様、無理をなさらずとも結構ですよ。先ほどお名前はお伺いしましたから。それで今回はこちらにはどの位滞在されるのですか?」


「あ、ええ、明日にはハミルトン王国へと出立いたします。セリアリス様やレイ様は学園の留学生でもありますから、学園に早くお送りしないといけませんので」


 リーゼロッテはレイの態度に申し訳なさを含みながらも、淡々と受け答えをする。ダンもそれに鷹揚に頷きながら、気にしていないとばかりに薄い笑みを浮かべる。


「承知しました。であれば、今宵、是非歓待の宴を設けさせていただきたいのですが、よろしいですか?」


「承知しました。セリアリス様、レイ様、長旅のところお疲れとは思いますが、折角の申し出、お受けしてはいただけないでしょうか?」


 するとリーゼロッテの申し出にセリアリスが当然とばかりに頷く。


「まあそういう事なら、お受けしますわ。レイ・クロイツェル、貴方も参加なさい。国を代表するものとして、他国有力者と歓談の席を交わすのは貴族としての責務です。いいですわね」


「ちっ、いちいち偉そうに。ああ、わかりました。参加すればいいんでしょう、参加すれば。はいはい、お嬢様のおっしゃる通りにいたしますよ」


 レイはそこで露骨にいやそうな顔をするが、言葉はしぶしぶながら了承する。


「全く、これだから子爵家程度の人材を選ぶというのは反対だったのです。リーゼロッテ様のお願いでなければ、この場で本国に戻したい位ですわ」


 セリアリスはセリアリスでそんな態度のレイを見て、忌々し気に呟く。2人の間に険悪な空気が流れるのを困ったようにリーゼロッテは間に入る。


「もう2人とも、これから共に留学して同じ時を過ごすのです。そういがみ合わないでくださいな」


 そしてそんな3人の様子を見てダンはほくそ笑む。それはダンにとっては朗報と呼ぶべき状況だったのだから。



 それは港に降り立つ前の出来事である。場所はリーゼロッテが使っていた部屋でレイとセリアリスがその部屋に集まっていた。


「それでここではちょっと役割を決めるべきだと思うの」


 リーゼロッテはそう言って、レイとセリアリスの二人を眺める。彼女が言った話の流れは、これから寄港する町の事であった。セルブルグ連邦は今、連邦維持派と国家統一派とで国が二分されている。その何方に寄港する町が属しているかを確認する必要があるとリーゼロッテは考えているとの事だ。


「それで俺ら3人が仲の良くない素振りを見せる必要があると?」


 そしてリーゼロッテが提案してきたのは、3人の関係性を偽る事。リーゼロッテがレイに懸想しているのは、恐らく情報として伝わっているとの話である。ただレイとセリアリス、セリアリスとリーゼロッテの関係性は伝わっていない可能性が高い。そして彼らが統一派であった場合、リーゼロッテの帰還は余り好ましくない。彼女はそれだけ人気もあり、優秀さも評価されているのだ。


「ええ、私達が仲良く一枚岩で結束していると言うのは、向こうとしても行動し辛いもの。であれば、バラバラな関係性で1人取り込めれば、思惑を果たせる方が相手にとって都合が良いでしょう?」


 確かに相手にしてみれば、その方が与し易いのは間違いないが、1人づつと言う点でレイは危険性も感じるのだ。


「それだとリーゼやセリーを懐柔しようとする展開だと危なくないかい?」


「あら、さっきの役割分担だとそうはならないわよ。そもそもリーゼは相手が統一派だった場合、反対勢力の重要人物ですもの。そう簡単に取り込める相手だとは思わないでしょう?それに私は気位の高い公爵令嬢なのでしょう?それを相手にするのも望まないと思うわ」


 セリアリスはレイの心配を杞憂と言って心配ない旨を伝えてくる。それにはリーゼロッテも同意する。


「私も同意見ね。大体、私がレイを気にする素振りをすれば、きっとレイを懐柔しようとしてくるわ。レイが駄々を捏ねてこの港に残ると言えば、私も動けないと勝手に思うもの。そうなれば、接触するならきっとレイになると思うわ」


 そう言って2人の才女が頷き合う。まあ相手が維持派だったとしても、接触するのはレイとなる。レイが側にいるのは維持派としても嬉しくない。恐らく彼らはリーゼロッテに次の舵取り役を任せたい筈なのである。そうなると何方にしてもこの役割分担が理に叶っていた。


「じゃあそれで行こうか。あんまり、そういう悪い役は得意じゃないんだけどね」


「フフフッ、私は今まで通りレイにメロメロの役回りだから、素のままで良いけどね」


 そう言ってリーゼロッテは嬉しそうにする。そんなリーゼロッテにセリアリスは揶揄う様な口調で言う。


「あら、リーゼにはそんな楽しそうな役どころはさせないわよ。私が意地悪な令嬢役できっちり板挟み役を味わって貰いますから」


「むう、少しくらい良い目を見せてくれても良いのに」


 そう言ってリーゼロッテはセリアリスに文句を言う。レイはそんな二人を呆れた目で眺めながらも、2人に危害が加わらないようにと心の中で誓うのだった。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 評議員ってのは無能でも地位と金があればなれるものなのかな [一言] 主人公を立てるために相手を無能にするパティーンはそろそろお腹いっぱいなんだけどね
[一言] ますます面白くなってきましたねぇ。これからの展開も超楽しみです。
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