閑話 セリアリスとレイの出会い③
セリアリスの閑話は今日で完了。閑話自体はもう2〜3つ続けようと思ってます。
結局その日からセリアリスはクロイツェル3兄弟に引っ張りだこである。レイに関しては、セリアリス自身が積極的であったが、弟妹に関しては、セリアリスにすっかり懐き、何気に家の手伝いで忙しい兄よりも相手をしてくれるセリアリスの方が好かれていた。
「セリーにすっかりケビン達を取られちゃったね」
「2人とも可愛いから、相手をするのは構わないんだけど、レイといる時ほどはしゃげないのが、物足らない所なのよね」
今2人はセリアリスの希望で軍船で海に出ていた。元々海洋で演習をする為船を出す予定の所に、便乗したのだった。
船は今大きな帆を広げて、勢い良く海面を滑走している。セリアリスは顔に当たる風を気持ちよく感じながら、レイに言う。
「フフフッ、船って凄いわね。グングン進んで町もあっという間に遠くになって、私こんなに速い船って初めてだわ」
彼女が知るのは川を渡るもっと小さい船だ。その大きさも速さも知っているものと違って、ワクワクする。レイはそんな目を輝かせているセリアリスに胸を張って自慢する。
「それはクロイツェル家が管理する海軍だからね。なんてったって水と風の精霊に愛されているから、他国の船にも引けを取る事は無いよ」
「精霊?」
セリアリスも精霊自体の存在は知っている。勿論見た事は無いが、エルフなどの異種族では六神教の神々よりも敬われている存在だ。ただ人族には馴染みが薄く、加護持ちですら滅多にいない。
「そうさ、父上と俺は風と水の精霊の加護持ち。リーシャは水の加護持ちでケビンは風の精霊の加護持ちなんだ。母上も水の精霊と相性が良いし、だから精霊に愛された一族なのさ」
「家中のみんなが加護持ちなの!?それって凄い事じゃ無いのっ?」
セリアリスはあの可愛いケビンやリーシャ迄もが加護持ちと聞いてビックリする。レイは驚くセリアリスに満足そうな表情を浮かべ、補足説明を入れる。
「まあ本当に凄いのはご先祖様だけどね。冒険者時代に風と水の精霊に好かれたおかげで、クロイツェルの名と血によって受け継がれるから、俺たちはその恩恵に預かっているだけなんだ。しかも名が外れるとその子供には受け継がれないから、例えば、リーシャが他所の誰かに嫁いだら、リーシャの子供には適性があっても受け継がれない。まあ俺は嫡男だから、俺がクロイツェルの加護を引き継ぐ使命があるって感じかな」
随分と大層な話をあっけらかんと話すレイに慌ててセリアリスがそれを諫める。
「ちょっ、レイ、そんな凄い事簡単に言っちゃ駄目でしょうっ?それって内緒の話じゃ無いの?」
「ん?ああ、これ別に秘密にして無いから大丈夫だよ。軍の内部でも有名な話だと思うし。むしろ公言しているから、抑止力にもなるしね」
レイのその説明を聞いて、セリアリスはホッとする。確かに公言された事実であれば、抑止力というのも納得出来る話だ。
「もうビックリさせないでよね。んー、でもやっぱ船も凄いけど、クロイツェルが凄いって事になるのかしら?レイってどんな事が出来るの?」
「そうだな……、例えばねー……」
そこでレイは 何やら考え込みとボソボソと口元で呟く。すると海面が渦を巻き、そこから船を歓迎するかのような水柱が順々に立ち上る。
「ほぇ!?」
立ち上った水柱は太陽の光に照らされて、キラキラと輝き、船が通り過ぎると白波を立てて崩れていく。それは幻想的な光景で、甲板にいた船員達も目を丸くして、歓声を上げ始める。
そして暫くして水柱の回廊を潜り抜けた後、レイはニヤッとして、呆けたセリアリスに声をかける。
「どう?面白かった?」
「えっ、えっ、今のレイがしたの?」
まだあまりの出来事に気持ちが追いつかないセリアリスは、それをしたのがレイだと信じられない気持ちだった。
「うん、俺が精霊に手伝ってもらってね。ね、加護の力って凄いだろ?」
「凄いって言うか、レイってなんかビックリ箱みたいね……」
セリアリスとしては最大級の賛辞なのだが、レイにしてみればビックリ箱って、と微妙な顔をする。
「うん?それって褒められてるの?」
「勿論よ。こんなワクワクドキドキする相手なんて、私他に知らないわ」
セリアリスはそう言って楽しそうに破顔する。レイもまたその笑顔を見て嬉しそうな笑みを見せるのであった。
◇
セリアリスにとってクロイツェルの日々はとても楽しく印象的だった。多分セリアリスが過ごした幼少期の中でも飛び切り輝いた思い出だ。それは公爵令嬢という肩書がなく、自由にそして楽しく過ごせた事が大きい。
リーシャとは家の中で過ごす事が多かったが、それでも色んな会話に花を咲かせた。時にはカーラやレイネシアを交え、王都の事や色恋の話、お洒落の話など、おしゃまなリーシャにとっては夢のような話が繰り広げられ、セリアリスもリーシャも目を輝かせたりしていた。
ケビンは甘えん坊だ。末っ子という事もあるのだが、どこか頼りなく可愛らしい。セリアリスはついつい庇護欲が駆り立てられ、甘やかしてしまう。でも彼の良いところは、時々意地を見せる事。頑張ろうと決めた時には怖気づきそうになってもやり遂げようとする。見ているセリアリスにしてみれば、ハラハラするのだが、そんな時は大抵レイに窘められ、ケビンがやり切るまで我慢させられる。ただやり切った後、抱きしめて褒めてあげると、嬉しそうにするので我慢して良かったと思えるのだ。
そしてなんと言ってもビックリ箱レイだ。彼の加護の力もそうだが、その交友関係の広さも圧巻だった。彼に連れられクロイツェルの町を散策している時である。兎に角色々な人に話しかけられる。
「よう坊ちゃん、今日は彼女連れかい?ならこれをプレゼントに買ってくれよ」
「うるせー、彼女じゃねぇっ。友達だ、友達。それにお前の所はバッタもんが多いじゃねえか。この前変なもの摑まされたって、父上が怒ってたぞ」
「いやいや坊ちゃん。うちはそれが売りなんですって。本物気分で安く買える。それが魅力ってもんだぜ。領主様も分かってて買ってんだから、お互い様ってもんだ」
何やら骨董品らしい調度品を売っているおじさんが、悪びれもせずにガハハと笑う。レイに見せた腕輪もデザイン自体は可愛らしいが、宝石やら金属部分やらがきっと安物なのだろう。そうすると今度は恰幅の良いおばさんが話しかけてくる。
「あらレイ君、安くするから食べてきなよ」
「駄目駄目、この間買い食いして家に帰ったら、母上に凄く怒られたんだ。晩ご飯用意してるんだから、食べられないくらい買い食いなんかするなってね」
「そりゃ帰ったら根性でご飯を食べなきゃ。それはそれで、買い食いするのが男ってもんよ」
まあレイも程々にすれば良いだけの話なのだが、そうもいかないのだろう。そして今度は小さい子供達が4、5人集まってくる。
「レイ兄ちゃん、遊ぼーよ、風でフワッとしたやつやってよ」
「私は水のバシャッてやつー」
「俺は英雄ごっごがいいーっ」
せれぞれがバラバラのリクエストを上げて、レイは渋い顔をする。
「お前ら遊んでやるのは良いが、1つに絞れっ、俺は1人しかいないんだっ」
レイはそう言って取り敢えず相手をするようだが、何をするかを絞らせる。子供達は遊んで貰えるのが嬉しいようで、何をするかを話し合い始める。そしてその合間にレイはセリアリスにいう。
「セリーにも付き合って貰うよ、こいつらを1人で相手するの大変だから」
「それはいいけど、何をするの?」
しかしその返事はレイからは聞かれず、子供達が返事をする。
「レイ兄ちゃん決まったーっ、フワッとにするー!」
「フワッと?」
何やら聞き慣れない遊びにセリアリスは不思議そうな顔をする。しかし子供達は当然何なのかが分かっているので、ワクワクした顔でレイを見つめる。レイはそんな子供達にニカっとしていう。
「ならいつもの場所に行くか、セリーもいくぞ」
セリアリスは訳が分からないまま、レイや子供達に連れられていくのだった。
◇
「きゃあああーーーっ」
響き渡るのはセリアリスの声である。訳の分からないまま、街の外れにある灯台の元に連れて行かれ、そして訳の分からないまま灯台に登らされたかと思うと、レイに手を取られてそこから飛び降りてしまった。
「ハハハッ、セリー大丈夫だから目を開けて」
レイにしがみつき目を瞑ったセリアリスにレイがそう声をかける。するとそこにはまだ地面はなく、セリアリスはフワフワと浮いていた。
「はっ?えっ、何これ?」
レイとセリアリスはそのままゆっくりと下に降りていき、無事に着地。すると子供達も順々に塔の上から降りて行き、レイ達とは違い勢いを落とさず地面に程なく近づいた所でフワッと減速して着地する。そしてもう一回やろうと再び塔の中へと入っていく。
「これがフワッと。セリーは初めてだから最初からフワフワだったけどね」
セリアリスはやはり唖然とさせられる。多分レイにとってはセリアリスがここまで驚くのまでが、予想範囲だったのだろう。そんなセリアリスを見てしてやったりの表情だ。
「ちょっとレイっ、そうならそうと先に言ってくれれば……っ」
「だって俺はビックリ箱なんだろう?ならビックリさせないとね」
本当にそうだ。ビックリ箱だ。またしてやられた。セリアリスは悔しさと楽しさが入り混じった変テコな顔になる。もう気持ちの整理がつかない。
「むうっ、も、もう一回、もう一回行くわよっ」
セリアリスはそう言ってレイより先に塔の中へと入っていく。セリアリスは今度は訳の分からないままではなく、しっかりと楽しむ事を決めて気持ちを整理しながら、塔を登っていく。そして最上階の飛び降りた場所まで来ると改めて、周囲を見回す。さっきのは訳が分からず、周囲を見て楽しむ事も出来なかった。なので今度は最初から楽しもうと決めたのだ。
「うわーーー」
思わず上がる感嘆の声。真っ青な海が何処までも広がり、海岸線にはラルビクの町並みが一望出来る。街に行き交う人の姿も見え、それはただ壮観な眺めだった。
「いい眺めでしょ?」
レイは嬉しそうにセリアリスに話しかける。
「うん、凄く良い眺め。さっきは気にする余裕が無かったけど、こうして見ると世界の広さがわかるっていうか」
「そうそう、だから俺はこの場所が好きなんだ。こうしてセリーにも見せられて良かったよ」
そう言って嬉しそうにするレイを見て、ああこの場所が好きなんだなと実感する。セリアリスもそれを共感できて嬉しくなる。
「うん、良い場所。また一緒に見られたらいいね」
「ははっ、それはセリー次第かな。俺はこの場所に必ず帰って来るから、セリーが見たいなら何時でも案内出来るよ」
「フフフッ、フワッと付きでね」
いつか必ずこの場所にこよう。そうすればまたレイにもクロイツェルの家の人々にも会える。セリアリスはそう心に誓うのだった。
◇
「私がレイと出会ったのはこんな感じよ、私にとっては特別な事だけど、極々普通の出会い。別に特別な事なんてないんだから」
セリアリスはクロイツェルに向かう馬車の中、レイとの出会いをリーゼロッテに聞かれ、思い出話をしていた。
「むう、道理でケビンちゃんの反応が悪かったりしたのね。私が仲良くなろうとしても、王女って肩書に遠慮してか、中々懐いてくれなかったもの。よっぽどセリーの印象が強かったんだわ」
「フフフッ、クロイツェルでケビンに会えるのも楽しみだわ。もう随分大きくなったんでしょうね」
セリアリスはそう言って、楽しそうにする。ケビンやリーシャに会えるのも楽しみだ。また思い出の場所に行けるのもだ。これがアレックス様と結婚までしてたら、多分叶わぬ夢となっていたのだろう。
「でもレイの出会いでは私の方が運命的なんだからね。私はね……」
そこでリーゼロッテがセリアリスに対抗する様に自分の出会いを話し出す。セリアリスはそれに耳を傾けながらも、私はレイの事をどう思っているんだろうと、自問するのだった。
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