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閑話 セリアリスとレイの出会い①

前から書いてみたかったセリアリスとの出会いのお話。多分3話くらいの予定です。

 少女セリアリスは、母に連れられ山脈を越えた町に向かう途中の馬車の中で、不貞腐れていた。今年の夏はお父様が領地で過ごされるという事で、セリアリスもそれを楽しみにしており、それが急遽山脈を越えた先の街で大規模な商談があるという事でその夏一杯、そこで過ごす事になってしまったのだ。本当であればセリアリスだけ領地に残り父と共に過ごすのでも良かったのだが、肝心の父が母がいないなら王都で過ごす事となってしまった為、幼いセリアリスは母に付いていく羽目になったのだ。


「本当だったら、お父様と一緒に一杯遊んで貰うつもりだったのに」


「セリー、何時迄も拗ねてないの。これから行く町には海があるのよ。貴方海を見た事ないでしょう?きっとそれだけでも満足できると思うわ」


 セリアリスの母カエラはそう言ってセリアリスの機嫌を直そうと話しかける。確かにセリアリスは海を見たことがない。ただ見た事が無いだけに侮っていた部分もあり、どうせ湖みたいなものでしょとたかを括っていた。


「私はもう10歳で何時迄も子供ではありません。そんな海位で満足したりしませんから、馬鹿にしないで下さい」


 セリアリスはそう言って精一杯の背伸びをする。ただカエラもセリアリスが敢えて素っ気ない素振りをしているのが分かっているので、はいはいと往なしつつそれ以上は話しかけない。


『もうお母様ったら何時迄も子供扱いして』


 再び不服そうに窓の外に目をやるセリアリス。セリアリスにとってこの旅は王都方面に向かう旅以外では初めての遠出だ。ただそこで素直にわくわくしては子供っぽいと思って少し背伸びをしてしまっている。山脈越えの道もその脇に聳え立つ山々も十分に魅力的なのだが、実は精一杯我慢をして気のない素振りをしていたのだ。


ただそのテンションも2日後に街道から見えた海の光景にガラリと変わる。そこには見たこともない程広がる青い光景。遠くには薄く島々が見え、船の往来も小さく見える。そして町に近づくにつれ、潮の香りが立ち込めてきて、いつしかセリアリスはしかめっ面のお面を脱ぎ捨てて、きらきらと輝く眼差しを窓の外へ向けるのであった。


 目的地であるクロイツェル領の領都ラルビクに着いてからも、セリアリスは驚きっぱなしだった。正直、辺境の寂れた町に行くのだと思っていた。ただよくよく考えてみれば、エゼルバイト王国唯一の港町であり、海洋貿易の要所である。寂れるどころか、町中に活気があり人々の顔も明るかった。それに隣接するノンフォーク領では、その流通の恩恵に預かることは少なくなく、例えば、塩や海産物、香辛料などは此処クロイツェル領産であったり、経由して入ってきているものだったりする。当然、港の規模も大きく、そこに所狭しと大小様々な船が停泊している。


「お母様、あの船凄いわ。大きな帆で大勢の人が乗っていて、うちの港にもあんな大きな船はないわっ」


 来るまでのテンションとは違い、すっかり興奮状態のセリアリス。因みにノンフォーク領はセームズ川を使った流通の拠点でもあり、船自体は見慣れている。しかし此処の船は狭く浅い川で利用するものとは違い、海を行く船だ。当然川のそれとは比較にならないくらい大きい船が沢山ある。母であるカエラはそんな娘に少し呆れた表情で説明をする。


「セリー、海の船なのだから、当たり前でしょう。大体、海は川と違って危険な魔物も多いのよ。相応の備えがないと、行き来はできないし、それに此処の取引相手は他国になるのだから、その載せている積み荷の量も相当のものよ。小さい船では行き来はできないわ」


「フフフッ、そうでした。お母様、私もあの船に乗せて貰えるのかしら?」


セリアリスは少しはしゃぎすぎた自分にテレながらも、期待を込めた目でカエラに聞く。


「そうね、海軍の軍船も此処にはあるから、クロイツェル子爵にお願いすれば、乗せて貰う事もできるかしら。でも、私は今回商談があるから、一緒には居られないのよね。まあその辺も含めて子爵には聞いてあげるわ。あっ、それと……」


 カエラはこの旅に前向きな姿勢を見せ始めた娘を好ましく思いながら、そういえばと思い出す。しかしセリアリスがそれを察したように言葉を遮る。


「分かってますわ、今回は交渉相手を油断させる為、公爵家である事は子爵様以外、秘密なのでしょう?私はセリーで、お母様はカーラ、髪の色も薄藤色から綺麗な金色の髪に変えてバレないようにしていますから、大丈夫ですわ」


 そう今回の商談相手は、中々に油断がならない。大抵の商人は相手が貴族とわかった場合、そのプライドを擽るように交渉を持ちかけてくる。貴族側も対外的な外聞もある為、多少不利な内容でも飲むケースがある為、商売としては旨味が無かったりする。カエラは前々からその手の取引に不満があった為、あえて身分を伏せて今回の商談に臨んでいる。リスクもあるが、そこは才覚次第、クロイツェル子爵にはそれを踏まえて準備をして貰っている。


「貴方がちゃんと理解しているのなら、問題ありません。では早速ですが、クロイツェル子爵のお屋敷に参りましょう」


 セリアリスはそれに頷いて、再びキラキラした目で、外の光景を眺める。行き交う人の中には人族以外の種族の者もいる。店に並ぶ商品もこの国以外の国々から持ち込まれている品々が並んでいる。


『まあお母様はお仕事だけど、私は折角来たのだから、楽しまなきゃ損よね』


 すっかりクロイツェルの町並みに興味が湧いたセリアリスは、興味津々で、再び窓の外へと目を向けるのだった。



 そうしてその後、セリアリス達はクロイツェル子爵の邸宅へと向かう。邸宅は、町の郊外で少し高台となっている場所にあり、その場所からは町全体が一望できる。そして少し歩いた所には灯台が置かれ、天気が良い時はそこから港と近海が同じように一望できる。カエラ達はまず本邸の応接室に通され、この町の当主であるクロイツェル子爵に対面する。


「これはカエラ様、この度はこの様な辺境の地に足を運んで下さり、ありがとうございます。何も無いところ故、大したおもてなしも出来ませんが、滞在期間中はどうぞごゆっくりお寛ぎ下さい」


 クロイツェル子爵はそう言って優雅な挨拶をする。中肉中背で引き締まった体躯のその姿は、中央の貴族のような、華美で鈍重なそれとは違いいかにも軍人然とした、凛々しさを感じさせる。しかしそんな子爵に気後れする事もなく、カエラは笑顔で接する。


「あらカイン君も立派になったわね。学院ではかなりヤンチャな後輩だったのに。それに私達の仲なのだから、そう堅苦しいのは抜きで良いわよ。それに今日はシアはいないの?」


 カエラの砕けた口調に思わず苦笑いを浮かべつつ、カインは入り口の方を見る。するとそこにはお茶の用意をしてきたレイネシアがクスクスと笑いながら入ってくる。


「カエラ先輩、お久しぶりです。先輩は相変わらずなようで、安心しましたわ。あらそちらが娘さんですか?」


「初めまして、ノンフォークが娘、セリアリス・フォン・ノンフォークです。宜しくお願いします」


 セリアリスはレイネシアに目を向けられ、慌てて挨拶をする。正直、彼女の母であるカエラも綺麗な女性だったが、目の前に現れた女性はその上をいく程の綺麗な女性で、セリアリスでも思わず緊張してしまう程だった。しかしレイネシアはそんなセリアリスの緊張を気にする事なく穏やかな口調で、挨拶を返してくれる。


「あらあら、ご丁寧に。クロイツェル子爵の妻で、レイネシア・クロイツェルです。お母上とは学生時代に良くして頂いて、今でも懇意にさせて戴いているんですよ」


「フフフッ、流石にセリーもシアの美しさにびっくりしているみたいね。この子、私が学院にいた時には、学院一、王都一の美女と謳われた位の女性なのよ。今の国王陛下にも見染められていた位なんだから」


 セリアリスはカエラの補足を聞いて思わず納得する。確かにセリアリスがこれまで見たどんな女性よりも綺麗な人だった。しかもカエラの補足に頬を赤らめテレる姿が一層可愛らしい。


「カエラ先輩、もうその辺で勘弁して下さい。これでももう3児の母なのですよ。お世辞も程々にして下さいね」


「フフフッ、シアは昔から自分の事には無頓着だから、周囲の事なんか気にしないのよね。貴方、今でも王都では語り草なのよ。国王陛下を袖にした女として有名なのだから」


「あら、私はその時には旦那様と婚約もして、他の殿方には興味が無かったのですから、仕方がありませんわ。そういう先輩だって、そう言うお話もあったでしょうに」


 此処でようやくレイネシアが反撃にでる。セリアリスは聞いた事のない話だったので、目を丸くし母親を見る。カエラはそんな娘を正すように説明する。


「それこそ私のは、政略結婚という話よ。色恋といった話ではないわ。それに私も旦那様と婚約する直前のことでしたし、興味も無かったですしね」


「まあまあ、2人とも、昔語りはその辺にして、取り敢えず今後のことを先にお話ししましょう」


 話がだいぶん脱線してきたので、カインが間に入り、話を元に戻す。


「ああそうね、シアといると昔語りは楽しくて、ついつい話が弾んじゃうわ。えっと、取り敢えずは1ヶ月くらいを目処に交渉を進められればと思っています。子爵には予めお伝えした通り、今回は公爵家の看板は無しで事に臨みます」


「ふむ、それで手配も進めていますが、本当に公爵家の看板を使わなくても宜しいのですか?確かに大貴族の看板は良くも悪くも目立ちますので欠点もありますが、その逆にメリットも大きいですよ」


 大貴族としてのメリットはやはり信用力だろう。その分、大きな取引には向いている。今回カエラの立場は王都にある大店の娘という設定である為、そう下に見られる事はないだろうが、大貴族には劣るのだ。


「勿論、その辺りは重々承知の上です。まあクロイツェル子爵は私の事を良く知っていると思うので、その辺りが余計な心配であるという事も理解しているのでしょう?」


 カエラはそう言って自信ありげな笑みを浮かべる。確かに学生時代のカエラを知るカインはそこで苦笑いだ。このカエラの辣腕っぷりは、カインも色々お世話になった口であり、実際口にする程、心配もしていなかった。


「ハハ……、わかりました。早速ですが、今日の夜に簡単な懇親会を開きます。そこで商談相手とお引き合わせしますので、ご参加頂ければと思います。それとこの商談期間の滞在に関しては、来賓用の別邸を用意していますので、其方を自由にお使い下さい」


「フフッ、カイン君、ありがとう。セリー共々暫くお世話になるけど、宜しくね」


「ハハッ、人が増えて賑やかになるのは大歓迎ですよ。私達の子供達もその懇親会と明日の朝にでもお引き合わせしましょう。きっと喜びますので」


 カインは朗らかにそう言って笑う。セリアリスもまた、彼らの家族に興味を持ち、会える事を心待ちにする。そしてその興味が間違っていない事を後のセリアリスは実感する事になる。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言]  レイとセリアリスの出会いは、ずっと気になっていたので嬉しいです。セリアリスにとっては一番の良い思い出でしょうし、本人には自覚のない初恋っぽいですもんね。小さい頃のレイも楽しみです。
2020/02/25 07:57 退会済み
管理
[良い点] セリアリス&レイ、アーリーデイズ、いい… [一言] セリーが報われそうで良かったです なおユーリ達は…まあそのうち…
[一言] 最初の少女セリアリス~羽目になったのだ、までの文変では。地の文でお父様と父がどちらもでてるので統一するのと、商談にいくのは母なのに父が領地での流れから父がいくように見える。
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