第百二十話 王都出立
取り敢えず前半パート終了です。
色々散らかってますが、学園パートを終わらし、外の世界へは書き始めていた当初から決めていた展開なので、ここまで来れて満足です。
今後は何話か初の閑話を挟んで、後半パートへと思っています。
取り敢えずは、二手に分かれるので、バランスを取りながら頑張りますので、応援よろしくお願いします!
ナイアガラさんレビューありがとうございます!まだまだ精進は必要ですが、自身楽しんで書ければと思っています。宜しくお願いします!
レイはもう1つ気になった事を少年に聞く。
「そう言えば王城に向かった光はどうなったんだ?」
確か地下遺跡で少年がカケラを持ってれば分かる的な事を言っていた筈だ。しかし少年は首を横に振る。
「もうこの町には居ないよ。僕がカケラの中で目覚めた時には、既にこの町の中に気配は無かった。まあ依代を見つけて、力を蓄えに行ったというのが予想だけどね」
「依代?」
「あれ?言ってなかったっけ?カケラはオドの集合体。依代が無ければ、力を発揮できない。僕で言えばあの傀儡がそうだし、アネマやデメルテも聖女達が依代みたいなものだから。因みにユーリは愛娘だからより適性が高く、アネマの子は巫女だから、ユーリよりは適性が落ちる」
「って言う事は、カケラ達は適正の高い依代見つけて、方々に飛んで行ったと?因みに依代は人だけ?」
「残念、魂のある存在なら全てが対象だね。それこそ人間、亜人、知性のある魔物に至るまでね」
「知性のある魔物?」
「ほら、竜族とか」
レイは再び眉間を押さえる。正直、大変な事とは思っていたが、これ程酷いとは思っていなかった。しかも隣の少女はそれを宿命として背負わされている。
「因みにユーリはこの話、聞いてたの?」
「キャメルが目を覚まして、最初に聞いたわ。そして三日三晩絶望した。でも受け入れるしかないから、出来る事をしようと思った」
それは諦めの境地で、レイも全く同意見だった。なのでポンポンとその頭を撫でる。
「まあ困ったら助ける。これは約束だからね。ただ暫くは近くには居られないから、無理はするなよ」
この期に及んでまだそう言ってくれるレイにユーリは嬉しさがこみ上げる。本当は別にそこまでしてくれなくても仕方がないのだ。でもレイは気にせず、約束を守ろうとする。聖女だからとか関係なく、ユーリ自身を心配して約束してくれるのだ。本当は申し訳ない、関わらなくても良いと言いたいのに、ユーリは嬉しさのあまりつい甘えてしまう。
「うん、信頼してるわ、私の英雄様。他の誰よりもあなたの側が安心できる場所だって、私は分かっているから」
「ああ、ならその期待に応えられるように、頑張りますよ。心優しきお嬢様。あなたの笑顔が曇らぬようにね」
レイはユーリの事を聖女と呼ばず、ただのお嬢さんとして扱う。実際彼女はレイの目から見たらただの女の子だ。それはレイにとっては最初に会った時から変わらない思いだった。
◇
それから時間が過ぎ、春の足音が聞こえ始めたとある日、レイはクラスの教室でジークと話していた。
「いよいよ明日出立か?チッ、このタイミングで王都から離れるなんて羨ましい奴め」
ジークは本心でそう言っているようで、不満げな顔を見せる。しかしレイは全然気にしない。この一年近い付き合いで、良い意味で彼との間に遠慮はない。寧ろそれを揶揄うだけの余裕もある。
「最近ヘルミナ様に絞られてるんだって?うんうん、まあ王子なんだから少しは頑張れ」
「くっ、王都にいたらお前も使い倒される筈なのに、何だって俺ばかりっ。これもあのアホ兄貴のせいだ。あーっ、むかつくっ」
そうここ最近、ジークは積極的にヘルミナに駆り出され、帝王学なる扱きの渦中にある。勿論、レイもそれを知っておりだからこそそれをイジるネタにする。
「まあアレックス様は王都を離れるんだろう?なら仕方がないだろう。そもそもジークはサボり過ぎだったんだ。国王陛下の御容態も余り良くはないと御聞きするし、誰かしら代わりをしないといけないだろ」
レイはニヤニヤしながら、ジークを応援する。ジークはそんなレイに苛立ち気に文句を言う。
「チッ、人ごとだと思いやがって。ふん、そういうレイ、お前ものんびりはしていられないからな」
「ん?俺は気ままな留学生だぞ?秋には戻ってくるし、別に大きな問題なんてないぞ?」
レイは小首を傾げて、不思議そうな顔をする。ジークはレイとリーゼロッテの関係を知らない。なので彼がセルブルグに行ってどんな目に合うか知らない筈だ。しかしジークはそこでニヤリとする。
「ああ、レイは学院内で広がっている噂を知らないのか?今お前は、セリアリス嬢とリーゼロッテ王女の間で取り合いになっている景品という話になっているんだぞ」
「はっ?景品……?」
なんだその噂?そもそも景品ってもの扱い?とレイは呆れた表情を見せる。
「そうだ、景品だ。なまじ2人の護衛をしているものだから、2人が専属にさせようと争っているって話でな。まあ現時点でオッズはリーゼロッテ王女の方が優勢みたいだが。セリアリス嬢も虎視眈々と巻き返しを狙っているというのが、大方の見方だ」
「うん、そこには確実に俺の意思が反映されてないね。そもそも俺、領地持ちの貴族の嫡男で、護衛役をずっと続けるなんて有り得ないんだけど」
全く酷い話だ。確かにセリアリスは何と言っても公爵令嬢。リーゼロッテに至っては王女で王位継承権持ちの女王候補である。その2人の争いだから、護衛で景品扱いは仕方ないのかと思ってしまうが、それでも酷い。
「とは言え、その2人が子爵家に嫁ぐとは思えんから、護衛役なんだろう。出世かどうかは知らんが、あの2人の側に生涯居られるなら喜んでそうなりたいという奴らの願望だろうな。まあ俺はどっちも御免被るが」
「へー、ジークはあの2人に興味がないのか?見た目は勿論、性格だって良い娘達だよ?」
「フンッ、あの2人が誰に興味があるかくらいは見てればわかる。それにあの2人は強すぎる。俺に御せるとは思ってないよ」
ジークは意外に人を見る目がある。幼少時より厳しい環境に身を置いていたせいもあるのだろう。それにレイもあの2人を御せるかと言えば、自信は全くない。
「へー、あの2人に興味を持たれる奴がいるなんて、知らなかったな。羨ましい奴もいるもんだ。うんうん、羨ましい」
「まあ惚けるのも俺の前だけにしておけ。セルブルグではリーゼロッテ王女は勿論、セリアリス嬢も注目の的だろう。そんな2人に粉をかけようとする馬鹿は絶対に現れる。だからこそ、レイ、お前ものんびりはしてられないという訳さ」
「うへぇ、ジークそれ凄く有りそうなんだけど?ええっ、俺それを相手にしなきゃいけないの?凄い面倒臭いんだけどっ?」
「ハハハッ、王都を逃げる罰だな。まあお前もせいぜい頑張れ」
ジークはしてやったりとばかりにカラカラと笑う。今度はレイが忌々しくジークを睨むのだった。
◇
そして出発の当日。レイは馬に乗り王城の城門付近に来ていた。その日は奇しくもアレックス達の出立の日でもある。レイ達はジークや学院の生徒、教職員に見送られながらひっそりと出発をしたが、彼らは王城から出発し、王都の中を練り歩きをしながら、レイ達が出る門とは反対側から出発をするようだった。
因みにユーリとは昨日のうちにセリアリスと共に別れの挨拶を済ませた。ユーリはひっそりと旅立つレイ達を羨ましがったが、流石に王子と聖女達の出立である。国が宣伝も兼ねて告知もしたので当然ひっそりとはいかない。
特にユーリとエリカの2人は民衆から絶大な人気を誇っており、先の神殿の光のこともあり、神聖オロネス公国へ表敬訪問するとあって、多くの歓声を集めている事だろう。
アレックスも外見で言えば民衆受けする端正な顔立ちをしている為、背後に2人の聖女を侍らせる様は、きっと多くの民衆が国家安泰を感じているに違いない。それに今回、この訪問に際し、彼ら付きの戦士を選抜する武闘会が開催された。そこで優勝者、準優勝者が彼らの旅の同行者として選ばれた。
しかも2人はユーリの知人だったらしく、冒険者としてもAランクの冒険者でSランクにも届くかもしれないと言われている若手のホープらしい。武闘会は一般公開もされていた事からこの2人の人気も中々でこの出立も更に賑わいを見せているだろう。
しかしこちらは静かな門出だ。まあレイにしてみれば、この方がのんびりして気持ちが良い。今回は引き続きリーゼロッテとセリアリスの護衛役も兼ねているので、馬車には乗らず、馬上で過ごせるのも良いのだが……。
「やっぱセリー、君は馬車に戻った方が良くない?」
セリアリスは王城を出て街道に入った所から、レイの馬に乗り、今は手綱を持つレイの腕に包まれるように、横向きに座っている。
「あら、まだ乗ったばかりでしょ、折角の天気で気持ちの良い旅の始まりなのだから、少しくらい、楽しませて貰っても罰は当たらないと思うわ」
セリアリスは楽しそうに周囲に目をやりながら、微笑んでいる。街道に入ったばかりで王都からもそう遠くない場所なので、街道には行き交う人もチラホラといる。彼らは一様に羨ましそうな、それでいて仲睦まじい2人を微笑ましそうな顔で見ながら、通り過ぎている。
「はぁ、まあこんなのんびりとしていられるのも、最初のうちだけだから良いけど。この後はリーゼも乗せなきゃいけないらしいし、程々にね」
レイも周囲の人の目がなければ、別に気にする事もないのだが、往来もそうだが、クロイツェルまでの護衛で同行する軍のメンバーの羨ましそうな顔は、ずっと向けられているので正直ウザい。時折レイが睨みを効かせると慌てて目を逸らすので、そこまで気にする必要はないのだが、目の前の幼馴染みがそこまで魅力的な存在なのだと改めて気づかされ、正直テレるのだ。
「そうね、最初を勝ち取れたのは良かったのだけど、余り独り占めしても後が大変そうだしね。でもやはり最初は譲れなかったから、勝てて良かったわ」
「そうなの?」
セリアリスは元々負けず嫌いな所はあるが、それでも引く所は引くし、そういう意味では、負けても良いものならあっさり勝ちを譲る。でも今回がそうでは無かったという事にレイは少し不思議そうな顔をする。
「勿論、だって去年の春にレイと一緒に王都へ来たのよ。そして今度はレイと一緒に王都を離れる。去年、私はアレックス様の許婚だったから、こんな風に旅を楽しめなかったけど、今回は気にする事もないしね。だから今回は勝ちたかったの。だってやっぱ最初が良いものね」
それは真っ直ぐで純粋に嬉しそうな瞳だった。はにかむ事もなく、真っ直ぐに伝えられた言葉にレイはドキっとする。敵わない、セリアリスにはいつもそう思わされる。でもそれは決して悔しさがわくようなものではなく、むしろ憧れそして守りたくなるものだ。
「ふーん、そんなものかな。まあでも、俺もセリーが最初で良かったかな。取り敢えず、これからも宜しくね、セリー」
「ええ、勿論。これからも一緒よ、レイ」
初めての王都での生活は、セリアリスと出会った事から始まり、そのセリアリスと共に旅立つ事となった。まだまだ付き合いが続きそうなこの幼馴染みはレイの側をただ楽しんでいる。レイもまた、これからの旅にこの格好良い幼馴染みがいることを嬉しく思うのだった。
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