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第百十五話 ボス戦②

 少年の攻撃に反応を見せたのはメルテとユーリだった。メルテは岩壁、ユーリは魔法障壁を展開し敵の刃を防ぐ。


 ガガガガガガッ


 岩壁や魔法障壁にその刃が当たるたびに、障壁が悲鳴を上げる。アレックスは未だ攻撃が通じなかったショックが抜けず、茫然とその光景を見ている。そんなアレックスにユーリが大声を上げる。


「アレックス様、そう長くは持ちません。敵の注意を逸らして下さいっ」


 今この場で動けるのは、ユーリ、メルテの他だとアレックスのみだ。後は相手に気圧されて、金縛にでもあったかのように固まっている。そんなアレックスも先程の攻撃が渾身の攻撃であり、ユーリの檄にも反応が鈍い。


「アレックス様っ」


 再びユーリが叫ぶ。アレックスはそこで緩慢な動きながら立ち上がる。まだスキルブーストの効果は残っている。体も擦り傷程度で大きな怪我はない。そこでアレックスは再び魔力を高め始める。


「君の攻撃では僕には届かないよ。心も折れているみたいだし、まだやるのかい?」


 少年は動き出したアレックスをやれやれと言わんばかりに眺める。アレックスは一瞬ビクリッと反応するが、それでも気持ちを奮い立たせる。


『ふざけるなっ、ふざけるなっ、ふざけるなっ』


 それはアレックスの心からの怒りだ。現状、上手くいっていないのは分かっている。自分の力が足らないのもだ。それでもユーリ達は諦めずにいる。ならば自分もいつまでもへこたれては居られないのだ。そしてその怒りこそがアレックスの能力を大きく引き上げる。アレックスは一直線に少年へと走り出す。少年は少し目を細め、攻撃の手を緩めるとアレックスに対し、魔法障壁を張る。


 バリンッ


 アレックスの一刀がその障壁を瞬時に破壊する。そしてそのままその剣を少年の体に突き立てる。


 ザクッ


 アレックスの剣は少年の胸の中央に突き刺さり、誰もがやったかと希望を見出す。しかし少年は、笑みを浮かべてアレックスに言う。


「うん、今のはいい攻撃だったね。でもハズレ。やっぱり君は持ってないね」


 少年は刺さった剣を握りしめ、アレックスの体ごと振り払う。


「うわあぁぁぁ」


 アレックスは再び転げ回り、ユーリ達の足元まで飛ばされる。


「アレックス様っ」


 ユーリが叫び声を上げる中、アレックスの纏っていた魔力の光が、風船が萎むように消えていく。気を失いスキルブーストの効果が切れたのだ。


「これで今度こそ終わりかな。残念だけど今度こそ終わりにしよう」


 少年は再び光の剣を上空に浮かべる。ユーリはそれでも抗うべく、残る魔力を振り絞る。その時だった。後方にある神殿内部に入る為の扉がバタンッと音を立てる。


「あれ、これはお取り込み中みたいだね」


「リ、リオ様っ、どう見ても階層主との戦いじゃないですかっ」


 緊張感のない感想を漏らしたリオに対し、慌てた様に突っ込みを入れるエリカ。アレックスの部隊の者達は、唖然とした表情を浮かべる中、ユーリだけは安堵の表情を浮かべる。


「レッ……、あっいやリオ様っ」


 思わずレイの名を叫びそうになり、慌ててユーリは言い直す。レイはそんなユーリに目を向け、その奥の少年を見る。


「ああユーリ様、あれがこの部屋の主という事で良いのかな?」


 するとユーリが答えようとする前に、少年の方が口を開く。


「ふむ、最近の人間は奇妙な格好を好むんだね。今度は君が相手をしてくれると言う事かな?」


 レイは好きでこんな仮面を着けているのではないと突っ込みを入れたいのを堪え、その発言に軽口で答える。


「いえ、戦わず帰して頂けるならそうしますけど」


 少年はニヤリと笑みを溢し、首を横に振る。


「残念ながらそれは出来ないよ。まだ私は力が完全に戻っていなくてね。私の力だけでは、この場から動けない。因みに帰る為には、私を倒すしか方法はないからね」


「なら力が戻ったら一緒に外へ出るというのは?」


「ハハハッ、面白いね、君は。一応これでもこの遺跡に封印されているものだよ、僕は。そんなもの野に放ったら、大変な事になっちゃうよ?」


 少年は心底可笑しそうに笑い声を上げる。レイはそこでふと疑問に思う。そもそもこれは一体何なのだと。見た目はただの少年。ただ感じられる力は相当のものだ。ユーリや倒れているアレックスを見ても、歯が立たなかったのだろう。かと思えば、レイの軽口に付き合う様な余裕と知性がある。なので思い切ってレイは質問する。


「自分で大変な事になるとか言っちゃいますか。そもそも貴方は何者なのですか?何でこんな所に封印されているんです?」


「ククッ、君も大概豪胆だよね。まあその豪胆さに免じて、1つだけヒントをあげよう。この世界には神と呼ばれる存在がいるよね。恐らくその柱は六柱。でも本当にその数だけなのかな?」


 少年は教師が生徒に教える様に説明し出す。レイも六神教の教義は知っているので、素直にそれに応える。


「そうですね。俺の知る限りではそうなってますね」


「まあそれは真実ではないと言うのが、僕からの最大のヒントかな。それ以上は自分らで考えると良いよ。さて、無駄話もこの辺にして、そろそろ始めないかい?君と戦うのは楽しそうだ」


「いや、出来ればご遠慮したいんですが」


 レイは最後まで軽口を叩く。戦うのは最早避けられない。時間稼ぎも此処までの様だ。レイはそこで、アレックスの部隊の者達を見る。


「えーと、皆さんは()()()()動けない感じですか?」


「何っ」


 反応したのは近衛騎士団長のハイゼルである。またそれ以外の近衛騎士達もレイを睨みつける。レイはそんな彼らを嘲笑する様に煽る。


「だってそうでしょう?どう見ても3人以外働いていないじゃないですか?近衛騎士が要人に守られるってどうなんです?」


「クッ」


 まさに図星を突かれて、悔しげな表情を見せるハイゼル。レイはアーネストやエリクにもその矛先を向ける。


「ああアーネスト様やエリク様も教師の癖にとか、親友の癖にとか言われちゃいますね。だって見殺しにしてますものね」


「何っ、貴様っ」


 エリクはその言葉に反応しレイに掴みかかろうとするのを、エリカが間に入りエリクに言う。


「お兄様、リオ様の仰り様はあれですが、もう動いても良いのでは?少なくとも何もしないままだと、結果は見えておりますわ」


「くっ、エリカまで」


 エリクは悔しげにエリカを見るが、それが間違っていない事も理解する。確かに何を臆していたのだろう。圧倒的な存在感に畏怖し、誰一人行動するという気概すら持てなかったのだ。しかし今、レイに煽られた部隊の者達は、再び行動するという気力が湧いていた。レイはそれを見ながら、再び敵に目を向ける。


「わざわざ待っていてくれるなんて、お優しいですね」


「うんうん、どうせなら心の底から絶望を味わった方が、楽しいと思ってね。今更、人が増えた所で対して役に立つとも思えないしね」


 やはり相手はこっちの動きを待っていた様だ。なのでレイはその余裕に便乗し、最後にユーリとメルテの側に行く。


「ユーリ、相手はどんな奴?」


「えっ、うん、凄く強いわ。アレックス様が剣で突き刺しても血も出さなければ、つけた傷も直ぐに治っちゃうし。何より魔力が膨大で、こっちの攻撃も遮られちゃうし」


 するとメルテも話し出す。


「あれ強すぎ。私の魔法でも障壁を一つ破るので精一杯。それに当たったとしてもまた復活しそう」


 2人の話を総合してもとんでもない相手なのは理解できる。ただレイは1つだけ気になる事ができた。なので、それを試そうと覚悟を決める。


「ふーん、復活ね。まあなる様になるか。ああ、部隊の人達は気にしなくて良いよ。彼らはもう守られているだけの存在ではないみたいだから」


 レイはそう言って楽しげな雰囲気を醸し出す。


「もう良いかな、充分に時間はあげたと思うよ。まあ結果は同じだと思うけどね」


「ああ、待たせて済まなかったね。なら始めようか」


 レイがそう言うと、今度は全員が動き出す。そうしてボス攻略の第二ラウンドの火蓋がきって下された。



 まず動き出したのは魔法を駆使するメンバーだった。メルテを筆頭に、アーネスト、エリクが次々と攻撃魔法を繰り出す。攻撃は魔法障壁によりさっきと同様防がれる。しかし、人数が増えた分、威力も増し片手分の障壁は直ぐに破壊され、2枚目の障壁にぶち当たる。するとその2枚目も亀裂が入り、そこに近衛達が剣を突き立てる。


 ガシャンッ


 大きな音と共に2枚目の障壁も砕かれ、少年を防御する障壁がなくなる。


「ほう」


 少年は感心した表情を見せるが、慌てた素振りを見せない。近衛達は少年に近付き剣を振り下ろそうとした時に、光の剣が襲いかかる。


 ガキンッ


 近衛は辛うじて盾をかざしてその剣を受け止めると、後方へと弾き返される。そして1人又1人と剣の猛威に晒され、後方へと弾き飛ばされる。


「ぐああっ」「がはっ」「ぬおおっ」


 しかしその隙に魔法部隊が再度攻撃魔法を仕掛ける。


 バリバリバリバリッ


 しかしそれは再び張られた魔法障壁に阻まれる。一進一退、個の実力で劣るメンバーは数の力で押し切るしかない。ただそれでも力の差から、押し切れず再びジリ貧になっていく。


「ふん、まあ煩わしさは増えたけど、これで終わりかい?なら今度はこっちの番だね」


 再び用意される無数の光の剣、すると今度はそれがアレックスの部隊に襲い掛かる。


『ディーネ』


 レイの呼びかけにディーネが反応し、膨大な水の奔流が剣を飲み込む。飲み込まれた剣は奔流に掻き消され、水が消えると再び静寂が訪れる。


「ふーん、精霊かな?……契約者って事かな?」


 少年は考え込む様にボソリと零す。と同時に空気が変わる。先程まで余裕のあった空気が張り詰めたものに変わる。


「えーと、仮面の君、君はちょっと危険だね。うん、危険だな。だから少し本気で相手をしてあげるよ」


 少年は先程まで浮かべていた笑みを消し、無機質な表情へと変える。ああこれは不味い奴だとレイは直感する。するとディーネがレイに話しかける。


『主様、あれは神の気配ですわ。まだ弱々しいですが、間違いなく神の気配。逃げられるなら逃げることをお勧めしますわ』


『はは、そう出来るならそうしたいけど、ちょっと無理じゃないかな。何か手はないかい?』


 レイも出来るならそうしたいが、何やら自分を警戒し始めた少年が逃してくれるとは思えず、乾いた笑いを零す。


『そうですわね、もう少し相手の力が見えれば、何かわかるかも知れませんが』


『なら一踏ん張りするから、何か打開策を見つけてくれる?シルフィ、俺を手伝ってっ』


『手伝ウ、手伝ウ、シルフィ手伝ウ』


 レイはそのシルフィの返事に感謝を述べて走り出すのであった。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういや、転生者がいることはこの現在の主な6柱の神の仕業なのか、それとも他の忘却された神々の仕業なのか…。そういうことも今回考えさせられたなぁ…。 [一言] あれだな、自分には「ハーレ…
[一言] 次話が気になって仕方ない!、これに尽きる!!
[良い点] いいじゃん。みんなやる気になってボス戦っぽくなってきた。 [気になる点] ゲームならどう考えても中盤以降のボスキャラですけど、ケンカ売った1名本当に勝つ気があったの? [一言] レイが言う…
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