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第百十四話 ボス戦①

 アレックス達が神殿内に足を踏み入れるとそこは一番奥に祭壇らしきものがあるが、それ以外何もない広大なスペースだった。そしてその祭壇には明らかに異質なものがいる。黒い髪に黒い瞳をした只の少年。白いシャツにベージュのズボンをはいた少年がその祭壇らしきものに座りこちらを値踏みするように薄い笑みを浮かべ見ている。アレックス達はその存在にすぐに気が付くが、誰も声を上げることができない。それはその少年から発せられる圧倒的な威圧感によってであり、声どころか身じろぐ事さえ憚られた。


「あれ、上層階層主の存在は感じるけど、君たちはそれを倒してきたわけではないの? ……ああ、そういえば神の気配を感じるね。なら別の方法で来たのかな?」


 少年は透き通るような声で独り言を言う。言葉は平穏そのものでとても静かな声音だった。ただ誰1人としてその声を聴いても安心できない。むしろ背中に冷たいものが流れる。怖い、これが単純に今彼らが感じている感想だった。それでもそんな中、3人の人物達だけがその声に抗う意思を示す。


 1人はユーリ。彼女には先ほどから頭の中で警鐘が鳴っていた。あれこそが封印すべきもの、一目見た時にそれが分かったので、ユーリは気持ちを奮い立たせる事が出来た。そしてもう1人はメルテ。彼女は相手が強者なのは直ぐに分かった。その存在感は彼女の知る最強の存在であるスザリンを超えていたので、単純に驚いていたのだ。そして今は俄然やる気を出している。最後にアレックス。アレックスは最初相手に飲まれていた。単純にその存在感にである。ただ彼はすぐに自分の役割を思い出す。ユーリトゥルーエンドの場合、ここでボスを倒す必要があり自分にはそれができると確信しているからだ。


 なのでアレックスは先頭に立ち、その祭壇に座る少年に話しかける。


「貴様がここの階層主か?」


「階層主? んー、ちょっと違うけど、まあ似たようなものか。それでそれが分かったところで君らはどうするの?」


 少年はまるで子供が精一杯背伸びする様を見るように、上から目線でアレックス達を見る。確かに現時点では大きな力の差が存在する。しかしその差を埋めるすべがアレックスにはあるのだ。なのでアレックスは強気に言葉を返す。


「勿論倒すに決まっているだろう。貴様を倒さねば、我らは戻れんからな」


「ふーん、力の差が分かっていない……ってわけでもないよね。ああ、ちなみに帰りたければ帰っていいよ。僕はまだ力が戻っていないし、復活したてで、当分ここから出られないしね」


 少年はそう言って興味をなくしたように、手を払うようにひらひらと振る。アレックスはジッと少年を見るが、こちらの殺気もどこ吹く風でまるで関心を示さない。ならばとアレックスはメルテに小声で声をかける。


「メルテ、あ奴に強力魔法をたたきつけることができるか?」


 メルテはアレックスから話しかけられた事を嫌そうにするが、それでも返事だけはする。


「可能、効果があるかは分からない」


「構わん、俺も一太刀浴びせてみるだけだ」


 一方の少年は何やら仕掛け出す侵入者にニヤニヤしながらも、それを遮ろうとする気配はない。むしろ何をしようとするのか、楽しんでいる様だ。


「チッ、舐めやがってっ」


 アレックスは剣に光属性の魔法を纏わせつつ、少年へと切り込む。少年は祭壇から降りてその前に立ち、アレックスの突撃を見守る。アレックスがその剣を少年に振り下ろしたところで、剣がバチッと弾かれる。


「魔法障壁っ!?」


 アレックスはそれに構わず何度か剣を振り下ろすが、剣が障壁を破る事は無かった。少年は残念そうにアレックスを見ると、その右手を前にかざす。するとアレックスは何かに弾かれる様に後方へと飛ばされる。


「グウァーーーッ」


 アレックスが叫び声を上げながら後方で転げ回る。今度はメルテが仕掛ける。メルテは、少年の上空に巨大な灼熱の岩石を浮かべ、それを少年目掛けて叩きつける。


「メテオ」


 灼熱の岩石は物凄い勢いで少年目掛けて落ちていく。


「ほう」


 少年は感心する様にそれに目をやり、やはり軽く右手を上げて魔法障壁を張る。


バリッ、バリバリバリッ


 障壁と岩石の衝突。岩石は障壁を破らんと勢いを増し、障壁に亀裂が入り始める。


「ははっ、良いね、良いね。でもまだ足らない」


 少年は楽しげな表情を浮かべたかと思うと、左手も前にかざす。すると岩石が破壊しようとしていた障壁の後ろにもう一つの障壁が張られる。


ガガガンッ


 1つ目の障壁を食い破った岩石は2枚目の障壁の前に土煙を上げながら大きな音をたたてて消え去る。


「むう、良い線いってた。悔しい」


「はははっ、確かに最初の剣の攻撃に比べれば、凄く良かったよ。今の僕の力では最初の障壁では防ぎ切ることが出来なかったからね」


 少年は実に満足げに笑みを見せる。正直力の差があるのは分かっていたが、ここまでの差があるとは思っていなかった。まさに赤子と大人の戦いである。アレックスは心底悔しげに、少年を睨む。確かに奥の手を全部出している訳では無いが、それでもここまで通用しないとは思っていなかった。


『やはり奥の手を出すしか無いな』


 アレックスはそう決意する。奥の手の1つは「スキルブースト」。これで自身の能力を底上げする。そしてもう一つはとユーリを見る。


「ユーリ、君は神より新たな力を得たのだろう?それを今、使えるか?」


「新しい力ですか?……使えますが」


「ならば、我が剣にそれをかけてくれ、それが我らの切り札だっ」


 アレックスはそう断言する。聖剣付与、それがこのボス戦で最も効果的な切り札だ。聖剣は神をも滅することが出来る効果を発揮する。当然、目の前の少年にも効果は期待できる筈で、スキルブーストの能力引き上げを加味すれば充分勝機がある筈だ。


「え?」


 しかしユーリから返ってきた言葉は疑問の声。しかもアレックスを見る目もこの人は何を言っているんだろうという全く理解していない目だった。


「いや、新しい力、聖剣付与なのだろう?早く付与してくれ、メルテもそう長く持たん」


 今少年はメルテが全力で仕掛ける魔法攻撃の数々を楽しそうにいなしている。元々隙だらけの相手だが、こちらには一切の注意を払っていない。このチャンスを活かさない手はないのだ。アレックスは急かすようにユーリに目を向けると、ユーリが申し訳なさそうに言ってくる。


「アレックス様、私が慈母神様より与えられた力は、その聖剣付与とかいうものでは無いのですが……」


「はっ?」


 言葉の意味が理解できず、アレックスは変な声を出す。


「ですから、慈母神様より与えられた力は、封印する力。今使用すれば相手の力を抑える事は可能でしょうが、致命的なダメージを与える事は難しいと思います……」


 そこでアレックスは思い出す。確かにあった。相手の力を抑える魔法がと。アレックス自身、聖剣付与の力が大きすぎて、そっちは余り重要視していなかった。聖女が与えられる力のもう一つの方を。


「なっ、なら、聖剣付与は使えないのか……?」


「そちらは恐らくエリカ様に授けられた力かと。確か滅する力と仰っていましたから……」


 ユーリはそう考えながら答える。確か会議の時にアレックスにもそう説明した筈だ。ただその後アレックスはジークフリードとの口論で余りその辺りに深く触れていなかった。


「ああぁ、そう、そうだったな。すまぬ、勘違いをしておった。確かに封じる力だったな」


 そこで思いっきり目を泳がせるアレックス。明かに動揺が見て取れる。ユーリはそれでも自身の力を使うべきかの判断を仰ぐ。メルテを見るとそろそろ限界が近そうだ。その肩が大きく上下し始めている。


「アレックス様、どうされますか?このままでは遅かれ早かれ打つ手が無くなります。今なら相手の力を削ぐ事は可能です。ご決断をっ」


 アレックスはその声で、なんとか頭を切り替える。聖剣付与がない代わりに封じる力を使えば、同じ事ではないかと。なら自分の攻撃力を最大限にまで引き上げられれば、その攻撃が充分に届くのではないかと。


「よし、ならば我が合図とともに封じる力を頼む、俺はそこで最大攻撃を発揮する」


「はいっ」


 そして2人はお互いの切り札を切るべく、魔力を高め始める。そしてメルテの魔法が途切れた瞬間、まずアレックスがその力を解放する。


「スキルブースト」


 アレックスは全身に力が漲るのを感じ、その剣に光属性魔法を目一杯付与する。そして地面を蹴るのと同時にユーリに合図を送る。


「ユーリ、頼むっ」


「サンクチュアリー」


 ユーリが言葉を発すると少年の足元に丸い魔法陣が展開され、眩い光が立ち昇る。少年は目を細め、少し忌々しげな顔をする。


「ふんっ、封印術式か、ちっ、厄介なものを」


 少年はどうやらその円の中から動けない様で、仕方がないのでその場で腕組みをする。アレックスはここが最大好機とばかりに思いっきりその体を斬りつける。


ザクッ


 確かな手応えが感触として残る。少年は肩から胸にかけて斜めに切られた跡が残っており、人間なら血が吹き出して死に至る程の傷を負っていた。そしてアレックスが再度斬りかかろうとしたところで、少年が残念そうな表情を見せる。


「残念だ。その程度とは残念すぎる」


 その言葉と共に再びアレックスの剣は阻まれる。


ガキンッ


「なっ、くっ、うわあああーーーっ」


 不可視の衝撃に再びはじき飛ばされるアレックス。見ると少年についていた傷はみるみる塞がれ、直ぐに元の状態へと戻る。そしてユーリが張った封印もその両手が地につけられたところで掻き消される。


「ああっ」


 ユーリはいとも簡単にその封印が解かれた事に嘆きの声を漏らし目を見開く。すると少年はそんなユーリに優しげな声をかける。


「ああ、君が今代の聖女なのかな?今のは君が悪い訳ではない。勿論、君の力がまだ足らないのもあるが、君の力は慈しみ愛する力。そう守る力だ。倒したいと思う力ではないからね」


「えっ、あ、貴方は一体?」


 ユーリはそう言って改めて少年を見る。少年はユーリの視線に肩を竦めてアレックスを見る。


「因みに君は駄目だね。うん、駄目駄目だ。何故君がここに至ったのかが分からない。君は一体何をしたいんだい?」


 少年はつまらない物を見るように、アレックスに言う。アレックスはただ悔しそうにそれを睨む。しかし少年はそれすら興味を失ったかのように、アレックスを無視して祭壇の上に座る。


「まあどっちにしろ、もう審判は下ったかな。君らでは力不足だね、もう僕を止める事は出来ない。目障りだから消えて貰おうか」


 すると少年の頭上に数十本の光の剣が浮かび、その切っ先はアレックスの部隊に向いている。

そして少年は言う。


「バイバイ」


 その一言に反応する様に無数の剣がアレックスの部隊へと襲い掛かった。



面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何ていうかアレックスが今までどうやって生きてきたのか気になるな。 そう思う程に残念な思考回路。
[良い点] いつも楽しく読ませてもらってます。今後の展開も楽しみです! [気になる点] 救助が間に合って被害がゼロで解決してしまうと、結果的に犠牲がなく解決したとして王子の責任がうやむやにされる可能…
[一言] この王子糞過ぎる。ゲーム知識で行動して何も見えていない。早期の退場を願う。
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