第百十二話 我儘
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次の日の朝の会議は紛糾した。まず冒頭にユーリとエリカの神託の説明がされて、詳細に対する質問が飛ぶ。ただ本来神託というのは曖昧な要素を多分に含んでおり、明確に回答できないものも多い。特にユーリとエリカの神託の違いもあり、一同が頭を悩ませる。少なくともこの古代遺跡内での出来事で何かあるというのが見解が一致した部分だ。問題はそれが何なのかがわからない。なので、ここで意見が2つに分かれる。
1つはこのまま探索を続け、せめて何が解放されるかを確認するべきという意見。もう1つはこれ以上傷口を広げない為にも一旦退くべきという意見だ。そして前者はアレックスが強硬に主張し、後者はジークが冷静に主張している。レイ自身はリーゼロッテの護衛という立場なので発言はしないが、意見としてはジークに同意している。
「兄上、普通に考えてこれだけの大事、国王陛下にご報告しない訳にはいかないでしょう?」
「だから言っている、今の情報量で報告した所で、混乱を招くだけだ。せめて報告に足る情報を得るべきであろうと」
「しかしその結果、その彼のものとやらが解放されては元の子も無いと言っているのです。現状では、それが何を起因に解放されるのかも分からないのですぞ。そしてその危険もです」
アレックスとジークのやり取りは先程から平行線だ。ただハイゼルにしてもベルマンにしてもアレックスの意見には消極的で一度、国の重鎮に報告は上げたそうではある。次第に話はアレックスの劣勢に傾き、アレックスは業を煮やして強引に話を進めようとする。
「ならばジーク、お前の部隊は報告に戻るがいい。私の部隊はこのまま探索を続ける。ただメルテ・スザリンとリオ・ノーサイスは置いて行け。彼等は探索に重要な役割を果たす。報告に戻るくらいなら、必要は無いだろう」
最早我儘の域までアレックスの物言いは達しており、ジークは呆れて言い返す。
「そもそもリオ・ノーサイスの役目はリーゼロッテ王女の護衛で彼女と離す事は出来ません。それにメルテにしてもうちの部隊の重要戦力です。大体彼女を選ばなかった兄上が置いていけとは、話になりませんね」
「貴様っ、惰弱な考えしか出来ぬのかっ」
アレックスは激昂し、ジークに殴りかかろうとするのを、ハイゼル達に抑えられる。まさに一触即発の状況で、ジークが折れる。
「はぁ、分かりました。探索は継続しましょう。但し何か有事があった際は兄上、貴方の責任です。私は先に報告を上げるべきと主張しました。それを聞き入れなかったのは兄上です。宜しいですかな?」
「構わんっ、最初からそのつもりだ」
「ベルマン、ハイゼル、それにリーゼロッテ王女、皆が証人だ。宜しいですかな?」
「「はっ」」
「承知しました」
これで再び探索する事が確定する。アレックスを除く全員がその決定に疑問を抱くが、その責をアレックスが負うと断言したのだ。そうなっては、誰も嫌とは言えない。そんな皆が懐疑的な思いを抱く中、話を押し切ったアレックスは満足げな表情を浮かべるのであった。
◇
再びアレックスの部隊、ジークの部隊に分かれて探索が再開される。元々進捗の早かったジークの部隊は、慌てる事なく相変わらずマイペースで探索を継続している。部隊のモチベーションは変わらず高い。しかし急ぐ事はしない。それが隊全体の共通認識で、恐らくこの階層最奥にある階層主の部屋にも場合によっては辿り着かなくていいと思っている。
「それにしてもアレックス様は何であそこまで攻略にこだわったのでしょう?」
リーゼロッテが不思議そうにそう呟く。どう考えても攻略継続は合理的ではない。確かに情報が少なく報告として不十分というのは理解できるが、事はその内容だ。下手したら国の大事となる可能性さえあるのだ。次期国王候補筆頭とはいえ、無理が過ぎるだろう。すると殿のジークが肩を竦めて可能性を示唆する。
「兄上は先日王太子候補という話を白紙にされたからな。それで功を焦っている可能性はある。他にはユーリ嬢に良いところを見せたいとでも思っているか。まあ冷静さを欠いているとは思うがな」
「まあその辺が妥当ですかね。これで何かあれば、廃嫡すらあり得るというのに」
リーゼロッテのこぼした言葉にエリカが驚いて、声を上げる。
「えっ、廃嫡なんてあり得るのですか?」
「勿論、彼のものと言われる存在が何を成すかにはよりますが、それこそ災害級の被害が出れば、充分あり得ます。ああ、そうするとジーク様にはご都合が宜しいのではないですか?」
するとジークは心底嫌そうな顔をして、前にいるリーゼロッテを睨む。
「ふざけるなっ、何が悲しくて王などに成らねばならん。元々俺は王位になんて興味はない。そう言うのは他の候補者に言ってくれ」
「そうですか。ジーク様なら私どもセルブルク連邦とも上手くやっていけると思うのですが。中々上手くはいきませんね」
リーゼロッテは残念とばかりに溜息を吐く。まあ彼女自身、王位に興味がない事もあり、厳密には王位より興味があるものがあり、それに関心を示さないジークの気持ちが分からないでもない。
「それにしてもやはり気になるのはユーリ様です。こちらは強行軍とはなりませんが、あちらはそうもいかないでしょう」
エリカはもう1人の加護持ちであるユーリの事を心配する。こちらは注意を払いつつ、急がず動けるからまだ良い。しかしあちらはアレックスのいる部隊だ。無理を押した行軍になるのは間違いないのだ。
「そう思うからメルテちゃんをお預けしましたが、何もないと良いのですけど」
結局リオ・ノーサイスをアレックスの部隊には出せないので、仕方なしにメルテをアレックスの部隊に譲ったのだ。幸いユーリがいるからメルテの手綱を握る事は出来る。多少は攻略も楽にはなるだろうが、それでも統率する存在がいなければ、宝の持ち腐れだ。
「本当に変な事が無ければ良いのだけど」
シナリオを知るエリカだけにきっとそれは叶わないだろうと思いつつも、そう願わずには居られなかった。
◇
そしてジーク達の予想通り、アレックスの部隊は強行軍を強いられていた。メルテを中心にエリク、アーネストらが魔法で集中砲火をし、残党を近衛やアレックスが掃討する。火力が上がった分、攻略の時間は短縮されたが疲労の色は濃くなっていく。そんな様子をメルテは見ながら、不満そうな顔をする。
『こっちはつまらない』
ジークの部隊は全員が一体感があり楽しかった。こっちは何処か気持ちが通じ合っていなく、それぞれを気遣う素振りも見せない。唯一、ユーリが全体にフォローを入れて部隊を保っているが、リーダーたるアレックスの求心力は皆無のように思えた。
『やはりリーゼロッテは凄い』
これがメルテの素直な感想だ。他所に来てより一層彼女の良さが良くわかる。多分それはセリアリスにも通じるものがあり、気遣いと頑張らせる事のメリハリが判っているからこそできるのだ。
「メルテさん、大丈夫?」
「ユーリ、私の心配はいらない。この程度でへこたれる様な鍛え方はしていない。むしろユーリの方が心配。正直頑張りすぎ、休むべき」
自分の事を心配して声をかけてきたユーリの方が、疲れを感じさせる表情をしている。彼女はそれでも首を横に振り、笑顔を取り繕う。
「ありがとう、心配してくれて。でも私も大丈夫。セリーからもしたい様にしなさいって言われているし、今日は御守りも持っているから」
ユーリはそう言って風精石をあしらったブレスレットをメルテに見せる。メルテはそのブレスレットから感じる精霊の気配に目を細める。
「風の精霊?の力を感じる。前にレイが使っていたやつみたい?ん?レイいたっけ?」
「これは前にレイから借りたの。風の精霊が守ってくれる御守りだって。フフフッ、メルテさんはレイの精霊が分かるのね」
「フッフッフッ、セリアリスと一緒に会った事もある。あっ、これ内緒。ユーリ内緒にして」
メルテは自慢したくて思わず話した事に慌て出す。確かこれはレイから内緒でと言われていた奴だった。するとユーリはクスクスと笑い出し、メルテが安心する様に話してくれる。
「大丈夫、レイには言わないわよ。それにきっと私にならバレても良いかと言うと思うし。近い事は私も知っているしね」
「成る程、なら問題ない。むしろ私を慌てさせた罪で今度レイをボコボコにする。うん、ボコボコにしよう」
メルテの中では既にレイが悪い事になっている。レイにしてみればとばっちりも良いところだが、ユーリはレイなら大丈夫かと聞き流す。そんな少しだけ気が緩んだ所に緊張した声が響く。
「ユーリ様、何やら魔術で封印されし扉が見つかりました。アレックス様よりユーリ様をお呼びしろとの伝令です」
「封印された扉ですか?階層主の部屋の扉でしょうか?」
ただ階層主の部屋は階層の最奥なので、まだユーリ達はそこまで至っていない筈だ。ユーリが不思議そうにしていると、その伝令で来た騎士がその疑問に答える。
「階層主の部屋の扉では無い様です。それとは別の部屋の扉らしいのですが」
「わかりました。取り敢えず行ってみましょう」
そうしてユーリはメルテを伴い、その扉の前へと向かう。扉は確かに魔術的な何かで封印されている。
『これは入り口と同じ魔力で封印されてる様だけど……』
同じ魔力ならユーリにも封印が解けそうだと思ったところで、アレックスから声がかかる。
「ユーリ、わざわざすまないが、この扉の封印解けそうか?」
「はい解除は出来そうですが、これは何の部屋なのでしょう?」
ユーリは疑問に思った事を尋ねる。正直神託の件もあるので、無闇やたらに封印を解くべきではない。するとアレックスは扉に目をやり所感を述べる。
「階層主の部屋では無い事は確かだ。宝物庫かモンスターハウスか、その手の類のものだろう」
「宝物庫かモンスターハウスですか?どちらにしても今開けるべきなのでしょうか?」
ユーリとしては当然の疑問だ。宝物庫なら確かに惜しいが、今危険の伴う行動は控えるべきだ。宝物庫なら後日回収でも良いのだ。しかしアレックスはそんなユーリの懸念を一笑に付す。
「何、問題なかろう。宝物庫であれば、その彼のものを抑える魔道具が手に入るかもしれん。モンスターハウスなら扉を閉じれば済む事。恐る必要はない」
「ならばせめてジーク様の部隊を待つべきでは?」
これも正論で、ここまで無理をして行軍してきたので部隊も疲弊している。危険の可能性がある以上、態勢は万全にすべきだ。ただそれにはアレックスが難色を示す。
「ならん、向こうは向こうで別ルートの攻略を進めている。その役割は全うしてもらわねばならない。此処は我らだけで確認する」
アレックスの頑固な物言いに、ユーリは内心で溜息を漏らす。恐らく彼の意思は変わらないのだろう。ユーリはもう言葉を挟む事もせず、扉の前で魔力を集中する。閉まった扉が一人でにゆっくりと開き始める。そして扉の中から強烈な光が部隊を飲み込み、程なくして扉が閉まるとその場にいた部隊の人間は忽然と姿を消していた。
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