第百十一話 イベント消化
すいません、ちょっと本業が忙しく、投稿ペースが落ちる場合があります。展開に詰まっている訳ではないので、時間を見て更新はしていきますが、暖かい目で見守って頂けると嬉しいです。
ユーリとエリカは堰を切ったように話し出す。やはり内容は神託があった事で、彼女らもこのタイミングでそれがあった事に驚いているようだった。それに問題はその内容だ。非常に内容は宜しくない。何かしらが解き放たれ苦難やら困難を乗り越えなければいけないらしい。そして2人の話を聞いて微妙に違う内容も気になる。片や封印しろといい、片や滅せと言っている。これにはユーリもエリカもビックリで、互いにどうしたら良いのか、顔を見合わせている。
「これでお話は全部のようね」
2人の話に聞き入っていたリーゼロッテが、やや疲れた面持ちで区切りを入れる。まあ神託という厄介な代物だ。その内容も重々しい為、疲れが見えるのも仕方ないだろう。2人は同じように頷き、話したい事は伝えた事を意思表示する。
「それにしても、色々突っ込み所はあるけど、差し当たってどうするかを考えないと」
神託の内容を此処で議論しても結論は出ないだろう。なのでこの情報を如何すべきかをレイは考えるべきと言う。
「そうね、差し当たって両王子には、明日朝にでも伝えるべきでしょうね」
リーゼロッテもそれに応じて妥当な回答をする。まあ事が事だけにそうするべきだと思うし、ユーリやエリカもそれに応じて賛同する。問題はこの探索だ。こうなった以上、このまま探索を続けるべきかの議論になる。国王含め国の重鎮に判断を委ねるべきとの意見もあるだろう。なのでレイはその事も付け加える。
「問題はこの探索を打ち切るかどうかだろうね」
「打ち切るですか?」
エリカはリオが意図する事が分からず聞き返す。エリカの知るゲームシナリオでは、このまま探索を続行してアレが解き放たれる迄がセットだ。だからだろう、此処で止めるまで頭が及ばなかった。レイはそんなエリカに優しげな雰囲気で丁寧に説明を続ける。
「ええ、だってそうでしょう?此処で無理してその彼のものとやらを解き放つ必要は無いのですから。それがどういう条件で放たれるのかは知りませんが、放っておいて解き放たれるならとうの昔に解き放たれていると思いませんか?」
「成る程、そもそもこの古代遺跡を探索している時に何かしらのきっかけで放たれる可能性があると言う事ですか。確かに有りそうな話ですね」
エリカはそのリオの話に頷きながら感心を示す。確かに放っておけば、封印されたままなのかも知れない。なら無理して寝た子を起こさなくても良いのだ。するとユーリが少し考えながら話し出す。
「えっ、でも、慈母神様は歯車は動き出したと仰ってました。放っておけば、遅かれ早かれ放たれるのでは無いでしょうか?」
「そうですね、可能性は有ると思いますが、今すぐという事ではないと思いますよ。もしこの遺跡内に侵入した事がきっかけだとするのなら、もう既に解き放たれているでしょう。ただ今のところそんな予兆は有りません。ならそこまで急ぐ必要はないでしょう」
レイはそう淡々とユーリの疑念に答える。それにはリーゼロッテも賛同してくる。
「そうね、リオ君の話は一理あるわ。少なくともこの国の重鎮には話を通す必要はあるし、その後に再び探索でも遅くはないしね」
そしてそんな2人の意見にユーリも納得し始めたところで、物陰から人が現れる。現れたのは、アレックスで女子3人は驚きの表情を浮かべるが、レイは冷静にその登場を眺める。
「これはアレックス様、こんな夜分にどうされましたか?」
そんな言葉を発したリオをアレックスはギロリと睨みつける。それはこの長い夜が終わらない事を示唆していた。
◇
アレックスは実はユーリを探していた。この日は重要なイベントがある。彼は恐らく今日あたりに神託イベントがある事を予想していた。そしてシナリオでは、神託に気持ちを乱したユーリと偶然出会い、その心情を聞いて励ますというユーリトゥルーエンドへの重要なフラグ立てをする場面だった。なのでその日は彼に割り当てられたテントで眠る事もせずに、満を持してユーリを探しに出たのだが、確かにユーリは見つけた。しかしそこにはエリカや他国の姫リーゼロッテもおり、何故かリオ・ノーサイスまでいたのだ。なのでアレックスは思わずカッと来て飛び出してしまった。なのにリオ・ノーサイスは驚きもせずに質問をしてきた。なので思わずアレックスは睨みつける。
「貴様こそこんな夜更けに婦女子を囲んで何をしておる。よりにもよって、ユーリまでおるではないかっ」
しかしそんな半ば恫喝じみた言葉でもリオ・ノーサイスは動じず、淡々と答える。
「私は今宵の夜番ですよ。彼女らは私が呼んだ訳ではなく、夜番をしていた私の元に偶々きただけですよ。ああ、リーゼロッテ様は護衛の件で打ち合わせに来られましたが」
「はい、そうですわね。私は明日以降の護衛の件で打ち合わせに参りました。そこでユーリ様とエリカ様がいらしたのですわ。それよりアレックス様こそどうされたのですか?」
リーゼロッテはレイに話を合わせつつ、アレックスに話題を振る。別に此方は後暗い事がある訳ではないと言わんばかりの態度だ。すると答えに窮するのはアレックスのほうだ。そもそもゲームイベントを消化しにとは言えない。涼しい顔をするリーゼロッテを忌々しく思いながらも、なんとか返事を返す。
「くっ、わ、私は散歩だっ、偶々寝つきが悪く気晴らしに外へ出ただけだ」
「成る程、そうでしたか。なら都合が良いですね。今丁度、王子様達にもお耳に入れないといけないと話をしていたのです」
リーゼロッテは慌てるアレックスを無視して、話を進める。別に彼が夜に何をしようとしていたかなんて興味はない。あくまで話の主導権を握るのが目的なのだ。
「話とは?」
アレックスはそう聞くしかない。アレックスには何があったか分かっていた。ただそれを聞くのは、出来ればユーリと2人きりでと思っていただけに、つい口調がきつくなる。
「はい、実はユーリ様とエリカ様のお2人に神よりの神託がおりました。その事で明日にでもアレックス様をはじめ今回の探索の責任者の皆様にご報告をと話していたのです」
「神託が?ユーリだけでなくエリカにも?」
アレックスは思わずそう零す。ユーリはいいとしてエリカにも?なんで神託が2人に下りるんだと動揺したのだ。
「ええ、でもどうしましょう。話せば長いお話となりますから、明日他の方も交えてお話しさせていただくので宜しいでしょうか?」
「はっ!?いや折角だからこのまま話を聞きたいのだが?」
アレックスはリーゼロッテが不意に話を終わらせにかかったので、慌ててそれを止めに入る。完全にペースはリーゼロッテのもので、しかも可愛い女子が相手なので余り強くも言えないのだ。リーゼロッテはアレックスのそんな本質を見抜いているのか、アレックスを女性に対し配慮が足りないとやんわり非難する。
「ええそうしたいのはやまやまなのですが、私はともかくお2人は神に仕えし巫女様ですから、余り男性と夜遅く過ごすのはご配慮頂いた方が良いかと思うのですが」
「あ、いや別に変な事は……」
アレックスとしてはそんなヘンな事をするつもりは無いので慌てて弁明をしようとする。しかしリーゼロッテはそれを遮って話を続ける。
「いえアレックス様を疑う訳では有りません。ただ相手が国の王子であれば、尾ひれのついた話が広まるというもの。ましてや聖女と噂される方々ですから」
「くっ、ならそこにいるリオ・ノーサイスも一緒ではないのか?」
アレックスはリーゼロッテの攻勢を何とか覆そうと、同じ男でこの場にいる人物の名を挙げて反撃に出る。しかしリーゼロッテは少しも揺るがない。寧ろアレックスに対し呆れるように溜息を吐く。
「彼はただの護衛ですし今日は夜番をしているだけの人でしょう?アレックス様のように尾ひれが付くような立場にありません。引き合いに出されても意味がないと思うのですが?」
「くっ」
アレックスは悔しそうに言葉を詰まらせる。リーゼロッテの発言は正論で、むしろアレックスが留まる方が迷惑になる可能性があるのだ。するとユーリがアレックスに話しかける。
「アレックス様、取り敢えずリーゼロッテ様と偶然ですがお会いして、話が出来ましたので今日はもう休ませて頂ければと思います。また明日に他の方々も交えてご説明させて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」
その一言がアレックスに対する駄目押しだ。もうこうなるとアレックスが駄々を捏ねるわけにもいかない。なのでアレックスは渋々立ち上がる。
「いや確かに2度手間になるのは意味がないな。事が事だけに気が急いてしまった。また明日話を聞こう」
「はい、ありがとうございます、アレックス様。おやすみなさいませ」
ユーリはそう言って綺麗な所作でお辞儀をする。アレックスもその姿を見た後、再び物陰へと消えていく。それはもう後ろ髪を引かれる思いなのだが、アレックスにはどうする事も出来なかった。
そして暫くしてリーゼロッテがレイを見て小声で確認してくる。
「リオ君、どう?」
「ちゃんとテントへ戻ったみたいだね」
そこでリーゼロッテは盛大に溜息を吐く。
「はぁ、疲れた。それにしてもアレックス様ってユーリ様ばかり気にしすぎじゃないかしら?エリカ様もいるのに、そっちは気にも留めないし」
「あ、いや、私は別に気にして無いのでいいのですよ。寧ろその方が有り難いと言いますか……。アレックス様がユーリ様にご執心なのは有名な話ですしね」
リーゼロッテはアレックスが居なくなった事を確認した後、アレックスの態度にイチャモンをつける。ただそんなリーゼロッテにエリカは気にした素振りも見せず、淡々と答える。
「いやリーゼロッテ様、私としても困っていると申しますか、学友とはいえ立場が立場の方ですので、私より相応しい方が沢山いらっしゃると思いますよ」
「成る程、成る程、お2人はアレックス様には余り積極的ではないということね。まあ何となく気持ちは分かるけどね」
レイがだんだんと姦しくなる女性陣をみて、釘を刺す。アレックスを夜遅くだからと追い返したのだ。自分達もいい加減見習って欲しい。
「はいはい、皆さんももう遅いですから、寝所にお戻り下さい。余り話が盛り上がると眠れなくなりますよ」
「むう、リオ君、もうちょっと付き合ってくれたって良いじゃない」
リーゼロッテはそう言って駄々を捏ねる。レイはそんなリーゼロッテをあやすようにポンポンと頭を撫でる。それに唖然としたのは、リーゼロッテだ。レイとしては妹にする様についしてしまった事だが、王女でレイ以外の男子に興味のないリーゼロッテにしてみれば、その効果は絶大だった。その頬を赤らめ、嬉しげににやけそうになる表情を懸命に堪えている。
すると何故か不満げにユーリがレイの側に来るとジッとレイの顔を見上げて何かを訴えてくる。レイは仮面越しにも戸惑った雰囲気を醸し出すが、何となく逃げられないと思いポンポンと頭を撫でる。するとユーリは素直に嬉しそうに笑みを見せる。これは一体何の儀式だろうと思いつつ、レイは流石にエリカはないだろうと目を向けると、バッチリ目が合ってしまう。
「あの私も宜しいでしょうか?」
しかし事もあろうかエリカ迄もおずおずと申し出る。レイはこうなると1人だけ断るわけにもいかず仕方がないので、同じように頭をポンポンする。エリカは少しテレたようなそれでいて感心するような表情だ。なのでレイは溜息混じりに零す。
「あれ?本当に今日神託あったのか?」
結局レイはその夜番中、迂闊に人の頭を撫でるべきではないと反省するのであった。
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