第百八話 それぞれの古代遺跡攻略
アレックスは張り切っていた。多分ここにいる誰よりも出てきた魔物に突進し、そしてそれを屠ってきた。そして過度に突出する余り近衛騎士の出番さえ奪い、魔法支援をしようとしたエリクやアーネストの出番が無いくらいには活躍をしていた。それも一重にユーリに良い所を見せる為。彼の頭にはチート=モテるの図式が成り立っている。前世の時に嗜んだ小説は決まって強い奴がモテた。なのでそれを実践する。
加えて彼は新しい試みも行なっていた。魔法の威力を武器に付与する試みだ。これはレイ・クロイツェルの戦い方に着想を得ている。彼は自身の魔法を剣に纏わせ、その攻撃力を増大させていた。アレスを倒したのもその技術で、アレックスもその技術を真似して自らの剣に光魔法を付与し攻撃手段として模索していた。
結論として試みは半分成功、半分失敗。付与し攻撃する事は成功、ただしそれを維持して2撃目、3撃目を与える事は失敗。レイ・クロイツェルの様に攻撃し続ける事が出来ない。アレックスはそこで忸怩たる思いを抱く。レイ・クロイツェルに出来て自分に出来ないのだ。
ユーリへのアピール、クロイツェルへの対抗心この2つがアレックスのやる気の原動力となっていた。
「よし、ここいらの敵は一掃した!次にいくぞ、次に」
「ア、アレックス殿下っ、少しお待ち下さい。かれこれ何時間も休みなく彷徨き回っています。ここいらで休憩を入れましょう」
意気込んで更に進もうとするアレックスをハイゼルが慌てて押し留める。アレックスは不満げな表情を見せるが、周囲を見渡すと疲労の色が見え隠れしている。かれこれ古代遺跡探索を始めてから5時間以上、休みなく潜りっぱなしだ。緊張の強いられる古代遺跡において、疲れるなといっても無理な話である。
「アレックス様、申し訳無いのですが、私も少し疲れてしまいました。休憩を入れて頂けると有り難いのですが……」
ユーリが申し訳なさそうにしてアレックスに顔を向けると、アレックスはしまったとばかり直ぐに許可を出す。
「ユーリ、すまない。婦女子の体力を考慮して居なかった。ハイゼル、ここいらで休憩としよう。婦女子を危険な目に合わせるわけにはいかないからな」
「はっ」
その光景を見て、部隊のメンバーに安堵の空気が流れる。ユーリもその場をそっと離れていく。ユーリ自体は決して疲れていない。そもそも戦闘には参加していないし、この程度で音を上げる程柔な鍛え方はしていない。とは言え、部隊自体には疲労が見え隠れした為、声をかける事にしたのだ。
『はあ、こういうのは今までセリーの役割だったからなぁ』
セリーはユーリ以上に周囲の機微に聡い。当然、気遣いも秀逸で自然と周囲を惹きつけるカリスマ性があった。アレックスはと言うと周囲より自分が基準で俺について来いというタイプ。それはそれでカリスマ性なのだが、相手との信頼関係があって初めて効果が発揮される。未だ主従としての人間関係しか無い近衛騎士にとっては、義務による使命感しかなく命令には従うが、不満は出るのだった。
◇
一方のジークの部隊は緊張感とは程遠い、でも部隊のモチベーションは非常に高い。今は遺跡内の両脇が奈落の様に底が見えない橋の様なロケーション。ジークの部隊はそこで魔物と遭遇していた。相手はガーゴイルの形をしたゴーレムでどういう原理かはわからないが、橋の両脇に座していたガーゴイルが突然動き出し、橋の上を旋回し始めた。
「メルテちゃん、あれ落とせる?」
すっかり気安くなったリーゼロッテがメルテに確認をする。気がつけば、ちゃん付けになっているが、メルテはむしろ嬉しそうだ。
「フッフッフッ、余裕。ここで私の新技を披露する。レイとの試合用に開発した新技、これは誰も逃げられない」
メルテは両手を前にかざす。すると旋回するガーゴイルの頭上に巨大な岩壁が出来て、開いた手をグッと握りしめるとその壁がガーゴイル目掛けて真っ逆さまに落下する。ガーゴイルは当然それに巻き込まれて、橋と壁に押し潰される。
グジャッ
レイは何て魔法を自分用に開発しているんだと呆れた目をメルテに向ける。4体いたガーゴイルのうち、2体は完全に押し潰され残り2体も部分破損しており橋の上から飛び上がれないようだった。そこですぐさま前衛チームがそれらに攻撃を仕掛ける。そこで再びリーゼロッテからの指示が飛ぶ。
「弱点は心臓部分のコアです。そこを砕けば動かなくなります。そこを狙ってくださいっ」
すると前衛チームは心臓部分を狙って攻撃し、難なくガーゴイル達を駆逐する。そして1人が勝鬨を上げて全体が呼応する。それが一体感を高めて部隊の士気が上がるのだ。
『凄く良い雰囲気。これってやはりリーゼロッテ様のカリスマ性よね』
エリカは内心でそう感嘆する。エリカはこれまでアレックスを交えた戦闘しか対応していない。突出した戦力は非常に目立つのだが、彼は人を使うより自ら終わらせるタイプだ。でもそれで対抗できない場合、集団の力が必要になるのだが、そこが考慮されていない。この辺がリーゼロッテとの差なのだろう。
「リーゼロッテ様、やはりそのカリスマ性が凄いですわ」
「フフフッ、有難う。でも頑張ってくれたのはみんなだし、今回はメンバーが良かったのよ。メルテちゃんの魔法は勿論、前衛のみんなも頑張ってるし、何より1人異常な人がいるでしょう?」
そう言ってリーゼロッテが隣の仮面の男を見る。エリカもそれに納得の表情でああと頷く。
「そうですわね。何せここまで不意打ちが無しですもの。そもそも何処に敵がいるかを的確に言い当てるのですから、準備万端で臨めますものね」
「そうよどんな敵が何処にいるかがわかれば、対策を打てるもの。さっき私が索敵しろって言ったけど、ここまで完璧に出来るなんて、異常としか言いようがないわ」
リオ・ノーサイスの耳に聞こえる様な音量でリーゼロッテはあえて言っているのだが、彼は無関心を決め込みこちらに反応する様子がない。それがリーゼロッテには面白くない様で、リオの事をキッと睨みつけるがそれまた涼しい顔で無視をしている。
『本当にこの人何者なのかしら?』
そう言えば誕生会ではセリアリス様やノンフォーク公を守る様に賊を撃退していた。ノーサイスがノンフォークの縁者だと言うのは間違いなさそうなのだが、エリカの前世の知識でそんなNPCいたかしらと考えても、思い浮かばない。自分もそうだがレイ・クロイツェルといいゲーム世界にはいない規格外キャラが多すぎるのだ。
「そう言えばエリカさんも神の加護持ちなのよね?」
「はい、この夏に至高神アネマ様のお声を聞いて加護を授かりました。とは言えまだまだ精進が足りず、ユーリ様のお力には及ばないのですが」
ユーリの方が力が強いと言うのは事実だ。勿論、敬う神により得手不得手があり、それにより差が出る部分もある。とは言え、現時点ではユーリの方が能力が高い。恐らくこの力に慣れている年数の違いが如実に出ているのだった。
「それでもまだ数ヶ月でしょう、これからもっと力が発揮されるのよね。やっぱ凄いわ」
「おお、エリカも凄い奴?なら今度手合わせを……」
凄いの単語に反応したメルテが目を輝かせ始める。なのでエリカが慌ててそれを否定する。
「いえメルテさん、私はそういう強いとかの凄いではないので、セリアリス様の様なお相手は出来ませんよ!?」
するとリーゼロッテが気遣ってか、エリカにフォローを入れる。
「そうそう、エリカさんは戦闘に向いた凄いじゃないから。そう言うのはセリーかレイ君にお願いしなさい」
「むむ、それは残念」
メルテは、本当に残念そうな顔をするが、エリカはホッとするよりもリーゼロッテがあげた名前が意外だったのでその事をリーゼロッテに聞く。
「あれ? リーゼロッテ様はレイ様ともお知り合いなのですか?」
「ああほら、彼は学院内での護衛役だから。この間の対抗戦も見ているしね」
リーゼロッテは軽く目を剥くが、それでも平然とした口調でエリカに説明する。
「そうでしたか。ですよね、流石に貴族とはいえ地方の子爵家の嫡男ですから、お知り合いになる機会は無いですよね」
エリカはそのリーゼロッテの説明で納得する。ただそこで何故かリーゼロッテは少しホッとした顔をするが、エリカにはその理由がわからない。するとリーゼロッテの隣にいたリオが話しかけてくる。
「皆さま、また近くに魔物の気配がありますよ。お喋りはその辺りにして、戦闘に集中して下さい」
彼がそう言った後、程なくして魔物が現れる。本当に便利だ。どうしてそれが判るのかが判らないが、本当に味方だと頼もしい。
『レイ・クロイツェルといい、このリオ・ノーサイスといい、ゲームキャラじゃない方が当たりじゃないかしら。あっ、でも女子の方は、ゲームキャラの方が優秀なのよね。本当にどうしてこうなっちゃってるのかしら』
目の前にいるリーゼロッテも実はゲームで登場するNPCキャラだ。ここでこんな風に接点が持てるとは思わなかったが、その彼女も優秀で素敵だと思う。義兄であるエリクは優秀ではあるのだが大物感はない。エリカとしてはそれで良いと最近思い始めたが、それ以外の人間に魅力的な人が増えるとそれはそれで気になってしまう。
「エリカさん、前衛に対して防護障壁をっ」
そんな物思いに耽りそうになるエリカにリーゼロッテからの檄が飛び、意識を切り替える。
「はいっ」
今は戦闘に集中、折角楽しい仲間との冒険なのだ。自分のできる事で精一杯頑張らないと、エリカはそう思うと前衛メンバーに向けて聖なる光を輝かせるのであった。
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