第百七話 探索開始
暫くは古代遺跡探索編です!
12月の中旬に入り、ようやく神殿地下遺跡の第一次探索が始まる。参加者は、近衛騎士、軍関係者から約10名、神殿から5名、王立学院から5名、セルブルグ連邦を代表してリーゼロッテ王女が参加している。ちなみに王立学院からは、アレックス、ジーク、メルテに加えエリクとアーネストが参加している。また神殿枠でユーリとエリカが参加しており、学院の生徒という括りなら6名が参加している。そしてそれらのメンバーとは別枠で1名の追加が探索初日に発表された。
仮面の姿の軍人。国賓であるリーゼロッテの護衛役としてリオ・ノーサイスの参加である。彼の名はここにいるメンバー全員から良くも悪くも驚かれた。彼に対し敵愾心を露わにする近衛騎士達、一方の軍関係者からは羨望の眼差し、学院側や神殿側からは好奇の目で見られる事となり、その様子にリーゼロッテが小声で話しかけてくる。
「ねえねえ、リオ君、なんかすごく注目されているんだけど!?」
「うん、まあちょっと色々あってね。まああんまり触れないで」
レイはそう言ってやんわりとリーゼを宥める。まあこの状況だとそう思われるのも仕方がないが、別に目立ちたいわけでもない。なのであんまり気安く話しかけて欲しくはないのだ。
「まあこの場は良いわ。後でちゃんと聞くけどね」
「そうしてくれると助かる。ここは護衛と護衛対象という役割でね」
レイは案外察しが良いリーゼロッテにホッとして、今回の探索の仕切り役である近衛騎士団の新団長ハイゼルの話に耳を傾ける。
「ではこれより遺跡内の探索を始める。この遺跡に関しては情報が少ない。分かっているのは、相当古いであろう遺跡である事。またその歴史は神代にまで遡れる可能性がある事。そして王家古文書に記された何かしらのものが封印されし場所である事だけだ。それが福音なのか厄災なのか、はたまた財宝の類なのかは分からない。また高度な魔法技術が施された建造物である事から、それを守るガーディアンの類も想定される。内部構造も相当の広さが想定されるので、チーム分けをして探索を開始する。ここまでで質問のあるものはいるか?」
そこでアレックスが質問する。
「そのチーム分けとはどうなるのだ?」
「今回総勢で22名。それを半分に分けて11名ずつとします。連携の兼ね合いもありますので、近衛、軍の人間で半分づつ、学院側、神殿側は2名、3名で分けていただき、2名の方にリーゼロッテ王女殿下達に入って頂こうと思っています」
「ならば学院側は俺とエリク、アーネスト先生の3名で、神殿側からはユーリとエリカの2名を指名したいのだが?」
アレックスはそう言って早々にジークと別れる事を選択する。ただこの発言にハイゼルは難色を示す。
「学院の振り分けは問題ありません。ただ神殿内では神の加護持ちの力が必要になる可能性もありますので、聖女のお二人には別れて頂く必要があります」
それを聞いてアレックスが困った表情を見せる。心情的にはユーリ一択なのだが、エリクの手前エリカも手許に置いておきたかったのだ。するとそんなアレックスの心情をわかっているとばかりに、エリカが名乗りでる。
「それならば、私がジークフリード殿下側に参りましょう。ユーリ様はアレックス様の方にお願いします」
「えっ、それなら私がジークフリード殿下側の方がいいのではないですか?メルテさんとも友人ですから」
エリカの発言にユーリが驚いた様にその逆を申し出る。しかしエリカも此処は譲らない。
「いえ、私もAクラスの方以外にも交友を持ちたいと思っていましたし、いい機会ですので此処は私にお譲り下さいませんか?」
「まあそこまで仰られるのであれば」
そこで事の成り行きを見守っていたハイゼルが口を開く。
「では聖女のお二人は、ユーリ様がアレックス殿下側、エリカ様がジークフリード殿下側という事でお願いします。それとリーゼロッテ様は人数の兼ね合いで申し訳ないのですが、ジークフリード殿下側でお願いします」
「はい、私はそれで問題ありませんわ」
こうしてチームの組み分けも終わりいよいよ神殿探索が始まろうとしていた。
◇
「ではこのジークフリードがこの部隊を預かる事となった。勿論若輩者ゆえ、実際の指揮は補佐であるベルマン中将に委ねる事になるが、精一杯勤める様にするので、宜しく頼む」
探索前に部隊ごとでの簡単な打ち合わせの場でジークがそう発言する。部隊責任者は王族であるジークが選ばれ、実際に指揮は軍の高官であるベルマン中将が担うこととなる。そしてその中将がジークの後を受けて話し出す。
「部隊の編成は前衛を軍の方で引き受けます。女性の4名は中衛で必要に応じて魔法援護をお願いします。殿は私とジークフリード殿下が務めます。それでリオ殿ですが、貴方には遊撃をお願いしたい」
「遊撃?」
「はい、貴方の事はノンフォーク閣下よりリーゼロッテ様の護衛役と伺っております。ですので、貴方には部隊で役割を担うよりも状況に応じて動いて頂きたい。優先順位はリーゼロッテ様の安全を最優先で構いませんので」
レイはまあ妥当な所だろうと素直に首肯する。流石に国外の要人に何かあっては不味いし、無理はさせられない。本来であれば、危険と分かっていれば、参加しなければ良いのだが、今回の探索同行はセルブルグ連邦側の要望でもあるので、致し方なかった。
そうして各部隊での打ち合わせも終え、神殿前の大扉の前に一同が立つ。そしてその前にユーリが1人足を進め、その両手をかざすと淡い光に全身が包まれる。
「おおっ」
誰もがその光景に感嘆の声を漏らすと何かが弾ける様な感覚が伝わる。するとユーリは振り返ってニコリとして言う。
「解除出来ました。もう中へ入れますよ」
至極あっさりとしたものだった。それ以前に押したり引いたり魔法解除を行ったりとあの手この手を使って扉を開けようとしたが、全く駄目だった。それを簡単に解除したユーリに感嘆の声が上がる。
「流石は聖女様と謳われるだけの事がある。正直此処までとは思わなかった」
そう感想を漏らしたのは近衛騎士団長のハイゼル。他にもユーリを褒め称える言葉が続く。ただ当の本人は恐縮する事しきりで、居心地の悪い表情をする。本音で言えば、神の加護の力なので、ユーリ自身が努力して勝ち得た力では無いと思っているからだ。しかしそんなユーリに満足げな表情をアレックスは見せ、ユーリを褒め称える。
「流石はユーリ、見事なものだな。我らには勝利の女神がついている様なものだ。臆する事なく遺跡探索をしようではないか」
「「「おうっ」」」
ユーリはそれになんとか作り笑いを返し、意気揚々とアレックスの部隊が扉の中へと入っていく。するとジークがぼそっと零す。
「勝利の女神って遺跡の探索に必要なのか?」
レイは思わずそれに反応しそうになるが、グッと堪えて、内心で答える。
『うん、間違いなく必要ないな』
その事はジークの部隊では誰もが同じ様な事を思うのだった。
◇
さて遺跡探索に入り、予想外にリーゼロッテの知識が役に立つ。元々部隊のメンバーには最初彼女は遺跡探索ではお飾り的な存在だと思われていたが、セルブルグ連邦というお国柄、古代遺跡には慣れており、軍の人間より役に立つ存在になっていた。特に彼女がその才能を発揮したのが、魔法生物やゴーレムといった古代遺跡でお約束の魔物の対処方法である。
魔法生物やゴーレムには必ずコアといわれる核となる部分がある。そのコアを破壊しない限り遺跡内の魔力供給により復元するのだが、リーゼロッテの指示によりそのコアの場所が的確に指示されるので魔物討伐が格段に捗るのだ。
「ほらその魔物はコアが頭部の額にあるでしょうっ、そこを打ち抜きなさいっ」
「メルテ最大火力っ、スライムは火で縮むからその時コアを破壊なさい」
彼女はいつの間にかメルテと仲良くなっており、メルテもリーゼロッテの指示には素直に従う様になっていた。
「ほら、リオ君手を抜かないっ!なんならリオ君1人で対処出来るでしょうが」
「いやリーゼロッテ様の護衛が俺の本分なんだけどっ!?」
しかも事ある毎にリーゼロッテはレイを使い倒そうとする。遊撃で護衛最優先にも関わらず、その護衛対象がそんな有様だ。
「ほらっ、つべこべ言わないっ、真面目にやらないと護衛くびだからねっ」
それならいっそ首にしてくれと言いたい所だが、そうもいかないので、レイは仕方なく敵へと切り掛かりに行くのだった。
そして魔物を制圧後、再び遺跡内の通路でレイ達はゆっくりと探索を進める。隊列は前衛4名中衛4名後衛2名でレイは中衛の脇でリーゼロッテの隣を歩いている。中衛は全てが女性でエリカの他に割り振られた神官も妙齢の女性の司祭だった。女性が4人もいれば姦しくなる。しかも全員美女揃いと言うこともあって、前衛の軍の者もその会話に興味深々だった。
「それでその男性に会えるかもしれないという事で、今回志願されたんですか?」
しかも話題の中心は恋バナ。リーゼロッテがエゼルバイトに来た理由が語られているのだ。そしてその質問を投げかけたエリカに対し、リーゼロッテが嬉しそうに返事をする。
「ええそうなの、それなのに彼ったら他の女の子にもチヤホヤされちゃって、本当酷いのよ」
この話、勿論人が特定出来るような内容は一切含んでいない。それでも本人が聞いて楽しいものでもないので、レイは冷や汗をかく。
「ええっ、リーゼロッテ様ほどの方が無下にされるなんて信じられませんわ。しかもこの国の若い貴族でなんて、本当に誰なのかしら?」
「ふむ、リーゼロッテが邪険にされているので有れば、その男焼く?」
謎の食いつきを見せるエリカと唯々物騒なメルテ。レイは何だその焼くってと内心でツッコミを入れる。そしてこのままだと事態に収拾が付かなくなると危惧したレイは、思い切って横槍を入れる。
「リーゼロッテ様、流石に危険な遺跡探索中です。お戯れも程々に願います」
レイの勇気を出して話したその一言に、後衛のベルマン中将がウンウンと頷いている。いや頷く前に中将に言って欲しかった。レイがそんな中将にガッカリしている所で、リーゼロッテが言い放つ。
「あらリオ君、君がいるのに危険を察知出来ないなんて事無いわよね?王太后様も太鼓判を押されていた貴方の実力なら問題無いと思っているから、雑談に興じているのだけど」
「そうですか。そこまで信頼頂けているとは光栄の至り。そうそう、ならばこの事セリアリス様にもご報告しましょう。リーゼロッテ様から熱い信頼を頂いたと知れば、さぞかしお慶びになるでしょうから」
しかしレイもやられっぱなしではない。なので別方向から諫言を入れる。セリアリスとレイが仲良くするのを面白く思わないリーゼロッテなら、効果覿面の策である。案の定、リーゼロッテはレイに食ってかかる。
「セリーは関係ないでしょ!?あの子にバレたら後でネチネチ言ってくるんだからっ」
「あれ、リーゼロッテ様はセリアリス様ともお知り合いなのですか?」
「ん?セリアリスと友達?私も友達。おおっ!みんな友達!」
リーゼロッテの一言で話が別の方へと飛び火する。結局恋バナは別の方へと話が変わり、レイは違う話ならまあ良いかと諦める。
しかし部隊の緊張感はあいも変わらず霧散したままであり、結局ベルマン中将は肩を落としたのだった。
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