第百二話 レイ 対 アレス
戦闘シーン、まだまだ文章が下手だなぁと反省する日々です。もっとカッコ良くしたいんですけどね。
レイは静かな面持ちでその舞台へと足を進める。周囲からは多くの歓声が上がっている。どちらかと言うとアレスの勝利をほのめかすものが多いのかも知れない。まあ此処まで見た限りほぼ敵を寄せ付けない強さだったので、それも仕方がないかと思う。そしてふと敵陣営を見るとセリアリスと目が合う。彼女の目はレイにのみ注がれており、微塵も不安を感じていない様子だ。そこでようやくレイが表情を崩す。少しだけ苦笑いを見せた後、再び正面に目をやるとレイのその笑みが気に食わなかったのだろう、アレスの表情がより厳しくレイを見据えていた。
「チッ、雑魚の分際で余裕振るとは、本当に身の程が分かっていないようだな?」
「そうですね、身の程はわかっていないかもしれませんね」
レイはそう言って安い挑発を無視する。別に虚勢を張って余裕ぶっている訳ではない。余裕を失う程の危機を感じていないだけだ。ただその余裕がさらにアレスの神経を逆撫でする。
「貴様っ、この俺と戦って五体満足で居れると思っているのかっ」
「勿論、そういられるようそこそこ頑張りますよ。そちらも気を付けて下さい。陰でコソコソやる事しかできないような小物なんですから」
激昂するアレスに対しレイは更に挑発を重ねる。自尊心の無駄に高いアレスにもっとも効果的な言葉を選んで煽り立てる。するとアレスはドスの効いた声で吠える。
「なにっ、貴様死にたいらしいな」
「ええ出来るものならどうぞご自由に、ただし、俺の友人を傷付ける様な奴は俺こそ許さないけどな」
レイは最初こそ戯けた素振りを見せるが、直ぐに厳しい目付きでアレスに圧を掛ける。そうして両者が睨み合った所で、審判から開始の合図がかかる。
「それでは第二試合、始めっ」
その開始の声が言い終わるかと言った所でアレスが上段から切ってかかる。普段のレイならば軽くそれをいなす所だが、今日は完膚なきまでにアレスをへし折ると決めたので、その振り下ろされた剣を真っ向から打ち返す。
ガキンッ
体躯で勝るアレスの一撃にレイは劣勢を強いられると誰もが思ったが、初撃の打ち合いを制したのはレイだった。今回はさっきの3年生の時の様に風を剣に纏わりつかせた訳ではない。それでも打ち負ける事なく、弾き返したレイにアレスが驚愕の表情を浮かべる。レイはそのまま切り掛かっても良かったのだが、敢えてそうはせず、バックステップで距離を取る。
「そんなもの? これで全力か?」
レイは安い挑発をアレスに繰り返す。半分は本心、ただもう半分は駆け引きである。そしてアレスはその安い挑発に乗る。顔を赤らめ、再び魔力を充足させ身体強化を重ね掛けする。そして更に引き上がった身体能力で連撃を繰り出す。
『ほうまだ速度が上がるのか』
繰り出される斬撃を弾きいなして掻い潜りながら、レイは素直にそれを評価する。確かに速度は上がった。威力も申し分ない。だがそれだけだ。剛の剣とは圧倒出来なければ単調な剣に他ならない。力が拮抗した時点で見切るのは簡単だった。なので、レイは敢えて隙を見せる。力に押し負け態勢を崩す。アレスはその隙を見逃さない。否、隙と見せかけた罠に気が付かない。アレスは勝利を確信し必殺の一撃をレイに繰り出した。
ドガッ
しかしアレスの剣は空を切り、そのまま地面に叩きつけられる。レイは既に無防備になったアレスの側面に回り込み、アレスの腹部に思いっ切り蹴りを入れる。
「何っ」
完全に虚を突かれたアレスはその蹴りを受けて場外すれすれまで吹っ飛ばされる。観衆もレイの動きが理解できず、やられたと思っていたレイがアレスを吹っ飛ばした事に唖然として声をなくす。
「おいおい、今何があった?」
「アレスの剣がDクラスの奴を捉えた筈だろ?」
「いや俺には見えた、振り下ろした時にはもう横にいたぞ!?」
ポツポツと交わされる観客の会話が引き金となり、会場が事態を飲み込み始める。すると会場は大歓声に包まれる。
「スッゲーッ、何今の?マジつえーっ」
「うそアレスこのまま負けちゃうの?」
「うおーっ、さっきのセリアリス様以上の大番狂わせじゃねーっ」
レイはそんな観衆の歓声を余所に、未だその目線はアレスを捉えて離さない。別にこの程度で終わらせるつもりはない。叩くならトコトンその戦意を挫く必要がある。なので敢えて蹴りを入れたのだ。するとその怒りの形相のまま、アレスがムクッと立ち上がる。
「貴様、貴様、貴様ァ! 許さん、絶対に許さんぞ!」
激昂するアレスの雄叫びは、大歓声をものともせずに、その声が会場に響き渡る。観衆もその声を聞いて、パタリと静寂が訪れる。ただレイはその様子を見て、もう勝負がついたなと確信するのだった。
◇
「馬鹿者がっ……王妃様、申し訳ありませんが、この勝負息子の負けでしょう」
眼下で雄叫びを上げる息子の様子を見ながら、アレスの父であるグレイス卿は同じく貴賓席で見守る王妃ヴィクトリアに謝罪する。確かに既に1回にダウンを喫したとは言え、今の様子ではさしたダメージもなく、むしろ闘志は増すばかりだ。決して負けを認めるような状況には見えずヴィクトリアは不思議そうな顔をする。
「グレイス卿、まだ勝負が決する様な状況には見えませんが、そこまで差のあるものでしょうか?」
「そうですな、心技体この3つで比べた場合、技は対戦相手に分がある様に見えます。体に関しては五分か息子に多少の分があるかも知れません。ただ、心に関しては明かに優劣が付いています。最早相手の選手は勝ちを確信しているでしょう」
グレイス卿はそう言って、両者の比較を簡単にする。元々アレスの剣には余裕がない。驕りはあっても余裕は無いのだ。逆に相手の選手には驕りはなく余裕がある。そしてアレスの驕りを増長させてその剣を曇らせている。別に特別な事ではない。戦闘であれば、当たり前の駆け引きなのだが、それが見えていないのだ。
「ふう、そうですか。忌々しい事にセリアリスさんの勝利がアレックスのクラスを救う事になりそうですね」
ヴィクトリアはそう言って婚約破棄が決まったセリアリスの活躍に不服そうな顔を見せる。とは言えアレックスの出番無しというのも、それはそれでその力を見せつける必要が出てきただけに困るので、この結果も仕様がないかと溜息をつく。
『それにしてもあの対戦相手、先程対峙したあの男に似ている……』
グレイス卿は既に息子には関心を示さず、その対戦相手を凝視する。あの佇まいにグレイス卿が見せた殺気に対しても柳の様に受け流す余裕。何よりあの揺るがない意志を示す瞳がそう思わせる。勿論あのものがその中身とは思わない。何故なら今別の貴賓席にはあの男の姿も確認できるからだ。
『縁故関係を探ってみるか?』
まあそれは今すぐどうこうする必要はない。今暫くは雌伏の時。グレイス卿はそう思うと再び眼下の結末をその目で追うのだった。
◇
一方の貴賓席では、リーゼロッテが引き続き興奮状態だった。未だ戦績で無敗を誇るアレスに対し、レイは危なげない試合運びを見せている。正直、真正面から撃ち合いに持ち込んだ時は少しハラハラもしたが、それに打ち勝っての優勢なのだ。リーゼロッテでなくても盛り上がらずにはいられなかった。
「おじ様、凄いです、レイ君凄いです! 体の大きい相手にも力負けしないで、本当に格好良いです!」
「リーゼロッテ様、少しは落ち着いて下さい。あれ位なら当然でしょう。それに今回は上手く相手を嵌めている様ですしね」
「嵌めるですか?」
リーゼロッテはそう言って小首を傾げ、不思議そうな顔をする。するとヘルミナもその辺りの機微を理解しているのか、カインの言葉に賛同する。
「そうだね、ありゃ完全に嵌めてるね。ほらあのグレイスの小僧は増長しやすいタイプだ。驕りは視野を狭くする。レイはその事を分かっているから安い挑発でもして相手を嵌めたんだろうて」
「ハッハッ、流石は王太后様、ご明察ですな。今王太后様が言われた通り、相手の視界は今曇っております。ああなれば、打ち負かすのはそう難しい話ではないでしょう。とは言え、息子はもっと心を折りにいく様ですがな」
カインはそう嬉しそうに現状を説明する。まだ王都に来てから息子とは顔を合わせてはいない。ただ息子はこの王都に来てからも、変わらず己の思うままに真っ直ぐ生きている事を嬉しく思う。
「むーっ、それ程までにセリアリス様の事が大事で腹を立てたという事でしょうか。ちょっと妬けるんですけど」
しかしリーゼロッテはそんな感慨を気にする事なく、少し不満顔だ。まあ婚姻云々は兎も角、息子をそこまで慕ってくれている事にカインは嬉しくなって、優しくリーゼロッテをフォローする。
「もしリーゼロッテ様が同じ様な状況になっても、アレは同じ様に腹を立てますよ。昔から身内には甘い奴ですから」
「それは分かってますわ、おじ様。でも出来れば1番になりたいと思うのが、女というものなのですよ」
リーゼロッテはそう言ってカインにニコリとする。やはり女性には敵わない、カインはこれからの息子の苦労に少しだけ同情するのだった。
◇
雄叫びを上げるアレスに対し、レイは嘲笑でそれに答える。
「クククッ、許すも何も何一つ出来ていないじゃないか? それは弱い奴ほどよく吠えるってことかな? そういきり立つなら、せめて一撃でも攻撃を入れてから言ってくれるか?」
「クッーーーーーー、コロスッ」
嘲笑も挑発も心を折るための布石。力、強さを拠り所にするアレスに対してその拠り所で凌駕する。レイはここで初めてその剣に風を纏わせる。そしていきり立って振り下ろすアレスの剣を思いっ切り打ち払う。
カーンッ
レイの剣と合わさった瞬間、アレスの持った剣が上空へと舞い上がる。
「なっ」
そしてレイはすかさず風を纏った剣を横薙ぎにして、アレスの胴をその剣で打ち付ける。
ガキンッ
剣は鎧の胴体部分に当たると同時に激しい金属音が鳴り響く。そしてそのままアレスを場外の壁面まで弾き飛ばす。
「ガハッ……」
弾き飛ばされたアレスは胴体部分がひしゃげて、口から泡を出し白目を向いて前のめりに崩れ落ちる。正に力押しによる圧勝。レイはそこでフーッと一息吐く。
ワァーーーーーーッ
歓声がその瞬間湧き上がる。下馬評を覆しての圧勝劇、観客の興奮は最高潮に盛り上がる。レイはそんな中少しやり過ぎたかな、などと思い苦笑いを浮かべた後、敵チームにいるセリアリスと目が合う。セリアリスはやれやれと言った表情を浮かべた後、それでも「ありがとう」と口元を動かした様に見えた。
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