第百話 準決勝
祝100話!いやー思えば遠くに来たものです!
レイ達のDクラスは2回戦もメルテの3人抜きで準決勝進出を果たす。他も下馬評通りで3年のBクラス、2年のCクラスが残っている。因みにこの準決勝から勝ち抜きではなく各選手の勝敗で2勝を挙げたチームが勝ち上がる形となる。レイとジークはここまで一度も対戦をしてない為、その実力は全く知られておらず、この準決勝で初お目見えとなる。
そして同じく勝ち上がって来たAクラスも同じような状況で、此方は先鋒のアレスが1回戦、2回戦共に3人抜きをしている。此方もセリアリス、アレックスと言ったメンバーは1度も戦っておらず、その実力はベールに包まれていた。
そして準決勝。アレックスのAクラスは2年Cクラスとの対戦。此方は先鋒アレス、2番手のセリアリスが順当に勝ち、アレックスは温存された。アレスは近接戦闘特化で、相手の間合いに一気に駆け寄りその剣で一刀両断している。その剛剣は魔法による致命傷阻害の処置がされたフィールドだからこそ致命傷にはなって無いが、それが無ければ確実に相手を屠っているだろう。対戦相手も当然悶絶し担架でそのまま運ばれている。
一方のセリアリスは、その可憐な姿に似合わず、多彩な攻撃手段で相手の戦意を喪失させ降参を勝ち取っている。ただそれでもまだ手の内は全部明かした訳ではないので、完勝と言って良い内容だろう。
ただそれ以上にレイが気になったのは、セリアリスが登場した時の空気である。正直その空気は気持ちの良いものではなく、レイとしてはかなりイラッとさせられた。セリアリス自身は気にしたような素振りを見せていないが、明かに昨日の噂が悪い方向に広がっており、その事でセリアリスが調子を狂わせないかだけが気掛かりだった。
『後でセリーに声でもかけようかな』
特にセリアリスも慰めの言葉は求めていないだろう。ならば勝ち上がった事に対する賛辞が相応しい。レイは自分の事そっちのけで、そんな事を考えてると、気が付けばメルテが勝ち上がっており、レイの順番となっていた。
「おいレイ、お前の番だぞ」
「ああ、ありがとう。ならボチボチやりますか」
レイはそう言って、声を掛けてきたジークに礼を言った後、グルグルと手を回しながら闘技場へと足を踏み入れる。因みに対戦相手はアレス同様、近接戦闘タイプで魔法は自身の身体強化に回しているようだ。
『相手は3年生、胸を借りるつもりでなんて、殊勝な事を考えた方が良いのかな?』
相手の3年生はレイが目の前に立つと、油断する事はなく、盾を構えて剣を引いて半身になる。レイは盾なし、剣も細身で服装も軽装。相手はレイの事をスピードタイプと見定めて居るだろう。そしてレイも相手同様半身になり、その剣を出す。
「それでは始めっ」
審判の合図と共に先に仕掛けたのは3年生の方。盾を前に掲げて突進してくる。
『おおっ、速い』
レイは想定より素早い動きに思わず感嘆の声を漏らす。ただ相手は重装備のファイター。それでもレイの事を捉える事は出来ずにレイはサイドステップで華麗に躱す。3年生はそのレイのスピードに驚きの表情を一瞬見せるが、すぐ様向きを変え、再び突進してくる。ただそれもレイは余裕を持って躱しながら距離を取る。会場はさながら闘牛を交わす闘牛士のようなやり取りに湧き上がる。
「おお、何あの突進、当たったら間違いなく弾き飛ばされるぞっ」
「いやいやまだ躱してる方も余裕だろ、あんなの当たらなければ如何ってことない」
会場ではそれぞれが自論を展開しつつ応援合戦を繰り広げている。一方の当事者であるレイは、相手の特徴を冷静に分析しどう対処しようかと考える。
『まあ力押しなら、力押しで対抗するか』
レイはそう覚悟を決めると、その剣には風が渦状に纏わり付く。剣は唸りを上げてその風によりレイの髪もはためき出す。それを見ていた3年生もレイの意図を汲み取ったのか口角を上げてニヤリとする。そして2人同時に仕掛け出しフィールド中央部分で剣と盾が激突する。
ガキンッ
「グウァァーーーッ」
弾き飛ばされたのは、3年生の方。風の威力に押され接触と共に、場外ギリギリのところまで吹き飛ばされる。レイはそれに追随し、その剣を転がっている相手の首筋に当てたところで、相手が楽しそうに降参を告げる。
「参った、うん、完敗だな、こりゃ」
ウワワワァァーーーッ
レイが勝ち上がった所で観客から大歓声が上がる。軽装の細身の剣士が重装備のファイター相手に力で押し切ったのだ。これが盛り上がらずにはいられない。レイはそんな大歓声の中、転がっている3年生に手を差し伸べて、立ち上がらせる。
「ありがとうございました。場外まで飛ばせると思ってましたが、凄い力ですね」
「いや俺の方こそ驚いた。その細身の剣で俺を弾き飛ばせるとは。あれはやはり風の魔法か何かなのか?」
3年生はスッキリした表情で穏やかな笑みを見せながら、気になった事を聞いてくる。レイは相手の態度に好印象を抱きつつ、丁寧にそれに応える。
「はい、あれは風魔法を剣に纏わせたんです。ですから先輩の盾に俺の剣は直撃している訳ではなく、先輩は突風に吹き飛ばされた感じだと思います」
「ほう、属性魔法にもそんな使い方が有るのか。ううん奥が深い。俺ももっと精進せねば。ありがとう、後輩、次の試合も期待しているぞ」
その3年生は、そう言って踵を返すとスタスタと場外へ歩いて行く。レイもまたそんな気持ちの良い相手との戦いに満足げな表情を浮かべつつ、仲間の元へと歩いていった。
◇
「ヘルミナ王太后様、見て下さい。レイ君が勝ちましたよっ」
貴賓席の一角で水色の瞳の少女が嬉しそうに王太后であるヘルミナに話しかける。先程から彼女はレイ・クロイツェルが戦い始めた時からずっとこの調子だ。
「リーゼ、あんた少しは落ち着きなさいな。いくら婚姻を申し込んだ相手が選手で出ているからってはしゃぎ過ぎだ。王国の王女ともあろう人物がはしたないよ」
「あらヘルミナ様、折角のレイ君の勇姿なんですもの。少しは羽目を外したってバチは当たりませんわ、ねえカインおじ様?」
リーゼロッテがそこで目を向けたのは、仮面の軍服姿の男性だった。そう彼はリオ・ノーサイスと呼ばれ、今や近衛騎士団に目を付けられている人物だった。
「リーゼロッテ様、ここでその名はお控え下さい。私はただの軍少佐リオ・ノーサイスですよ。まあ息子を慕ってくださっているのはありがたいですが、一応先般のお話はお断りしていますので、おじ様呼びはご勘弁下さい」
「まあ此処は人払いもしてあるから、そう気にする事もあるまいて。ただ良いタイミングで王都に来たとは思うがの。カイン・クロイツェル少将」
ヘルミナも仮面の軍服姿の男性に向けて、その名で語りかける。そう実はこのリオ・ノーサイスの中身はレイではなく、その父カイン・クロイツェルだった。カインはヘルミナにまでそう言われて、苦笑しつつ素直に言葉を返す。
「いや本当に良いように使われていますよ。息子から王都に来てくれと言われた折、連邦から王女殿下が王都に行くと言うので、護衛を兼ねて同行し、ノンフォーク領でノンフォーク公にご挨拶をしたら、この仮面を預けられて王太后様に御目通りしろと。最早、軍の仕事の領分を超えておりますな」
「お陰で私は色々助かっておるよ。よもやあのレイ・クロイツェルがリオ・ノーサイスの中身だとは本人もセリアリスも一言も告げなかったからの。今回の件もそなたのお陰で上手く事が運んだ。勿論、リーゼにも助けられたが」
ヘルミナはそう言って穏やかに笑みを見せる。今回のアレックスとセリアリスの婚約破棄及び王太子就任の白紙は此処にいる人物達との共謀してのものだった。今、王太后であるヘルミナには、近侍の近衛騎士以外手勢がいない。従って実際に王妃側と事を構えようとしても難しいのだ。しかし王妃側が揺さぶりをかけたこのタイミングを逃すと趨勢が決まってしまう恐れがある。なので王太后は王に話をし、この話を取り付けたのだ。そしてカイン・クロイツェルの登場である。しかも彼はノンフォーク公からの指示でレイが扮していたリオ・ノーサイスになるよう頼まれていた。彼の武勇は充分な抑止力になる。それ程までに誕生日会の彼の活躍は圧倒的だったのだ。そして先程事に及んだというのが今回の顛末だった。
「フフッ、お役に立てたなら良かったです。我が国としてはヘルミナ様の頼みであれば断れませんので」
リーゼロッテもまた王妃ヴィクトリアの呼び出しで王都に来てはいるが、元々エゼルバイトと同盟にあたって尽力したのはヘルミナでありヘルミナにこそ恩義があったので、その頼みを聞くのは当然ではあった。
「とは言え王太后様、王妃の暴挙に関してお咎めなしでも宜しいのですか?」
そう言ってカインが気になった事を聞いてくる。王妃のあの剣幕だ。あの場は事が収まっても、いつまた何かをしないとも限らないのだ。しかしヘルミナは気にしていないとばかりに平然と答える。
「仕方ないね。あの場は後で如何とでも言える状況だ。まあ今回は私の方が鼻を明かしたんだ。あれ位は大目に見ようじゃないか」
確かに実際に危害があった状況でもない限り、口で言ったことなど如何とでもなると言う事だ。
「まあ王太后様がそれで良いと言うのであれば、私にそれ以上思うところは有りませんが」
「カインおじ様、大丈夫ですよ。自国の内紛を他国の姫に見られた訳ですから、王妃様も今しばらくは自重なさると思いますわ。それにそろそろ決勝戦になります。お喋りはこの辺にして、レイ君を応援しましょう、応援っ」
少しだけ憂慮するカインに対し、リーゼロッテが明るく声を出す。カインはそんなリーゼロッテに笑みを見せ、会場へと目を向ける。眼下に映る息子の姿は、クロイツェルを立った時より幾分か逞しさをましている。
『まあ尻拭い位はしてやるか』
この王都で息子はやはり見る目のある人物には目を掛けられている。それは仕方がない事なのだろうが、ああやって級友と親しげに話をしている姿を見ると、せめてその時間がもう少し続くようにしてやろうと思うのであった。
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