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第九話 転生王子のプロローグ

 さあいよいよ学院パートが始まる。この日をどんだけ待ち望んだことか、転生者としてこの世界に生まれ変わって早10年。ようやくこの時を迎えた。


 エゼルバイト王国第一王子アレックス・フォン・エゼルバルトは、漸く始まる物語に胸を躍らせていた。前世の記憶では、この入学式前のクラス割発表の場がプロローグであり、物語最初のイベントである。ここでプレイヤーキャラである6人のプレイヤーが一堂に会し、お互いの存在を知るのである。とは言え、まだプロローグ。物語の分岐はまだ先だ。ここから好感度を上げ、関係値を作るのだ。なのでここは当初の予定であるシナリオ通りに物語が進むのを見守らせてもらうつもりだった。


 アレックスは逸る気持ちを抑えつつ、王子然として寮を出る。御供はいつものメンバー、エリクとアレスだ。この三人で行動するのは、最早いつもの事だ。王城内での勉強や訓練もそう。王子と臣下という立場もあるが、気心の知れたいわば幼馴染である。なのでこの3人でいる時は自然と気安い言葉遣いになる。


「できれば、この3人が同じクラスになるといいな」


 アレックスには、シナリオ上同じクラスになる事が判っていながら、あえてそんな事を言う。


「ええそうですね、アレックス。この3人で行動すれば、クラス対抗でも最上位に行けますし、実際に入学の際の試験では、僕とアレックスで1位、2位だったじゃないですか。やはり国を指導する上で、上位者であるところを見せつけるべきですよ」


「まさにその通り。俺は、勉強では2人に劣りますが、剣ならば大いに役立てます。ならば、是非同じクラスでともに過ごしたいですな」


 エリクはその頭脳、アレスはその武力で同年代では、比肩するものはいない。この3人が強固な主従関係でいられることは、非常に重要で、今後のシナリオ展開にも重要な要素となるのだ。なので、アレックスはそんな2人に笑みを浮かべて、その肩を叩く。


「なら俺はそんな2人に負けないよう、精進して、王となれるように頑張らないとな」


「勿論、僕はそんな君の右腕として支えるよ」


「なら俺はその剣となって、君らを守ろう」


 前世であれば、少し寒々しい会話だが、ここ『リアルファンタジー』の世界では心地良い。勿論勝ち組キャラだからこその余裕だが、まさにリア充万歳である。そして友情だけでなく、愛情面においてもリア充となるべく、努力しなければならない。なぜならこの王子には、ハーレムルートというのが存在する。


 数々のヒロインをその手に収め、妻とするのだ。勿論リスクは存在する。なので分岐ポイントまでは、まずは静観。全員を手中にする事も大事だが、1人も手中にできないなんて結末もこのキャラには存在するのだ。なので、トゥルーエンドも視野に入れつつ、どうするかを考えなければ、ならない。


 そうしてアレックス達は3人連れだって、クラス割が張り出されている掲示板へと向かう。すれ違う周囲の学生達は、その三人の姿に羨望と憧憬の眼差しを送るか、畏怖し目線を落とすかのどっちかで、王子であるアレックスに話しかけようとするものなどいない。連れの2人も周囲に注目されているその状況に満足なのか、意気揚々と歩いている。


 その反動だろうか、掲示板近くについた時、人だかりができて掲示板に近付けない状況ができている事にアレスがいらだちを見せる。アレックス自身はどうせ気が付けば、その場がモーゼのように割れると思っていたので、気にしていなかったが、アレスの沸点は思った以上に低かった。


「アレックス、ちょっとあいつ等に言って、あの場からどかしてくる」


「えっ、いや、アレス・・・・・・」


 アレックスが止めようとする前に、既に群衆の前まで足早に移動したアレスは、そこで大きな声を張り上げる。


「おい、貴様らっ、第一王子であるアレックス様が、掲示板をご覧なさる。どけっ、いや、今すぐ立ち去れっ」


 アレスは身長が190cmに届こうかという大男である。180cm弱であるアレックスも決して低い方ではないが、そんな大男に恫喝されたのである。掲示板にいた生徒は只々恐怖し、女生徒などは、涙目になっている子すらいる。アレックスはこれは不味いと、慌ててフォローを入れる。


「良い、それぞれ自分の所属するクラスを知りたいだけであろう。把握できれば、じきに立ち去る。慌てる事はない」


 アレックスは内心、脳筋であるアレスに悪態をつく。どう考えてもこれは悪役の流れである。ちょっと混んでるからって、権力を笠にきて恫喝って、どういう事?ここにヒロインとかいたら、好感度下がっちゃう奴じゃん。


「し、しかし殿下、殿下を待たせるなど・・・・・・」


「良いと言った。学院に入れば、王子だろうと、平民だろうと等しく評価されるのだろう。ならば、いまこの場は王子など関係ない。皆の者、騒がせてすまなかった。各々、所属するクラスを確認するがいい。私はそれまで待とう」


 すると、今度はエリクの方が、わざわざアレックスに頭を下げ、状況の報告をする。


「殿下、既に掲示板の前は空いているご様子。ならば、我々が早々に確認させていただく方が、得策かと」


 確かにエリクの言うとおり、先ほどのアレスの恫喝で掲示板前の人だかりは引いており、むしろさっさと見ないと周囲は見れない状況となっていた。


『あれっ、ヒロインと会えるプロローグじゃなかったの?』


 アレックスは内心で焦りを覚えるが、エリクの言葉を受け入れざるを得ないので、表面上では平静を装いつつ、掲示板前へと移動する。するとそこで、聞きなれた女子の声が聞こえる。


「全くあなたは何をしているのかしら、アレス。悪い貴族の典型じゃない。殿下は広いお心を示していらっしゃるのに」


 そうこの苦言を呈しに来たのが、アレックスの婚約者である公爵家令嬢のセリアリス・フォン・ノンフォークだ。紫色の綺麗な髪を毛先縦ロールにした、美しい少女だ。見た目だけでいえば、100点満点な彼女だが、アレックスは少々苦手だった。


 まず第一に、強い。腕力云々ではなく、精神的に強いのだ。女性であれば、多少なりとも弱さなり、可愛らしさを見せて欲しいのだが、彼女はそういう側面を見せない。少なくともアレックスには見せたことはなく、彼女を選択したシナリオでは、女王になるシナリオがある位、強いのだ。それに、厳しい。彼女自身が自分を律する事の出来る女性なので、他人に対しても厳しい。今、アレスを叱責しているのも、彼女の厳しさからくるものだ。勿論、その厳しさが不当なものではなく、こちらを慮っての言葉だから性質が悪い。元々人間関係に緩い前世の世界を知っているだけに、その厳しさは、少し息が詰まるのだ。


「セリアリス、その辺でよしてくれ。今は叱責するよりクラス割を確認する事の方が、重要だろう。エリク、僕らのクラスはわかったかい?」


 アレックスが叱責を中断させたことに不満げに睨みつけてくる。いや、怖いよ。一応、第一王子で婚約者なんだけど。アレックスは表面上冷静を装いながらも、内心は冷や汗をかく。ちなみに叱責されたアレスは下唇を噛み、悔しそうにしている。いや、それもそれでオカシイよ。明らかにアレスの失態だから。そんなアレックスの内心を知らないエリクは笑顔でクラスを報告してくる。


「殿下、やりましたよ。殿下と私、それにアレスも同じクラスです。セリアリス嬢も同じクラスになりました。これでこのクラスは安泰ですよ。間違いなく学年トップで3年間過ごせます」


「そうか、それは嬉しいな。ちなみに他に著名なものはいないのか?」


 アレックスはもう1人重要キャラクターが同じクラスなのを知っている。ちなみにプレイヤー選択可能キャラでクラスが違うのは、メルテと隠れキャラであるジークだけだ。なのでシナリオと齟齬がないかの確認の為に、エリクにそんな事を聞いてみる。エリクは当然、情報収集を怠らない性格なので、こちらの意図を正しく汲んでくれる。


「そうですね。アナスタシア伯爵の令嬢、あと殿下もご存知だと思いますが、私の義妹が同じAクラスとなっております」


「そなたの義妹は前にも一度会ったか。そのアナスタシア伯爵の令嬢というのは?アナスタシア伯爵であれば、確か跡取りの1人息子ではなかったか?」


「いえ1年ほど前に養女にされたとか。なんでも聖女の器であると」


「ほう、聖女殿とは。それは僥倖であるな。是非一度、話をしてみたいものだ」


 アレックスはただ聖女というキーワードに反応したかのように装い、内心ほくそ笑む。よしよし、やはりシナリオ通りの展開だな。メルテはこの後のイベントで絡むキャラだから、まあいいとして、うむうむ順調。ちなみにメルテもこの場のどこかにいるとは認識しているし、ユーリも同様だ。そんな風に内心とは裏腹に、表面上は普通に関心を示すアレックスに対し、エリクはやや渋い表情を見せる。


「うっ、それは、あまりお勧めはできません」


「ん?それは何故なのだ?伯爵令嬢でしかも聖女と謳われる女性であろう?どこに問題があるのだ?」


 実はエリクが渋る理由もわかっている。エリクは貴族主義の偏見から孤児院出身のユーリの事をシナリオ当初あまり良く思っていないのだ。その後一悶着の上、エリクが聖女であるユーリに惚れるルートもある。


「実はその令嬢ですが、元々平民、しかも孤児院出身の者なのです。高貴なる血脈の殿下がお話されるようなお方ではございません」


「いやエリク・・・・・・」


 とアレックスがそれを諌めようとしたところで、セリアリスがエリクを叱責する。


「エリク、貴方は時の宰相の息子にも関わらず、平民、民衆を軽んじるおつもりですか?ましてその聖女様は神より祝福を受けた方なのでしょう。しかも今では、伯爵家のご令嬢です。その出自が何であれ、立派な貴族です。それを軽んじるとは、あなた、恥ずかしくないのですかっ」


 すると今度はエリクが下唇を噛み、悔しそうな表情を見せる。いや俺のセリフを取らないで欲しい、それとエリクはプライドが高いから、優しく諭してあげないとむしろ捻くれてしまう。アレックスは、仕方がないので、エリクのフォローをするべくセリアリスを諌める。


「セリアリス、公衆の面前で声を荒げるなど、淑女にあるまじき振る舞いだぞ。少しは自制しろ。エリクも私は出自云々より、神より祝福を受けたという事実を尊重したい。そういう意味では一度話をしてみたいと思う。まあ、懇意にする云々の話ではないのだから、そう邪険にするな」


「御意、私が浅慮でした。確かに神の祝福には敬意を表すべきでした。ならば一度、機会を作りましょう」


 エリクはそう言って、非礼を詫びる。ただ今の言い回しだと神様には敬意を払うと言っているだけで、そのものを評価しているわけではないようだ。アレックスはこれにも内心苦りきった感情を抱くが、やはり表面上は鷹揚に受け入れる。それに対して、セリアリスがご立腹だ。彼女は正論を振りかざしたに過ぎず、アレックスの心情的にも全く同意できる発言なのだが、思わずエリクのプライドを守る為に、無下にしてしまった。ただ当然、セリアリスはその事に対し、ヘソを曲げる。


「殿下がそうおっしゃられるのであれば、結構です。私は、この場から離れさせて頂きますわ」


 セリアリスはその場からそう言って、離れてしまう。アレックスは内心しまったと焦るものの、王子が女を追いかけるわけにもいかないので、やはり表面上は素っ気ない素振りを見せる。そしてエリクとアレスと共にその場から離れつつ、頭の中で疑問符を浮かべる。


『あれ?一応プロローグ通りのはずなんだが、ユーリとメルテはまだ会ってないな?セリアリスとはなんか険悪だし、あれ?いいのか?』


 厳密には、良いか悪いかでいえば、まだ決まっていないが正解だ。アレックスが当初考えていたように、物語の分岐はまだまだ先であり、今はプロローグ、好感度の数値を上げる段階ですらないのだ。ただ、このなんとなくの引っかかりが、その後の違和感に続いていく事など、今のアレックスには知る由もなかった。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 能無し日和王子 この程度で転生者とは草
[一言] 作者の思いが言葉となって物語、小説となる。私はそれを楽しむのみ
[良い点] 脳筋がめちゃくちゃ足引っ張ってくるw 悪意のない足手纏いって一番タチ悪いやつですね。
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