プロローグその2 一つ終着点
目の前の景色が一瞬で入れ替わった。眼前、敵三人。
俺は即座に魔法を起動する。この世界での戦闘において同程度の実力を持つ者同士なら、先に相手の防御を打ち破るだけの攻撃を当てた者が勝利する。
先手必勝。不意打ち万歳。卑怯だなんて嗤いたければ嗤え。俺は手からコインを弾き出した。別にわざわざ指を使う必要は無いのだが、前世で見ていたアニメの影響だ。超電磁砲と言うコインを物凄い速さに加速させ対象にぶつける技、電気を扱うツンデレ女子中学生。
俺が今から行うのは、そんな物とは比べ物にもならない破壊力を誇る。
「重力崩射」
対象の周りを断熱結界で囲う魔法と、物質をブラックホールと成るまで縮小させる魔法の複合魔法。
指で弾き出せれたコインは10のマイナス30乗メートルまで縮小される。分かりやすく表現すると水素原子を10分割し、その内の一つをさらに10分割する、という工程を20回行った時程度の大きさだ。分かっていただけただろうか、要するにかなり小さいのだ。
生み出された極小のブラックホールはホーキング放射と呼ばれている現象により、10のマイナス23乗秒――短く言うと一瞬だ――で崩壊する。崩壊した極小ブラックホールは広島での原子爆弾の3倍以上のエネルギーを生み出し、あらゆる物を跡形もなく消し飛ばす。
――去れ、永久に。
俺の放ったコインは断熱結界の内側を勇者一行もろとも消滅させた。
魔法の対象をもっと重くすれば生まれるエネルギーも当然上がるのだが、そうすると今度は結界すらも破ってしまい俺も巻き添えを喰らうだろう。星自体も崩壊させかねない。俺の結界の強度ではこの程度が限界だった。
...やれやれ、終わったか。それなりに強力な駒を配置していたんだが、勇者達を正直舐めてたみたいだな。俺が最初から直接潰せば良かった。そんな事を考えていた矢先――
「残像だ」
刹那、俺は雷の魔力を纏った勇者の剣によって切り裂かれる。体が真っ二つになろうが再生出来るのだがそこは流石勇者、一瞬で1024個に切り裂かれてしまった。ここまでされると流石の俺でも再生に0.5秒は要する。人類最強である彼らを前に、その時間は致命的であった。
「聖なる焔に抱かれて消えろ! 破魔之焔」
...俺はやはり彼らを舐めていた。ここまでか...
魔法使いの放った浄化の効果を持つ焔が破片となった俺を焼き、蝕む。
――いや、このままでは死んではならない。エレナ達を守るんだ...! 今にも燃え尽きそうな意識を振り絞り俺は念じた。
(重力よ、我が宿敵を閉じ込めたまえ、光すら抜け出せぬ漆黒の牢獄へと。暗黒無限牢獄)
それは光すら飲み込む究極の牢獄、ブラックホール。 ...をモチーフに開発した封印魔法。刻々と迫り来る死と消滅を感じながら、気合と執念だけで放った魔法の黒い光が勇者達を包み込みんだ。
魔法の効果を見届け、俺は意識を手放す...。
《諦め ! 円 の
...空...耳か? 一瞬エレナの声が聞こえ...。
そして俺は死んだ。二度目の死だった。
愛すべき妻は独り残され、英雄たる勇者達も表舞台を去り、誰もが笑わない、そんな結末。
だが、俺の物語はここでは終わらなかった。
科学的な描写ですが、もしかしたら間違っているかもしれません
ここまで読んで下さりありがとうございます




