奴隷ピエロ少女タタ
ディストピアな異世界で無力な奴隷の少女がただ凍らせられて氷像になるだけの残酷な物語。
タタはもう8歳になるのに体重は30キロに満たない。骨張った腕には僅かな飾り紐。
ぼろの様な下着だけが木の幹の様に深い褐色肌を隠している。枝の如き脚には何も纏っていない。
褐色肌の全身の中で顔だけが白塗りに鼻の頭を真っ赤に染める化粧を施され、ピエロとしてこの場に存在を許されている証を示していた。
ボールの上にあたふたと乗り観客に引き攣った顔を向ける少女はサーカスの奴隷だった。
「おちるぞー」
「がんばれー」
「すっころべー」
タタを丸く囲んで野放図に掛けられる声は皆甲高い。子供だ。
身なりの良い子供達が滑稽な道化を見て楽しんでいる。
タタと年齢も変わらない子供達が安全圏から新しい遊び道具を堪能していた。性もまだ目覚めぬ童にも残酷性は遺憾無く搭載されている。
135センチある身長よりも長い墨の様な黒髪は玉乗りを困難にする。
内股で震え大きな動きのできないタタに暴君の群れは容赦ないブーイングと特殊な小道具を浴びせた。
「おらっ」
「こおりになっちゃえ」
「うわっつめてえっ」
何人かの手から投げられるのは雪玉だった。
小道具が褐色の肌にぶつけられると当たったところが直ぐに白くなる。凍っているのだ。
「あっ」
ボールが床に固定されたのはタタの足ごと凍りついているためである。
「もぐっ……?!」
冷たさに声を上げる続きが聴けないのはその小さな口に雪玉が投げつけられて顔が鼻から顎までカチカチに固まったせいである。
「こっちのほうがおもしれえや」
「あたしもあたしもー」
「ーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
頭のてっぺんから足の指の先まで周囲360度から奴隷を凍らせるためだけの雪玉が投げつけられた。
栄養失調の少女が全身を氷柱で覆われた白い彫刻と化すまで1分とかからなかった。
「はいはーい。皆さん、お昼休みは終わりですよー」
『はーい』
未来を約束された子供達は彼らの先生の声に速やかに従った。
後に残された哀れな道化の彫刻は夕方になって掃除夫に回収される。
あの雪玉を受けた者が通常の気温の中で解凍される事はない。
ただの子供の玩具としてだけ存在を許されているタタ。雪玉による凍結は命の危険がなく一切傷も残らないため、彼女はこれでもとても大切にされている。
掃除夫が片腕に氷像の胴体を抱えて足先にくっついたボールを切り離した。
凍りついたタタはとても美しかったため、これから春になるまでこの施設の門の脇に飾られる。
毎日訪れる子供達の落書きや悪戯を受けて、次に体が動くようになれば、栄養状態を整えた上でまた今日の様な遊びに使われる。
人々にとって奴隷をこうして無駄遣いする事はこの上ない贅沢、美徳とされている。
タタは自分の事を8歳と思っていたが、今までに何度も彫刻にされて成長を歪めて止められているため、本当の歳は誰にも分からない。
今はまだ寒いと考える事が彼女にもできる。すぐに心の底まで凍りついてそれもできなくなるのだが。
混血の少女。氷の道化。いつか彼女も人になるのか。
お伽話の様に遠い道。
ありがとうございました。