4-5.皆さんの疑念
・とある兵士の場合
今日から夜警だ。任務で一番つらいのがこれだ。昼に寝ておけと言うがなかなかできない。
それにもし十分寝ていても夜はどうしても眠いな。今回は城壁の上で見張りだ。
これがほんとうにつらい。何も起きないからな。
ただいいこともある。夜警の後は休みだ。休みの後にはダンジョンアタックが出来る。
一般の兵隊は 昼の任務の後に夜警を行って休み を繰り返す。
昼の任務と夜警の間も休みがあるがあれは寝ておけと言うことだしな。
休みの間には皆自主的にダンジョンに潜る。これは義務ではないが潜らないやつはいない。
潜っただけで手当がつくし剥ぎ取った素材や魔石も一部は貰える。
直で貰うことはなくこれも手当に追加される。
冒険者時代と比べれば収入は落ちるがポーションも支給されるし治癒魔法の使い手も待機しているので安全に稼ぐことが出来る。
訓練がてら金を稼ぐということだ。実戦なのだから効率もいい。
腕利きの先輩に教わりながら潜れる環境はここ以外にはないだろう。
うちの班の隊長はめちゃくちゃいい人でダンジョンに潜ったときの手当でみんなを飲みに連れて行ってくれる。
優しいし腕も立つ隊長の班に入れてめちゃくちゃ運がいいぜ。
妙な命令が来た。夜中に工事が行われるので報告だけをおこない絶対に関与するなと言う。
妙であろうが命令は命令だ。従うだけだが・・・工事?気配も何も感じないし音がすることもなかった。
朝が来て魂消たな。土壁と堀が出来ていた。バカな!なぜ気がつかなかったんだ?
次の日は目をこらして見たら・・・何かが団体で北に走っていた。
これはいったいなんなんだ?気が付くと城壁が高くなっていた。幻覚でも見ているのか?
朝が来た時には皆無言だった。新人が隊長にかみついた。
「なんなんですか?隊長!こんなことあり得ませんよ?」
副隊長に新人がぶっ飛ばされた。
バカめ・・・いくら隊長が優しかろうが居心地がよかろうとここは軍なんだぞ。
「隊長申し訳ありません」
隊長は朝日を眺めながら言った。
「ああ・・・副隊長まかせる」
副隊長が叫んだ。
「全員整列!」
「いいか兵隊!軍に なんなんですか? とか ありえませんよ? なんて言葉はねえ!上官が白いと言えばカラスも白いんだ」
「全員腕立て用意!」
全員で腕立て用意だ。
「1!・・・1!・・・1!・・・1!・・・」
今日は長くなりそうだ。明日から休みだというのに。しかしいったいなにが起きたんだ?
新人の言うとおり城壁が一晩で出来るはずはないんだ。
・とある元準会員の場合
今農地エリアで馬車の順番を待っています。
農地の整備事業というのに雇われているのです。
参加は希望者とのみということですが選択の余地はありません。
ダンジョンの入り口で仕事を待っていても仕事にありつくことはめったにありません。
たまにある仕事も兵隊さんがゴブリンを狩っている間に癒し草を収集する仕事ばかりです。
この仕事は優しい隊長さんがわたしたちに仕事があるようにと新人さんに命じてやっていたんだと後で知りました。
結局孤児院に行って炊き出しを貰って倉庫で寝る日々からは脱出できません。
ですか今回の仕事はご飯がついてお金も出て訓練も付けてくれるとのことです。
順番を待っていると冒険者の男性が割り込んで馬車に乗ってしまいました。
「のけのけ餓鬼ども!降りろおら!」
あわわわ・・・私たちにはどうしようもありません。
馬車の御者の黒ゴーレムさんが降りてやってきました。
「なにちんたらやってんっだ!とっとと」
黒ゴーレムさんがパンチを放ち冒険者が吹き飛びました。
「なにしやが!」
後ろの馬車の御者の黒ゴーレムさんが回し蹴りを斜め後ろから入れました。
「このやろう・・・ぶっ殺してやる!」
冒険者が武器を抜きました。大変です。兵隊さんを呼ばないと。
ばしっ
冒険者が光ったと思った瞬間崩れ落ちました。なんか煙が出ています。
気が付くと薬師ギルドのギルドマスターが立っていました。私たちの雇い主です。
いつもは優しい顔なのにものすごく怖い顔をしています。
「なにしに来よったこの蛆虫が・・兵士を呼びな」
部下に命じたようですが向こうから兵隊さんが走ってくるのが見えました。
「関係者以外は立ち入り禁止にするしかないねえ」
ギルドマスターがこちらに来ました。以前に見た穏やかな顔です。さっきのは見間違いでしょうか。
「怪我はなかったかい。ごめんな。もうこういう輩はいれないようにするからこれからは大丈夫だよ」
みんな馬車に乗り直します。黒ゴーレムさんはギルドマスターに一礼して席に戻りました。
黒ゴーレムさんがしゃべっているのを見たことはありません。中の人はどんな人なんでしょう?
・とあるドワーフの場合
いつでも首は切り落とせるか・・・よく考えたら何も解決していないな。
だが城壁の工事案を作らねばならん。
薬師ギルドの婆さんが来た。
「おや・・・ジーク。疲れてるようじゃな。試作のスタミナポーションがあるんじゃがどうだい?」
あががが・・・いかん。それは・・・ま・・・まずい。
「疲れてなぞおりません。大丈夫です」
「そうか・・・そういう顔ではないぞ。おまえ」
婆さんは不気味な色のポーションを引っ込めた。危なかった。
「で・・・なにごとじゃ?いうてみい」
婆さんにいってもいいものだろうか?・・・悩んでいると
「悩みでもあるのか・・・アルゴランのことか?それともクルーソーとやらのことか?」
ばれているようだな。
「婆さんはあの・・・クルーソーさんのことをどう思う?」
「お前はどう思うておるのじゃ?」
確かに婆さんがどう思っているかではない。儂のこの不安と儂がどう向き合うかじゃな。
儂は婆さんに懸念を打ち明けた。
「でアルゴランはなんと?」
「彼女から敵意は感じない。なにかあればいつでも首は切り落とせる と」
「それならそれでいいじゃないか・・・と言ってもあんたは納得しないんだろうね」
婆さんは周りに人がいないことを確認してから小声で言った。
「これからいうことは他言無用だ。いいかい?」
儂は無言でうなずいた。
「わたしがこの都市に住んでいるのには理由がある。わかるかい?」
なにを言っているのだろうか?分かるはずのない。儂が来る前からのこのばあさんはここにいるはずだ。
「ここは地脈の上にある。衰えてな・・・地脈の上でないとわたしは魔法が使えないんじゃよ」
え・・・どういうことだ?
「つまり地脈の魔力を利用しているということさ」
ばかな・・・地脈の魔力を利用だと。初めて聞いたぞ。
「だから黙ってろってことだ。でだ・・・何故こんな話をしたかわかるかい?」
・・・まさか
「あのクルーソーとやらは地脈の魔力を取りこんでいる。これは間違いない。が・・・問題があってな」
問題?これ以上自体が複雑になるのはこまるが。
「あのエルフ娘は自身の異常さに自覚がない。ゴーレム魔法も土壁魔法も石壁魔法もすべてにおいてだ」
「それはあり得るのか?やつの師匠も同じくらい異常だとなるが・・・ありえんぞ」
「そこらへんは何とも言えんが・・・まあアルゴランがいいというのであればそれでいいだろう。やつはクルーソーとやらを取り込もうとしている。何があってもやつの責任じゃ」
まあそうなんじゃが・・・それでいいのだろうか。もっと違う何を感じる。
で・・・アルゴランはその答えを知っている。そんな気がする。




