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8-17.お偉いさんの嘆き

・皇帝と近衛の会話


「近衛隊隊長はどうみた?」


皇帝に訊ねられた。この会食会の間隠れて警護していたのだがあっさり見つかった。

技能も魔道具もすべて使ったのだがな。


「ルドルフのことですか?」

「とぼけるなよ。クルーソー殿のことだ」

「この状況でまったくの自然体なのはすごいとは思いますが・・・ただの事務方なのでは」

「そう見たか・・・たしかに状況を無視して食事を楽しんでいるように見えたな」

「陛下の見立ては?」

「最初見たときは 魔法使いLv1 だった」

「は?」

「次食事始めに見たときは 盾士。食事終わりには 斥候だった」

「それは・・・偽装技能ですか?」

「いや・・・それはあり得ん。俺が 視た のだからな。たぶん過去の職業がかろうじて見えたということだろう。もしかすると俺よりレベルが高いのかもしれん」

「それはあり得ないのでは?」

「お前たちが隠れていたのも見えていたようだし・・・この状況で食事を楽しむのもそれだけの強さがあるからではないかと思うがな」


あれが?あり得ん・・・と言いたいところだが陛下がそう判断されるのであればありえるのだろうか・・・


「で・・・なにか進展があったのか?」



「報告いたします。レオナ様は人族の冒険者と一緒にダンジョンに潜られた模様です」


!・・・気配はなかった。皇帝直属の情報部隊か。


「冒険者レオナ・・・・でということか?この状況でと言うことは・・・聖櫃か?」

「冒険者の中に外部からかなりの実力者が隠れてやってきているようです。レオナ様はそう判断されたのかと。もしくはレオナ様の正体がばれているのかもしれません」

「レオナが目標でおびき出されたと?つまり何もつかめていないということだな」

「レオナ様の監視は不可能です」

「ああ・・・どこにいるのかは分かったのか?」

「潜りこんでいる冒険者を尾行しています」

「ああ・・・どちらにしろその先にいるということか・・・この件は随時情報を上げろ」

「介入は?」

「レオナ相手に?情報だけでいい」


・・・


「まだあるのか?」

「イグナシオ様が取り巻きを集めております」

「クルーソー殿に絡んだらしいな?」

「最初はルドルフ様にと言うことだったと思いますが・・・クルーソー様が喧嘩を買った形になりました。レオナ様が介入してうやむやになりました」

「クルーソー殿に何かをするかもと?」

「分かりません。警戒が厳しく潜入もうまく行っていません」

「そうか・・・こっちは・・・監視だけでいい」


返事もなく去ったようだ。めったに会わないが・・・心底不安しか感じない不気味な連中だ。

「おまえは連中が嫌いなようだな」



「いえ・・・そんなことは」

「連中は私直属の諜報部隊と言うことになっているが・・・実際は先祖返りだ」


先祖返り・・・すさまじい能力を持つがゆえにいつ暴走するか分からない。


「そんな連中を?」

「心配するな。連中は暴走はしない・・・異変しているからな」


変異か・・・暴走する代わりに外見が変わってしまうというやつか。噂には聞いたが・・・


「先祖返りも変異した連中もだいたい私が保護している。情報収集に特化した連中をああやって使っている訳だ」

「知りませんでした」

「わたしが先祖返りだから・・・ということでこっそり始めたことだからな」

「何故それを私に?」

「今はわたしの直轄にしてるが・・・将来的にはお前に預けたいと思う」

「私にそのような情報収集などは・・・重鎮の皆様のほうが・・・」

「連中のほとんどは戦闘特化だ。国としての組織ではないんだ。我ら一族の所有兵力と思えばいい」

「他の有力貴族との・・・」

「そういうことだ。イグナシオの件もあるしな」

「そうであれば監視だけでなく何らかの策が必要では?」

「私に対して明確に反乱を起こすくらいのことをしなければ排除できない。そういう意味ではクルーソー殿と揉めてもらったほうが良かったのかもしれんが・・・さすがに外交問題になるからな」


・・・


「まあいい。今すぐではない。考えておいてくれ」


なぜ今このようなことを?


「イグナシオか・・・私に何かあればやつが皇帝なのだが・・・どこから歪んでしまったのかな・・・」

「そのようなことを・・・」

「ん?・・・もし今の戦争で大被害を受けるような事態になれば私はこの座から引きずり降ろされ殺されるだろう。そうなれば次の皇帝はイグナシオだ」

「イグナシオ様に皇帝は務まらないことは明白。陛下には再婚していただき世継ぎを」


凄まじい殺意が皇帝から私に放たれた。


「申し訳ありません・・・」

「そうだな・・・次はないぞ」


過去の皇帝は全員戦士で全軍司令を兼ね戦争では先頭を切っていた。

陛下は初めて魔導士で皇帝になられた。現状は全軍司令をレオナに任せて先陣を切ることはない。

そのため侮られる。

兄上が皇帝になるためにそれを支えるための魔導士になったのが裏目に出た訳だが・・・

皆は勘違いをしている。

陛下は先祖返り。魔導士であってもわたしなど素手で殴り殺せるだろう。

正妃マリアンヌ様は病死と発表されているが実際は違う。暗殺されたのだ。

そのことを知っているものには陛下はその犯人を見つけるまでは狂えないので戦闘を行わないのだと言われているがそれは違う。

陛下はそのためだけを目的に生きている。復讐で狂っているので狂わないのだ。

私はおそろしい。もし今犯人が判明すれば・・・・陛下はそいつらを一族郎党皆殺しにするだろう。

その後陛下はどうなるのだろうか?この国は?


・領主と発明家と会話

知り合いの兵士に相談したらいつの間にか領主様の部屋だ。どうしてこうなった。

女性が二人現れた。・・・このエルフさんはどこかであったな。

見た来た勝った?何のことだ?


「となれば・・・腕の立つ信頼できる護衛を雇うのは本人の責任と言うことです。商品を独占しているのであれば莫大な利益を上げてますよね」

「そんな・・・儲かってません。開発費もかかっているしそうとうな材料代がかかっているんです」


この人は私に恨みであるのか?経済政策?というかなにを言いたいのか全く分からない。

というか領主様の機嫌があきらかに悪くなっていってるぞ。どうするんだ?

なんか言いたい放題言って去って行った。

・・・皆無言だ。どうしてくれる?


「どう思った?」


私じゃないよな?隊長さんは・・・壁を見ている。え?


「君に聞いてるんだぞ?フォルカー君」

「何の話か全く分かりませんでした」

「そうか?・・・まあクルーソーさんはいつも何言ってるか分かりづらいからしょうがないが・・・君も経済や政治のことをすこしは学んだ方がいいぞ」


経済?政治?そっち?


「あの話が理解できたんですか?」

「ああ。慣れたからな。クルーソーさんは・・・相手も自分と同じ知識があって同程度の理解をしているのを前提に話すんだ。それに今回は結論を省くという暴挙に出たからな。なので話があちこちに飛んでしまうんだ」


???


「どういうことでしょうか?」

「つまりだ・・・クルーソーさんは 予算の配分を間違うと部下の士気が落ちる 組織の変更でそれを防ぐことが出来る ことを実体験で知っている」


???


「上の強権で予算を特定部門につぎ込んでその部門を発展させることの体験もあるということだ」


どうしてそうなる?


「本か何かで読んだことを言っているだけだと思いましたが?」


壁を見ていた隊長さんが口を開いた。


「クルーソーさんは全部顔に出るんだ。特に嘘をつくときは 今から嘘つきます とでる。彼女はある程度以上の組織にいて予算の配分で揉めたことも何らかの大成功を収めたこともあるんだろうな。組織のどこにいたかは分からないがな」

「ならばそれを例に説明したのでは?」

「具体的な話をしたくなかったということだろう。経済や政治・・・政治と言うか組織論かな。それに対しても何らかの知識を持って話をしているが・・・そのことに触れたくないのでそこを避けて話をしているので訳が分からないということだ」


全く何かなんだか?


「理解できないか・・・超凄腕の職人がその素性を隠して素人としてその商品について語っているという感じだ」

「常人では知りえない知識がところどころで出てくるということですか?」

「一般人のふりをしたつもりでなんだがたまに達人の動きが出るようなもんだ」


一体何のためにそんなことを?


「・・・クルーソー様はアルゴラン様に嘘をつくのですか?」


そういえば言われたな。領主様には絶対に嘘はつくなと。絶対にばれて逆鱗に触れると。


「顔に出した後にしょうもない嘘をたまにつく。これ以上触れるなと言う意味だと受け取っている」

「そうですか・・・今日はいつになく発言が挑発的だったと思いますが?」

「あれはいつも私がやっていることの意趣返しだろうな」

「?」

「いつもどこか限界かを探って話をしているからな。あれくらいで私がどうにかなると思っているのか?可愛いもんだ」


・・・いったいどうしたことだ?どういう関係性なんだ?

というかあれで怒っていないのか?こっちは寿命が縮むかと。

また皆無言だ。


「で・・・どうなさいますか?」

「何をだ?」

「フォルカーさんの件ですが?」

「そうだったな。クルーソーさんの話で結論が出たと思っていた」

「それではクルーソー様の案で?」

「ああそうだな。あれで頼むルーベルト」


・・・え?


「それとだ。フォルカー君」

「はい?」

「君は発明家としてやっていきたいのか?それとも商人としてなのか?」

「ええと・・」

「商人でやっていくならもっといろいろと学べ。発明家としてやっていくのなら・・・誰か信用できる商人と手を組め」

そんなことを急に言われましても・・・


・皇帝と宮廷魔術師と技術者の会話

戦争から1週間後。

敵から奪った大砲の検分に立ち会えとの命令だが・・・私にそのようなものを見れと言われても?


「これが現場から回収した部品全てです。被害が少なかった1台を仮で復元しています。全部で5台であったのかと推定されます」

「我々の知っている大砲と比べるとずいぶん小さい気がするな。それと・・・これは車輪と言うことか」

「となると・・・持ち運べるサイズの大砲を作ってあの森に持ち込んだということか」

「それであればあまり気にする必要はないのでありませんか?」

「弾の大きさは我々の保有する大砲とあまり変わりません」

「ばかな?大きさが全く違うぞ?」

「大砲の肉厚が全く違います。場所によっては数十倍以上です」

「それでは発射の衝撃に耐えられないだろう?」

「調べたところ金属の強度が桁違いです」

「そんなことがありうるのか?」

「いや・・・実際に弾を撃ち込んできたのだからあり得たということだ。我々の知っている大砲なら運ぶのに大量の人員で数か月かかるが・・・この大きさなら・・・かなりの速度であの森の中を運ぶことが出来たのだろうな」

「それとこれが回収された弾なのですが・・・」

「これは?細長いな?」

「この上の場所が飛んでいく弾です。下の部分は飛ばす火薬が詰まっています。また・・・飛んでいく弾にも火薬が入っていました」

「どういうことだ?それだと爆発するだろう?」

「目標に命中して爆発するようになっているのかと」

「つまり爆弾が飛んでくるということか。となるとクルーソー殿に感謝だな」

「どういうことですか?」

「シールドで防いだり撃ち落とそうとしたらそこで爆発したということだ。カウンターしてもらって助かった」

「この大砲を再現することは可能だと思うか?」

「現状では不可能かと。もともと我々は大砲を作ったことはありません。保有している大砲も骨董品です」

「それはそうだが・・・ここに見本があるからな。試してみる価値はあるだろう。一番の問題は金属の強度と言うことか?」

「それもありますがもっとも難しいと思われるのは構造です。この砲は・・・後ろから装填します」

「どういうことだ?」

「この発射用の火薬が入った筒ごと後ろから装填してここを封鎖する構造なのです」

「金属の強度の問題もあるが部品加工の精度が尋常でないということだな。だがどうしてこのようなことになっているんだ?」

「通常なら前方から火薬を入れて弾を込めて再照準です。発射用の火薬が入った筒ごと入れることによって連射が出来るようになるのではと思います。それと中に入っている火薬を調べましたが我らの知っているものよりかなりの高性能です」

「砲の数が少なくても発射時間が半分になれば砲が倍になるのと同じだからな。再現は無理でも徹底的に調査してくれ。そうだな。この砲の技術を模して1台作ってくれ」

「承知しました」


大砲の検分が終わった後皇帝から質問を受けた。


「先ほどのをどう思う?」

「どう思うと言われましても・・・大砲のことは分かりません」

「あの大砲は10km以上先から正確に我らを狙ってきた。魔導士を率いる身としてどう対応する気かと言うことだ。あれが兵器である以上またいつ現れるか分からんのでな」

「申し訳ありません。考えが至りませんでした」

「魔導士だけで対策と言う訳にもいかんか・・・峡谷の幅を広げて・・・街道の森を伐採して平地を広げる。峡谷を掘るのはすぐは無理なのであそこも森も伐採だな」


さてどうした物か・・・あの距離ではな・・・


「話は変わるが・・・あのときクルーソー殿が唱えたマイワールド。どれだけの者が覚えた?」

「調べましたが4人ほどかと」

「思ったより少ないな。あれほど濃厚で強力な魔法だったのでもっと覚えていても良さそうだがな」

「覚えたというものは多いのですが・・・唱えられるのが4人と言うことです」

「もしかして・・・魔力が足らないのか?」

「魔力が足らない者もおりますが・・・効果がほぼ出ない者もいます。それと・・・」

「それと?」

「効果のほどがいまいち分かりません。バフデバフだということでしたが・・・」

「ああ。それか。それはこっちで調べた」

「調べたと言われますと?」

「レオナと一緒にな」

「陛下がですか?」

「声がデカいぞ。極秘にな。あの魔法はエリア呪文で・・・敵と味方の時間の流れを変える」

「なんですと!」

「声がデカいぞ。まあよくできている。バフデバフの欠点もないからな」

「欠点?」

「デバフの利点は言うまでもない。欠点はレジストされたら何も起きないということだ。バフは・・・プロテクションアップ以外はあまり使わない。何故かはわかるよな?」

「聞いたところによれば武技技能の発動を邪魔するとか・・・」

「力が増したり速さが増せば優位に戦える。が・・・武技技能は使えなくなる可能性が高い。いつもの自分の体の動きでないからだ。なので武技技能を多用する者にとっては邪魔だということになる。同じ面子でチームを組む冒険者なら別だろうがな。バフを受けた状態に慣れることできるからな」

「ああ・・・そういうことでしたか」

「それに比べ・・・時間の流れを変えるのはそれらの問題が無い。味方は相手が鈍くなっているように見えるだけでいつもの動きが出来る」

「相手はどう感じるでしょうか?」

「敵がどうなるかは死体になったんでな・・・遅延行動をとって被害を受けた部隊の証言では敵の動きが徐々に良くなったということで動きにくさを感じたという話はなかった」

「魔力の問題さえ解決できれば有効な魔法と言うことですな。秘密裏に早急に鍛えて戦力化しましょう」

「いや。バンバン使ってくれ」

「何故ですか?これほど有用であれば極秘にしないと」

「もともと敵が使った魔法だ。敵の魔法を敵に使う。極秘もクソもない」

「分かりました。使えるレベルまで鍛えてから実戦に投入しますぞ」

「いや。今すぐだ」

「効果は望めませんぞ?」

「構わん。マイワールドを我らも使えるということを示せればいい」

「?」

「あれは敵を支援に来た聖騎士団とやらの必殺技と言うことらしい。連中は魔道具を使ったので秘密兵器だな。もし我らが使えば実は普通に誰でも使えますよということになる」

「実際は違いますが?」

「相手がそう思えばいいということだ」

「で・・・何のために?」

「敵とその聖騎士団との間に楔を打ち込むということだ。連中には内輪もめを・・・それは望みすぎか。まあ聖騎士団とやらには退場して欲しいということだ。なのでマイワールドを唱えられればいい。戦場に投入してくれ」

「承知しました」


皇帝陛下の智謀には・・・いや違う。考えれば分かることじゃ。儂の頭が固い。それだけじゃ。

もともと兵士の脇役にすぎなかった魔導士の地位を皇帝陛下はここまで引き上げてくださった。

皇帝陛下が魔導士であったのを幸いに我らが求めたことがだ・・・儂に宮廷魔術師に荷が重い。

明らかに力不足じゃ。魔法一筋でやってきて戦略や政治は無関心だったのがな・・・

儂が一番年じゃから儂なんじゃ。誰か代わってくれんかのう・・・

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