8-15.今そこにある危機
よし・・・どうやら逃げ切った。今日のイケメンエルフはしつこかった。
そのまま帰ろうとしたら猫さんを渡された。
ここで面倒を見てもらおうと思ったわけではないですよ。もちろん忘れていたこともないです。
もう昼過ぎだな。何をするべきか?おっとそういうときの黒板だった。
ゴーレム強化案
黒魔鉄ゴーレム 大盾+大剣 短槍(投擲用)を試作
拠点防御用黒魔鉄ゴーレム 長剣+槍 盾を試作 鞘とベルトを試作
拠点防御用ストーンゴーレム 槍 大盾(木製)を試作
黒魔鉄ゴーレム 追加 仕様を考える
やるべきこと
水車での揚水機構試作 ちんたらやる
畑に植えなおした癒し草でポーション作成
スタミナ、MPポーションの作成
魔法のポシェット ウサギ 牛
そう言えば何か忘れていたような!そうだった!
私が常時持ち歩く用のゴーレムを置きっぱなしにしていた。もういいだろう。回収しておこう。
あれ?農地の家の周りにいると思っていたのだが・・・
ゴーレムを魔石でブーストアップする実験をしたときに北の領地に連れて行ったのだった。
北の領地にいるゴーレムに移動命令を・・・あれ?いないぞ?どこにいるんだ?
もしや?アイテムボックスの中にいますがな。あれ・・・いつ入れたっけ?
護衛として出したのにいつの間にかしまっていたのか?まあいいか。
とりあえず猫さんを私の部屋に連れて行って・・・水車をするか。
水車は面倒なんだよな。風車で揚水だからな。
川がそこにあれば水力で揚水できるんで風がなくてもいいしパワーも水車の方が・・・
あばあばば・・・
よく考えたら上流から水を引いて来ていて捨てるラインもあるのだから水車で良かったな。
風車要らなかった。どうするか?
いまさらそれははずかしい。ちんたらやって風車で行く。
無理だな・・・気が付いてしまった以上無視はできん。
とりあえず揚水を行う機構はこのまま作成しよう。出来上がったら動力を水車に替えるか。
違うか・・・動力の強さで揚水の機構の作りが変わるんだよな。
「お姉ちゃん、お帰りなさい」
一晩留守にしただけだが長いこと経った気がする。
「お姉ちゃん。魔法教えてください」
エリート軍団はぶれないな。
その一言でみんな集まってきた。どこまで教えたっけ。
クリエイトウォーターと着火で始まり、アイシングとヒートは勝手に覚えた。
その後に洗浄とマジックトーチ。
ファイヤーアローをさきに教えてしまったがマジックアローが先だったのかもしれない。
おっと。唯一の常識人のセラフィーナさんが何かを言いたそうな顔している。
ある意味彼女が魔法の学習の番人だな。
「次に行くにはまだ早い?」
「早いとは思いますが・・・元々の習得速度が尋常でないので何とも言えません」
むむむ・・・ここは実戦形式で行くか。
錬金術で棒の先に丸い板を張り付けたものを作成する。材料は水車を作った時の端材だ。
その丸い板に魔 火 水 風 土 炎 雷 聖 氷の模様をチョークで書き込む。
ディメンションアローは教えていいかわからないので保留。
「はい皆さん。注目。皆さんは今はファイヤーアローしか使えませんが最終的には何種類か使えるようになって貰います」
誰も何も言わないな。・・・?攻撃魔法の属性は絞るんだったっけ?
セラフィーナさんが何も言わないのでいいか。
「で・・・この板は各種アローを絵にしてみました。あそこのターゲットの後ろにゴーレムを配置します。この板を出されたらその絵のアローを撃つ。もしくはその絵以外のアローを撃つ。と言う風に訓練していきたいと思います。今なら何を出されてもファイヤーアローでいいです」
最初からもっと実践形式で行くか。
クリエイトウォーターで水を作り泥団子を作成しアローを指揮する棒と一緒にゴーレムに持たせる。
「で・・・ゴーレムがこの泥を投げつけてきます。それを避けてください」
「それは何のために?」
「他の魔法には必要ありませんが・・・攻撃魔法は戦う魔法です。当然敵からの攻撃があるということです。敵の攻撃が来たら魔法を中断して避ける。もしくは魔法の詠唱をしながら避ける。と言うことが必要になります。魔法の発動にかかりっきりで周りを全く見ないということではいくら命があっても足りません。もし・・・戦いたくないと思うのであれば攻撃魔法の訓練はしなくていいです。もしくは将来もう一度よく考えてから訓練でもいいです」
誰も動かない。ちと飛ばしすぎたか。
「泥を投げつけて来るのは今日はやりません。アローが速やかに出来るようになるまでは。ただ・・・いつかはそうなることを忘れないでください」
そういうと一部の子たちが魔法の発動準備に入った。
・・・あれ何故に?もう発動できるはずだが撃たないな?
ゴーレムが火の板を土壁のターゲットの裏から出した瞬間ファイヤーアローが発射された。
泥を投げるのをキャンセルしたんでこっちの指示したら攻撃もキャンセルの気でいたんだが。
どうせファイヤーアローしか使えないからな。どうするかな。
おや?誰か来たな。これは魔導兵団の隊長さんと薬師ギルドの婆さんに食って掛かった姉さんだ。
金属鎧を着た兵士が3人ついて来ているが・・・この装備は迷宮都市の兵士の装備ではないな。
「こんにちは。クルーソー様。お話よろしいでしょうか」
「はい?」
「子供たちに対する魔法の指導について見学させていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
ん?・・・こんなものに興味があるのか?
「ああ・・・いいですよ。ちょうど始めたところなんで」
おっと。第二陣の子たちがファイヤーアローをターゲットに叩き込む。
「これはいったいどういう訓練ですか?」
「ゴーレムが指示するもしくはそれ以外の魔法をターゲットに叩き込む訓練ですね」
「ゴーレムが指示する?・・・それになんの意味があるんですか?」
やろう・・・そういえばこいつは因縁の塊だったな。
「ほお?・・・ということは出来るんですか?」
「はあ?」
「ゴーレムが指示した魔法をすぐに打ち込めますか?」
「当たり前でしょう。できますよ」
「おお・・・ではこの子たちにやって見せてもらえませんかね」
「簡単なことです」
ゴーレムが指示の板を出し第三陣がファイヤーアローを打ち込んだ。
「え・・・」
くくく・・・この子たちはファイヤーアローしか使えないので火の指示板しか出ない。
なのでみんな指示した瞬間打ち込む。
だが・・・お前は別だぞ。
「はーい。みんな下がって。魔導兵団のお姉さんが見本を見せてくれますよ」
因縁の塊が杖を持ってターゲットの正面に立った。そういえば杖もあったな。まあ訓練中はいいか。
「ゴーレムが指示します。このように」
ゴーレムに命じて全種類の指示板を出させる。
「この指示はランダムで数もランダムです」
「え?・・・」
因縁姉さんの顔色が悪い。
「指示されたものから選ぶのかそれ以外から選ぶのかはお好きにどうぞ」
逃げ道は残してあげよう。わたしは鬼ではないのでな。
「指示されたのを選ぶのかそれ以外と言うのはどういことでしょうか?」
おっと・・・ここで魔導兵団の隊長さんが質問してきた。
・・・部下の逃げ道を塞ぐのかこいつ。違うか。普通に聞いているだけか。
「指示された魔法を・・・敵の弱点。もしくは効かない。と想定して打ち込むということです。普通は・・・・得意な魔法を鍛えてそれが効かない敵に使うために数種類魔法を覚えますよね。瞬時に弱点を突くかもしくは敵の耐性がある魔法以外を打ち込む判断力も込の訓練です」
・・・おっと皆無言だな。わたし号令しないといけないのか。
「ではいいですかーはじめますよー」
因縁姉さんから魔力の高まりを感じる。
魔法使いはどの魔法を使うのか決めてなくても発動の準備として魔力を集中するのは出来るということだな。
ゴーレムが指示板を出した。
炎 雷 聖 氷
魔 火 水 風 土 の基本のアローのどれかを打ち込めば指示以外で打ち込みましたが成り立つということか。ゴーレムさん温情があるな。
「魔の火よ 集まりて え゛!」
こいつ詠唱から入ったよ!と思った瞬間・・・因縁姉さんの顔面に泥団子が炸裂した。
そのまま後ろに倒れ込んだ。ゴーレムに温情はなかった。
「オクタビア様!」
3人の金属鎧を着た兵士が因縁姉さんを助けおこした。
「一体なんですこれは!」
おっと。因縁姉さんが激オコだ。どうしたものか・・・・
むむ!ゴーレムさんがここまでやったのだ。私が日和る訳にはいかん。
「攻撃魔法の訓練ですから敵からの攻撃を再現しています」
「聞いてませんよ」
言ってないからな。
「そうでしたっけ・・・まあ簡単に出来るとおっしゃられていたのでこれくらいは対処できるかと」
「魔法使いは最大火力をぶつけることに注力すべき存在なのです。このような訓練なぞ無駄です」
くくく・・・そうきたか。
「えっと・・・私が戦ってきた敵は遠距離攻が出来るか理解できる敵ならば魔法使いや遠距離攻撃の使い手を集中的に攻撃してきます。この都市の迷宮の敵はそうでないと?」
敵の検索範囲外なのに詠唱した瞬間全員でぶん殴りに来るPPと言うゲームがだな・・・
おっとそれは今はいい。
「敵の攻撃は護衛に任せます。魔法使いは攻撃に集中すればいいのです」
「護衛?」
「そうです。彼らがいかなる攻撃からも私を守ってくれます」
そういうことか。ん?となると彼らは魔導兵団所属で魔法使いを護衛する専門の兵隊?
確かにパーティでタンクが後衛をガードするようなものか。
納得。いやいやそれではいかんな。ここは口八丁でどうにかしないと。
「つまり・・・あなたは彼らが護衛に専念しても構わないほどの火力を出すことが出来る訳ですね。ですが・・・」
武技発動<縮地>
彼らの後ろに移動する。移動しながら体を反転したが・・・出来るようだな。
因縁姉さんと護衛は反応できていない。魔導兵団団長はこちらを見ているな。
おおお・・・女の子たちもこちらを見ている。見切ることが出来たということか?
それともこちらを見る角度なのか?
護衛がこっちを見て因縁姉さんもこっちを見た。
武技発動<縮地>
元の場所に戻るがやはり護衛と因縁姉さんは反応していないな。
さて・・・どう嫌味を言うべきか・・・閃いた。
「いかなる攻撃からも守る・・・そのまえに私の動きに追従できないようではねえ?」
「く・・・そんな高速な攻撃をしてくる敵はいません」
マジで言っているのかこいつ?
というか私の動きに追従出来てないぞと嫌味を言うのはどこかで聞いた話だな。
どこだったっけ?三国志の武将だったか?まあいまはいい。
「魔法を使える敵ならば魔法で攻撃してくる。弓が使えれば矢が飛んでくるでしょう」
アイテムボックスから弓を取り出す。
おっと・・・矢は解凍しないとないのか・・・端材の木の棒を加工して土壁のターゲットに射る。
おおお・・・当ったようだ。失敗したら恥かくとこだった。
「まあ・・・魔法や弓を使える敵はそんなにはいないかもしれません。でも槍が飛んでくるのはもしくは石が飛んでくるのはあり得ないことでしょうか?」
アイテムボックスから槍を取り出し土壁のターゲットに投げつける。
すさまじい勢いで突き刺さった。そういえばレオナさんはすごかったな。
わたしも槍を投げる特訓でもするかな?そのまえにゴーレム用の槍を作るるんだったな。
おっとそうじゃない。アイテムボックス内のクズ鉱石を取り出し土壁のターゲットに投げる。
これもいい感じでターゲットにめり込んだ。投石用の石を多量に持ち歩くのでもいいのか。
またまたそうじゃない。
「槍、矢、石はこの小ささです。私よりも何倍も速いと思いますがどうでしょう?まあ・・・対処できない敵とは絶対に戦わないのであればそれでいいのでしょうがね」
因縁姉さんの顔色が赤くなっていく。さあこい。次はどう来る?
あれ・・・因縁姉さんは何も言わず振り返って足早に去って行った。
よし勝った。
しまった・・・よく考えたらこれは三人の護衛をディスったことになるのか?どうするか?
三人の護衛がこちらを見て頭を下げた。むむむ・・・なんでだろう?
まあこちらも頭を下げておく。ディスってすいませんでした。
護衛のみなさんは急ぎ足で因縁姉さんの後を追った。
土壁のターゲットから槍と矢と石を回収する。槍は貫通しかかっていた。土壁を作り直しておく。
「クルーソー様。申し訳ありません」
ん・・・魔導兵団の団長が謝ってきた。たしかにあんなのを連れてくるのがいけない。
だが・・・ついマジになりました。すいません。ということでフォローしておくか。
「あの護衛の人たちは魔導兵団の兵士さんなんですよね?あくまでたとえ話なので彼らの能力に関して思うことはありません」
「いいえ。彼らはオクタビアの部下というか・・・この都市の扱いでは彼女が個人的に雇った傭兵になります」
「ええと?」
「彼女は貴族でして彼らはその護衛としてやってきました。彼女が貴族の籍を抜けこの都市の魔導兵団に雇われたので・・・傭兵と言う扱いになっています」
「貴族は辞めてここの兵士になっているというのであれば・・・彼らは領地に帰るのでは?」
「それはどうなっているのかは分かりません。彼女は将来的にここを辞めて領地に戻る気なので彼らは護衛を続けているのかもしれません。それに彼らは騎士階級の三男坊や四男なので帰ったところで就ける役職が無いのかもしれません」
分からないと来ましたか・・・というか将来的に領地に戻る?
「兵士を辞めて領地に戻る?兵士ってそんな簡単に辞められるんですかね?というか貴族ってそんな簡単になったり辞めたり出来る?」
「いえ。昔はこの都市に修行目的で王国の貴族や兵士が定期的に兵士見習いと言う形で来ていたのですが・・・問題が起きまして無くなりました。その代わりに貴族籍を廃してここの兵士になるか冒険者としてやっていくかということで代用しています」
「問題と言うのは?」
「ここに兵士見習いで来ているというのに態度が大きい貴族がいまして・・・また剣の腕に自信があったらしく」
おおお・・・ここから予測される結論はあれだな?あれだろ?
「結局アルゴラン様に半殺しにされてこの都市から叩きだされました。もうかなり前のことですね」
来たー!そうだよな。そうでなくっちゃな。
「なるほど・・・冒険者なら勝手にやってろで分かるんですが兵士で雇うのはどうしてでしょう?将来辞めるのが前提で雇うことに利点はないような?」
「そうですね。ただ・・・将来辞めるかは全く分かりませんし・・・もしかするとずっとここにいるかもしれません。それを期待してというところもあります。とくに魔法使いであると雇う基準が甘くなります。それに王国の貴族とのパイプを維持したいということもあるかもしれません」
むむむ・・・まあそこいらはどうでもいいか。
ん・・・女の子が私を見て言った。
「見本まだ?」
く・・・たしかにそういう話だった。因縁姉さんは役に立たなかったな。
「そうですね・・・私が見本を見せますね」
そう言ってターゲットの正面に立つ。
魔 火 水 風 土 炎 雷 聖 氷
全部出しやがった。・・・なんでもいいということになるのか?
いいや・・・これは私に対する挑戦だ。やってやんよ。
「マジックアロー」
魔法発動<マジックアロー>
「ファイヤーアロー」
魔法発動<ファイヤアロー>
「ウォーターアロー」
魔法発動<ウォーターアロー>
「エアーアロー」
魔法発動<エアーアロー>
「ストーンアロー」
魔法発動<ストーンアロー>
「エクスプロージョンアロー」
魔法発動<エクスプロージョンアロー>
「ライトニングアロー」
魔法発動<ライトニングアロー>
「セイクリッドアロー」
魔法発動<セイクリッドアロー>
「アイスアロー」
魔法発動<アイスアロー>
おう!
泥団子がすさまじい速度で飛んできた。おのれ・・・左右の手で叩き落とす。
その手は食わんほべ!
顔面に泥団子が!どこから飛んできた?見切れなかったぞ?
・・・この衝撃は上からか!ということはさっきの泥団子はダミー!やるな。
くそう・・・大恥かいたぞ。クリエイトウォーターと洗浄で泥を落とす。
「マジックアロー」
魔法発動<マジックアロー>
は?・・・一部の女の子たちがマジックアローを詠唱した。さすがエリート。一回で覚えたのか。
「ウォーターアロー」
魔法発動<ウォーターアロー>
「エアーアロー」
魔法発動<エアーアロー>
「ストーンアロー」
魔法発動<ストーンアロー>
「セイクリッドアロー」
魔法発動<セイクリッドアロー>
次から次と魔法が飛んでいく。まあ想定していなかったが勝手に覚えてくれるならそれはそれでいいな。
ん・・・魔法の詠唱が止まった。魔力切れか?そうでもないようだな。
みんなが私を見ている。魔導兵団の団長も私を見て・・・
いや・・・私の後ろを見ている、皆直立不動だ。
ということは・・・・あばば・・・
嘘だ!嘘だと言ってくれ。




