7-3.右往左往
早く寝たせいか夜明け前に目が覚めた。マジックハンドの練習を行う。
体調は元に戻ったようだ。
なんだか記憶があやふやだ。闘牙法は魂を燃やして強化を行うとか言っていたな。
副作用はないよね?思考能力も元に戻った・・・よね。
今日やらないといけないことは・・・まずは風車の動作試験。
あとはなんかあった気がするが・・・なんだったっけ。
まあいい。風車の試験をしながら思い出そう。朝食の準備を行う。
ずーと同じメニューで飽きて来た。スープの具材を変える位しかしてないからな。
女の子たちには読み書きの自習をしといてもらおう。世話はセラフィーナさんに丸投げだ。
風車の元に移動する。どこまでやったっけ?
杵で突くのも石臼を回すのも動作確認までは終わっていたはず。
残っている小麦を使って実際に脱穀をしてみる。これは動くようだ。
そういえばこの脱穀したふすまってどうすればいいんだろうか?調べないといけないな。
後は石臼で回すのみ。むむーうまくいかないな。初めから大きな石臼を作り過ぎた気もする。
まずは下の石に溝を放射円状に刻む。上の石には逆回りで溝を刻む。
なんとか粉にはなるようだな。後はすこしずつ条件を変えて実験していけば・・・
違うな。そうじゃなかった。風車の目的は揚水だった。どうすればいいのか?
ここで揚水の試験をするべきか。
むむむ・・・ここで揚水しても利用できないんで意味がないような気がする。
農地の家の前に揚水タンクを作って家で使うようにするか。
トイレ用であるのなら水が上がればいい高さは地上1.5mくらいでいい。
風車をアイテムボックスに収納・・・はまずい。
一旦ばらしてゴーレムに命じて農地の家の前に運ばせることにしよう。
揚水の仕組みはどうしようか?
バケツにチェーンのようなものを付けてギアで巻き上げて頂点部分で水をタンク部に入れるようにして回転させる。これだと金属で作らないといけないので無理か。
水車にするか。水の流れを動力に変えるのでなくて動力で水をくみ上げるようにすればいい。
1.5m汲み上げればいいので水車の直径は1.5mで・・・違うか。
1.5mより上に水を溜めなくてはいけないのだな。
今の所川から引いてきた水の水面は地面より上だが汲み上げることを考えると水車の下側は地下30cm~50cm程度になるようにするしかない。
汲み上げる機構の分も50cm程度いるとして地上1.5mから1m上に汲み上げるとして水車は直径3.5m位になる。タンクに2m溜めようとすると水車の直径は4.5mか。
流石にデカすぎるような。小さい水車を複数組み合わせることにするか?
それだとチェーンとギアでバケツをくみ上げるやりかたのほうがいい。
となると金属がいるんだよな・・・金属?なんかあったような?
昨日ゴーレムの武装の強化を考えた気もする。
ゴーレムの魔石による強化も考えた気もする。もし魔石でゴーレムが強化できるのなら武装の強化は有だ。
強化が出来ないならストーンゴーレムの物量で押すほうがいいだろう。
ゴーレムが魔石で強化できるか実験してみるか?元リビングアーマーのゴーレムをアイテムボックスから出して・・・あれ?いないぞ?
自分の護衛として昨日アイテムボックスから出したのだった。ということは農地の家の周りにいるのか。
護衛の意味がない・・・私に追従の命令は出してないからしょうがないのか。
相変わらずの粗忽ものだな私。
一旦農地の家に戻るとばらされた風車はもう到着していた。ゴーレムに風車の組み立てを開始するよう命令する。
石臼と杵はどうしようかな。水車をどう作るかを決めないと配置を決められないので・・・後で考えよう。
風車が組みあがったらとりあえずここで風車が回るかどうかのテストを行うことにする。
魔石でゴーレム強化の実験をしよう。ここではまずいか。領地に移動するか・・・違った。
そういえばパン生地を仕込むのを頼んでない。
いったんキッチン兼食堂に入り小麦粉を・・・しまった。全部石臼のテストに使ってしまっている。
粉にするのに失敗した小麦を錬金術で粉にするが・・・様子がおかしい。
どうやら石臼の重さで圧縮されて熱を持ったため変質しているようだ。なんとか今日の分の小麦粉を作って女の子たちに渡してパン生地を作ってもらうことにする。
残った小麦はどうした物か・・・自分で食べて消費するしかないのか。とりあえず鍋に入れて保存する。
陶器の入れ物を作って保存することにしよう。
粘土から作れるのでは・・・錬金術で壺のようなものの試作を開始する。
ゴーレムの強化実験の前に買い出しに行くしかない。まず石臼がいる。
それと小麦を買い足さなくては明日以降のパンが焼けない。
この間ジークさんに教えてもらったエリアで石臼を探す・・・小さいのはあった。
大きいのはないかと尋ねると特注になると言われた。
話をしながら石臼の構造をや溝の形状や深さを調べる。これで複製出来るな・・・いや。それはいかんな。
犯罪行為すれすれだ。手ごろな大きさの石臼を購入する。
小麦を探すがここには粉にした小麦粉しか売っていなかった。
さてどうしたものか。そういえば地図情報で物の位置は探れたな。地図情報を頼りに店を探すと迷宮都市の北西エリアに多くの食料店が集まっているのを発見した。
ジークさんの紹介してくれたエリアよりも値段はかなり安い。品質は少しばかり劣るような気もするが問題ないレベルだ。今度からここに買いに来ることにしよう。
小麦を買い足し豆や根菜も買い足していく。普通の生鮮野菜も買うことにする。魔法の鞄でどの程度持つのかテストすることにしよう。
買ってから気付いたがサラダにするには調味料が塩しかないな。木漏れ日亭ではサラダにはドレッシングが掛かってでていたのでこの世界にサラダという概念はあるはず。店を回って調味料や油、酢などを買っていく。ちょうど単調な食事のメニューに飽きていたのでちょうどいい。
ハムやベーコンもあるようだ。結構な値段だが買うか・・・いや。肉はけっこうまだあるのでいいか。というか材料はあるので作ればいい。
卵も売っているが思ったより高い。養鶏でもするか言う感じだがその手間を考えるとそんなものなのか。むむむ。
買い物は終わったので店の商品を眺めながら農地の家に戻る。何がどこに売っているか頭に入れておこう。
およ?雑貨の店もある。食器や服もあり値段がこの間の店より安いぞ。ただ質はけっこう落ちるようだな。ということはここら辺は普通の商店でこの間紹介されたのは質が良い商店の集まりということか。
ジークさんはわたしが普段使いより質が良い奴と言ったのであちらを紹介したのかな?げせぬ・・・幾らなんでも値段が違いすぎるだろう!
そう思っているとジークさん見っけ。クレームをいれよう。ん?冒険者風の男たちと話をしているようだ。
ジークさんに挨拶しようとすると微妙な顔をした。なぜに?
「どうしたんですか?」
「おお・・・クルーソーさんか。彼らがミスリルを持ち込んだ冒険者でな。交渉中じゃ」
なるほど。彼らがミスリルゴーレムを狩った冒険者であると。
「でですね・・・」
「もういいぜ!リーダー!あんたがそんなんだから舐められてるんだよ」
冒険者の男のうちの一人が叫んだ。
「ミスリルだぜ!ミスリル!同量の魔鉄の武器と交換だと!ふざけんじゃない。こっちは命削って戦ってるんだぞ。のほほんと作ってるだけの職人がぼり過ぎなんだよ!」
おおお・・・ゲームでもポーションや携帯食料で暴利をむさぼっていた時にこういうやついたよな。
まあゲームでは相手にしなければいいというか設定でアクセス禁止に出来るので2度と話をすることもなくなる。
アクセス禁止はオークションやNPCが行う委託販売でも有効なのであきらかに職人が有利だった。
彼らはジークさんの所で武具を調達できなくての構わないということだろうか?まあ武器屋はいっぱいあるんだろう。
「んでは・・・今回の話はなかったことにしましょう」
「はあ?」
リーダーと呼ばれた男が素っ頓狂な声を上げた。ん?黒魔鉄の提供者が私とは知らなかったのか?
「武器の作成の手間や値段が気に入らないと言うなら取引をしなくていいということですよ。まあ・・・わたしはいいけど職人にそういうことは言わないほうがいいと思いますけどね」
「え・・・あんたが・・!」
リーダーの男の顔が一瞬で真っ青になった。なんか私の顔についているのか?
いや。その眼は私を見ていない。
その視線の先には・・・
ふおおおおおお!
その先にゆでだこ状態のジークさんが!
これは・・・マグマが出口を塞がれて限界を超えて溜まっている・・・
怒りのふんづまり状態だ。つまり激ヤバだ。
危機探知が振り切れている。爆発すれば私の命も危ない。
「それでは!今回の話はなかったってことで!じゃ!」
華麗にバックステップで逃げる。はずがどう見ても海老だな。角でターンを決めて・・・3回ほど回った。落ち着け。
いったん大通りまでダッシュで走る。大通りまで出た後は北に向けて全力で疾走する。
すぐに北門が見えてくる。やった!もうちょっとだ。生存への脱出だ。
ふがみ!
すさまじい衝撃とともに地面に叩き付けられた。魔王からは逃げられない。違うか。大魔神ジークからは逃げられない。
「クルーソーさん。ここから先は君の領地だがここは迷宮都市の北門だ。走り抜けられるのは困る」
え?え?え?
「どうしたんだ?というかなにをそんなに急いでるんだ?」
イケメンエルフがこちらを覗きこんでいる。どういうことだ?というか何故こいつはこんなにのほほんとしているんだ?
「ジークしゃんが!ジークしゃんが!」
余りの恐怖にろれつが回らない。
ふんが!
顔面に何かが突き刺さった。
「ライトニングバースト」
魔法発動<ライトニングバースト>
あばばば・・・
「おいおい。婆さん。なにをするんだ?」
「異常行動をとってる小娘をの目を覚まさせるんじゃよ」
「それだといつもは正常と言うことになるぞ」
「言われればそうじゃな」
うぐぐぐ・・・まあしょうがない。何故に全力で走って逃げた?これが恐慌の状態異常なのか。
いててて・・・なんとか立ち上がる。
「で・・・どうしたんだ?」
「ジークさんが怒りの限界を超えた激オコ状態でして・・・」
「まだ治ってないのか?」
何かあるたびに頬に杖を突き刺さないでください。
「ジークさんがミスリルを入手した冒険者と交渉していたんですが・・・冒険者が「「こっちは命削って戦ってるんだ」」「「のほほんと作ってるだけの職人がぼり過ぎだ」」とジークさんをディスりまして」
「ああ・・・なるほどな」
「ジークさんの形相が余りに凄いのでびびって逃げて来たんですよ」
「まあご愁傷様だな」
は?それだけなのか?血の雨が降ると思うのだが。
「で君は何しにそんなところに?」
「食料品の買い出しに。いろいろと買い足してました」
「おいおい・・・そのためにマリーを派遣しているだろう」
おおお・・・たしかにそうだった。
「そうでしたね。忘れてました」
「頭は元に戻っていないようだな・・・今日はもう休んだらどうだ」
頭がおかしい扱いされてますがな。
「まあいい。このまま視察に行くぞ。クルーソーお前もついて来い」
「視察?」
「農地の作業を視察する」
「わたしやることあるんですが」
顔に杖が突き刺さる。
「農地・・・というか農業をやることを言いだしたのはお前じゃぞ?忘れたのか」
「そうでしたね。忘れてません。覚えてますよ」
ちくしょう・・・なんか厄介ごとだらけだな。




