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ホムンクルスの箱庭 ~Seven deadly sins~ 第1話 Sloth Beast 第4章『宿場街の踊り子』①

今日は第4章「宿場町の踊り子」①と②を更新しました(`・ω・´)

 裏路地の飲み屋街にある宿兼酒場のような店。

 そこでは夜のショーでダンサーたちが踊ることは珍しくはない。

 もちろん、単なるダンスではなく男性たちが喜びそうなきわどいものを披露するところも多い。

 そうすることによってダンサー自身も客を得たりおひねりをもらったりすることができるからだ。

 

 しかし、そんな宿屋街にある意味異質なひとつの文化が誕生しようとしていた。

 客層は七三分けに黒ぶち眼鏡だったり、チェックのシャツを着ていたり、背中にリュックをしょっていたりとある一定の法則のように集まった人々。

 ステージできらきらとした衣装に身を包んで踊っている幼女にむかって両手のオタク棒ことペンライト?を振りかざしながら彼ら自身もまた見事な芸を披露していた。


「いくぞ!サンスネだ!!」


 サンスネ――サンダースネークと呼ばれる雷と蛇をイメージする技で、難易度が高い。直線的な動きと円が組み合わさっているため難しく見えるが、一つ一つの動きは単純であり、慣れると集団にてシンクロしたマスゲーム的な行為が行いやすくもっとも迫力があるので、オタ芸の代表的な行為と称されることもある。(wiki参照)


『L・O・V・E!!そ・ひ・た・そ!!』


 もやしのように白い肌、病的に細い身体、あるいは普通よりもだいぶ横幅のある彼らは大汗をかきながらステージにいる幼女に愛を叫び続ける。

 その光景はまるで一種の怪しい宗教すら感じさせた。

 

 少なくとも・・・ステージの上からそれを見ているソフィにはそう見えた。

 

 ステージの上で踊っている幼女、それは言わずと知れたソフィだった。

 観客たちの額には『そひたそ命!!』と書かれた鉢巻きが巻かれており、彼らはオタ芸の末に疲れ果てたのかはあはあしながらソフィに熱い視線を送っている。


『そひたそー!そひたそー!!』


「こ、これは・・・」


 思っていたよりはマシだったと思っていいのだろうか?

 ソフィとしてはもっとこう、アダルトというか18歳未満禁止の世界を覚悟していただけにこれはいろいろと予想外だ。


「・・・とはいえ、これはさすがに誰にも言えないわね。」


 特にアハト、彼にだけは知られてはいけない。

 こんな姿を見られたらいったい何を言われるか分かったものではない。

 こっそりとため息をつきながらもソフィは笑顔で観客たちに手を振る。


『おおおおお!!そひたそー!!!』


 熱い熱狂に包まれる会場、そんな宿屋の片隅に怪しげな黒づくめの男が座っていた。

 彼は他の観客たちとは明らかに違う雰囲気を纏いながらも口元に笑みを浮かべてソフィを眺めている。

 そして、ステージが一通り終わったのを確認すると席を立って隣の部屋に移動した。

 そこでは宿屋の主人が今日の売り上げを計算しているところだった。


「どうだ?言った通りだっただろう。」


 にやり、と笑った黒づくめの男は主人に親しげに話しかける。

 主人もにやり、と笑って大きく頷いた。


「ああ、特にこの『そひたそセット』の売り上げは日に日に伸びて行くばかりだ。」


 そひたそセットとは要は宿屋の特定のメニューを注文すると『そひたそと握手が出来る』という特典をつけたものなのだがこれがまた飛ぶように売れるのだ。


「さらにこの『そひたそセット』を10回頼むとブロマイドのおまけがついてくるという特典はどうだ?」


「おお!それはさらに売り上げに貢献してくれそうだ、さっそく実行するぜ。」


「たんまり稼いでくれよ。」


「もちろんだ!おっと、これは約束の売り上げの1割だぜ。」


「ああ、ありがたく受け取っておこう。」


 渡された金貨袋を黒づくめの男は懐にしまいこむ。


「しかし、あんたも悪いことするねぇ。かわいい彼女をだしに稼ごうだなんてな。」


「何言ってるんだ。家族は助け合わなきゃいけないんだぞ。」


「物は言いようだねえ。まあいい、こっちもたんまり稼がせてもらうぜ!」


 へっへっへっとあくどい笑みを交わし合った2人は今日の祝杯をあげる。

 これ以外にも使った衣装やなんかがこの後オークション形式で販売されたことなどソフィは知りもしないのだった。




「なあ、紅音、そろそろ飯を食ってもいいかな?」


「ご、ごめんね紅牙おにいちゃん・・・蒼ちゃんに、おにいちゃんに勝手にごはんをあげちゃいけませんって言われてるの。」


「おのれ蒼夜・・・!許すまじ!」


 ここのところ毎日、紅牙は簀巻きで木に吊るされていた。

 以前のようにかけられている首のプレートには。


『私は店の商品を食べた大馬鹿者です。』


 と書かれている。


 そう、ウエイターとして働くと意気揚々と出ていった紅牙だったのだが途中で空腹に耐えきれず店にあった食材を食べてしまったらしい。

 その損害賠償として300ゴールド。

 つまり、アインとドライが内職で必死に稼いだお金が瞬時に消えた。

 働いてお金を稼ぐどころか余計な借金を増やしてくれた紅牙に当然ながら皆が怒り、お仕置きとして吊るされているというわけだ。

 そして、働かせると逆に資金が減るという結論に落ち着いたために紅牙は番犬ならぬ番ライオンとしてフィーアと一緒に家に置かれることになった。

 

 紅牙が相手の存在を喰う力を持っていることを考えれば実際のところ過剰戦力もいいところなのだが、この姿を見てそれを思い出すことのできる人物は残念ながらいない。

 何しろ今の紅牙は飼い猫サイズのミニライオンでしかないのだから。

 例の事件から数週間が過ぎ皆はそれぞれ収入を得ているが、紅牙は堂々の食っちゃ寝ニートぶりを発揮していた。


「ところで紅音、おまえ今日は朝から元気がないな。」


「あう!?そ、そんなことないよ~。」


 フィーアは慌ててごまかそうとしたのだが、そんな態度はお見通しだというように目を細めた紅牙は身体に巻かれている縄をがじがじと勝手に噛みきって猫のようにくるっと体勢を立て直して下に降りると、窓から身軽に部屋に入ってくる。


「どうした?何かあったのか。」


「え、えっとお・・・」


 はたきを片手に部屋を掃除していたフィーアはふうっとため息をついて頭に着けていた三角巾を外すとソファーに腰を下ろす。


「まあ、あれだ。俺をペットだとでも思って話してみろ。」


 フィーアはよくペットの犬猫にまるで人間に話すように話しかけている。

 そのことを知っている紅牙は話しやすいようにと膝の上にぺたんと横になった。

 リラックスするために紅牙の背中を撫でながらフィーアは少し迷った後にこう切り出す。


「き、昨日、変な夢見ちゃって・・・」


「ふむ?」


「蒼ちゃんに朝、変な態度を取っちゃったの。蒼ちゃんがっかりしてて悪いことしちゃったなあって。」


 朝、ツヴァイはいつも通り出掛けにキスをしようとしたのだがフィーアは恥ずかしがってそれを避けてしまったのだ。

 それを見たツヴァイに。


『ごめん、僕は何か紅音に嫌われるようなことをしちゃったのかな?』


 と、今にも泣きそうになりながら聞かれてしまいフィーアは大慌てで否定したのだが、何とも言えない雰囲気のまま彼は今日の狩りに出かけてしまった。


「そうだったのか・・・それで今日はやたらと蒼夜の機嫌が悪かったんだな。

 しかし、紅音が蒼夜を避けるとはよほどの夢だったのか?」


 現実に影響が出るほどの夢というのはそうそう見るものではない。

 紅牙の問いかけにフィーアは途端に顔を真っ赤にした。


「き、聞かないで、それだけは・・・」


 蒼夜にすら説明できなかった夢の内容はフィーアの心の中だけにしまっておきたいようなものだった。


「ふむ、まあ紅音がそういうなら無理にとは言わないが。」


「ち、ちがうの、えっちなのとかじゃないからっ!!」


「そ、そうか。」


「はっ!おにいちゃんのえっち!ち、違うもん違うもん!!最後まではしてないもん!!」


「紅音、落ち着け。」


 きゃーきゃー言いながら必死にごまかそうとすればするほど夢の内容が勝手に暴露されていく。

 そんなやり取りをしていた時だった。


「ただいま、紅音。」


「うにゃあ!?」


 背後から急に声がかかりフィーアが飛び上がる。


「どうしたの?そんなに慌てて、何か僕に聞かれちゃ困る話でもしていたのかな?」


 振り向くといつの間に戻ってきたのかツヴァイが後ろに立っていた。


「お、驚いたあ・・・おかえりなさい蒼ちゃん、いつからそこにいたの?気付かなかった。」


「ついさっきついたんだ。

 なんだか楽しそうな話し声が聞こえてきたからどうしたのかなと思って。」


「え・・・い、いつから聞いてたの!?」


「さあ、どのあたりだったかな。」


 ぎょっとしながら尋ねると、彼はにこにこと笑いながらフィーアの髪を撫でる。


「さあ、こんな害獣は捨ててそろそろごはんの支度をしなきゃいけないんじゃないかい?」


 膝の上のホワイトライオン、もとい紅牙の首根っこをツヴァイが掴もうとするとフィーアはその手に触れて頬を紅く染めたまま上目づかいに見つめる。


「ほ、ほんとに、どこから聞いてたの・・・?」


「忘れちゃったよ。そんなこと。」


 よほど気をつけていなければ気がつかないほどの機嫌の悪さを滲ませながら、ツヴァイが笑顔で答えたことに残念ながらフィーアは気がつかなかったらしい。


「ああん!蒼ちゃんのいじわるうううっ!!」


 聞かれたくないことを聞かれてしまったと思ったのか、顔を真っ赤にするとフィーアは紅牙を膝の上からぺいっと放り投げてどこかに走って行ってしまった。


「ぐえ・・・!」


 急に投げ出された紅牙はソファにべしゃっと腹這いに着地する。


「・・・紅音は僕のものだから、何かしたら許さない。」


 そんな紅牙に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で確かにそう言ったツヴァイは、そのままフィーアが逃げていった方に歩いて行く。


「お、おい・・・?まったく、何だって言うんだ。」


 紅音には急に投げ捨てられ、蒼夜にはよく分からない牽制をかけられた紅牙は頭の上にクエスチョンを浮かべながら。


「ところで、腹減ったな。」


 いつもと同じ言葉を言ってソファーに伸びるのだった。


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