ホムンクルスの箱庭 ~Seven deadly sins~ 第1話 Sloth Beast 第3章『正義の執行』
今日は1話更新です(`・ω・´)
「うわらば!!」
最後の一人が悲鳴をあげて尻もちをついた。
当然のことながらアインとドライにはかすり傷一つ負っていない。
他の3人の盗賊もあっさり過ぎるほど簡単に気絶してしまっていた。
「い、命だけはお助けを・・・!
家には俺たちの帰りを待っている嫁と子供が・・・いるといいな!!」
「口から出まかせ言うんじゃないわよ!」
「ひいっ!どうか命だけはお助けを!」
五体倒置しながら謝る追い剥ぎから、アインが慣れた手つきで武器や防具をはぎ取って行く。
「そうか、反省したんだな・・・ほろり。
でも二度とこんなことができないようにこれは僕たちがいただいておく。」
追い剥ぎが改心?したことを喜びながらさらにアインはこう言った。
「さあ、アジトに案内してもらおう。」
このままアジトまで行って根こそぎある物を奪うつもりだった。
もちろんそれはあくまでもこんな連中を野放しにはしておけないという考えからだ。
「アジトを教えちまったら俺たちの命がねぇ!それだけは勘弁してくれ!!」
真っ青になりながら言う男にアインは笑顔で言った。
「大丈夫、君たちの命は保証する。さあ、連れて行ってもらおうか。」
ぐぐぐっと胸ぐらをつかんで持ち上げている様子を見ると、その言葉には全く信憑性がない。
その上この体格差だ、うっかりで殺されてもおかしくはなかった。
さらに・・・
「今死ぬのと後で助かるかもしれないのどっちがいい?」
悪意を隠さないままにこっと笑ったドライに、男は恐怖に顔を歪めながら何度も首を横に振る。
「どうか命だけは・・・!案内しやすぜ!!」
アインからようやく解放された男はとぼとぼと2人を案内するために歩き始めた。
ちなみに、気絶している連中は簀巻きにしてリアカーの荷台に乗せておくことにする。
しばらく歩いた森の中に彼らのアジトはあった。
なるほど、山の中にある切り立った崖にあるほら穴は街道を通る人々を襲うには非常に便利な場所だといえるだろう。
「今日も大量だぜ!!」
追い剥ぎ・・・もとい、盗賊のお頭らしき人物が安酒を片手に祝杯をあげていた。
アジトは思ったよりも奥行きはなく、人数も10人に満たない程度といったところか。
「な、何だてめえらは!」
入口から堂々と入ってきたアインとドライに彼らは当然ながら警戒した。
「正義の味方!アフロマスターアイン!悪は許さん!!」
ドーンと言い放ったアインが刀を抜き放つと、ドライがうれしさを隠しきれないように言った。
「やった!金づるよ!!」
お世辞にも正義の味方の言葉とはいえなかった。
「全員武装を解除し、大人しく降伏しろ!!」
「そうよ、あんたたちの身ぐるみ全部はいで売り払ってやるわ!!」
「てめぇらさっきから何わけのわからないこと言ってやがるんだ!!おまえら、いいからやっちまえ!!」
『おおー!!』
お決まりのセリフと共に襲いかかってきた盗賊たちはというと・・・
『ひいっ!どうか命だけはお助けをー!!』
数分後には全員が五体倒置していた。
装備を一式と悪事に使えそうなものを一通り奪い去ると、アインとドライはそれをリアカーの荷台に積み込む。
「ふう、結構な量になったわね!」
造花を作り終えた時と同じさわやかな笑みを浮かべながらドライが額の汗をぬぐった。
「これだけあればかなりのお金になる・・・何これおいしい!たったこれだけで内職の数倍の値段よ!」
「そうだね、彼らを街の詰め所に引き取ってもらおう。そうしたら賞金がもらえるかもしれない。」
「きゃー!何それ2度おいしい!」
2人がきゃっきゃっしながらお金の換算をしていると近くの茂みが揺れる。
ハッとして振り向くとそこには一人の少年が立っていた。
「あれ?兄さん・・・」
「おお、ツヴァイ!どうしたんだい?」
こんなところに2人がいると思わなかったというような表情を浮かべるとツヴァイはこちらに歩いてくる。
「ああ、狩りをしていたら聞き覚えのある声がしたんでこっちに来てみたんだよ。
兄さんたちこそ何をしているんだい・・・って、まあ見れば何となくわかるんだけど。」
「正義を行ったところさ!」
キラっと白い歯を見せながらさわやかな笑みを浮かべるアインを見て、ツヴァイは少し考えるそぶりを見せた後。
「ふむ・・・そうか、なら彼らは僕に任せて兄さんとドライはそっちの品物を換金してお金を皆に届けてくれないかな?
これだけの人数を街まで連れて行くのは大変だろう。その点僕なら知っている通り簡単にそれが出来る。
皆おなかを空かせてまっているだろうからね。余計な手間はできるだけ省きたいところだし。」
にこっと笑って簀巻きにされている盗賊たちを一瞥する。
その視線に冷たいものを感じたのは目線を合わせてしまった盗賊たちだけだろう。
「他に持っていける物はないかな?食料とか・・・」
「いや、ここにある食料なんて質の悪いエールと乾燥肉くらいだと思うよ。
正直、紅音や皆にこんな連中と同じものに口をつけさせたくないな。」
「そうか!じゃあ彼らのことはツヴァイに任せて僕とドライはさっそく品物を換金してくるよ。」
笑顔で毒を吐くツヴァイを完全にスルーしてアインも頷いた。
「じゃあ、後は頼んだよツヴァイ。」
「うん、任せて。僕がしっかり彼らを処理しておくから。」
「ああ!さあ、行こうドライ、皆が待っている!」
「そうね。いやー、良いことした後は気持ちがいいわねアイン!」
「いやあ、ほんとに!」
「ほんと追い剥ぎにあってラッキーだったわね犬!私たちついてるわね!」
「犠牲が出ないで済んで良かったよほんとに。」
「ええ、そうね!主に私たちの!」
晴れ晴れとした表情で戦利品を持って換金所に向かうアインとドライをにこにこしながら見送ると、ツヴァイは笑顔のまま盗賊たちの方を振り向いた。
「フィーア姉ちゃん!すごくおいしいよ!」
「そっか、よかった~!」
野草のスープを飲みながら子供たちが喜んでいる様子を見てフィーアは嬉しそうに笑った。
肉や魚といったたんぱく質こそ入っていなかったが、塩とコショウだけの味付けでも今の子供たちにはごちそうらしい。
まあそれもそうだろう、ここしばらくいものしっぽしか食べれないような生活を送っていたのだから。
かくいうフィーアも味見をした時点でこのスープはなかなかの出来だと思っていた。
「早く蒼ちゃんにも食べさせてあげたいな~。」
いくらツヴァイが食が細いとはいえ、さすがにおなかが減っている頃だろう。
朝から出かけてしまった彼がいつ戻ってくるのかは分からないが彼のことだ、少なくとも大物を狩るまでは帰ってくることはあるまい。
「そうだ、ペットたちにもあげないと。」
何枚かお皿を出してスープを入れるとそれをトレイに乗せて庭に運ぶことにする。
庭では犬小屋の上にいる猫と下にいる犬が喧嘩をしており、アルケンガーが跳ねており、ズィーベンたちがリンゴを食い荒らしていた。
「うんうん、皆今日も元気だね。」
まるでそれが当たり前の光景であるかのように受け入れたフィーアは、スープをペットたちの方に持って行ってやる。
それに気付いたのか3匹の犬はすぐに駆け寄ってきた。
駆け寄ってきた彼らをフィーアは順番になでてやる。
「よしよし、皆が帰ってくればもっとおいしい物が食べられるからね。」
動物である彼らにとっては草の入ったスープがおいしいものに感じるかどうかは分からない。
それでもフィーアが持ってきたものを嬉しそうに食べている。
「ネコちゃんたちはこっちに置くからね。」
犬と喧嘩にならないように少し離れた場所に猫たち用のお皿を置いた。
犬小屋の上にいた猫2匹はにゃあにゃあと鳴きながらフィーアの足元にすり寄ってくる。
「ごめんね、ミルクか猫缶が食べたいよね・・・もう少しの辛抱だからね!」
その言葉が分かったかのか猫たちはおとなしくスープを舐め始めた。
「ユウたちも野草のスープ飲む~?」
リンゴを食い荒らしている鳩たちにも声をかけてやるところが実にフィーアらしい。
「ふ、俺様たちは大丈夫だ。残りは自分でしっかり食べなフィーア。」
「そっか、ありがとうユウ!」
ワイルドに良いことを言っているように見える鳩がリンゴの実を皆に分けていればもう少し事態は違ったのではないかという突っ込みはさておき、ズィーベンたちはフィーアがまだそれを食べていないことに気付いたらしい。
「ところでユウ、ここしばらくの食事ってリンゴだけだと足りなかったでしょう?
他にいったい何を食べていたの?」
いくら自分たちで独占していたとはいえ、一月もの間リンゴだけで食いつなぐのはいくら彼らでも無理だろう。
そんな単純な疑問にズィーベンはビシっとポーズを決めながら言った。
「俺は自由を愛する男だからな。」
「そっかあ、ユウは自由を愛する鳩さんなんだもんね~。」
全く会話になっていない会話をしていると、今度はフィーアの足元にアルケンガーが跳ねてくる。
「えっとお、これそのままあげて大丈夫なのかな~?」
フィーアがエプロンのポケットから取り出したのは何を隠そうグレネードだった。
今朝、アルケンガーの餌になる金属がなくて困っていたところ、通りすがりのアハトがこれを1本おいていってくれたのだ。
「これどこが金属でどこが爆弾なのかな・・・」
さすがに丸ごとあげてアルケンガーが爆発四散する姿は見たくないのでフィーアが困っていると。
「あっ!!」
ぽよんっと跳ねたアルケンガーがフィーアの手ごとグレネードを口に入れてしまった。
「わ!だめだめ!爆発しちゃうから丸ごとはだめー!」
必死に取り返そうとするのだがアルケンガーはそれを返してくれる気はないらしい。
「あう!」
取り合いの末、アルケンガーはそれを丸ごと飲み込んでしまった。
「ど、どうしようー!アルケンガーが爆発しちゃう・・・」
ドキドキしながら見守っていたのだが、アルケンガーはけぷっとすると満足げな表情でどこかに跳ねて行ってしまった。
換金所にいった帰り道、アインとドライがホクホク顔で家に向かって歩いて行くと子供たちの声が聞こえてきた。
「もういっぱいいるもん。こっそり飼えば分からないって!」
「そうだよな。こんなところにおいて行くのかわいそうだし・・・」
会話は遠すぎて何を言っているのか分からないが、どうやら少し元気を取り戻して何人かが外に遊びに来ているようだ。
「おーい!皆!お金を稼いできたよー!」
アインが声をかけると子供たちが一斉に振り向いた。
「どうしたんだい?皆。」
「あ、アイン兄ちゃん、ドライ姉ちゃん・・・」
「ん?あれ・・・」
後ろを覗き込もうとすると子供たちはそれを全員で隠そうとする。
しかし・・・
にゃ~。
ものすごく分かりやすい動物の声がした。
「そっか。」
後ろに隠されているのが何なのか分かったアインは、笑顔で子供たちの頭をがしがしと撫でると。
「じゃあ皆で帰ろうか。」
一言も否定することなくそう言った。
「いいのかい!兄ちゃん!」
「もちろんだよ。」
「はあ・・・また食いぶちを増やして。こいつの分も稼がないと。」
ドライはため息交じりに言うが、それでも捨ててこいとは言えないようだ。
「ちょっとあんたたち!ちゃんと世話するのよ!しなかったらあんたたち全員ご飯抜きだからね!」
「ドライ姉ちゃんのごはんなんて喰いたくねえやー!」
「なんですって!待ちなさ~い!!」
きゃーきゃー言いながら子供たちとドライが追いかけっこを始めたのを見てアインは満足げに頷く。
「そんなこと言っちゃだめだぞ。」
ドライの食事でかなりの被害を被っているアインなのだが、それでもそういう風に言えるところが彼らしいと言えるだろう。
「兄ちゃんが言うんだったら仕方がねえなあ・・・その代わりドライ姉ちゃんの作った物はアイン兄ちゃんが食ってくれよ!」
子供たちもしっかりしたものでそんな風に交渉してきた。
さすがのアインもその言葉に条件反射のように一瞬びくっと震える。
「犬、今の一瞬の間は何?」
気付くと追いかけっこをやめたドライが半眼でアインをじーっと睨みつけていた。
「ほ、ほら、ドライの料理を僕だけで独占しちゃっていいのかなってさ!」
「そ、そうね!あんたの言うとおり皆にも食べてもらうべきよね!!」
アインの言葉にキラキラとした表情で言ってからドライは子供たちの後ろにいた猫に視線を送る。
「ちょっと、そいつ真っ黒じゃないの!洗ってから家に入れないとだめでしょう!」
ひょいっと猫を抱き上げるとドライは山小屋に向かってさっさと歩いて行ってしまう。
「さ、皆も中に入ろう。」
その後ろを子供たちとアインは楽しげに話しながらついていった。