ホムンクルスの箱庭 ~Seven deadly sins~ 第1話 Sloth Beast 第2章『はじめてのおしごと』②
ホムンクルスの箱庭 ~Seven deadly sins~ 第1話 Sloth Beast 第2章『はじめてのおしごと』①と同時に更新しました。
「えっと~・・・これは食べられる草、これは食べられない草。」
ソフィにもらった植物図鑑を見ながら、フィーアは森で野草摘みをしていた。
これならばフィーアでも簡単にできるし、凍りつかせてしまう危険性はない。
籠の中にはそれほど量はないがいくらか食べられる草が入っていた。
「これくらいにして後はお部屋の掃除をしないと。」
んーっと伸びをしながら立ち上がると、フィーアはエプロンのしわを伸ばすように叩いた。
ここしばらく掃除もしていなかった部屋は埃まみれだ。
それに、『みんなのおうち』と書いたプレートも落ちてしまっていた。
あれも直さなくてはならない。
そんなことを考えながら家に帰ろうとすると。
ちりん・・・
「あれ?」
何か聞こえたような気がしてフィーアは辺りを見渡してみる。
これといって辺りには何もいないようなのだが。
「気のせいかな~?」
不思議に思いながらもフィーアはその場を後にした。
その後ろ姿を、小さな獣が眺めていた。
茂みの中から紅い瞳を細めてごろごろと喉を鳴らしながら。
「さてと・・・どうしようかしらね。」
街に出たソフィは紅牙を見送ってから一人で歩いていた。
山の中腹にある大きな宿場街。
交通の便がよく、栄えているにもかかわらず特定の人間が長くは留まらない街。
ここは近くに身を隠すにはもってこいの場所だった。
目立つ行動さえしなければ所詮は誰もが通りすがりでしかないのだ。
そんな街で仕事を得るのは逆にいえば難しくもある。
さらに自分は種族的なものとはいえ人間の幼児程度の大きさしかない。
そのことを考えれば選べる仕事はそれほど多くはなかった。
「やっぱり・・・そういう系しかないわよね。」
幸か不幸か世の中には自分のような低身長の相手に対してそういう欲望を持つ輩がいるらしい。
幸い自分は歌と踊りには自信がある。
まあ、こんな場所ではただの踊り子としてやっていくのは無理かもしれないが。
「それくらいの覚悟・・・いつだって持ってたんだから大丈夫よ。」
家族を守るためなら何だってやる。
それがどんなに汚れた仕事であろうとも。
決意したような眼差しでソフィは裏路地に入って行く。
その後ろを黒づくめの怪しい男がつけていることに、彼女は気付いていなかった。
「お・・・お金が手に入ったわよアイン!!」
「ああ・・・これで今日のごはんが食べられるねドライ!」
納品所に品物を届けたアインとドライは金貨袋を手に感動にうちふるえていた。
あれだけの苦労をして手に入れたお金はなんだかとても愛おしい。
帰り道、荷物の無くなった荷台にドライを乗せてアインはリアカーを引いていた。
「このお金があれば数日間は僕たちが家を空けても大丈夫かもしれない。」
「そうね、内職だけで稼ぐのは正直限界がある。
私たちも何かしら仕事を見つけないとならないわね。」
といっても、アインの見た目で果たしてウエイターが務まるだろうか?
ドライの不器用っぷりで内職以外の仕事が務まるだろうか?
考えるほど不安しか浮かばない。
そんな時だった。
「ちょっと待ちな!」
「そこで手に入れた金を置いて行ってもらおうかあ。」
両脇の茂みの中から肩にとげのついたアーマーを来たちんぴらたちが数人出てきた。
「ずいぶんと大量に納品してたじゃねえか。たんまり持ってんだろお?」
どうやら彼らはアインとドライが納品するところを見ており目をつけていたらしい。
しかし、それが大量の造花だったことまでは知らないようだ。
「おーっと、ついでにその女は置いて行けよ。へっへっへ。」
「そうだぜ兄ちゃん、金目のものとその女さえ置いて行けば命だけは助けてやるって言ってるんだ。悪い取引じゃねえだろう?」
「ダメだ!」
「やったわ!!」
『え!?』
追い剥ぎたちの目が点になっている。
アインの言葉と同時に発せられたドライの言葉はそれだった。
もちろん、やつらの言葉に対してそう言ったわけではない。
ドライは彼らの言葉は全く耳に入っていなかったらしく目をキラキラと輝かせている。
そして、ドライは追い剥ぎたちをビシッと指さして言った。
「あんたたち、私たちの明日の糧になりなさいっ!!」
「おいおい、聞いてなかったのかよ姉ちゃん。俺様たちのものになれって言ってるんだよ!!」
懲りずにリーダー格の男が下種な笑みを浮かべながら言ったのに対して、アインが珍しく嫌悪感を顕わにしながらはっきりと言い放つ。
「それはドライのことか・・・絶対に渡さない!!」
「きゃー!犬かっこいいわよ!!やっちゃいなさいチャンスよ!」
男たちの言葉はどうでもよかったが、アインの言葉は聞き逃せなかったらしい。
頬を赤く染めながらドライがキャーキャー言っている。
「おまえたち、いつもこんなことをしているのか!!」
「自分たちで稼ぐより人からもらった方が楽だろうが。
俺たちはほら?いわゆる上流階級ってやつなんだよ。
上流階級は下々の連中からいくらでも搾取することが許されてるんだろう?
だから俺たちは人様からいくら奪ってもいいのさ。」
アインが確認のために聞いた言葉に対し男たちはにやにやとしながらそう言った。
どうやら、アインの言葉を否定するつもりはないらしい。
「この間は種もみを大事そうに持ってた爺を殺してその種もみを喰ってやったぜ!」
「ああ、最高にうまかったなあれは!!」
「は?あんたたち何言ってるの?
種もみは植えるためのものなんだからそのまま食べてもおいしいわけないじゃない。」
「うるせえ!おまえらやっちまえ!!」
ドライの冷静な突っ込みもなんのその、リーダーの言葉に彼らは一斉に剣を抜くとアインとドライを囲むように散らばった。
「皆、爪に火をともすようにして必死に生活しているんだ!それを・・・!!」
アインの脳裏にこの数週間の地獄のような日々が蘇って行く。
食べる物がなく1日中おなかを鳴らしながら過ごした。
最後の食料であるいものしっぽを皆で分け合いながら食べた。
倒れるその瞬間まで、自分たちは生きることを考えて紅い花を作り続けた・・・!!
「絶対に許さない!!」
理由の一部はアインが守ろうとしているドライが料理に失敗したせいであり、さらに一部は完全な逆恨みということはさておきこのまま彼らを野放しにしておくことはできない。
アインは怒りのあまり久しぶりに感情に任せて軽く賢者の石が発動してしまった。
「犬、殺しちゃだめよ!こいつらを捕まえてアジトを聞きだすの!!
ほどほどにしなさい、ほどほどに・・・一人だけは生かしなさい。
手足はなくても口さえ聞ければいいんだから!」
そのことに気付いたドライは一応手加減をするようにアインに言い聞かせる。
しかし、その表情は獲物を狙う肉食獣そのものであり、今までで一番悪意に満ちた表情だった。
「悪は許さん!!」
刀を抜いたアインはその切っ先を哀れな追い剥ぎたちに向けたのだった。