ホムンクルスの箱庭 ~Seven deadly sins~ 第1話 Sloth Beast 第1章『働かざる者食うべからず』②
前の第1章①と同時に更新しました。
「外の川で魚を採ろうとかもしたんだよ~?」
内職をしながらフィーアがここしばらくどうしていたのかを教えてくれた。
「でも、魔法を使ったら川が凍りついてとれなかったの・・・」
しょんぼりと俯くフィーアの頭をツヴァイはそっと撫でてやる。
「紅音、あれは君のせいじゃないよ。あの程度で凍りつく川が悪いんだ。」
無茶苦茶なことを言っているが、そこにはあえて突っ込み入れずにソフィはため息交じりに言った。
「そうね・・・やり方はちょっとあれだったわね。
でもお金を稼ぐのもいいけど自然から食料を得るのはありだと思う。」
さすがに命の危機に瀕していたわけだから、彼らなりに努力したということは分かった。
「今度、簡単な魚のとり方を教えてあげる。まあ、アハトがいないと出来ないけど。」
「どんな方法なの~?」
「うん、お金が稼げなくてどうしてもって時にね。あんまりやると川から魚がいなくなるから。」
ソフィのいうアハトにしかできない方法というのは、もちろん川にグレネードを投げ込むというものだ。
ダイナマイト漁と呼ばれるもので水中で爆発を起こし気絶して浮いてきた魚を採るというものなのだが、あまりに採れ過ぎてその一帯から魚がいなくなる危険性があるのでソフィとしてはあまりやりたいものではない。
生態系が狂うというのもあるが、どちらかというと下流の街で騒ぎになってここに誰かが来るのが面倒だからだ。
「まあ、僕も明日から働こうかな。」
そんな中、ツヴァイがさらっとそんなことを言った。
「蒼ちゃん、何をして働くの?私も手伝いたいなあ。」
「そうだね・・・僕は狩りが得意だから。そういう系にしようと思ってるよ。」
「そ、そっか・・・私は狩りは苦手かも。だって獲物が凍りついちゃう・・・」
確かにか弱いフィーアに魔法を使わずに狩りをするのは無理だろう。
残念そうにする彼女にツヴァイは優しく笑いかける。
「うんうん、そしたら紅音は僕が帰ってきた時にごはんを作れるように用意していてくれるかい?」
「うん、すぐにごはんを作れるように準備して待ってるね。
それに・・・荒れ果てたおうちを片づけなきゃいけないし。」
ここしばらく生きることに必死だったため、家の管理までは手が行き届いていない。
それを使える状態に戻すだけでもなかなかの重労働といえるだろう。
「皆で働きに出ちゃうと家のことをする人がいなくなっちゃうもの。
そうね、じゃあ家のことはフィーアに頼むことにするわ。主婦も立派な仕事よ。」
「うん、任せて!がんばるね~!」
荒れ果てた家の修復と掃除、その全てをフィーアに押し付けるわけにはいかないがある程度のことは任せてもいいだろう。
「ところで、今ここで暮らしている正確な人数を把握したいんだけど。」
「ああ、それだったら子供たちの数は変わらず20人、
その代わり子供たちが拾ってきたペットがまた増えてるよ。」
「ま、また増えたの・・・」
ツヴァイのため息交じりの言葉にソフィもうなだれた。
どこの家庭でもありがちなのが子供がどこかから犬猫を拾ってきてこっそり飼っているうちにペットになっているという現象だ。
その部分は孤児院だろうとどこだろうと変わりがないらしい。
ぬいぐるみの中に在るログハウスの庭には現在ペットが数匹暮らしている。
「ああ、犬が2匹、猫が2匹、アルケンガーが3び・・・」
「アルケンガーって何か食べるわけ!?しかも3匹って・・・あの子最初1匹じゃなかった?」
アルケンガー、それはアルバートが開発した生体金属。
あの戦いでその身体のほとんどを失ったアルケンガーだったが、奇跡的にあの時残ったポッド部分が再構成してまた生き物のように動き回るようになった。
その姿はぷにぷにとした透明の大福のようなスライムのような物でちゃんと目と口がついている。
あの時の竜の面影は欠片もなく、どこからどう見ても癒し系になってしまったそれはフィーアいわく究極のさわり心地の生物として生まれ変わったらしい。
もっとも、なぜか家族どころか製作者であるアルバートにすら触れさせないのでそのさわり心地はフィーアしか知らないのだが。
「あいつ・・・庭付近にあった金属を根こそぎ喰らいやがったのよ!!」
今思い出しても腹が立つ!とドライがむきーっとなりながら言った。
「シャベルとか鍬とか農作業で使える物一式と・・・よりにもよって井戸のポンプ部分を!!」
「そ、それは災難だったわね・・・」
そのため、それ以来アルケンガーにも食事を与えているらしい。
「でも、ごはんあげるとき3匹に分裂しちゃうんだよね~。」
フィーアが困ったように笑いながらそう言った。
「ところで、アルケンガーって何食べるの?」
「えっとね~、ネジとか釘とか?」
「餌までオール金属なのね・・・」
どうやらその辺りのことも考えて食事を用意しなければならないらしい。
確認のために一度席を離れてソフィとアハトは庭を確認しに行くことにした。
「・・・増えてるわね。」
「ああ、増えているな。」
「そ、そんなことないよっ!?」
子供たちが大慌てで全員一緒になって首を振っている。
聞いていたよりも犬が1匹増えていた。
「だって捨てられてるの見るとかわいそうだろ!?」
子供たちは口々に言って何とかこの場を逃れようとする。
「まあまて、犬猫が増えるのは良い・・・あれはなんだ!」
ぽよん、ぽよん、と以前よりも明らかに大きさを増している大福・・・もとい、アルケンガーが庭をわがもの顔で跳ねていた。
こちらに気付いたのか大福はアハトとソフィに向かって腕のあたりに簡易的に生やした短い触手をぴるぴると振って見せる。
そして振り終わると触手を体内に戻し何事もなかったかのようにまた庭をはね始めた。
「・・・なんだ、アルケンガーか。」
「そこで納得していいものかどうなのか怪しいけどね。」
挨拶されたことによってアハトの中では落ち着いたらしいが、ソフィとしてはやっぱり納得がいかないのであった。
「そういえば、この庭って確かリンゴの木が・・・」
運が良ければ実の1つや2つなっているかもしれない。
そう思ってソフィがそちらに視線を移すと・・・
「くるっぽー!くるっぽー!!」
・・・鳩が3羽、リンゴの木に止まっていた。
彼らは木の上の方にある木の実を3匹で食い荒らしていた。
「なるほど、木の実も採ろうとしたけどユウたちが全部食べたのね。」
その光景を見て納得はいったものの頭痛がする。
人間が取れる高さのリンゴは全滅しており、代わりに鳩たちはまるまると肥えていた。
それは彼らがこのリンゴの木を占領していたことを意味するのだろう。
「まったく、人間ってやつは困ったもんだぜ。家族の食糧も調達できないのか。」
むーっしゃむーっしゃとリンゴをむさぼりながら肥え太った顔をしてドヤ顔をする鳩にソフィの手が思わず懐のナイフに延びる。
「打ち落としていいかしら、アレ?・・・っていうか、鳩って食べれるわよね。」
「言われなくてもすたこらさっさだぜ!」
ソフィの真顔に危険を感じたのか鳩たちはさっさと退散することにしたらしい。
ブーンという不思議な羽音と共にどこかに飛び去っていく。
「・・・なんでアイまで羽音が変わってるのよ。」
「伝染するんだろうな。」
「えー・・・なんかやだな。」
そのうち羽の生えている物全てがあの羽音になる日が来るのではないかと一瞬想像してソフィはげんなりするのだった。