ホムンクルスの箱庭 ~Seven deadly sins~ 第1話 Sloth Beast 第1章『働かざる者食うべからず』①
今日は第1章の①と②を更新します。
あれからソフィの買ってきてくれた食料により何とか動けるようになった一行はリビングに集められていた。
お粥風のオートミールとポトフはアハトとソフィが2人で協力して作ってくれたもので、皆には今までの人生で一番おいしい食事に感じたと言う。
ちなみに、騒ぎの発端である紅牙はごはんだけは何とか恵んでもらえたものの、ミニライオンの姿のまま外の木に逆さまにつるされていた。
人の3倍は食べた彼の腹はぽっこりと膨れ上がりとても満足そうだ。
その首には『反省中』と書かれたプレートが下がっている。
そんな彼は食事の最中。
『なあ、もっと食べてもいいかな!!』
『あんたは木の根っこでもかじってなさい!!』
与えられた以上の食事を所望しようとしてドライに叱咤されていた。
あれだけ紅牙を慕っていたドライが、あんた呼ばわりして木の根っこをかじらせようと言うのだから事態がどれだけ逼迫していたかはもはや語るまでもない。
ドライが最後の料理をマジカルクッキング・・・もとい、失敗したことにも少なからず原因はあるのだがそれはそれ、悪意が爆発してしまったのでしょうがないらしい。
「それでは・・・これから家族会議を始めたいと思います。」
長テーブルの一角で神妙な顔つきのアハトがだんっと両手をテーブルについた。
「そうか、俺もそうしないといけないと思っていた!!」
ぷらーんぷらーんと外の木でみの虫のように揺れながら、紅牙がキリッとした表情で頷く。
じとーっとした視線が皆から注がれたがそこは気付いていないらしい。
「さてと・・・今回の議題は、食事についてです。
いや・・・まずはおまえたちの経済観念だあああっ!!」
場を仕切り直すように咳払いしたアハトは落ち着いた様子で話し始めたのだが、後半は感情の赴くままに叫んでいた。
「たった1週間で2万もの食費を使いきるだとおお!?おまえら、馬鹿すぎるだろ!!」
「何を言っている!もっとうまい物を喰いたいに決まってるじゃないか!!」
それに対し平気な顔で反論したのは紛れもない主犯。
そして、プレートに書かれている文字とは程遠いふてぶてしいその態度に先に動いたのはアハトではなかった。
スパーン!ドス!!
「うわああああ!?殺す気か!?」
目にもとまらぬ速さで何かが飛んでいったかと思うと、ぎりぎりで紅牙の横をすり抜けて後ろの木に突きささった。
「あら・・・手元が狂っちゃったわ。」
それは、ソフィが投げた果物ナイフだった。
「紅牙さん、発言は考えてしてください。」
犯罪組織の工作員という言葉がふさわしい冷徹な瞳で獲物をにらんだ彼女はにっこりと笑うと席に着く。
「私もね・・・皆がその辺の経済観念ゆるいのは知っていたからちょっとは大目に見ようと思ったのよ。
アハトがお金を多めに置いていったって聞いて正直いって安心もしたわ。
でも・・・1週間で溶けるとは考えていなかった。」
ふふふ・・・と自嘲の笑みを浮かべたソフィはさらに皆の目の前に並んだ食器を指さす。
「それと、もう一つ大事なことがあります。
今みんなが食べたオートミールとポトフ、これで私たちの所持金は0になりました。
これが何を意味するか・・・言わなくても分かるわね?」
あくまでも笑みを崩さないソフィの態度に皆がぞーっと寒気を覚えていると。
「はあ・・・というわけでだ。ここは家族みんなでお金を稼がなくてはならない。」
「そんなのわかってるわよ・・・」
アハトの言葉に口をはさんだのはドライだった。
彼女はさっきから手元でちまちま何かをやっている。
「私と犬はこうやって内職までしてお金稼いでたのよ!!それなのに、それなのに・・・!」
「ご、ごめんね・・・私の管理が甘かったから。」
家計はフィーアが担当していた。
しかし、紅牙にお金が必要だと言われると何の迷いもなく渡してしまっていたらしい。
それが今回の悲劇につながってしまったとフィーアは深く反省しているようだった。
「大丈夫だよ紅音、全てはあの食欲魔人がいけないんだ。紅音は本当によくやってくれてるよ。」
「蒼ちゃん・・・!」
「そこ!甘やかしてないで内職手伝いなさいよね!!
今日のうちにあと段ボール1箱分作らなきゃいけないんだからね!?」
見つめ合うツヴァイとフィーアにドライは手元で作っていた紅い造花を押しつける。
そう、アインとドライがいた部屋に一面広がっていた紅い花、あれは2人が夜鍋をして作った努力の結晶だったのだ。
「犬、今日も徹夜よ!!」
「が、がんばろう・・・!」
「あんたと私ならできるわ!!」
「あ、ああ・・・生きるためにがんばるよ。」
ほろり、と涙を流しながらアインはその巨体で小さな造花を器用に作り続けていた。
そんな時、ふとフィーアがこんな言葉を口にする。
「ところで~・・・お金ってどうやって稼げばいいの?」
きょとん、とした様子で尋ねられてアハトとソフィはうっと言葉に詰まってしまう。
「そういえば僕たちはあまりお金を稼いだことがなかったね。」
さわやかな笑みを浮かべてツヴァイまでもがそんなことを言った。
知識はあっても経験がない、ゆえに当り前の行動に結びつかない。
そんな彼の世間ずれした様子を目の当たりにしてアハトとソフィはため息をつく。
なぜ死にそうになるまで働くことを選ばなかったのか。
「ねえねえ、お金ってどこから来るのかな!」
「こ、こいつらーっ!!」
フィーアのとんでも発言にアハトも我慢の限界らしく頭を抱えて叫んだ。
「だっていつもは~・・・アルスマグナの研究施設から何かをもらってきて、それを街の道具屋さんとかに売ってお金を稼いでいるよね?」
確かに、フィーアの感覚からするとお金を稼ぐ=ゲットしたものを売り払う、になってしまっているのは仕方のないことだ。
「そ、その通りだ・・・」
否定する要素がないままアハトががっくりと肩を落とす。
しかし、今目指しているのはあくまでも普通に暮らして行くためにお金を稼ぐ方法なのだ。
「そうか、じゃあ僕たちは次のアジトを見つけてそこを襲撃すればいいってことだね。」
「そっかあ、蒼ちゃん頭良~い♪」
「待つんだおまえたち、次の施設を襲おうにも場所が分からん。
そもそも俺たちは今現在アルスマグナから隠れて暮らしているんだぞ!
そんなことをすれば一発でこっちの場所がばれるわ!!」
「そ、そうだね・・・僕も空腹のあまりちょっと錯乱してたみたいだ。」
ようやく冷静さを取り戻してきたのかツヴァイも事態を理解し始めたようだ。
「俺たちに必要なのは明日の糧を得るための収入だ。
何も一山当てろって言ってるんじゃない。
どんな方法でもいいから地道に金を稼げと言っているんだ。」
その方法というのが簡単に浮かばないことこそが問題なのだが、そこを考えさせてこそ必要な経済観念を得られるはず。
「というわけで、今日はとりあえずアインとドライがやっているこの内職を手伝うんだおまえらは!それを作り終えれば明日のご飯が食べられるぞ!!」
「そうだな!俺もやるから任せろ!」
その言葉に真っ先に反応したのは吊るされている小動物だった。
彼が反応したのが明日のごはんという言葉だということには皆は何となく気付いていて、とりあえず無視することに決める。
「ドライ、ノルマはあとどれくらい?」
「そうね、ざっと・・・残りの分は1000個ってところかしら。
10個で1ゴールドだから・・・全部納品すれば300ゴールド!!」
「ドライ、アイン・・・えらい、あなたたち本当によくやったわ。
それだけあれば3日はまともなごはんが食べられる・・・!」
「ふ・・・任せなさい!当然でしょ!」
「あ、ありがとう・・・ほろり。」
ソフィに褒められて涙ぐみながら、それでもアインとドライは造花を作る手を休めることはなかった。
まるでここしばらくこの作業をすることが日課になっていたかのような光景だ。
目下そこにある収入源を確保すべくこの後、徹夜で作業を続けることになった。