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ホムンクルスの箱庭 ~Seven deadly sins~ 第1話 Sloth Beast プロローグ③

今日は前の1話と同時に更新しました。

 その様子をどこか茫然と見送ったアハトだったが、ハッとしたようにツヴァイに駆け寄る。


「ツヴァイ、おいしっかりしろツヴァイ!子供たちはいったいどうしたんだ・・・!?」


 5人がこんな状態で倒れているのだ、まさか子供たちは・・・!?

 そんなアハトに、ツヴァイは微かに目を開いてこう教えてくれた。


「あ、ああ・・・あの子たちだけは助かるようにした。中を確認してきてくれ、僕たちより悲惨な光景は見ないで済むはずだ。」


「そ、そうだったか・・・ありがとう。

 とりあえず俺は子供たちを確認してくるから気をしっかり持って待ってるんだぞ!」


 それだけ言うとアハトは子供たちの安否を確認するべく、フィーアの抱いているくまのぬいぐるみから中の異空間へと飛び込んだ。

 ぬいぐるみの中はいつもと変わらない平和な光景。

 緑の草原には柔らかな風が吹き抜け、皆のおうちがそこにあった。

 しかし、そののどかな風景の中に子供たちの姿はない。


「ま、まさか・・・!?」


 嫌な予感を抑えきれずに、アハトは普段なら煙突から煙が出ているはずのログハウスに走り込んだ。


バタン!!


 荒々しくドアを開けた先に、彼らはいた。


「これが最後の食糧じゃ・・・!」


 やせ細った老人が、ぷるぷると震えながらイモのしっぽを子供たちに差し出している。


「おねがい、飴玉ひとつだけちょうだい!ごはんはおいものしっぽでもいいから・・・!」


 子供たちがいものしっぽを受け取りながら涙目で訴えている。


「こ、これを加工すれば食べられるかもしれないわ・・・!!

 大丈夫よ!メープルシロップなんておしゃれな名前のついている

 はちみつより高級な食べ物だってたかが木の樹液じゃない!」


 その近くで、木の皮を取ってきたジョセフィーヌが試験管と錬金術の薬品を手にぶつぶつと何か言いながら実験を行おうとしていた。

 メープルシロップを何だと思っているのかは分からないが、少なくともその方法では作ることはできなさそうだ。


「な、何だこれは、ジョセフィーヌが錯乱してるぞ、クリストフこれはいったい・・・!?」


 状況を把握すべく、アハトは旧知の友であるクリストフの姿を探した。

 彼は・・・


「クリストフーっ!!?」


 ジョセフィーヌの隣で座禅を組んで骨と皮だけになっていた。


「あ、あらアハト・・・久しぶりね。」


 幽鬼に取りつかれたようにこけた頬をしながら、ジョセフィーヌが親しげに話しかけてくる。


「大丈夫よ、彼は乾眠しているだけだから。」


 乾眠――クリプトビオシスは無代謝の休眠状態のこと。

 ある生物の一部が行うことができる。


「って、クマムシかーっ!!!」


 全力で叫んだアハトは乾眠しているらしいクリストフのことは放っておいて、今度はアルバートを探した。

 子供たちを守ると言っていた彼が一緒にいてなぜこんなことになっているのか、それを問い詰めなければならない。

 ぎらぎらとした表情でアルバートを探していたアハトの視線がようやく彼を捕えた。


 しかし・・・


「う・・・何だこの匂いは!?」


 今になってようやく気付いた。

 部屋全体に異様なにおいが充満している。

 それはまるでこの世のすべての毒物を合わせたような甘い誘惑の香り。

 アルバートが立っているのはオープンキッチンで、そこには大きな鍋が一つ。

 火がついていないにもかかわらず中の黒紫色に変色した何かはぶくぶくと泡を放っている。

 その目の前に立つアルバートは、子供たちを取り戻そうと必死になっていた時と同じ顔をしていた。


「ど、どうしたんだ、アルバート!そいつは、いったい・・・!?」


 彼がいったい何をしようとしているのか、アハトにはまだ理解できずにいた。


「アハト・・・すまない。

 生体金属である私の身体を持ってしてもこの料理には耐えきれなかった。」


 懺悔するような情けない自分を笑うような表情でアルバートはそう告げた。


「ま、まて・・・それはどう見ても料理では・・・!?はっ!!」


 そう言いかけたところでアハトはアルバートを見つめた。

 アルバートはそうだ、と目で語るように頷き。


「これは・・・ドライが子供たちのために作った料理だ。」


「やっぱりか!?」


 ドライの料理は究極的に不味い。

 そして、それは彼女が本気で取り組めば取り組むほど効力を発揮する。

 ドライ、彼女は・・・本気だったのだろう。

 本気で子供たちを助けるべく料理を・・・


「・・・って、その料理で死人が出たんじゃないだろうな!!」


 どこからどう見ても毒物のそれをまさか誰かが食べたのでは。

 大慌てで子供たちの人数を数え始めるとアルバートが首を横に振った。


「安心してくれ・・・私が最初で最後の犠牲者だ。」


「アルバート・・・よくやった。」


 さわやかな笑みを浮かべてそう告げたアルバートを、アハトはがしっと抱きしめる。

 アルバートもそれに答えるようにぽんぽんとアハトの背を叩いた。


「しかしアルバート、おまえがいながらこの悲惨な状態はいったいどういうことなんだ?」


 すると、アルバートは身体を放して首を横に振った。


「最後の食材でドライが料理を作り・・・私はそれを全生命をかけて食べた。」


「あ、ああ・・・それは聞いたが。」


「その後、私は3週間死の淵をさまよい、先ほどようやく目を覚ましたところだ。」


 言われてみれば、アルバートもクリストフといい勝負だと言えるほどに痩せ細っている。

 

 そして・・・


「だが任せろアハト、私の持つ技術全てを駆使すればこれを食べれるようにすることなど赤子の手をひねるようなもの・・・!」


 ふーははははと笑いながらアルバートがその毒物を口にしようとした。


「やめろ!やめるんだアルバート!!死ぬ気か!?」


「放してくれアハト!実験は成功したはずだ、私は・・・子供たちのために成し遂げなければならない!!」


「馬鹿なことを言うな!!というか、3週間前に作った料理がそのままの形で残ってることがおかしいことに気付け!!」


「止めるなアハト!!・・・まだ間に合う!間に合うはずなんだ!!」


 そんな攻防は数十分にわたり繰り広げられた。

 帰ってきたソフィがその光景を見て、一度無言でログハウスの扉を閉めたとか閉めないとか。


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