ホムンクルスの箱庭 ~Seven deadly sins~ 第1話 Sloth Beast 第5章『ある日の食事風景』①
今日は第5章『ある日の食事風景』①と②を同時に更新しました(*ノωノ)
「えーっと、犬が3匹、猫が3匹、アルケンガーが1匹・・・」
皆が働き始めてからひと月たった頃、ペットたちを家の中に入れることになったのでソフィはその数を改めて数え直していた。
ところが・・・
ぽよん!
餌の皿を置くと我先にと前に出てきた巨大な大福が目の前で3つに分裂した。
「おまえは1匹じゃないのか!」
それを見たアルバートが思わずその物体、アルケンガーに突っ込みを入れる。
するとアルケンガーはぴるぴるぴるぴるっと、3匹そろって拒否を現すためだけに生やした小さな触手を横に振った。
「私はそんな風におまえを育てた覚えはないぞ!」
アルバートが憤りを隠せないように言うとアルケンガーは3匹ともぷいっとそっぽを向く。
まるでそれは、私のご主人はもうあなたじゃないですし。
と全身で現しているようだ。
「反抗期か!?く・・・!子育ての重要性・・・!子育ての重要性・・・っ!!」
これまで皆を育ててきただけに子育てにはそれなりに自信があったアルバートとしては、あまりの出来事に拳を震わせながら俯いてしまう。
「この子は放っておくと金属ならなんでも食べちゃうから~。」
1体に戻ってぽよんぽよんと移動したアルケンガーはフィーアに身体をすりつけて、3匹分のごはんをくれと訴えている。
事実、放っておけばこの生き物は家中の金属を捕食するだろう。
そうすれば以前の井戸の時のように、今度は苦労して作った水道が蛇口だけ食されるなどという悲惨なことになりかねない。
「わかった、その子は3匹で換算しておくわ・・・」
はあっとため息をつきつつも、ソフィは手にした家計簿にアルケンガー×3とかき込みを入れる。
「ソフィは家計簿で何を計算しているの~?」
「ん?ああ、これまでの家計簿から月に大体どれだけかかるのかを計算しているのよ。
新顔も増えたことだしね。」
最後に拾われてきた黒猫がにゃーと鳴いて小さく首をかしげる。
「はいはい、ちゃんとあなたのごはんも計算に入れてあるから安心なさい。」
黒猫の頭を撫でながらソフィは微笑んでいる。
なんだかんだでやはり動物はかわいいらしい。
「いいなあ、ソフィ。その子、私にはあまり触らせてくれないんだよね。」
「へえ、フィーアに懐かないなんてずいぶんと変わった子ね。」
フィーアにはなぜか動物に好かれるという特技がある。
現にあのフリーダムなズィーベンはフィーアの言うことならわりと聞くし、拾われてきたばかりで怯えていた動物たちをあっという間に懐かせたのも彼女だった。
人に近づこうとしないアルケンガーですらフィーアにはその身体に触らせるほどだ。
そのフィーアが触れないというのはソフィにも不思議に思えた。
「でも、懐いていないわけじゃないんでしょう?」
「んー・・・たまにお部屋に勝手に入ってきたりはするけど。」
「ふうん、じゃあやっぱり嫌われているってわけじゃないのね。」
黒猫がフィーアに触れさせない理由は分からないが、嫌いなら近づこうとすらしないはずだ。
「ごはんをもっと食べなさいって言ったのがよくなかったのかな~?」
「え?」
「その子、他の子たちと比べるとごはん全然たべないの。
だから来たばかりの頃、心配でそう言っちゃったことがあったんだけど。」
「うーん、それが原因ってことはないと思うけど。」
そんなことを話していると犬と猫が家の中で追いかけっこを始めてしまった。
「あ、こら、おうちの中では鬼ごっこしちゃだめ!」
フィーアに声をかけられると犬の動きが一瞬止まり、その隙に猫は棚の上に逃げていった。
「さすがね、悪いんだけどペットのことはフィーアに任せてもいいかしら?」
「うん、大丈夫!」
「家のことが任せっきりになっちゃっていて申し訳ないけれどよろしくね。」
女性であるからにはソフィとしても家のことをやりたいのは山々なのだが、今の仕事が思っていた以上に忙しくなってしまいそこまで手が回らなくなってしまった。
「うん、ソフィはお仕事がんばってね!」
そのことを分かってくれているのかフィーアも笑顔で頷いてくれるのだった。
「今日はいつもより豪華なごはんだよ~!」
その日の夜は久しぶりに少しだけ豪華な食事をしようという話になり、自分たちもペットたちもいつもよりもおいしい物を食べることになった。
犬たちには犬缶を、猫たちには猫缶を、アルケンガーにはその空き缶を用意してフィーアが持ってくると動物たちは嬉しそうに走り寄ってくる。
「皆、今日ももふもふだね~。でも、紅牙おにいちゃんと蒼ちゃんの方がもふもふかも。」
フィーアは健康チェックも兼ねていつも逃げてしまう黒猫以外のそれぞれの顔を見て頭や身体を撫でてからごはんを用意する。
ちなみに、犬猫とアルケンガーに周りを囲むようにまとわりつかれてわんわんにゃあにゃあ鳴かれているその様子は子供たちにフィーア姉ちゃんのもふもふ動物園と呼ばれていた。
「はい、食べていいよ~。」
フィーアのよしの合図と同時に犬たちは夢中で久しぶりのごちそうにかぶりつき始めた。
3匹に分裂したアルケンガーも、もりもりと缶を食しその隣では・・・
「こら!俺の分を食べるな!!」
「こ、紅牙お兄ちゃん・・・」
ミニライオンの姿になった紅牙が猫たちとごはんを取り合っていた。
「え?犬の方に行け?俺は犬缶よりも猫缶が好きなんだ文句あるか!
・・・プライド?そんなものじゃ腹いっぱいにならないだろう!
大切なのは食いものだ。生きるとはそういうことなんだぞ!」
にゃあにゃあと抗議する猫たちの言葉が分かっているのかいないのか、紅牙はドヤ顔でそう言ってみせる。
すっかりミニライオンの姿が板についた紅牙はペットたちとも一緒にご飯を食べていた。
紅牙いわく、ペットも家族だから一緒にご飯を食べるべきだなどと言っているがおそらくはおなかが空いて耐えられないだけだろう。
もちろんその後、人間としての自分のために用意されたごはんを食すことも忘れていない。
今日のごはんは皆にとって久しぶりのごちそうだ。
このままでは喧嘩になりかねない。
いつもなら紅牙がペットたちとごはんを取り合っているのを笑顔で眺めているところだがフィーアは慌ててもう一つ猫缶を開けて用意する。
「紅牙おにいちゃん、ほら、こっちに用意したからにゃんこたちからは取らないで・・・」
「おお、すまないな紅音!」
たたっと駆け寄ってきた紅牙はむっしゃむっしゃと猫缶を食べ始めた。
すると・・・
「あれ?どうしたの~?」
いつの間にか近づいてきた黒猫が、紅牙と同じお皿からごはんを食べようとしている。
「こら!まだあっちにあるだろう。これは俺の分だ!」
「ま、まあまあおにいちゃん。この子そんなに食べないから。」
黒猫はここに来た時から他の猫よりも餌を食べない傾向にあった。
なので、紅牙のごはんを取ってまで食べようとするのはかなり珍しいことなのだが。
不思議に思って眺めていると黒猫は紅牙にぴったりとくっつくくらいの距離に座る。
そしてごはんを少しだけ舌でなめはするのだがやはり大した量を食べるわけでもなくすぐに去って行ってしまった。
「・・・あいつ、よく俺と同じ皿から食べようとするんだよな。」
「え、そうなの?じゃあ紅牙お兄ちゃんのことが好きなのかなあ?」
「やめてくれ、あいつは♂だぞ。」
「そ、そうなんだ・・・」
あの黒猫だけはなぜか触らせてくれないので確かめたことはなかったのだが、いつも一緒にごはんを取り合っている紅牙が言うなら間違いないだろう。
「それじゃあ、私はシチューの様子を見てくるから紅牙おにいちゃんは食べ終わったら皆のお皿を持ってきて。」
「ああ、任せておけ。」
猫缶を食べ終えて前足をぺろぺろと満足そうに舐めながら紅牙はそう答えた。




