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ホムンクルスの箱庭 ~Seven deadly sins~ 第1話 Sloth Beast プロローグ①

『ホムンクルスの箱庭』の続編となります。

キャラクター紹介等はのちに公開しますが、前作を見ていただけるとわかりやすいと思います。

今回はかなりののんびり更新になると思いますが、よろしければお付き合いいただけると嬉しいです。

とりあえず、プロローグの一部を公開いたします。

 それは平和な日常の光景だった。


「ほら、腹いっぱい食えよ!」


 その日からしばらく、家族の食卓は考えられないほどに豪華なものだったとのちに彼らは言う。


「ええ!どうしたのこのごはん・・・」


 王侯貴族でも滅多になさそうな華やかな食卓に、フィーアは驚きの表情を隠せずにいた。


「ふふ、街に行って仕入れてきたんだ。遠慮なく食べるんだぞ!今日は俺も腹いっぱいたべることにしよう。」


「紅牙おにいちゃんがおなかいっぱい・・・」


 紅牙は自他ともに認める大食漢だ。

 研究所にとらわれていた時よりもだいぶ筋肉がついてきたとはいえ、中肉中背のその見た目からは想像もつかない量の食事をぺろりと片づけてしまう。

 普段から人の2倍、3倍は食べるし、それでも我慢している方なのだと言う。

 その彼がおなかいっぱい食べるというのはなかなかに難しいことではあるのだが。


「どうしたのこれ!」


「ああ、銀牙、遠慮なくたくさん食べてくれよ。」


「何このすごいの!テンション上がるんだけどっ!」


 リビングに入ってきたアインとドライも目を見開いて食卓を見つめていた。

 つまり、それだけのものが食卓に所狭しと並べられていたのだ。


「兄さんすごいよ!」


「ど、どれから食べようかしら!?本気で迷うわね!」


 そんな夢の様な生活が一転してあんなことになるなど、その時は誰も予想してなかった。


ホムンクルスの箱庭 ~Seven deadly sins~第1話 Sloth Beast プロローグ


 森の中をひと組の男女が歩いていた。

 一人は全身黒づくめの怪しい男、もう一人は身長80センチほどのシルフ族の女性だ。


「みんな、元気にしているかしら?」


 うっそうと茂る森の中を移動しながら女性、ソフィが先に口を開いた。


「なあに、元気にやっているだろうさ。」


 それに対して黒づくめの男、アハトが気楽に答える。

 皆で紅牙を取り戻してから数カ月が過ぎようとしていた。

 2人は犯罪組織『アルスマグナ』の動向を探るべく、ここしばらく別行動をしていたのだ。


「しかし、今回もはずれだったな。」


「まあ、消して良かったんじゃない?あって益のあるものじゃなかったし。」


 一つの組織を壊滅させたにしてはあっさり過ぎる口調でソフィは述べる。

 今回2人が探り当てた組織はアルスマグナとは別の小規模な犯罪組織だった。


「まあ、持ってこれるものがなかったのは残念だったけどね。」


 残念ながら思っていた以上に小さな組織で、これといって換金できそうな高価なアイテムを手に入れることもできなかった。

 そのことだけはソフィにとっても心残りらしい。

 そんな中ふと、彼女はこんなことを口にする。


「あの子たち、ご飯とかちゃんと食べているかしら?」


 それはまるで、長い間家を留守にした母親のような口調だ。


「心配するな、出掛けに稼いだ2万を紅牙に預けておいたからな。」


「2万・・・って、2万G!?あんたそんな大金どっから持ってきたのよ・・・」


 皆がまだアルスマグナの施設を襲撃、もとい、さまざまな手掛かりを手に入れるべく捜索していた頃はその程度の金額は容易に稼ぐことが出来た。

 錬金術というのは一般の人間から見れば高度な技術であると同時に高価なものでもある。

 研究施設から手に入れたちょっとしたものを売りさばくだけで稼ぎなどいくらでもあった。

 しかし、今はアルスマグナから隠れるようにして暮らしているために同じことはできない。

 犯罪組織で暮らしていた彼らが一般の世界で稼ぐのはなかなかに困難なことなのだ。


「なあに、家に在った残りの金を全部持ってカジノに行ってきただけさ。」


「ちょっと!?それって失敗したら破産してたってことじゃないの!!」


 いつの間にそんなことをしていたのだろう?ソフィからしてみれば寝耳に水の情報であった。


「実際のところは勝ったんだから問題ないだろう?」


「それは、そうだけど・・・」


 どこか納得がいかないのは仕方のないことだと思う。


「でもまあ、それだけのお金を置いていったならあの子たちもある程度余裕のある生活を送れたでしょうね。」


 よかったというようにソフィは安堵のため息をついた。

 あのメンバーの中で一般的な生活を演じることに長けているのは自分とアハトの2人だ。

 その自分たちが抜けてしまってはたして残った者たちが無事に暮らしていけるのか。

 過保護かもしれないがそれが心配だったのだ。


「やれやれ、おまえは過保護だなソフィ。」


「あんたには言われたくないけどね。」


 たったひと月の留守を預けるのに2万Gもの大金を置いていった彼の方がよっぽど過保護だといえよう。

 子供たちの分を含め、紅牙の食費を考えたとしても多く見積もって1日100Gかかればいいところ。

 その他の費用を含めたとしても一月5000Gもあれば余裕すぎる生活が送れる。


「確かにあの4人だけなら俺も心配と言わざるを得なかったが、今は年長の紅牙もいる。

 そもそも、元は普通に街で暮らしていたグレイじいさん、性格の悪い根暗の引きこもり研究員だったとはいえアルバートもいるし、クリストフとジョセフィーヌもいるんだぞ?

 これだけ大人がいて普通に生活が送れないのは返って問題だ。」


 根暗の引きこもり研究員どうこうはさておき、アハトの言う通りではあるとソフィも思う。

 世界のほとんどが善意で出来ていると思っているアイン、頭は良くても経験が足りず世間ずれしているツヴァイ、面倒見は良いがここぞという時にへっぽこぶりを見せるドライ、理解と聞きわけはいいが世間知らずでぼーっとしているフィーア、この4人だけを一般の生活圏に放つなど箱庭で大事に育てた植物を一面銀世界の極寒の地に放り出すのと同義だ。


 だが、今はその4人が兄と慕っている紅牙もいる。

 街で普通の生活を送っていたグレイは皆のそういった部分をフォローしてくれるだろうし、犯罪組織で働いていたとはいえアルバート、クリストフ、ジョセフィーヌも一般の生活を知らないほど若くもない、十分に対応できるレベルだ。

 となれば、心配をすることなどほとんどない。


 人が踏み入らないような森の中を迷うことなく抜けると、ようやく木々の向こうに小さな山小屋が見えてきた。

 山奥に在るその場所は今は彼らの安住の地となっている。

 アルスマグナの追跡から逃れ、隠れ住むにはちょうどいい場所。

 その規模は小さく、とても20人もの子供たちを抱えて暮らせるような施設ではない。


 そこはあくまでも仮り宿であり人目につかない最低限の生活を送れるところなのだ。

 なぜなら、彼らの本当の住み家はこの小屋ではなく小さなぬいぐるみの中に存在するから。

 それは、あのマリージアでの一件以来、皆で住んでいる誰にも見つかることのないはずの安全な隠れ家だった。


あらすじなど、気になるところは後で修正します。

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