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第94話 救出

「≪激痛ペイン≫!」


「グウウッッ!!!」


 エィスの呪文がオレを襲う。

 神経に直接作用し、体中に激痛を走らせる呪文、≪激痛ペイン≫。

 この呪文がオレを最も苦しませる魔法だと分かり、先ほどから幾度も繰り返しかけられている。

 オレは全身に走る激痛に地面をのたうち回る。


「ふん、これだけやって意識を失わないのはさすがだな。それにしても本当に貴様は何者だ?大抵の魔法に抵抗レジストしやがって。こんな人間初めて見た」


 いらいらとした表情で、エィスがそう吐き捨てる。

 エィスがこれほどまでにいらつかせたのは、隷属魔法や麻痺などの状態変化魔法のほとんどにオレが抵抗レジストしたからだ。

 やつが得意としている神経系の魔法より、攻撃魔法の方がよほど効果がある。さらに言えば魔法よりも武器で直接攻撃した方がダメージがでかい。

 それに気づいたか、エィスは魔法攻撃の手を止めた。


「ザズー。ここに拷問器具はあるか?」


「はい。別棟にある地下牢にいくつかそろっていたと思います」


「よし。おい、お前ら、そいつをそこへ運べ」


 兵士に命令をするエィス。

 その横でこれから始まる拷問を想像し、ニヤニヤと不気味な笑いを浮かべるザズー。

 兵士に両脇を抱えられ無理やり起こされたオレには、既に抗う力は残っていなかった。

 その時……、


 バン!


 突然オレたちがいた部屋の扉が強く開かれた。


「≪小型超熱球メルトボム≫!」


 と同時に、こぶし大の光る熱球がエィスへと襲い掛かる。

 それはオレも良く知る魔法。小さな塊の中心は数千度の高温であり、当たった的を超高温で蒸発させてしまう恐るべき魔法だ。


「≪魔術無効インヴァリッド≫」


 しかしエィスはすぐにその魔法をかき消す。

 エィスの目の前で熱球が消滅する。


「何者だ?!≪看破ディテクション≫」


 エィスの魔法によって、不可視インビジブルの魔法で隠れていた侵入者たちが姿を現す。

 その三人は、黒い肌と頭から生えた角を見れば、魔族であることが一目瞭然だった。


「≪束縛リストリクション≫!」


「≪魔法防御ディフェンド≫!」


 姿を現した三名の侵入者に対し、ザズーが動きを止める魔法を唱えるが、それは侵入者が防御する。

 侵入者の内一名が、剣を構え部屋の中へと駆けこんでくる。

 それに対し、今度はエィスが動きを止めるための魔法を唱える。


「≪神経麻痺ナーヴパルシー≫」


「うおおおお!!!」


 エィスの魔法を気合で乗り越え、侵入者は突進する。

 いよいよ危険を感じたエィスは、ソファから飛びはねるように逃げ出す。

 ソファへと振り下ろした剣を回避された侵入者に対し、オレを取り押さえていた人間族の兵士二人が襲い掛かる。

 二人から突き付けられた槍を魔族は難なく交わすが、人間の兵士はおそらく身体強化の魔法がかかっている。いくら手練れとは言え苦戦するだろう。

 剣を構えたもう一人の魔族が、それに加勢する。

 するとその間にエィスとザズーは、侵入者がやってきた扉とは別の扉から逃げ出していった。


 すぐに二人の人間の兵士を失神させると、大柄な男の魔族がエィスたちを追いかけて部屋を出て行く。続いて残る二人も追ってゆこうとするが、オレは声をかけた。


「ルビィ、この手枷を外してくれ!」


 ロックの後に続いてエィスたちを追おうとしたルビィは、名前を呼ばれた事に驚いて振り返る。

 そう、今侵入してきた三名は、オレの部下、魔王親衛隊のルビィと、魔王軍将軍ロック、そして魔導部隊隊長ジェニーの三名だった。

 おそらくシオンたちを助けるために侵入した来たのであろう。オレと出会ったのは偶然だ。

 血まみれで倒れているオレを目にして、ルビィは驚きを隠せない。


「まさか……魔王様なのですか?」


 人間となったオレの姿に、ルビィは驚き戸惑っている。


「待って、罠かもしれないわ」


 ジェニーはオレが魔王であることを疑う。

 それもそうだ。オレが魔王であった時に頭にあった大きなツノも今はなく、肌の色も弱弱しい人間と同じ色だ。さらにはこんな場所で血まみれになって倒れているなんて、魔王として君臨していた時のオレのイメージとは遠くかけ離れている。


 だがルビィはジェニーの言葉に耳を傾かす事もなく、すぐに俺が差し出した両腕を拘束している腕力封じの手枷を剣で両断する。


「すまん。この首輪も外せるか?」


 オレは、あごを上げて自らの首を指差す。

 オレの首には魔法を使えないようにさせる、魔封じの首輪が付けられていた。


「首輪は剣では……」


 首輪を剣で破壊しようとしたら、オレの首をはねかねない。

 オレの頼みに、ルビィは躊躇する。

 オレとルビィの姿を見て、先程の警戒を解いたジェニーがオレに寄ってくる。


「魔王様、少しお時間をいただければ、魔法で解除できるかもわかりません」


 オレの首輪の効力をすぐに見抜き、すぐに外す方法を申し出て来た。


「すまん、頼めるか?」


 ドゴン!

 だが俺の魔封じの首輪が外してもらう前に、大きな音に全員が振り向く。

 それはエィスたちが出て行った扉の向こう。

 オレたちは慌ててその扉へと向かう。

 その扉の向こうでは、巨大な両手剣を片手で構えたマグマの前に倒れる、歴戦の勇士ロック将軍の姿があった。

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