第92話 魔王、囚われる
気が付いた時、オレは手足を縛られて石の床の上に横たわっていた。
ここはどこだ?確かオレはマグマに襲われて……
上体を起こし、今オレがいる場所を確認すると、扉の向こうから「目を覚ましたぞ!」という声が聞こえて来た。
どうやらオレはまだ先程マグマに襲われた部屋にいるようだ。
だが今はシオンとマグマの姿はない。
「痛っ」
頭に激痛が走る。マグマの一撃を食らった場所だ。
おかしい。どんなに大きなダメージを受けていてもそろそろ回復してきそうなものなのだが。
オレには、魔界にいれば魔力で自動的に怪我が回復する自動回復の特殊能力がある。
わざわざ回復魔法をかけなくても自然に怪我が治ってゆくのだ。
だが、今頭部の怪我が治癒していく感覚がない。転生してその能力が無くなってしまったのだろうか?
そこでオレは自分に回復魔法をかけた。
「≪小回復≫」
呪文を唱えると、首に付けられている首輪に魔力が吸い取られる感覚があった。
そして、オレの頭部の怪我が治癒する気配がない。
これは、魔封じの首輪か?
それは装着者の魔力を封じる、魔法使いを拘束する時に使うマジックアイテムだ。人間族がこんな厄介なアイテムを所持しているとは思わなかった。恐らく魔族の物を奪われたのだろうが。
手枷と足枷にも、同じような力を感じる。おそらくこれらも魔力を封じる力があるのだろう。
これはもしかして、絶体絶命なのかもしれない。
いくぶん焦ったオレが、手枷と足枷を力ずくで破壊できないかもがいていたところ、突然部屋の扉が開き、一人の男が入って来た。
漆黒の法衣を身に纏ったその男の顔には、不快感がにじみ溢れていた。
「目を覚ましたか……」
オレはここにくるまでに、様々な情報を収集してきたた。その中には、この男の風貌についても聞き及んでいた。
短く刈り揃えた髪。眉毛がなく彫の深い目。人を見下すふてぶてしい態度。そして通常の司教が紺色の法衣を身に纏っている中、大司教のみが纏う黒い法衣。おそらくまちがいないだろう、この男こそ……
「おまえがザズーか?」
オレの問に、ザズーは顔をゆがませる。
「私の事を知っているのか?貴様は何者だ?どうやってここに忍び込んだ?それにあの剣はどうやって手に入れたのだ?」
「あの剣?」
そう言ってオレは、オレが背負っていた剣を取り上げられていた事に気付く。
その剣、勇者ユウより預かっていた、神器『殲滅し尽くす聖剣』。
オレの持つ神器『灰燼に帰す弓』は、オレが正式な所有者のため異次元収納している。だが預かっているだけでオレが正式な所有者ではない『殲滅し尽くす聖剣』は、異次元収納ができない。そのため背中に背負っていたのだが、先ほど気を失っているうちに不覚にもこいつらに回収されてしまったようだ。
「そうだ。勇者の死と共に消失していた神器『殲滅し尽くす聖剣』を、なぜ貴様のようなコソ泥が持っていたのだ?!どこで手に入れた?」
「ふん。ユウは剣をオレに預けて、元居た世界へと帰っていった。おまえをぶっ飛ばしたがっていたぞ。ぐおっ」
ザズーの蹴りがオレの腹部に見舞われる。オレの言葉に腹を立てて最後まで聞いていられなかったようだ。気の短い男だ。
「勇者が生きていただと?チッ。まあいい。『殲滅し尽くす聖剣』はこちらに帰って来たのだ。それにあれはもう必要ないしな。そんな事より答えろ。貴様は何者なのだ?!」
「ぐっ」
ザズーは再びオレを蹴とばしながら尋問してくる。
「蹴られながら答えられるわけなかろう。貴様はバカか。くっ」
今度は、口答えした俺の顔を踏みつけて来た。
怪我の治っていないオレの頭が、やつの靴の裏で石の床に押し付けられられ、激痛が走る。
「余計な事は喋らなくていい。質問にだけ答えろ。生かしてもらっているだけでもありがたいと思えよ。これが最後のチャンスだ。もう一度だけ聞く、お前の名前を答えろ」
圧倒的不利な立場にありながらも、焦るザズーにオレは笑いを浮かべながら答えてやった。
「ならば教えてやろう。オレの名はヴォルトだ」
「はあ?!」
まさかオレの名がこいつの耳に入っているとは知らず、ザズーがなぜ驚くのか理解できなかった。
「ま……、まさか……、あのゴモラを倒したという魔法使いが貴様か?」
「どうしてその事を?固く口留めしてあったはずだが」
ザズーは俺の言葉に答えることなく、足早に部屋を出て行った。
まもなくしてやって来た兵士二人に、オレは部屋の外へと連れ出される。
歩くのに不便なため足枷だけ外される。だが首輪と手枷は付けられたままであり、まだ魔法は使えない。
しかしこいつらくらいなら振り払って逃げようと思えば逃げられる。
だが、まだオレはシオンたちを助けたわけでもエィスを倒したわけでもないため、オレは静かにそいつらに従って歩いて行った。
連れられて行ったその広い部屋では、先に出て行ったザズーが部屋の中央にある大きなソファの横に立っており、ソファには足を組んで腰掛けてる人物がいた。
「そいつがヴォルト?」
生意気そうな顔つきの子供、いや実際にはどの人間よりも長生きをしているはずの男が言った。
間違いない。
「おまえがエィスだな?」
オレはそのガキを見て断言した。




