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第82話 魔王、呪いを解呪する

 ヴォルトは、ヴァレンシュタイン国王にかかっている呪いを、ゆっくりと丁寧に解いていった。

 無理やり解呪すれば、心に傷を付けられる恐れがあったためだ。

 ヴォルトの強い魔力と、繊細な魔力操作により、ヴァレンシュタイン国王にかかっていた呪いは無事に解けた。


 先ほどまでシャンダライズ王国のオズワルドたちから終戦を勧告されていたその部屋の中央に、ヴァレンシュタイン国王は横たわっていた。

 その横で膝を付いた状態のヴォルトは、解呪が終わり、ほっとした顔で額の汗を拭う。


「終わった。無事に呪いは解けたぞ」


 ヴォルトの事を敵と勘違いし敵意をむき出しにしていたヴァレンシュタイン王国の兵士たちは、今は自分たちの国王を見守るように周囲を取り囲んでいた。

 そしてヴォルトのその言葉を聞き、安堵のため息をもらす。


「まもなく目を覚ますだろう。国王には精神操作の呪いがかけられて、戦争が必要な事だと刷り込まれていたようだ。だからオレたちの言葉に耳を貸さなかったんだな。それにしても、確か人間界では、精神を操る魔法は人道に反するとかで禁止されているはずじゃなかったか?」


 ヴォルトの質問に、オズワルドが答える。


「ええ。人間界の各国が集まって作った、国際法というどの国にも共通となる法律があります。その中では共通通貨の決まり事や、奴隷の禁止などが決められています。精神魔法については、例え相手が犯罪者であろうとも、人間に対して精神操作の魔法をかける事は一切してはならないとなっています」


「だとしたら、誰が?というか国王に聞くのが一番手っ取り早いか」


 その後、国王を別室に移し回復を待った。

 目を覚ました国王の意識ははっきりとしており、何があったかを克明に話し出した。


「すまない。なんだか悪い夢をみていたかのようだ……。魔王殿……、そなたは本当に魔界の魔王なのだな?」


「その通りだ。もう一度名乗ろう。オレは魔王ヴォルテージ。魔族の王だ。オレは、おまえたちが召喚した勇者ユウと相打ちになり、転生の秘術で蘇った。だがその際、肉体的特徴は人間のものとなってしまった。まあ人間族と魔族の違いは外見的なものだけで、ほとんど変わりがないのだが」


「なんと!そうであったか。それで人間の姿に……。それにしても勇者殿には悪いことをした。そなたと戦った後、帰還魔法のバングルで転移して帰って来たのだが、そなたから受けた傷が回復魔法をいくらかけても治らず、そのまま死んで光とともに消えてしまったのだ……」


「ああ、ユウなら元の世界に送り返したぞ」


「え?」


「ユウはおまえらに内緒で、どこかの神殿でオレと同じような転生の秘術を施してもらっていたらしい。転生しシャンダライズ王国の水精霊神殿に現れたところにオレと偶然出会い、事情を話して一時共闘していたのだ。ここに来るまでに元の世界に戻る古代魔法を見つけ、そしてやつは元の世界へと帰っていった。安心しろ」


「おお!それは良かった」


「おまえはユウにオレを倒したら元の世界に帰すと約束したらしいが、どうせ帰還魔法の存在も知らなかったんだろ?」


「そ……それは……」


「まあいい。ところでオレが敵ではないことは理解できているな?それではお前の心の奥に、戦争が必ず必要だと刷り込んだのは何者だ?」


「う、うむ。今まですっかり忘れていたが、今ならはっきりと思い出せる。わしが王位についたばかりの頃だ。オーテウス教大司祭ザズーに呼び出され、魔法を掛けられたことがあった」


「やはりそいつか。ユウからもいろいろと聞いている。話を聞いて、絶対王政をしいているこの国で、ただの国教の大司祭ごときが国王に対して大きな顔をしすぎていると感じていた。洗脳によって、お前を裏から操っていたのだろうな」


「わしも今思い返せば、自分の言動や行動がおかしかったと思う事がたくさんある。おそらくそうなのだろう」


「ではヴァレンシュタイン国王よ。洗脳が解けて冷静になったところで、改めて問う。魔界との戦争をこれ以上続ける意味はあるか?」


「いや。これまですまなかった。魔界と戦争をする理由はない。おまえたちは人間界に攻め込むつもりは一切ないのだろう?これはオーテウス教が国家を操って仕掛けた侵略戦争だ。今日限りオーテウス教を邪教を認定し、国教としての地位をはく奪する。魔界との戦争については、即刻終わらせたいと思う」


 その言葉を聞き、部屋にいる者たちから歓喜の声が響く。

 ついに長きにわたる戦争に、終わりの時がやってきたのだ。


「魔王よ。だが一つ問題がある。ザズーは大司教でありながら、王国軍の元帥の座にもついている。いわば軍隊を掌握しているのはやつだ。わしを洗脳してその座に就いたのだから、その地位は本来無効であるべきだが、はく奪前にこの話がやつに知られたら、軍隊を率いてクーデターを起こされかねん。おぬしの力量は先ほど見せてもらった。やつを止めるために力を貸してもらえないだろうか?もはや助けを求められるのは、おぬししかいないのだ」


「ふん。今まで散々オレの事を殺そうとしていたくせに、今度は助けてくれか?」


 ヴォルトは少しいじわるになり、そんなことを呟く。

 だが魔王の本性を知らないヴァレンシュタイン国王は、確かに自分の都合の良いことばかり言っていて、厚かましすぎるとも思った。もしここで断られた場合、信仰魔術使いのオーテウス教団たちに軍隊を洗脳されたら、どう戦うべきかなどに思考を巡らす。

 そんな二人の会話に、突然割り込んで大声を出す者がいた。


「なんでそんないじわるな事言うんですか!素直に助けてやるって言えばいいじゃないですか!」


 今この場にいる者たち全てに、ヴォルトは自分が魔王である事をばらしている。

 冒険者として魔王である事を隠していた時には、ヴォルトに対して無礼な物言いをする者は多くいた。

 だが現在、魔王であるヴォルトに対しては、一国の国王として、もしくは圧倒的な力を持つ超越者として、誰もが畏敬の念を持って丁寧に接していた。

 そんな中、突然ヴォルトを叱責するかのような言葉が響き、一同は動揺する。

 その言葉を発したのは、この中でも一番地位の低いはずである、シャンダライズ王国の一騎士、サラだった。


「今まで困っている人がいたら、助けを求められなくても自分から手を貸していったじゃないですか!知ってますよ。ヴォルトさんがお人好しだっていう事は。困ってる人をほっておけないんでしょ?この王様の事も助けて……モゴモゴ……」


 そこまで聞いて、ヴォルトはサラの口を手で覆い、それ以上喋らせないようにする。

 そんな二人のやり取りを見ていて、一同は言葉を失っている。


「分かった、分かったから余分な事は言うな」


 その返事を聞き、びっくりした顔から笑顔へと変わったサラの表情を確認すると、ヴォルトはその手を離す。


「ヴァレンシュタイン国王よ。実はユウから、ザズーという男をぶっ飛ばすよう頼まれている。きさまの国の都合は知らんが、オレは個人的にその男を倒さなくてはならんのだ」


「なんと!それでは!」


「今からザズーを捕えに行く。今やつがどこにいるか教えてもらおう」

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