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第76話 戦争をしたい者、終わらせたい者1

 ヴァレンシュタイン王国の最北部に広がる、この大陸最大の山脈。

 通称「世界の果て」


 実際にそこが世界の果てというわけではない。

 断崖絶壁が続き到達困難な山の向こう側には、魔界と呼ばれる精霊のいない土地が広がっている。

 そこは魔族と呼ばれる者たちが住む国であり、現在人間界と長きにわたる戦争が続いている。


 山脈の合間をぬった渓谷を抜けた先には、ヴァレンシュタイン王国軍最大の砦がそびえたっていた。

 その砦こそ、人間界最後の砦と言われており、魔界に住む魔族との戦いにおいて、絶対に越えられてはならない砦となっていた。

 だが実際には、そこが攻撃された事はない。戦闘は常に魔界内で行われていて、魔界と人間界の境目であるこの砦が戦場になったことはなかった。

 いつもは人間の軍隊の基地として機能していたそこだったが、この日は珍しく砦の中に緊張感が漂っていた。

 それは、初めてこの砦の中へと足を踏み入れた、少数の魔族の存在のためだ。


 魔界側の門から入って少ししたところに、魔族の装甲車と呼ばれる乗り物が停まっていた。

 それは馬車などのように、動物によって引かれるのではなく、魔力を動力へと変換し、それ単体で走行することができる人間界にはない乗り物だった。

 装甲車の横には、先に降りた数名の魔族の兵士が立っており、続いて中からゆっくりと重要人物が降りて来た。


 その魔族の男の名は、シオン。

 魔界の政治において、魔王に注ぐナンバー2に当たる、人間界で言う宰相の地位に就く男だ。

 シオンの横には、護衛のための戦士が二人付きそう。

 それは魔王親衛隊の、ルビィとマグマであった。


 一番前まで歩いて来る三人を迎えたのは、ヴァレンシュタイン王国軍の一同。縦横真っすぐに綺麗に整列された軍隊の先頭に腕を組んで立っているのは、全身鎧に身を固めた、眼光鋭いたくましい兵士。彼の名はアレクサンダー・バルイーグル。このヴァレンシュタイン王国軍の将軍だ。

 魔界を代表して現れたシオンに対し、バルイーグル将軍は歓迎の言葉を述べた。


「私はヴァレンシュタイン王国軍将軍アレクサンダー・バルイーグル。魔界の使者よ。ようこそこの砦へ」


「バルイーグル将軍、この度は休戦協定に応じてくれ感謝する。私は魔界の副官エリュ・シオンだ」


「ではシオン殿、会議の部屋を用意している。こちらに参られよ」


 バルイーグル将軍の案内で、シオン達魔界の軍勢は後に続く。

 今この砦では、人間界と魔界の百年にわたる戦争に、休戦協定が結ばれようとしていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 大司祭ザズーは、神人エィスのしもべであるゴモラの息絶えたという土地まで来ていた。

 そこはオーウェンハイム国の首都シンソ。

 シンソは城壁に囲まれた城塞都市であるが、ゴモラに破壊されたと言う北門は瓦礫の山となっており、通行に苦労をした。街の中も、ゴモラが通った跡は、見事に家屋が大破していた。がれきの撤去も未だ進んでおらず、復興への道のりはまだまだかかりそうであった。

 復興と言えば、この街に来る一つ前の街キューゴはゴモラに破壊され尽くし、ここ以上の生産な状態であった。

 今ではキューゴには人は住んでおらず、金目の物を狙う盗賊が発生しているため、兵士が見回りをしている状況であった。


 ザズーは、神人エィスの大量殺りく兵器ゴモラの恐ろしさを感じながら、ゆっくりと街を歩く。

 慰安のために訪れたという名目で、昨日この国の国王と会い会談をしたのだが、ゴモラの死因は行商たちの噂と同じように、偶然雷が落ちたという話であった。

 当然ゴモラが、神人エィスのしもべだという話は隠している。

 国王より復興支援を頼まれたのだが、ヴァレンシュタイン王国も戦争が続いており、あまり手助けはできないと伝えておいた。しかし付き合いというのもあり、多少は義援金を贈らねばなるまい。


 国王との会談では何も掴めなかったが、エィスより直々に調査を命令されたザズーは、噂以上の情報を掴めずに帰ることはできない。あの子供のような姿の神人がそれを許してはくれないだろう。

 ザズーは絶望にも似た感情を覚えながら、ゴモラの死体を確認するために街の中を歩いていた。

 そして辿り着いた先には、開けた土地があり、そしてそこには焼け焦げた大きな岩山があった。


 『危険・侵入禁止』と書かれた立て看板と、杭に囲まれたその岩山は、整地された広場の中に不自然に存在していた。まるで誰かが岩を運び込んだかのように。

 ザズーは、辺りを見回し、見つけた町民に質問をする。この岩山は何かと。

 そして返って来た返答に驚愕する。その岩山こそが、古代巨獣ゴモラの死体だと言われて。


「近くで見ていた目撃者はいないのですかな?」


「あの時はすでに避難命令が出ていて、この辺には人はいなかったはずだけど……。もしかしたら学園の子で見た子がいるかもね?ここは本当はシンソ魔法学園の魔法練習場なんだよ。今は学園の子らも復興の手伝いに駆り出されていてここにはいないけど」


「シンソ魔法学園?」


 藁にもすがる思いのザズーは、その足でシンソ魔法学園へと向かうのだった。

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