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第75話 魔王VSリッチ

「誰だお前?もしかしてデュランか?」


 ヴォルトはコウモリ男へと姿を変えたデュランに声を掛ける。

 デュランは姿を元に戻す。


「ヴォルトさん、何でこんなとこに?」


「それはこっちのセリフだ。お前の方こそなぜここにいる?」


 そんな二人に無視されているリッチは声を荒げて言った。


「ええい!貴様ら知り合いか?!だとしてもなぜこの私を無視して何を話しているのだ?!」


「ん?ああ、確かに。こんなところに魔物がいるとは思わなかった。思わぬ大物に出くわしてしまったようだ」


「私の≪恐怖フィアー≫に抵抗レジストするとは、只者ではないな?名乗る事を許してやる。貴様、何をしにここに来た?」


 リッチは骨しかない手を挙げヴォルトを指さすと、あごを上げヴォルトを上から見下すような視線で言った。


「死体のくせに偉そうな奴だな。オレの名はヴォルト、冒険者だ。この町で多発している、通り魔の討伐クエストでやってきた。連続通り魔事件の犯人は、貴様だな?」


「確かにその通りだが、どうやって私に辿り着いた?証拠は残していないはずだが」


「死体は全て生命力を抜かれミイラ化していた。おそらく≪生命力吸収エナジードレイン≫を受けたのだろう。そして現場に残っていた瘴気の残滓の跡を追っていたら、この館に辿り着いたのだ。この館で≪生命力吸収エナジードレイン≫を使えるのはおまえしかいまい?」


「よくそんなことが分かったな。それが分かったとなると、貴様も魔術師か?だが相手が悪かったな。私は人間の魔術師の限界を超えるため、人の肉体を捨て更なる高みに昇ったリッチだ!貴様がどれだけ優れた魔術師であろうが、私に勝つことはできん!」


 リッチはそう言うと、それまで抑えていた瘴気を周囲に放った。瘴気の闇で部屋の灯が一段階暗くなる。次の瞬間ドールマンは顔面を蒼白に染めながら失禁。デュランも全身に鳥肌を立てて震え始めた。

 これが本来リッチの放つ邪気であり、心臓の弱い者であれば死んでしまう事もあるという。

 だがヴォルトは平然とその場に立っていた。


「よく耐えているな。貴様もなかなかのレベルのようだ。貴様にチャンスをやろう。今後、私の配下として働くのであれば、命を助けてやろう。金も食い物も女も、貴様が望むだけ与えてやるぞ。冒険者などやるよりもずっとそちらの方がいいだろう?」


 リッチの勧誘に、ヴォルトはため息を吐いて答えた。


「はあ……。論外だな。オレはそんなことのために戦っているのではない」


 ヴォルトは、背負った長剣を引き抜く。


「貴様魔術師ではないのか?ふん、私に逆らうとどうなるか、痛い目に会わねば分からんらしい。≪麻痺パラライズ≫!」


 リッチはヴォルトへ向けて、先程デュランの身体の自由を奪った魔法≪麻痺パラライズ≫を放つ。

 だがヴォルトは何事もなかったかのように、剣を構えリッチに斬りかかった。

 肩口から袈裟斬りを受けたリッチは、叫び声を上げてその場に倒れた。


「ウギャアアアアアア!!!な……なぜだ?!これはどういうことだ?!」


 本来ポーカーフェイスであるはずのその髑髏の顔には、明らかに恐怖と混乱の表情が浮かび上がっていた。


「なぜ私の≪麻痺パラライズ≫を受けて動けるのだ?」


「おまえ知らんのか?状態変化魔法は、著しいレベル差があれば無条件に抵抗レジストされるのだぞ?」


「バカな?それでは貴様は、リッチである私よりも高位の魔法使いだとでも言うのか?!」


「それ以外にどんな理由があるというのだ?!」


「バッ、バカなっ?!それに何だその剣は?!物理攻撃無効の私の身体に傷をつけるなんて?まさかその剣は?!」


 リッチが喚いている間に、ヴォルトは剣を振りかぶり、その頭蓋骨へ向けて剣先を突き刺した。

 リッチは悲鳴を上げる暇もなく、恐怖の表情でその剣を顔面へと突き刺さられる。

 黒いローブに包まれたリッチの全身から強い光があふれ、次の瞬間極悪最強アンデッドであるリッチは、絶命していた。


「魔法で倒してやってもいいのだが、今は魔力を節約中でな」


 ヴォルトはもはや声の届かないリッチへ向け、そう告げた。


 部屋の中には、リッチの放つ瘴気が消え、ドールマンとその部下たち、そしてデュランが正気を取り戻していった。

 デュランが、ヴォルトの持つ剣を恐るべきものを見る目で見つめながら声を掛ける。


「リッチを簡単に殺してしまうだなんて、その剣はまさか……」


「ああ、これは友人から預かっている剣でな。せっかくなんで使わせてもらってるんだ。別に実力で倒せないわけではないぞ?以前リッチの群れと遭遇した時には魔法で戦ったのだが、あいつらに≪極大爆発エクスプロージョン≫を連発されて地形が変わるほどの戦闘になってな。今日はそんな被害を出さないようにこの剣を使わせてもらったのだ」


 それはアンデッドに取って天敵である神聖属性を持つ聖剣。ユウからの預かりものである『殲滅し尽くす聖剣エクスキューショナー』だ。


 ピクリとも動かなくなった骸骨の死体を見つめながら、悪徳金貸しドールマンは怯えていた。

 そんなドールマンに対し、デュランは毅然とした態度で声を掛ける。


「ドールマン、アンデッドリッチと共謀してこれまで数々の悪事を働いてきたようだな。これでもはや貴様の後ろ盾はない。今回の件は全て役場に訴える。もはや貴様の行先は牢屋と知れ」


 だがそんなデュランに、ドールマンは不敵な笑みを浮かべた。


「ははは。私の後ろ盾がこのリッチだけだと?町の暗部をなめられては困る。この町は裏社会のマフィア、ドラングループが支配しているのですよ?あなたがいくら役場に私の不正を訴えようとも、私とつながりのあるドラングループが手を回してもみ消してしまいますよ。リッチの死体は差し上げますから、今回の事は黙っていてもらえませんかね?もちろん今回は特別に孤児院の借金も帳消しにしてあげましょう」


 ドールマンはリッチを殺されたのにも関わらず、自信満々に上から交渉を持ち掛けて来た。


「そこの冒険者さんは連続通り魔犯であるリッチを倒したいだけ、そして貴方は孤児院の借金問題を解決したいだけでしょう?これ以上踏み込むと、お互い痛い目に会いますよ。孤児院の子供たちを危険な目に会わせたくないでしょう?」


 何と汚い男だ。交渉に応じないようであれば、孤児院の子供たちを危険な目に会わせると言っているのだ。

 デュランの顔が歪む。

 デュランの当初の目的は、確かに孤児院の借金問題の解決だけだったが、彼の正義感はこの悪党を見逃すことを許せないのだ。

 するとヴォルトが二人の会話に口を挟む。


「あー、ドラングループだっけ?確かそんな名前のマフィアなら、昨夜壊滅させてしまったぞ?」


「「え?」」


 この日、この町の悪は滅びた。



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