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第64話 魔王、町はずれの老人を尋ねる

 商人兄弟に手紙を預けて別れた後、オレはとある場所へ来ていた。

 それは、町はずれにある一軒の家。

 その家の主を尋ねて、オレは扉をノックした。


「誰だね?」


 扉を開けて不機嫌そうな顔で出てきたのは、やせ細った老人だった。


「グラナダ殿のお宅かな?」


「いかにも、わしがグラナダだが、おぬしは誰だ?わしはおぬしのような知り合いはおらんぞ。それとも何か売りに来たのか?それなら間に合ってるから帰ってくれ」


「オレの名はヴォルト。別に押し売りに来たわけではない。古代語魔法が使えるというのは、あんたで間違いないか?」


 老人は、オレの言葉を聞いて面倒くさそうな顔をする。


「なんじゃ?また来たのか。わしが知ってるのは召喚魔法だけだぞ?」


「また?オレが来たのは初めてだぞ?」


「ん?あ奴らとは無関係か?ともかく、わしが知ってる古代語魔法は、勇者召喚魔法だけじゃ。そんなの勇者の剣がなければ、何の役にも立たんぞ」


「あ奴らとは?もしかしてオーテウス教の連中の事か?」


「そうじゃ。四十年前の勇者タイゾー様の召喚に関わったわしに、その時の話を聞かせてくれと王都まで呼び出しおって。それでその時に使った召喚魔法を、教えさせられたのだ。勇者の剣がなければ何の役にも立たない魔法だがな」


「ふむ。だがやつらはどこぞからその勇者の剣を手に入れて、勇者召喚を成功させたようだ」


「なんじゃと?」


「その話はいい。オレが来たのは、お前に相談があって来たのだ」


「いや、良くはない!詳しく聞かせてくれ。現代に再び勇者が蘇ったのか?まあ立ち話もなんだ、中へ入れ」


 グラナダの家の入口で話していたオレたちだが、中へと通された。

 じいさんの家の中は必要最低限の物しかなく、貧しい生活をしているようだ。


「じいさん、あんた召喚魔法を教えて多少なりとも報酬をもらったんじゃないのか?」


「ふん、そんなもの孤児院に寄付してすぐに消えてしもうたわ」


 なるほど。それで一向に貧しいままなのか。


「この国は戦争が長引きすぎて、親を失った子供が増えすぎた。戦争は経済を良くすると言う者がおるが、実際には金持ちがより金持ちになるだけで、貧しい者の数は増える一方だ」


「それでじいさんは、子供たちを助けるために勉強を教えているのだな?」


 オレが町でいろいろと聞き込みをしていた中で、ユウを元の世界に帰すために、古代語魔法を使える者がいないかという事も調べていた。

 すると、この町のはずれに、孤児院で子供たちに勉強を教えているもの好きな老人がいて、その老人が実は四十年前のシャンダライズ王国での勇者召喚に関わっていたという情報を入手した。

 期待させてダメだった時にがっかりさせないよう、ユウに話す前にオレは一足先に一人でこのグラナダという老人に会いに来た。


「ふん、子供に勉強を教えているのは暇つぶしだ」


 照れてごまかしているが、おそらくこのじいさんは、子供たちが孤児院を出た後に自立できるよう学業を教えているのだろう。

 そしてこの国では数少ない、戦争反対派だ。


「それで、勇者召喚をしたと言ったな?タイゾー様ではなく、別の人間か?」


「そうだな。現代の勇者は、タイゾーとは別の若者だ」


「なるほど。それで、もしかして魔王を討つために勇者を魔界へ送り込んだのか?」


「正確には軍隊に入って、人間たちの兵隊として戦ったようだな。そして勇者は魔王と相打ちし、死んだ」


「なんと、相打ちか……。全く関係のない若者を巻き込んで……。悪いことをした。だが、魔王を討ったというが、戦争はまだ終わった様子はないが?」


「戦争とは、ボスを倒して終わりというものではないだろう。多大な被害を受けてどちらかが降参するまで続く」


「そうか。それもそうだ……」


「それでだ。あんたに聞きたいのは、これだ。これを見てくれるか?」


 そう言ってオレは、持ってきた魔法陣の術式と呪文の書かれた紙を広げる。


「なんだこれは?見た事もない呪文構造だが……」


 グラナダは不思議そうな顔で、その紙を眺める。


「それはな、等価交換の古代語魔法の術式だ」


「等価交換?何だそれは?」


 それは、ユウの#殲滅し尽くす聖剣__エクスキューショナー__#が記憶していた、先代勇者タイゾーを元の世界へと送り返した魔法だ。ユウに頼んで、紙に書き写してもらったものだ。


「かつて勇者タイゾーを元の世界へ送り返したという。グラナダよ。お前はこの術を発動させることはできそうか?」


「なぜお主がこの術を使いたいのかよく分からんが、そうだな、準備に時間がかかるかも知れんが、できるかもしれんな」


「ならば、ぜひ力を貸してほしいのだが」


「なぜわしがおぬしに力を貸さねばならんのだ?なんのメリットがある?」


「そうだな、金を工面してもいいが……、それよりも戦争を終わらせるというのではダメか?」


「はあ?なにを言っておる?」


 グラナダは何も言わないオレの顔をじっと見る。

 オレが本気で話をしている事は伝わったようで、次の言葉を続けた。


「おぬし、本当に戦争を終わらす方法を考えているのだな?詳しく説明してくれんか?もし本当に戦争が終わるなら、わしにできる事なら何でも手伝わせてもらおう」


 この老人は信用に足る人物であろう。オレはそう判断し、全てを話した。

 魔族と魔物はなんら関係のない事。オーテウス教が先導して民衆を騙し、侵略戦争をしている事。

 オレが魔王であること。勇者ユウと協力し、オーテウス教を倒し、民衆の誤解を解き、戦争をやめさせようとしている事。

 そしてこの世界とは関係のないユウを元の世界に帰らすために、この等価交換の術を使いたいという事を話した。

 自分の知っていた事実が嘘にまみれていた事を知り、グラナダは驚くが、戦争を推進するオーテウス教という組織を元々怪しんでいたのだろう。オレの説明で腑に落ちたようで、なるほどと何度もうなずいて納得していた。


「分かりました。一つお願いがあります。転生した勇者様に#殲滅し尽くす聖剣__エクスキューショナー__#を見せていただく事はできますか?わしは四十年前にその実物を見ています。それが本物であったなら、あなたが話すことは全て真実だという事です」


「分かった。良いだろう」


 オレはこの国に来て、そこまで国民全体がオーテウス教に洗脳されているわけではないことが分かった。

 どちらかと言えば、宗教など自分たちとはあまり関係がない、教会は病気や怪我を治してもらうためだけの場所と考えている者が多いようだ。

 だとしたら真実を話し信じてもらえる可能性が高い。国民の先入観を変えるために暗躍する必要もなさそうだ。

 そこでオレが考えている策は、正面切ってこの国の王に真実を告げにゆくというものだ。

 それで信じてもらいオーテウス教を追放して和平を結べれば良し。もしそこでオーテウス教が逆らうようなら実力行使で倒す。

 もし国王が真実を受け入れることができないようなら、やはり実力で王城を陥落させる。


 おそらくそれはオレ一人で十分だろう。そこでユウには、その前に元の世界に帰ってもらおうと思っている。

 突然この世界に呼び出され、あちらの世界ではユウが消えて大騒ぎになっているだろう。ユウには婚約者がいると言っていたし、早く帰りたいとも言っていた。

 やはりこの世界の事はこの世界のオレたちで解決しなくてはいけない。


 オレは翌日ユウをここに連れて来て、等価交換の古代魔術で元の世界に帰ってもらおうと思っている。

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