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第63話 女騎士、ナンパされる

 私の名前は、スカーレット・スタインブルグ。

 私は、シャンダライズ王国のスタインブルグ公爵家に生まれた。

 家は兄が継いだため、私が爵位を継ぐ予定はない。そこで私は騎士として自分の身を立てようと修業を積み、その結果騎士団長の座に就くことができた。

 だが騎士団長の座に就いた途端、私がそれまで持っていた自信がだんだんとなくなってきた。

 剣の腕で私に負けた男たちのひがみや妬み、そして根強い女性蔑視の考えが、じりじりと私を攻撃して来たのだ。そういうのは女だけの世界かと思っていたが、男の世界でも陰湿な奴がいるようだ。無論そんなのは一部の男なのだが、私は全ての人から嫌われているような気さえしてしまうほど心が弱ってしまった。

 そんな時に私はヴォルト様と出会い、そして剣の手合わせで完敗を喫する。

 私の唯一の支えだった剣の腕もこの程度かと思い知った時、私はこれまでは何のために生きてきたのだろうかと打ちのめされた。

 もはや騎士団長としてやってゆく自信が完全になくなった時、ヴォルト様の計らいで、降格ではなくヴォルト様の旅の案内役という任務のために騎士団長を譲るという形で役職を降ろさせてもらった。そのため今でもシャンダライズ王国では騎士団長相当の権限や給金を保証してもらっている。

 ヴォルト様の旅の付き添いをして、お近くでその力を拝見させてほしいというのは私からの願いでもあった。ヴォルト様は快く引き受けてくれたが、実際目の当たりにしてみると、その圧倒的な力に、私の持つ常識は完全に覆された。

 自分が強くなるための参考になるかと思ったのだが、ヴォルト様は強すぎて全く参考にならない。

 旅の途中で魔物に襲われた時も、片手で魔物を退治するのだ。そもそもこの人は魔法使いなのに。

 では、魔法はどれくらいすごいのかというと、遠目だが一度だけ本気で魔法を使ったところを見た。

 それは古代巨獣ゴモラと呼ばれた、謎の巨大生物とヴォルト様が戦った時のことだ。

 足手まといにしかならない私を置いて、ヴォルト様とユウ様の二人が宿を出て行った。

 そして遠くに見えたのは、星降るように注ぐ魔法の矢だった。魔法の矢は魔力が上がるほど本数を増やすことができると言う。騎士団の部下のサラが、ヴォルト様が同時に十本以上の魔法の矢を放ったことがあると聞いて驚いたものだが、その時見た魔法の矢は、数百……いや、数千本はあった。

 だが古代巨獣ゴモラはそれでも死ななかったらしい。そしてヴォルト様が放った魔法は、天から大地を貫く雷の魔法だった。

 私と手合わせをしてくれた時に、指先から放つ雷撃魔法を見せてくれたことがある。だがゴモラを倒したというその空から落とした落雷の一撃は、全く違う魔法で、威力も桁違いであった。

 もはや凄すぎて何の参考にもならないヴォルト様に付いて行って、何になるのだろう。そして私はヴォルト様に対して何の役に立てるのだろう。

 ヴォルト様と一緒に旅をさせてもらいながら、私の悩みは一向に答えがでないまま、目的地であるヴァレンシュタイン王国の王都まであと少しというところまで来ていた。


「お嬢さん、どうかされましたか?」


 よほどボーっとしていたのだろうか?私は突然男性から心配されるように声をかけられた。


「あ、申し訳ないです。少しボーっとしてただけです」


 そう言って私は謝罪する。

 その男性はじっと私を観察するような目で見ると、言った。


「ふむ。少し体調がお悪いのではないですか?そこのお店でお茶でも飲みながら休憩でもしませんか?」


「いえ、大丈夫です」


 断って去ろうとする私に対し、突然手を掴み引き留めるその男。


「あ、いや失礼」


 男はすぐに手を離し謝罪した。


「美しい女性が悩みを抱えているようで、どうしても心配になってしまいまして。良ければ私にお茶をごちそうさせてください」


 男は優雅に手を差し出してそう言って来た。

 そんなこと言われても初対面の男とお茶を飲むという感覚が分からない私は戸惑っていた。


「私に三十分くらいお時間をくださいませんか?もしも貴女にご知り合いに話せないような悩みがあるのでしたら、私にお聞かせください」


「ま、まあそれなら少しくらいなら……」


 あまりに強く言われて断りづらく、また往来でいつまでも話をしていても同じことだと思い、私はその男に誘われ、すぐそこにあった喫茶店へと入った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ほう、スカーレットさんは公爵令嬢なのですか」


「引きましたか?貴族の娘が剣一筋に生きてるのは?」


「いえいえ、ご立派だと思いますよ。ご自身の人生を自分で選択しているのですから」


「そ、そんなことは……」


 あまり褒められることに慣れていないスカーレットは戸惑ってしまう。


「そ、それよりもデュラン殿、察するに貴方もどこかの貴族ではありませんか?旅人のような服装をしていますが、話し方や所作など見ていると品の良さが伝わってくるのですが」


「はは、バレてしまいましたか。実は私は去る国の伯爵であります。今は主人と共にこの国に来ているのですが、私的な旅ですので、私の身分については内密にお願いします」


「はい。すいません、なんだか詮索してしまったようで。最近はこの国で生産されている魔石を使った道具が各国から注目されていて、便利なものはないか同じものが作れないかと調べに来る人が多いみたいですね」


「え?」


「デュランさんもそういう目的なのでしょう?」


「えっ?あっ、ああ、そうです。実はそうなんですよ……」


 だからこの国では我々の事をあまり詮索されないのか、というデュランの独り言にスカーレットは気付かなかったが、代わりに店の外から自分たちを見ている人影に気が付く。

 目と目があった瞬間、その男はスカーレットに話しかけて来た。


「何でお前知らない男と茶なんか飲んでんだ?薪と馬のエサ買いに行ったんじゃねえの?」


 スカーレットに冷たい視線を送っていた男、それはユウだった。


「ち、違うのですユウ様。ちょっと休憩を……」


「ナンパされてその辺の男にホイホイついて行ってんじゃねえよ」


「その辺の男って、デュランさんは伯爵位をお持ちの貴族です。失礼な言葉はお気を付けください」


「スカーレットさん、それは秘密だって……」


「あっ、そうか。すいません」


 ユウは喫茶店の窓枠に身を乗り出すようにして、その男に話しかける。


「おっ?それじゃオッサン、こいつを嫁にもらってくれって話?」


「お……オッサン?それに嫁って、私は永遠の独身貴族だよ。恋愛対象であるのは認めるが結婚などというものに囚われるのはナンセンスだね」


 そんなデュランの返答に、スカーレットは冷たい視線を見せた。


「え?デュランさん、結婚する気がないのに私に声をかけたんですか?」


「え?ま、まだ我々は出会ったばかりですよね?なぜ結婚の話になるのですか?」


「信じられない!」


 スカーレットはそう言うと、怒って席を立ってしまった。

 店を出ると、ユウの事も無視してどこかへ立ち去ってしまう。


「な……何だったんだ?」


 デュランは呟く。ユウも店の外でどうしていいか立ち尽くしていた。

 その時、また別の誰かがデュランに話しかけて来た。


「デュラン!何のんびりお茶なんか飲んでんだ!」


 それは無精ひげの生えた、たくましい男だった。


「あっ、ユーゴ!違うんだこれは……」


「おまえ晩飯の食材の買い出しに行ったんじゃないのか?坊ちゃんが腹を空かせて怒ってるぞ!」


 そんな二人に、ユウが余計な一言を言う。


「オッサン、そいつさっき女をナンパしてたぜ。振られたみたいだけどな」


「なんだと?またか?おまえ坊ちゃんに報告するぞ?」


「や、止めてくれ!すぐに買い出しに行くから」


「まだ何も買ってないのか?!」


 静かな店内で騒ぎ立てて注目を浴びた二人は、すぐに慌てて店を出て行った。


 そしてユウもその場を去ったが、またすぐにその二人と遭遇するとは、その時点では全く想像していなかった。

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