第62話 魔王、商人兄弟と再会
国境の町サンドラを発つ前に道中の食料などを買おうと市場に出ていたオレとユウに、声を掛けてくるものがいた。
「ヴォルトのアニキじゃないですか!」
振り返ったオレの前にいたのは、知った顔の男たちだった。
「ロディー!それにランド!奇遇だな?」
オレは、びっくりしながらその男の名を呼ぶ。
声を掛けて来たのは、以前オレが旅に同行した兄弟商人のロディー。そして横にいたのは弟のランドだったのだ。
「なんか市場の人ごみの中に兄貴みたいな人がいるなって思ったら、本当に兄貴で俺らもびっくりしましたよ」
この二人は少し背が低いため人ごみの中では見つけにくいのだが、逆にオレは人ごみの中で頭一つ飛び出ているため見つけられやすいようだ。
ちなみにこの国の人間の成人男性の平均身長は170センチくらいらしい。オレの身長は190センチだ。
ユウに二人を紹介し、二人にユウを紹介する。
「ところでおまえら、なんでこんなとこに?おまえらはシャンダライズ王国の中で行商をしてるんじゃなかったのか?」
「俺らも資金が溜まって来たので、いよいよこの国に商品を仕入れに来たんですよ」
聞くと、今このヴァレンシュタイン王国で生産されている魔石を使った魔道具が評判らしく、シャンダライズに持ち帰って売れそうなものを探しにきたのだと言っていた。
「今この国には、商売の元がたくさん眠ってるんですよ。元手があればもっと大きく儲けてやれるんですけどね」
「ははは。身の丈以上の金は身を亡ぼすぞ。ほどほどに儲けるくらいがちょうどいいだろう」
そんな雑談をしながら、何か面白い情報がないか話をしてみた。
話すと、このヴァレンシュタイン王国では、最近魔石を使ったたくさんの便利な道具が開発されているのだという。そしてそれが世界中の貴族たちの間で大人気なのだそうだ。
「例えばどんな道具があるのだ?」
「そうですね。例えば、加熱石と魔石を使って、火を使わずに調理ができる道具とか……」
「ガスコンロ的なものか……」
ロディーの言葉にユウが何やら独り言を呟く。
「例えば、冷却石と魔石を使って、食材を冷やしたまま保管する冷却保管庫とか……」
「冷蔵庫か……」
「送風石と魔石を使って、暑い時にうちわの代わりに自動でそよ風を発生させる道具とか……」
「扇風機的なやつね……」
「中でも最近特にすごい道具が発明されたそうなんですよ。それらの特殊効果を持った石を全て合わせた道具なんです。それはですね、室内が暑い時には冷却石と送風石と魔石を使って冷たい風を出し、寒い時には加熱石と送風石と魔石を使って暖かい風を送る。石の大きさで微調整をするそれは、室内温度調整装置と言って貴族の間でステータスとなっているようです」
「要するにエアコンね……」
「ロディー、ちょっとスマン」
オレは手をかざし、ロディーの話を一旦遮らせてもらう。
そしてさっきから隣で何か独り言を言っているユウに言う。
「ユウ、貴様さっきから何だその相槌は?わけのわからん言葉ばかり言って……」
「あっ、悪ぃ。何か全部俺が元居た世界にある家電みたいだったからさ」
「家電?」
「あー、家庭用電化製品?この世界だと家庭用魔法製品なのか?カッカッカッ」
「家庭用魔法製品……。確かにそうですね。正確には一般家庭にはとても手が届かない物なので、裕福な家庭向け、貴族用魔法製品なのですが……。兄さんもいろいろとお詳しいのですか?」
「詳しいというか何というか……」
「もしよかったら、次にブームが来る新製品を教えてくれませんか?今は新製品開発ブームが起きているので、流行に後れてしまうと儲ける事もできなくなってしまうので」
なんだかロディーがユウの知識に興味を持ち出してしまった……。
「えー?家電的なの作るとしたら?でもだいたい揃ってるんだろ?他にどんな特殊な石があるの?あ!あれだ!自動車!自動車作ったら売れるんじゃね?」
「自動車とは?」
「あれだよ。要するに馬のない馬車みたいなもんだよ。自動的に車輪が回転して進む四輪の車だよ。まあ馬の代わりに車輪を回転させるエンジンが必要なんだけど、魔法でなんかありそうじゃないか?」
「だとしたらどうやって曲がるのですか?馬がいないと進む方向も変える事ができないのでは」
「それはあれだよ。運転席にハンドルがあって、ハンドルを回すと前輪が左右に動くんだ」
「なるほど!それに進む、止まる機能を持ったスイッチを付ければ……。イメージが湧いてきました。これは新しい!馬車だと馬の世話や、馬の体力の限界がありますが、もし魔石の魔力を車輪を回転させるエネルギーに変えることができたら、馬の世話もいらなければ一日中走り続けることもできる。これは革命が起こるぞ!」
「兄者、そのアイデアはこの国で開発させるのは惜しい。国に帰って開発をすれば、新しい産業が生まれるんじゃないか?」
ロディーとランドは熱く語りだした。
なんか三人で盛り上がっていて、話題に入れず寂しい。
ちなみに魔界では魔法が使いたい放題のため、先に紹介していた道具は魔法で代用できるため全て必要ないし、今話している魔力推進四輪車も、魔界には既にある。
だが、商人兄弟にはオレが魔王であることは話していないためそれも言い出せない。
だからオレは黙ってこいつらの会話を聞いていた。
「兄さん、アイデアをありがとう!開発が成功したら、兄さんにアイデア料を払わせてもらうよ」
「ギャハハ!期待してるぜ」
何やら意気投合したようだ。
「しかしいつになったら国に帰れるかな?やはり遠回りして帰るしかないか?」
「ん?なぜだ?」
「アニキ知らないんですか?シャンダライズ王国とヴァレンシュタイン王国の間にある国々の中の一つ、オーウェンハイムにバケモノが出たらしいですよ。どうやら町を一つ破壊したとか?だから今そこは危険で近寄れないんですよ。」
「あー、ゴモラ?あれなら雷に打たれて死んだよ」
どうやらこの国にはまだゴモラが倒された事が伝わってなかったらしい。ちなみにオレたちが倒したという話は内密にしておくよう、オーウェンハイム国王や冒険者ギルドに言ってある。もしその話が広まってしまえば、オレたちは有名人になってしまい、これからこの国で行う諜報活動に支障をきたしてしまうためだ。
だから公には、ゴモラの死因はたまたま雷が直撃したということになっている。
「そうなんですか!それじゃもう通れるんですね?早速帰らなきゃ。マジックランタンを大量に仕入れたんですよ。早く国に帰って売りたいとこだったんです」
「おまえたち、シャンダライズ王国へ帰るのか?」
「そうです」
「それじゃ、ちょっと頼みごとをしてくれないか?何通か手紙を預けたいんだ」
「アニキの頼みならもちろんOKですよ!」
オレは明日までに手紙を用意して、二人が発つ前に預ける事を約束する。
二人と別れてユウと歩いていると、ユウがオレに話しかけて来た。
「なあ、手紙って誰にだ?オレもお前も手紙を送るほどの人間なんていないだろう?」
「うむ。実は考えている作戦があってな。なあユウ。オレの最大の目的は魔界との戦争を終結させることだ。おまえの最大の目的は元の世界に帰ることだろう?」
「ああ、まあそうだな」
「例えばその目的さえ達成できれば、おまえが憎んでいる大司祭への復讐が出来なかったとしても構わないか?」
「ああ……、ちょっとだけモヤモヤするが、日本に帰りさえできればいいぜ。今おまえが考えている落としどころが見えてきたんだな?」
「その通りだ。できるだけ人間たちにも魔族たちにも、これ以上の被害を出さずに平和的に解決できたらと考えている」
「分かった」
そしてその日宿に戻って書き上げた何通かの手紙を、翌朝商人兄弟に預ける。宛先を見て二人はビックリするが、必ず届ける事を約束してくれ、そしてオレは商人兄弟と別れた。




