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第56話 魔王VS人喰い昆虫

 この工場の周りには、魔石の屑に含まれていた魔力で巨大化し魔物となった巨大昆虫たちがいる。

 そしてこの工場の中に、そんな巨大昆虫二匹が入り込んでいた。

 二匹の内の一匹、巨大蜘蛛ヒュージスパイダーは、先ほどバルトが倒した。

 一階にはもう巨大昆虫はいない。もう一匹は二階にいるようだ。


 タスクの話だと、タスクたちはこの二階でマジックランタンの組み立てをしていたらしい。突如現れた異形の魔物(巨大昆虫)に襲われ、仲間の一人が殺されて食われたらしい。他のみんなは奥の休憩室に避難して立てこもり、一緒に襲われたタスクはみんなと反対側にいたため階段を駆け下りて工場から逃げ出し、町の冒険者ギルドまで助けを求めに来たという。

 タスクは動転していて慌てて逃げ出したため、魔物の正体はよく分からなかったという。

 仲間が食われたというのなら、危険な肉食昆虫だろう。


 オレたちは慎重に階段を登ってゆく。


「気を付けてください。怪談を登ったらすぐ作業場となっています」


 オレは魔物の気配を感じながら階段を登りきった。後ろからバルトとタスクが続く。

 倒れたテーブルと、床に散乱した作りかけのマジックランタン。その向こうには真っ赤に染まった人間の死体が転がっていた。

 後ろでそれを見たタスクが吐きそうになる。

 バルトは死体は慣れているのか、冷静だ。


「うぷっ……。魔物はもうどこかへ行ってしまったんですかね?」


 死体のそばに魔物がいないことからタスクがそういうが、オレは部屋の隅にいるその気配に気づいていた。


「いや。あそこだ」


 オレが指を刺したところには、緑色の巨大昆虫がいた。


「うわっ!」


 襲われた恐怖が蘇りタスクはオレたちの後ろへと逃げる。

 その物音を聞いたそいつは起き上がり、オレたちへ向かって襲い掛かって来た。

 剣も抜かずに仁王立ちしているオレを押しのけ、バルトがそいつに斧を振りかぶる。

 巨大昆虫の腕とバルトの斧が交差する。

 ボッという鈍い音を立て、お互いの攻撃は跳ね返された。

 そしてその巨大昆虫の全身があらわになる。そいつは巨大化したカマキリ、ジャイアントマンティスだった。


「斧を跳ね返すなんて……」


 先ほどは、カマキリの腕のカマとバルトの戦斧が衝突したのだが、カマキリのカマには傷一つ付いていなかった。

 大カマキリの口の周りには、襲って食べた人間の返り血が固まって真っ黒に染まっている。

 両手を挙げて威嚇してくる大カマキリ。

 明らかにバルトよりもリーチが長く、そして相手は二本のカマを持っているため、両手斧のバルトでは相性が悪そうだ。


「代わろう」


 オレはそう言ってバルトを後ろに下がらせた。


「あんた武器は!」


 ロングソードを腰に下げたまま手ぶらで大カマキリに向かうオレに、バルトは慌てて声を掛ける。

 次の瞬間、大カマキリはオレに向かってカマを振り下ろしていた。

 オレは振り下ろされたカマを交わすと、カマの付け根、カマキリの手首にあたる部分を掴み、ひねって体重を浴びせる。

 大カマキリは肩から地面に倒れ、這いつくばる形となる。そしてオレはカマキリの頭の下を踏みつけた。

 背中を踏みつけられ動けなくなる大カマキリ。両手のカマを動かして背中の上にいるオレを掴もうとするが、関節がそこまで曲がらない。

 結果、大カマキリはジタバタとするだけで身動きが取れなくなった。


「すごい……」


 一瞬で大カマキリをねじ伏せたオレの体術に、バルトは感嘆の声を漏らす。


「早く止めを!」


「いや、その前にここの人間の安否を確認しろ。他に巨大昆虫はいない」


 オレの指示に従い、バルトとタスクは奥の休憩室に立てこもっていた人間たちを解放してきた。

 死者はこいつに襲われた一名だけで、あとは全員いるようだ。

 死んだ同僚の姿を見て気を失いそうになった者はいるが、特に怪我人もいないようだ。

 オレはオーナーを呼び寄せた。

 集団の中から出て来たオーナーは、頭の禿げあがった小太りの男だった。


「私がこの工場のオーナーのハイドンです。この度は助けてくださってありがとうございました」


「まだ終わってないぞ?」


 オレがそう言って足に力を入れると、疲れて大人しくなった大カマキリがまたカマを動かす。

 もちろんオレには当たらないが、それを見てオーナーはビックリして一歩下がる。


「おまえに要求することがいくつかある。それを飲めないようならこいつの止めを刺すのはやめさせてもらうからな」


「えっ!?」


 オレの言葉にオーナーの顔は恐怖でゆがむ。そして一言呟く。


「お……脅しか?」


「脅しではない。正当な交渉を行おうと言っているのだ。冒険者ギルドの支部長も来ているのだから証人になってもらおう」


「そ……それなら……」


 冒険者ギルド支部長のバルトが証人になるのなら、オレが無理な要求もできないと分かり安心するオーナー。

 バルトも快く引き受けてくれる。


「まずはバルト、下の階にいた大蜘蛛とこの大カマキリの討伐の適正な報酬はどれくらいだ?」


「そうだな……。初めて見る魔物だが、一体につき金貨一枚くらいだろうか?」


「き……金貨二枚だな。それくらいなら払おう。そんなもんでいいのか」


 オーナーは少し安心した顔になる。


「それだけじゃないぞ。まだ工場の外の雑木林には数体の大型昆虫がいるようだ。そいつら全部の懸賞金、一体あたり金貨一枚をお前が負担しろ」


「そ……そんな、私には関係がないじゃないか……」


「バカ者!巨大昆虫の発生は、全て貴様が原因だ!貴様は魔石の取り扱い方法も分からずに加工していて、このような事故を起こしたんだ!」


「ええ?!」


 全く分かっていないオーナーに、裏に捨ててあった魔石の屑の事を説明してやった。

 魔石の屑にも少しずつ魔力が残っていること。それを集めて置いておいたために強い魔力となり、近寄った昆虫が巨大化したであろう事。その事実を聞かされ、何も知らなかったオーナーは驚いて、自分の愚かさを後悔していた。


「カマキリに殺されたあの従業員はお前が殺したようなものだ。死んだ男の家族への慰謝料など全て貴様が責任を持つように」


「は……はい」


 オレの言う事に納得したように、オーナーは頷いた。


「後は今後同じように魔石を取り扱いたいのなら、破棄する屑については魔法使いを雇って魔力を抜いてから処分するように。それが出来ないのなら魔石の取り扱いをするな。それと一か所に大量に魔石を集めたり、大きな魔石を取り扱おうとすると、強い魔力で人間も魔力酔いを起こしておかしくなることがある。特に気を付けろ」


「分かりました……」


 オーナーはオレの要求を全て飲むことを約束した。

 バルトに言って、後で証書を書かせるようにした。

 その後オレは大カマキリの神経をロングソードで破壊し、完全に殺す。残った外の巨大昆虫たちは、仕事が少ないとぼやいていた町の冒険者たちに譲ってやることにする。昆虫は同じ大きさの動物よりもはるかに強い力を持ち、頭を切っても動くほど生命力が強いので気を付けるよう忠告をしておいた。


 そうしてオレの工場見学……じゃなかった、巨大昆虫討伐は終わった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 冒険者ギルドの酒場に戻り、オレはユウたちと合流する。

 オレは一部始終をユウとスカーレットに話した。


「魔石の取り扱いなんて、誰も知らなかったんじゃないですか?」


 スカーレットが言う。シャンダライズ王国でも全く知られていないのか。だとすると、今回の事例は世界中で起こりうる可能性があるな。


「バルト!」


 オレがバルトを呼ぶと、バルトはオレの言いたいことが分かったようで頷いて言った。


「冒険者ギルドは、国境を越えてつながりを持った組合だ。今回のヴォルトさんから教わった情報は、ギルドを通じて世界中に発信するよ」


「そうだな。それと、魔法使いがいない組織が、魔石を取り扱うのを禁止した方がいい」


「分かった。それも付け加えておこう」


 これでとりあえず魔石で普通の生き物が魔物化する案件は減りそうだ。

 ようやく安心した俺は、今度はユウたちに情報収集の結果を尋ねる。


「それでユウ。お前たちは新しい事は何か分かったか?」


「ああ。実はこの国の国教のオーテウス教の事なんだけど。どうやらヤバい宗教らしいんだ」


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