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第48話 騎士団、緊急人事異動

 何も解決したわけではないが、とりあえず悩みを吐き出すだけ吐き出したスカーレットが落ち着いたようなので、部屋の外に待たせていた、オーウェンハイムの使者ハサムの話を聞く事にした。

 丁寧なお礼の後、ハサムは淡々と手紙の内容をオレ達に話し始める。


「オーウェンハイムの郊外にある古代遺跡にて、古代巨獣ゴモラが目覚めてしまいました。ゴモラは近郊の街を一つ滅ぼした後、その街に居座っています。ゴモラを討伐しようにも、オーウェンハイムは小国のため、騎士団も軍隊も所有しておりません。北の大国ヴァレンシュタイン王国にも助けを求めに行ったのですが、魔界との戦争中のため出兵する余裕はないと断られてしまいました。どうかシャンダライズ王国のお力をお貸しくださいますよう、国王陛下に取り次いでください!」


「ヴォルト様……。この案件はむしろヴォルト様でなければ解決できないのでは?」


 冷静を取り戻したスカーレットがオレに言う。


「ま、まあオレにかかれば古代の怪獣だろうが何だろうが余裕だが、オレはユウと急いでヴァレンシュタイン王国へ向かわなければならないのだ」


「ヴォルト様、オーウェンハイムはヴァレンシュタイン王国へ行く通り道です」


「何だと?」


 オレがその古代巨獣を倒すとしても、そもそもハサムの持ってきた手紙はシャンダライズ国王宛てのため、オレが勝手に処理するわけにもいかない。一度国王のところへハサムを連れて行って、話をすることにした。

 話し合いの結果、やはりオレが行くことになりました。明日出発します。

 だがその代わりに、国王にはオレからの頼みごとを聞いてもらうことにした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ――翌朝。


 騎士団本部では、今日も朝礼が行われていた。だが今日の朝礼はいつもと雰囲気が違っていた。国王陛下が来ていたのだ。

 壇上に国王が昇ると、整列する騎士たちの間に緊張が走った。


「おはよう。皆、毎日の職務、訓練ご苦労様。今日は急で申し訳ないが、緊急の人事異動が決まったために、任命させてもらう」


 その言葉に一同がざわつく。これまで騎士団内には、このような急な人事異動などなかったからだ。


「今から呼ぶ三名は、前に出て来てくれ。騎士団長スカーレット・スタインブルグ、第三王子テディ・ゴールド・シャンダライズ、そしてスネイル・ブロックコート」


 おお!という声が響く。騎士団長が呼ばれたという事は、スカーレットはその役職を解かれるということになるだろうからだ。これは大きな異動だ。

 壇の下に三名が並ぶ。

 スカーレットとテディが畏まった表情をしているのに対し、スネイルは一人ニヤニヤと笑いが止まらないようだった。そんなにやけ顔の男がスカーレットに囁く。


「スカーレット殿。今までご苦労様でした」


 スネイルはスカーレットに慰労の言葉を投げかけるが、嫌味でしかない。そう、彼はスカーレットが騎士団長の座から降りる事が、嬉しくてたまらないのだ。


「それではまずはスカーレット・スタインブルグ」


 名前を呼ばれ、スカーレットは一歩前に出る。


「昨夜オーウェンハイムより使者が参った。古代巨獣が出現し街を破壊しているとのこと。オーウェンハイム国王より、我が国に救援の申し出があった。この国一の剣士のお前には、オーウェンハイムに出現したという古代巨獣の討伐へと向かう任務についてもらいたい。引き受けてくれるか?」


「はい。謹んでお受けいたします」


 スカーレットは片膝を付いて礼をする。


「それではスカーレットよ。二人の冒険者ヴォルト氏とユウ氏と一緒に、この朝礼が終わり次第出発してもらいたい。そして今回の任務は長期に渡る可能性もある。騎士団長が長期不在になると不便があるため、お前の騎士団長の座を解任する。よいな?」


「はい!」


 返事をするとスカーレットは一歩下がる。

 横にいたスネイルは笑いが止まらないと言う感じで、クククク……と堪え笑いをしていた。


「解任も意外と早かったですな。体のいい追放。残念ですけどあなたが戻って来た時には、もうあなたの居場所はありませんからね、ククク……」


 そんなスネイルにスカーレットは、冷たい視線を送るだけで言い返さなかった。


「それでは騎士団長の座を空いたままにしておくわけにはいかぬため、次の騎士団長を任命したいと思う」


 スネイルは口角を上げ、小さく握りこぶしを握る。

 だが国王の口から発せられた名前は、スネイルの予想を大きく裏切るものだった。


「テディ・ゴールド・シャンダライズ」


「はい!」


 名前を呼ばれた第三王子は、一歩前に踏み出す。

 スネイルはその姿を茫然と見ていた。


「お前を騎士団長に任命する」


「ま、待ってください!」


 国王の言葉の直後、スネイルが異議を申し立てた。


「どうしたスネイル?」


「待ってください陛下。私の聞き間違いでなければ次期騎士団長にテディ様を任命すると?」


「そうだが?」


「あれ?おかしいなあ……、あっ!もしかして陛下に連絡が行ってなかったのかもしれません!申し訳ありません。実は次の騎士団長は、私に決まっているのです」


「貴様何を言っている?」


「テディ様を選んだのは陛下ですか?」


「当たり前だ。スカーレットと相談し、適任だろうという事で選んだのだ」


「参ったなぁ~。陛下、ダメですよ。そんな追放する人間の言う事なんか聞いちゃ」


「貴様さっきから何を言っている?追放?誰が誰を追放するのだ?」


「決まってるじゃないですか!スカーレットですよ。騎士団長として不適格なために降格。そしてオーウェンハイムなどという僻地へ飛ばすのでしょう?そんな左遷する者の意見を聞く必要などありません」


「バカ者!スカーレットの任務は、国家間の問題の解決のための大事だ。ワシからの勅命を左遷などとバカな事を言うな!」


 先ほどから調子に乗って喋っていたスネイルは、国王に一喝され縮み上がる。スネイルは自分の思うようにならない出来事に疑問を隠せない。


「そ、それは失礼しました。失言でした。それよりテディ様を騎士団長に任命されてしまっては困るのです。すぐに私が騎士団長になる予定ですので、それですとテディ様を騎士団長に任命直後に急に降ろすことになってしまいます。それですとまるでテディ様が不適格かのように誤解されてしまいます」


「先ほどから貴様は何の話をしているのだ?貴様を騎士団長にする話などどこにも無いわ!妄想と現実と区別がつかなくなったのか?」


「いや~……参ったなぁ~……。陛下に話が届いていないのかぁ~……。実はですね、陛下に恥をかかせるようで申し訳ないのですが、ジャットバイゼン殿下と私とで話が決まっていまして。ジャットバイゼン殿下が私を絶対に次期騎士団長にすると断言してくれたのです。殿下もそろそろ次期王位に就く身。私と力を合わせてこの国を盛り上げて行く約束をしているのですよ」


「何?貴様、ジャットバイゼンとそのような話をしていたのか?」


「はい。はい。そうなんです。私はジャットバイゼン派閥ですからね。ですから……」


「派閥?貴様他の王子には従うつもりはないのか?」


「何をおっしゃるのですか陛下!私は生涯ジャットバイゼン殿下についてゆきますよ。ですから私が騎士団長に……」


「その話は分かった。だが貴様が騎士団長になることはこの先絶対にない」


「えっ?ではなぜ私も前に呼び出されたのですか?」


「貴様には、新たに作った任務、先代勇者の遺跡の警備を任せようと思ってな」


「はあ?」


「先代勇者の遺跡は、現在荒れ放題となっている。これ以上の盗掘や動物などによる破壊を防ぐために、遺跡前に野営して警備を行ってほしい」


「な、何をおっしゃっているのですか?」


「うるさい!これ以上余計なおしゃべりをしている暇はない。ジャットバイゼンの話はまた日を改めて告げる。とにかく貴様はそういう任務に就く事。そしてテディ、騒がしくなってしまって申し訳ないが、スカーレットと話し合ってお前を任命させてもらう事になった。引き受けてくれるな?」


「はい。我が国を守るため、全力を尽くして役目を全うしたいと思います」


 第一王子ジャットバイゼンが既に失脚し地下牢に幽閉されている事を知らないスネイルは、大恥をかくこととなった。あれだけスカーレットの事をバカにしていた態度も、いつの間にか魂が抜けたようになっていた。

 国王は第一王子の派閥は全て追放すると言っていたため、コイツもコイツの家ももう未来はないだろう。


 オレはその任命式を、一番後ろから眺めていた。

 今回の三人の人事に関しては、オレから国王への提案だった。

 スカーレットには重荷になっている騎士団長の座を上手く降りてもらうために。

 テディには、兄第二王子を支えるを言ったため、少し早いが国を支える役職に就いてもらおうと。

 そしてあのいけ好かない男には、痛い目に会ってもらおうとただの廃墟の警備というどうでもよい仕事を押し付けてみた。ちょっと可哀そうかと思ったが、予想以上にクズだったようで、最後の悪あがきを見ている間、オレも笑いを堪えるのに必死だった。


 まあとにかく、これでオレがこの国でやるべきことは全て終わっただろう。

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