第46話 女騎士団長、泣く
「結局無駄足だったな……。何が『先代勇者の遺跡』だよ。ただの廃墟じゃねえか。最初から『殲滅し尽くす聖剣』に全部聞いてりゃ良かった」
ユウががっかりした顔で呟くので、オレが励ます。
「まあ結果的に、おまえが元の世界に帰る方法があるという事が分かっただけでも良かったではないか。それに無駄足だったのではなく、遺跡には何もないという事が分かっただけでも無駄ではなかったのだ」
「そういうもんかね……」
ユウは不承不承納得した様子を見せた。
そんなオレたちを乗せた幌馬車は、シャンダライズ王国王城へと帰って来た。まもなく日が暮れる時間だ。
城門が視界に入ってくると、そこで衛兵と一般人が揉めている姿が見えた。
「どうした?何を騒いでいる?」
衛兵の上司にあたるスカーレットが、通りすがりに馬車を一時停め、事情を尋ねに行った。
オレも余計な口を出さないよう心に決めながら、後を追って馬車を降りて付いて行った
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「団長殿。この者が国王陛下への手紙を持ってきたと言って、今から面会させろと言うのですよ。そんな急に来て会えるものではないと説明してるのですが、しつこくて」
「陛下への手紙?何をそんなに急いでいるのだ?」
外套を羽織った旅人姿のその男は、必死に衛兵にすがり付いていた。
「私はオーウェンハイムよりやって来ましたハサムと申します。オーウェンハイム国王より、シャンダライズ国王陛下へのお願いの手紙を預かって参りました……」
バタン!
その男が話している途中、城門の通用門が開き、鎧姿の男が入って来た。不機嫌そうに強く扉を開けて大きな音を立てたため、全員がそちらに注目をする。
「騒いでいるのはどいつだ?!」
「スネイル卿」
衛兵からスネイルと呼ばれた男は、その立ち振舞いからおそらく衛兵の上司だと思われた。
スネイルは騒ぎの張本人の前に、スカーレットを見つけると話しかけて来た。
「ん?団長殿じゃないですか。遺跡の調査に行っていたのではないですか?こんなところで何をしているのですか」
「遺跡調査は終わって、ちょうど帰って来たところだ。何か問題が起きているようだったのでな」
「団長殿は大事な遺跡調査に集中していただければいいのですよ。城内の仕事は私に任せておいてください。こら、騒いでいるのはそこのお前だな?さっさと帰れ!」
スネイルは、ハサムという男を冷たくあしらった。
「騎士殿、お待ちください。話を聞いてください!緊急なのです。国王陛下に手紙を届けさせてください!」
「じゃあその手紙を寄越せ。特別に私が精査して、問題なければ届けておいてやる」
「いえ、私が直接お渡しして、お返事を承りたいのです」
「無礼者!」
詰め寄ろうとしたハサムを、スネイルは思わず殴った。
殴られたハサムは口から血を流し、その場に転倒する。
「突然殴ることはないだろう?」
スカーレットはその行為を糾弾し、倒れたハサムを心配する。
スネイルはそんなスカーレットを見下すような視線で答えた。
「やれやれ、団長殿は甘いですな。そんなだから部下から舐められるのです。所詮女だし、仕方ないのかな。無礼者には力で分からせてやらないとダメなのですよ」
「話くらい聞いてやってもいいだろう。悪かったな。大丈夫か?」
「こちらこそすいません。突然騎士様に詰め寄ってしまって……」
ハサムは口の血を手で拭いながら、逆にスネイルに対して謝った。
「団長、なぜ謝るのです?その男だって無礼を認めているでしょう?あなたが謝ると、まるで私が悪いことをしたみたいじゃないですか?撤回して下さい」
スネイルは腕を組みながらスカーレットを睨む。
スカーレットは唇を噛みしめながら、スネイルを睨み返した。
「なんですかその顔は?フン、女というのを利用して騎士団長になったお人だけに、何も言い返せないのでしょうな」
「スネイル卿、それは言い過ぎでは……」
その言葉に対し、さすがに言いすぎだと思ったのか、隣にいた衛兵がスネイルを止めた。
だが逆に、それがスネイルの怒りに火をつける結果となってしまった。
スネイルは衛兵にまでも鉄拳を食らわし、そして恫喝した。
「バカ者!貴様もその女の色香に惑わされているのか?目を覚ませ!その女は見た目の美しさだけで騎士団長の座を奪った盗人だぞ。中身は騎士団長などとても務まる器ではないわ。その証拠に、その女が団長になってから、騎士団の統率が崩れているだろう!」
「何を言う!私は歴代騎士団長と同じく、きっちり剣の腕で今の役職に就いたのだぞ!」
これまでの嫉妬や妬みが爆発したスネイルに、スカーレットは強く反論をする。
そんなスカーレットに、スネイルは冷たい視線を送る。
「何を言っているのです?男たちが貴女のような女性に対し、本気で剣を打ち込めると思っているのですか?みんな手を抜いたのですよ。その結果勘違いした貴女は、自分の剣の腕が一番強いと思い込んでしまい、増長してしまった。みんな貴女にはついてゆけないとぼやいていますよ」
「言いすぎですよスネイル卿。そんなことありません。少なくとも私は団長を尊敬しています」
スカーレットが何も言い返せずにいると、衛兵がスカーレットを庇う。
しかしその言葉の直後、スネイルは衛兵の襟を掴んでこう言った。
「貴様、誰に対して物を言っている?俺はブロックコート公爵家のスネイル・ブロックコートだぞ?今の言葉我が家への侮辱と取らせてもらうぞ?覚えておけ、まもなくその女は騎士団長の座から降ろされる。次の騎士団長になるのはこの私だ!」
襟を掴まれている衛兵は、その言葉に顔を青ざめる。
だがスカーレットがそこに割り込み、スネイルの手を離させる。
「止めろスネイル!何だその話は?聞いた事ないぞ?」
スカーレットは、この男は自分が騎士団長である事を快く思っていない事は以前より知っていた。だが自分が騎士団長を解雇になる話など、耳にしたことがなかった。この男は妄想と現実の区別がつかなくなっているのではないか?そんな気さえした。
だがスネイルは答えた。
「おっと、思わず口を滑らせてしまいましたな。実は先週……、おっとこれ以上口を滑らすわけにはいきません。それでは失礼。衛兵!そこの男はさっさと追い返しておけ」
スネイルはそう言い残すと、通用門から城内へと戻っていった。
後に残された一同は、スネイルが落としていった爆弾に、沈黙をしていた。
ここまでずっと口を挟まないよう我慢して来たヴォルトだったが、その沈痛な雰囲気に遂に口を出してしまう。
「あ……ハサムと言ったな。すまんな騒ぎに巻き込んでしまって。国王への手紙だったな。内容によってはオレが取り付いでやらんこともないが、ちょっとだけ待ってくれるか?」
「あ、ありがとうございます!すいません!」
そしてヴォルトは、落ち込むスカーレットに話しかける。
「大丈夫か?お前も苦労してるんだな?」
するとスカーレットは、突然堰が斬れたように、今まで積もり積もっていた感情を爆発させた。
「スネイルの言う通りなんです。みんな私の事を良く思っていないのは分かっていたんです。心の奥で女の私をバカにしてるのは態度で分かります。でも私なりにがんばってきたんです。なのに……うう、あああ……」
そう言って大粒の涙を流し始めた。
「お、おい!止めろ!まるでオレがお前を泣かせているみたいではないか!」
「うう……ごめんなざい……うああ……」
涙の止まらないスカーレットに、ヴォルトだけでなく、周りにいるみんなが戸惑っていた。




